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二十章
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時計の針は——
深夜二時を指していた。
部屋の中は静かで、
冷蔵庫の微かな唸り声だけが響いている。
大我はまだ戻らない。
でも冴夢は、不思議と怖くなかった。
ソファに膝を抱えて座り、
スマホの画面を見つめる。
そこには——
大我から届いた、短いけれど必死なメッセージたち。
“ごめん、遅くなりそう”
“寝ちゃっていいからね”
“帰りたい…”
“冴夢ちゃんに会いたい”
“…課長許さん…”
その度に冴夢は、
胸がきゅぅっと苦しくて、
でも同時にあたたかくなった。
(……大我……)
画面の文字は短いけれど、
その裏にある大我の気持ちはくっきり伝わってくる。
——冴夢を不安にさせたくない
——ひとりにしてしまうのが怖い
——離れることが、もう嫌だ
そして何より
“冴夢ちゃんに会いたい”
その一言が胸に深く刺さって、
冴夢は思わず唇を噛む。
(大我……ずっと……わたしのこと……)
ぽそりと返す。
『だいじょうぶだよ。
仕事がんばって。
……待ってるから。』
すぐに既読がついて、
少しして返ってきた。
“……好き”
心臓が跳ねた。
(……もう……そういうのは反則だよ……)
ふわっと笑いながら、
冴夢はスマホの上に手を置く。
大我はきっと、わかってる。
——冴夢が「不安」に一番弱いこと。
——世那と過ごした“幸せな最後”に、突然一人になったこと。
——夜が怖くなる時があること。
だから、忙しい合間にも
何度も、何度もメッセージを送ってくれる。
大我の不器用な優しさ。
ずっと、ずっと受け取ってきた。あの日からずっと…
冴夢は胸を押さえて、
そっと息を吸った。
(大我……優しすぎるよ……
こんなに……大切にしてくれる……)
深夜の静けさの中で、
最後のメッセージが届く。
“冴夢ちゃんから返事がなくなるまで
って思ってたけど…
会いたさで死にそう”
冴夢は思わず笑ってしまった。
(……もう……ほんとに……)
ぽつりと返事を打つ。
『大我。
大丈夫だよ。
わたし、ちゃんとここにいるから。』
送信ボタンを押した瞬間。
——既読。
(……ふふ、見てる……)
冴夢はソファにもたれ、
スマホを胸に抱えてそっと目を閉じた。
(……大我……
はやく、帰っておいで……)
そのまま、静かな呼吸に変わっていく。
冴夢からの返事が途切れたのを見て——
大我は画面を握りしめて深く息を吸った。
(……冴夢ちゃん……
ねむっちゃったか……)
疲れているはずなのに、
胸の中は不思議と温かい。
“守りたい”
“安心させたい”
“帰りたい”
全部が同時にあふれてくる。
大我は課長の資料を片付けながら、
スマホに指を置いた。
『冴夢ちゃん。
すぐ、帰る。』
そして——
大我は走り出した。
冴夢の待っている“家”へ。
*
玄関の扉が、そっと開く。
深夜二時すぎ。
息を切らしながら帰ってきた大我は、
部屋の灯りを見て、胸が少しだけ強く脈打った。
(……起きてんのか……?)
靴を脱ぎながらリビングを覗くと——
ソファの上で、小さく丸まって眠る冴夢。
スマホを胸に抱えたまま、
ふにゃっとした寝顔で、
大我が来るのを待つみたいに、端っこに寄っている。
その姿を見た瞬間。
「……よかった……寝てる……」
ほっと息が漏れた。
(返事なくなったから……
寝落ちしたんだな……)
ソファにそっと近づいて、
冴夢の手にまだスマホが残っているのを見て、
大我は胸がじん、と熱くなった。
(……全部、読んでくれてたんだ……
俺のメッセージ……無駄じゃなかった……)
あの短い言葉の全部に、
冴夢が返事をくれたこと。
そのひとつひとつが、
大我には宝物みたいに思えて。
そっと息を吸って、小さくつぶやいた。
「……ただいま、冴夢ちゃん。」
その瞬間。
冴夢の長いまつげが、ゆっくり揺れた。
「……ん……」
かすかに瞼が開いて、
ぼんやりと大我を見つめて——
「……たい……が……?
おかえり……?」
その声は、
寝起き特有の少し甘い、ゆるんだ声。
そして次の瞬間。
むにゃっ、とした顔のまま——
冴夢が、
大我の胸にぎゅっ……と抱きついた。
「……会いたかった……」
大我の思考が一瞬で止まる。
(……ッ……!?
