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第二十六話
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目を覚ました瞬間、
凪は、はっきりとした違和感を覚えた。
(……なに……これ……)
胸元が、重い。
寝返りを打ち、
無意識に指先を伸ばす。
触れたのは、
革ではなく――冷たい金属。
「……?」
凪は、ゆっくりと身体を起こした。
白いシーツの上で、
細い鎖が光を受けて揺れている。
(……ネックレス……?)
心臓が、一拍遅れて跳ねた。
昨夜まで、
首にあったのはチョーカーだったはずだ。
慌てて首元に触れる。
――ない。
代わりに、
指に絡む鎖の先。
そこに下がっているものを見て、
凪は息を呑んだ。
「……っ……」
小さな指輪。
古い銀色。
傷も歪みも含めて――
見間違えようがない。
(……こ…れ…ウルドの……)
サクが、
百年以上外さなかった指輪。
「ウルドの…お父さんの…大事な…」
胸の奥が、
ぎゅっと締めつけられる。
(……なんで……これを……)
凪はベッドを降り、
部屋を見回した。
「……サク……?」
呼びかけても、
返事はない。
廊下。
キッチン。
調香台。
どこにも、
サクの姿はなかった。
(……寝てる間……)
不意に、理解する。
あの人なら、
音も立てずに近づける。
眠っている凪の首からチョーカーを外し、
代わりに――
このネックレスを掛けた。
「……ずるい……」
ぽつりと零れた声は、
責める調子にもならなかった。
理由を言わない。
言葉にも、しない。
でも――
凪は、分かってしまう。
この指輪の意味を。
この行為の重さを。
(……世界で一番大切……)
それは、
守るという意味じゃない。
覚悟でも、犠牲でもない。
ただ
━━━愛してる
その一言を、
言葉の代わりに託されたのだ。
そして、同時に。
(……生きてたら……必ず……)
――取りに来る。
それは約束であり、
願いであり、
サク自身の未来だった。
凪は指輪を握りしめ、
胸元に押し当てる。
冷たいはずの金属が、
なぜか少しだけ温かく感じられた。
「……信じて…って言ってる…」
問いではなく、
確認でもなく。
ただの受け取り。
そのとき、
玄関のチャイムが鳴った。
凪は一度、深く息を吸い、
扉を開ける。
立っていたのは、
山南一心だった。
その視線が、
一瞬で凪の胸元に落ちる。
すべてを察した顔。
「……凪ちゃん……」
凪は、静かに言った。
「サクは……?」
山南は、逃げずに答える。
「任務中に、消失しました。」
凪は、もう崩れなかった。
胸元の指輪に、
そっと指を添える。
「……行ったんですね。」
「……はい。」
凪は、小さくうなずいた。
「……わたし、預かってます。」
山南が、わずかに目を見開く。
凪は続けた。
「生きてたら……
必ず、取りに来る人なので。」
声は震えていたけれど、
迷いはなかった。
「だから……
ここで、待ってます。」
それは祈りじゃない。
誓いでもない。
ただ――
帰ってくる場所で在るという選択。
山南は、何も言わず、
深く頭を下げた。
扉が閉まる。
静かな家の中で、
凪は胸元の指輪をそっと握る。
「……サク……」
その名前は、
別れじゃなかった。
――再会までの合言葉だった。
凪は、はっきりとした違和感を覚えた。
(……なに……これ……)
胸元が、重い。
寝返りを打ち、
無意識に指先を伸ばす。
触れたのは、
革ではなく――冷たい金属。
「……?」
凪は、ゆっくりと身体を起こした。
白いシーツの上で、
細い鎖が光を受けて揺れている。
(……ネックレス……?)
心臓が、一拍遅れて跳ねた。
昨夜まで、
首にあったのはチョーカーだったはずだ。
慌てて首元に触れる。
――ない。
代わりに、
指に絡む鎖の先。
そこに下がっているものを見て、
凪は息を呑んだ。
「……っ……」
小さな指輪。
古い銀色。
傷も歪みも含めて――
見間違えようがない。
(……こ…れ…ウルドの……)
サクが、
百年以上外さなかった指輪。
「ウルドの…お父さんの…大事な…」
胸の奥が、
ぎゅっと締めつけられる。
(……なんで……これを……)
凪はベッドを降り、
部屋を見回した。
「……サク……?」
呼びかけても、
返事はない。
廊下。
キッチン。
調香台。
どこにも、
サクの姿はなかった。
(……寝てる間……)
不意に、理解する。
あの人なら、
音も立てずに近づける。
眠っている凪の首からチョーカーを外し、
代わりに――
このネックレスを掛けた。
「……ずるい……」
ぽつりと零れた声は、
責める調子にもならなかった。
理由を言わない。
言葉にも、しない。
でも――
凪は、分かってしまう。
この指輪の意味を。
この行為の重さを。
(……世界で一番大切……)
それは、
守るという意味じゃない。
覚悟でも、犠牲でもない。
ただ
━━━愛してる
その一言を、
言葉の代わりに託されたのだ。
そして、同時に。
(……生きてたら……必ず……)
――取りに来る。
それは約束であり、
願いであり、
サク自身の未来だった。
凪は指輪を握りしめ、
胸元に押し当てる。
冷たいはずの金属が、
なぜか少しだけ温かく感じられた。
「……信じて…って言ってる…」
問いではなく、
確認でもなく。
ただの受け取り。
そのとき、
玄関のチャイムが鳴った。
凪は一度、深く息を吸い、
扉を開ける。
立っていたのは、
山南一心だった。
その視線が、
一瞬で凪の胸元に落ちる。
すべてを察した顔。
「……凪ちゃん……」
凪は、静かに言った。
「サクは……?」
山南は、逃げずに答える。
「任務中に、消失しました。」
凪は、もう崩れなかった。
胸元の指輪に、
そっと指を添える。
「……行ったんですね。」
「……はい。」
凪は、小さくうなずいた。
「……わたし、預かってます。」
山南が、わずかに目を見開く。
凪は続けた。
「生きてたら……
必ず、取りに来る人なので。」
声は震えていたけれど、
迷いはなかった。
「だから……
ここで、待ってます。」
それは祈りじゃない。
誓いでもない。
ただ――
帰ってくる場所で在るという選択。
山南は、何も言わず、
深く頭を下げた。
扉が閉まる。
静かな家の中で、
凪は胸元の指輪をそっと握る。
「……サク……」
その名前は、
別れじゃなかった。
――再会までの合言葉だった。
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