31 / 52
三十章
しおりを挟む
──日曜の午後。
街を歩いているとき、ショーウィンドウに飾られたシルバーのリングがふっと目に入った。
大我が立ち止まる。
「……冴夢。」
「ん?」
「……ペアリング、買うか。」
(それくらいなら…いいよな?)
唐突すぎた。
でも、その声がどこか照れてて、胸の奥がじんわり温かくなる。
「……え……いいの?」
「思いつき。買いたくなった。」
(……なんでこんな、急に……
でも……すごく、うれしい……)
ふたりで並んでジュエリーショップに向かおうとした、そのとき。
——後ろから、軽い声が聞こえる
「……大我?」
大我がぴたりと足を止めた。
「は?……え、麗美?」
鮮やかなメイクの女性が、破顔の笑顔で駆け寄ってきた。
「わーー!!大我じゃん!!やば、久しぶり!
元気してた?生きてた?ねぇ!」
(テンション……美琴みたい……)
大我は気まずそうに、でもどこか昔を知る顔で苦笑した。
「……うるせぇよ。元気に決まってんだろ。」
麗美はそのまま冴夢の方へ視線を滑らせた。
「え……彼女?
ちょ……まじかわ……え?かわ……え?」
「うるせぇ、見んな。」
一瞬で語気が変わった。
麗美は眉を上げる。
「へぇ~?そう言うこと言うんだ?“あの”大我がねぇ?へぇ~?」
「なんだよ。」
「いやぁ、あんたもそう言う顔できたんだなって。」
軽く笑って手を振る。
「じゃ、私もう帰る!
旦那待ってっから!」
「旦那?結婚したのか。」
「したよ~。」
「おー。おめでとう。」
「ありがと!じゃね~大我~~!」
ぱたぱたと走り去っていく。
残ったのは、
知らない“大我の素の顔”。
優しい恋人じゃなく、
昔の友達と話すときの
ちょっと荒い、地元男子の大我。
(……知らない……私の知らない……声……)
胸がきゅっと痛くなる。
大我が覗き込む。
「……冴夢?どした?」
「んーん……なんでもないよ。
行こ。」
笑顔を作ったつもりなのに、
声がほんの少し沈んでしまった。
大我はそれに、すぐ気づいていた。
⸻
ージュエリーショップ
柔らかい音楽。ガラスの輝き。
並んだ指輪。
なのに、冴夢の胸はざわついていた。
大我が静かに言う。
「……冴夢。おまえ、様子おかしい。」
「そんなこと……ないよ……?」
「嘘つくな。
“あれ”嫌だったって、顔に書いてある。」
冴夢は慌てて首を振る。
「……ちが……ほんとに違うの……」
胸がぎゅっとして、
自分でも理由がうまく言えない。
繋いでる手を、ぎゅっと握る。
けれど震えが止まらない。
大我が一瞬まばたきし、
表情の奥でため息みたいな優しさが生まれる。
(……これ、やきもちじゃん……
かわ……じゃなくて……)
冴夢が目を伏せる。
「……大丈夫だから……」
大我はすっと手を引き寄せた。
声は低く、優しく、逃がさない。
「冴夢。本当のこと言え。
言わないと……ここで抱きしめるぞ?」
(店員:えっ…………今……店で……?無理……イケボで脅し?甘すぎ……処理できない……)
冴夢はかすかに震えたまま、
小さな声でつぶやく。
「……大我の……知らない顔が……
いっぱいあって……
なんか……さびしくなっちゃった……」
その一言に、大我の喉が動いた。
ゆっくり、冴夢の手を包み込む。
「……冴夢。」
ふっと表情が柔らかくなる。
怒ってない。
困ってない。
ただ、愛しさでいっぱい。
「俺の過去なんかどうでもいい。
“今の俺”は……冴夢だけのだよ。」
冴夢の瞳が大きく揺れる。
涙が滲む。
(店員:あっ……死んだ……はい昇天……なんでプロポーズ前提みたいなセリフ……
私いま何を見せられてるの?ドラマ?ドラマなの?……)
大我は冴夢の涙を指で拭う。
「……よし。選ぶぞ。
“これからの俺たち”の指輪。」
冴夢は小さくうなずいた。
ふたりの指が、そっと重なる。
ガラスケースの光が反射して、
小さな銀の輪が寄り添って見えた。
(……知らない大我もいるけど……
“これから知っていく大我”は……
全部、私のだ……)
冴夢はそっと笑った。
大我も、冴夢の手を離さずに笑った。
(店員:尊ッ!)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
店を出た瞬間、
秋の風が頬を撫でた。
手の中には、ふたりの指輪の小さな箱。
その重さが、大我には胸の奥まで響いていた。
(……やっと……渡せる。)
(あの日、誕生日にあげられなかった “形” を……。)
冴夢の横顔を見るだけで、
胸の奥がじゅわっと熱くなる。
大我が口を開いた。
「……冴夢。」
「ん?」
「……帰ろ。」
いつもより少し優しい。
でもどこか急いでて、落ち着かなくて、
期待で胸がいっぱいの声。
冴夢は目を丸くする。
「え?もう?