かわ……かわ……無理……)
魂が抜けそうになりながら、
震える声で言う。
「……冴夢ちゃん……
ソファ寝はだめだって……
ベッド行きな……?風邪ひくから……」
ぎゅぅ。
冴夢は抱きついたまま、小さく首を振る。
「ん……やだ……」
「……冴夢ちゃん?」
「……大我、帰ってきた……
一緒にいる……」
その言葉に。
大我の胸が、ばくん、と跳ねた。
(……かわいいッ!
ちょっと……これ……
俺……今日死んでも文句言えない……)
冴夢は眠気のせいで力が抜けていて、
でも腕だけはしっかりと大我を捕まえている。
「冴夢ちゃん、ほんとに……
寝なきゃ……風邪ひくって……」
「……ん……じゃあ……」
「うん、ベッド行こ──」
「……大我も来るなら……行く……」
(……え?………)
その瞬間。
大我の心の防御力はゼロになった。
冴夢の髪に手を添え、
そっと抱き上げるようにして囁く。
「……わかったよ……
一緒に行くから。」
冴夢は嬉しそうに胸に頬をこすりつけた。
「……ん……よかった……
ひとり……やだ……」
大我は喉の奥で何かがきしんだ。
(……頑張れ、俺の理性……)
大我は冴夢をソファから抱き上げる。
冴夢は胸元で、小さな子どもみたいに
くしゅっと体を寄せてうなずいた。
「……大我……あったかい……
すき……」
(冴夢…俺をどうしたいんだ……)
「……俺も……好きだよ、冴夢ちゃん……
ちゃんと寝かせるからな……」
深夜三時の静けさの中。
二人はゆっくり寝室へ歩いていった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
まぶたの裏に、やわらかい光がふわっと差しこんでくる。
(……朝……?)
ゆっくり目を開けた瞬間。
視界に飛び込んできたのは──
大我の肩。
近い。
めちゃくちゃ近い。
(…………んん!?!?)
一気に覚醒した。
枕の上、すぐ隣。
触れたら動きそうな距離。
呼吸が当たりそうなくらいの距離で──
大我が寝てる。
(いや待って……なんで!?
なんで大我が……ここに……!?)
昨日の夜が一気に脳内で早送りされる。
ソファで寝落ち。
帰ってきた大我。
むにゃ抱きつき。
「大我も来るなら行く……」
……寝室へ連れて行かれた。
(……そ、そうだった……
わたしが、“ひとりやだ”って……)
顔が一気に熱くなる。
冴夢はごくり、と唾を飲んだ。
大我、近い。
寝顔はいつもより少し幼くて。
眉がほんの少しだけ寄ってるのは、
昨日の疲れが残ってるせいだと思う。
(……近い……
ていうか……
大我のTシャツ?……わたし……)
胸を押さえる。
(心臓でうるさい……どうしよう……)
そっと体を起こそうとすると──
くいっ。
袖を持つ指が、そっと掴んでいた。
(…………???)
大我の指が、冴夢のTシャツの袖を
“子どもみたいにつまんで” 離してくれない。
(……え……
かわ……いや違う、そうじゃなくて…でもこれ……どうしたら……)
冴夢がそっと見つめる。
大我の寝息は静かで、
でも胸がゆっくり上下していて、
冴夢が離れようとすると指がまたきゅ、と。
(もしかして……
寝ながら……“離れたくない” って……
そういうこと……?)
胸がじん、と痛くなるほどあたたかい。
冴夢はそっと、指に触れて
軽く話しかけるみたいに囁く。
「……大我。
おはよう……」
その瞬間。
大我の眉が動いた。
ゆっくり、ゆっくりまぶたが開いて──
焦点が合いそうで合わない寝ぼけ顔で、
ぽつりとつぶやいた。
「……冴夢ちゃん……?
……あれ?夢…じゃ、ねぇ……よな……?」
冴夢は顔が真っ赤になって、
でも笑って、小さく頷いた。
「……うん。昨日あのまま寝ちゃって…ありがとうね。」
大我は完全に固まる。
そして、真っ赤になって、
喉の奥で小さく、
「……うわぁぁぁ…なんか俺とそのまま寝落ちた……ごめん」
と、かすれた声で言った。
冴夢の心臓が、また跳ねる。
(大我…寝起きかわいい…)
大我は寝癖のついた頭を抱えながら、
困ったように笑った。
「……冴夢ちゃんが寝ぼけて
“そばにいて”って言ったから……
俺、……横に……いてもいいかなって……
ちゃんと、触れてないから……!」
冴夢は思わずくすっと笑う。
「知ってるよ。大我、ちゃんとしてるもん。」
そう言った瞬間。
大我の耳まで真っ赤に染まる。
ふたりの距離は近いまま、
でも昨日とは違う。
深夜二時を指していた。
部屋の中は静かで、
冷蔵庫の微かな唸り声だけが響いている。
大我はまだ戻らない。
でも冴夢は、不思議と怖くなかった。
ソファに膝を抱えて座り、
スマホの画面を見つめる。
そこには——
大我から届いた、短いけれど必死なメッセージたち。
“ごめん、遅くなりそう”
“寝ちゃっていいからね”
“帰りたい…”
“冴夢ちゃんに会いたい”
“…課長許さん…”
その度に冴夢は、
胸がきゅぅっと苦しくて、
でも同時にあたたかくなった。
(……大我……)
画面の文字は短いけれど、
その裏にある大我の気持ちはくっきり伝わってくる。
——冴夢を不安にさせたくない
——ひとりにしてしまうのが怖い
——離れることが、もう嫌だ
そして何より
“冴夢ちゃんに会いたい”
その一言が胸に深く刺さって、
冴夢は思わず唇を噛む。
(大我……ずっと……わたしのこと……)
ぽそりと返す。
『だいじょうぶだよ。
仕事がんばって。
……待ってるから。』
すぐに既読がついて、
少しして返ってきた。
“……好き”
心臓が跳ねた。
(……もう……そういうのは反則だよ……)
ふわっと笑いながら、
冴夢はスマホの上に手を置く。
大我はきっと、わかってる。
——冴夢が「不安」に一番弱いこと。
——世那と過ごした“幸せな最後”に、突然一人になったこと。
——夜が怖くなる時があること。
だから、忙しい合間にも
何度も、何度もメッセージを送ってくれる。
大我の不器用な優しさ。
ずっと、ずっと受け取ってきた。あの日からずっと…
冴夢は胸を押さえて、
そっと息を吸った。
(大我……優しすぎるよ……
こんなに……大切にしてくれる……)
深夜の静けさの中で、
最後のメッセージが届く。
“冴夢ちゃんから返事がなくなるまで
って思ってたけど…
会いたさで死にそう”
冴夢は思わず笑ってしまった。
(……もう……ほんとに……)
ぽつりと返事を打つ。
『大我。
大丈夫だよ。
わたし、ちゃんとここにいるから。』
送信ボタンを押した瞬間。
——既読。
(……ふふ、見てる……)
冴夢はソファにもたれ、
スマホを胸に抱えてそっと目を閉じた。
(……大我……
はやく、帰っておいで……)
そのまま、静かな呼吸に変わっていく。
冴夢からの返事が途切れたのを見て——
大我は画面を握りしめて深く息を吸った。
(……冴夢ちゃん……
ねむっちゃったか……)
疲れているはずなのに、
胸の中は不思議と温かい。
“守りたい”
“安心させたい”
“帰りたい”
全部が同時にあふれてくる。
大我は課長の資料を片付けながら、
スマホに指を置いた。
『冴夢ちゃん。
すぐ、帰る。』
そして——
大我は走り出した。
冴夢の待っている“家”へ。
*
玄関の扉が、そっと開く。
深夜二時すぎ。
息を切らしながら帰ってきた大我は、
部屋の灯りを見て、胸が少しだけ強く脈打った。
(……起きてんのか……?)
靴を脱ぎながらリビングを覗くと——
ソファの上で、小さく丸まって眠る冴夢。
スマホを胸に抱えたまま、
ふにゃっとした寝顔で、
大我が来るのを待つみたいに、端っこに寄っている。
その姿を見た瞬間。
「……よかった……寝てる……」
ほっと息が漏れた。
(返事なくなったから……
寝落ちしたんだな……)
ソファにそっと近づいて、
冴夢の手にまだスマホが残っているのを見て、
大我は胸がじん、と熱くなった。
(……全部、読んでくれてたんだ……
俺のメッセージ……無駄じゃなかった……)
あの短い言葉の全部に、
冴夢が返事をくれたこと。
そのひとつひとつが、
大我には宝物みたいに思えて。
そっと息を吸って、小さくつぶやいた。
「……ただいま、冴夢ちゃん。」
その瞬間。
冴夢の長いまつげが、ゆっくり揺れた。
「……ん……」
かすかに瞼が開いて、
ぼんやりと大我を見つめて——
「……たい……が……?
おかえり……?」
その声は、
寝起き特有の少し甘い、ゆるんだ声。
そして次の瞬間。
むにゃっ、とした顔のまま——
冴夢が、
大我の胸にぎゅっ……と抱きついた。
「……会いたかった……」
大我の思考が一瞬で止まる。
(……ッ……!?
かわ……かわ……無理……)
魂が抜けそうになりながら、
震える声で言う。
「……冴夢ちゃん……
ソファ寝はだめだって……
ベッド行きな……?風邪ひくから……」
ぎゅぅ。
冴夢は抱きついたまま、小さく首を振る。
「ん……やだ……」
「……冴夢ちゃん?」
「……大我、帰ってきた……
一緒にいる……」
その言葉に。
大我の胸が、ばくん、と跳ねた。
(……かわいいッ!
ちょっと……これ……
俺……今日死んでも文句言えない……)
冴夢は眠気のせいで力が抜けていて、
でも腕だけはしっかりと大我を捕まえている。
「冴夢ちゃん、ほんとに……
寝なきゃ……風邪ひくって……」
「……ん……じゃあ……」
「うん、ベッド行こ──」
「……大我も来るなら……行く……」
(……え?………)
その瞬間。
大我の心の防御力はゼロになった。
冴夢の髪に手を添え、
そっと抱き上げるようにして囁く。
「……わかったよ……
一緒に行くから。」
冴夢は嬉しそうに胸に頬をこすりつけた。
「……ん……よかった……
ひとり……やだ……」
大我は喉の奥で何かがきしんだ。
(……頑張れ、俺の理性……)
大我は冴夢をソファから抱き上げる。
冴夢は胸元で、小さな子どもみたいに
くしゅっと体を寄せてうなずいた。
「……大我……あったかい……
すき……」
(冴夢…俺をどうしたいんだ……)
「……俺も……好きだよ、冴夢ちゃん……
ちゃんと寝かせるからな……」
深夜三時の静けさの中。
二人はゆっくり寝室へ歩いていった。
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まぶたの裏に、やわらかい光がふわっと差しこんでくる。
(……朝……?)
ゆっくり目を開けた瞬間。
視界に飛び込んできたのは──
大我の肩。
近い。
めちゃくちゃ近い。
(…………んん!?!?)
一気に覚醒した。
枕の上、すぐ隣。
触れたら動きそうな距離。
呼吸が当たりそうなくらいの距離で──
大我が寝てる。
(いや待って……なんで!?
なんで大我が……ここに……!?)
昨日の夜が一気に脳内で早送りされる。
ソファで寝落ち。
帰ってきた大我。
むにゃ抱きつき。
「大我も来るなら行く……」
……寝室へ連れて行かれた。
(……そ、そうだった……
わたしが、“ひとりやだ”って……)
顔が一気に熱くなる。
冴夢はごくり、と唾を飲んだ。
大我、近い。
寝顔はいつもより少し幼くて。
眉がほんの少しだけ寄ってるのは、
昨日の疲れが残ってるせいだと思う。
(……近い……
ていうか……
大我のTシャツ?……わたし……)
胸を押さえる。
(心臓でうるさい……どうしよう……)
そっと体を起こそうとすると──
くいっ。
袖を持つ指が、そっと掴んでいた。
(…………???)
大我の指が、冴夢のTシャツの袖を
“子どもみたいにつまんで” 離してくれない。
(……え……
かわ……いや違う、そうじゃなくて…でもこれ……どうしたら……)
冴夢がそっと見つめる。
大我の寝息は静かで、
でも胸がゆっくり上下していて、
冴夢が離れようとすると指がまたきゅ、と。
(もしかして……
寝ながら……“離れたくない” って……
そういうこと……?)
胸がじん、と痛くなるほどあたたかい。
冴夢はそっと、指に触れて
軽く話しかけるみたいに囁く。
「……大我。
おはよう……」
その瞬間。
大我の眉が動いた。
ゆっくり、ゆっくりまぶたが開いて──
焦点が合いそうで合わない寝ぼけ顔で、
ぽつりとつぶやいた。
「……冴夢ちゃん……?
……あれ?夢…じゃ、ねぇ……よな……?」
冴夢は顔が真っ赤になって、
でも笑って、小さく頷いた。
「……うん。昨日あのまま寝ちゃって…ありがとうね。」
大我は完全に固まる。
そして、真っ赤になって、
喉の奥で小さく、
「……うわぁぁぁ…なんか俺とそのまま寝落ちた……ごめん」
と、かすれた声で言った。
冴夢の心臓が、また跳ねる。
(大我…寝起きかわいい…)
大我は寝癖のついた頭を抱えながら、
困ったように笑った。
「……冴夢ちゃんが寝ぼけて
“そばにいて”って言ったから……
俺、……横に……いてもいいかなって……
ちゃんと、触れてないから……!」
冴夢は思わずくすっと笑う。
「知ってるよ。大我、ちゃんとしてるもん。」
そう言った瞬間。
大我の耳まで真っ赤に染まる。
ふたりの距離は近いまま、
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