ゆっくり見たり──」
「……帰る。」
迷いゼロ。
冴夢を包む手に力が入る。
「なんで……?」
大我は一瞬、言葉を飲み込んだ。
胸の奥にあるのは、長年の想い。
——誕生日に渡したかった。
——でも世那のリングがあった。
——“お前は世那の”って、自分に言い聞かせてた。
——だからネックレスを選んだ。
——自分の願いを押し込んで、我慢した。
(……でも、もう我慢しなくていいよな。
冴夢が俺を選んでくれたんだから……)
その全部が、笑顔に変わる。
子どもみたいな、
嬉しさを隠せない笑顔。
「……指輪、はめたい。」
冴夢「え……?」
「冴夢の指に “俺の印” つけたい。」
声が少し震えてる。
でも、それ以上にあったかい。
冴夢は胸の奥がどくん、と揺れた。
「……うん?」
大我は八重歯を見せて、
今日いちばんの笑顔を浮かべた。
どこまでも素直で、
どこまでも少年みたいで、
でも目にはずっと隠してきた“願い”があった。
「帰ろ。
……俺たちの家に。」
冴夢の指をそっと引き、
大我の歩幅が自然と早くなる。
冴夢は気づかなかった。
大我の手が、
ほんの少しだけ震えていたことに。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ー帰宅
玄関のドアが閉まった瞬間。
外の空気と違う“家の匂い”が胸に広がる。
だけど——
今日だけは、その温度よりも近い。
大我の“気配”。
靴を脱いでいる間も、
上着を脱ぐ間も、
大我は冴夢の手を離さない。
むしろ、
さっきより強くつないでる。
(……どうしよう……
大我、なんか……いつもと違う……)
リビングに入ると、
大我はゆっくりと振り返った。
「冴夢。」
名前を呼ぶ声が、
いつもより低い。
でも優しすぎて震えてる。
「……座れ。」
少し照れたように、
でも逃がさない声音。
ソファに座る冴夢の前で、
大我は一瞬だけ深く息を吸った。
まるで、
これから大事な儀式を始めるみたいに。
白い小箱を取り出す。
「……開けていい?」
冴夢はこくりとうなずく。
大我が蓋を開けると、
ガラスより静かで、
秋の夕焼けみたいな銀の輪が光った。
冴夢の息がふっと漏れる。
「……きれい……」
大我は、小さく笑った。
「冴夢のほうがきれい。」
「えっ……!」
「手……出せ。」
震える指先で、
冴夢はそっと左手を差し出す。
その手を、大我は両手で包んだ。
まるで、
壊れものに触れるみたいな優しさで。
——ほんとに、大事なんだ。
その触れ方だけでわかる。
大我は指輪をつまんだ。
でも、その手が震えている。
(……大我……震えて……)
「……ごめん。」
「え……?」
「……ちょっと……緊張してる。」
声が少しだけ笑っていて、
でも、隠しきれない震えが混じってる。
大我は冴夢の左薬指を見つめたまま言う。
「……やっと……つけられる。」
「……大我……?」
「……ずっと欲しかったんだよ。
ここに……俺のもんって“印”。」
冴夢の胸がふるっと震えた。
その言葉は重くない。
ただ、まっすぐで、真剣で、
ずっと我慢してきた人の声。
大我はゆっくり、
ゆっくり、指輪を滑らせた。
金属が、冴夢の肌に冷たく触れる。
その瞬間。
「……っ……」
大我も息を飲んだ。
二人の心臓の音が
ソファの上で同じリズムに跳ねる。
指輪が“入った”。
ぴたりと吸い付くように、
冴夢の指に収まる。
大我はその指を持ったまま、
ほんの少し顔を上げた。
「……似合ってる。」
冴夢の胸がじんわり熱くなる。
「……大我。」
「ん。」
そのまま大我は冴夢の手の甲に
そっと唇を落とした。
甘いとか優しいとかじゃない。
——誓いに触れるみたいなキス。
「……これからも……
俺と一緒にいろよ。」
そう言う声が、
あまりに真剣で
あまりに愛してて
あまりに大我で。
冴夢の目がにじむ。
「……いるよ。
大我のとなりに。」
涙が一粒落ちるより早く、
大我は冴夢を抱き寄せた。
強く。
でも壊れ物みたいに優しく。
大我は冴夢の肩に顔を寄せ、
息が触れる距離でそっと囁く。
「……冴夢。
大事にする。
ちゃんと……守る。」
「……知ってるよ。」
冴夢も大我の背中を抱き返した。
指輪がふたりの間で光る。
ただの飾りじゃなく、
“これから”を繋ぐ印として。
その温度が
二人の胸にじんわり染みていく。
(……この家は、ふたりの家なんだ……)
冴夢はそっと笑った。
大我も、
抱きしめたまま、
小さく笑った。
街を歩いているとき、ショーウィンドウに飾られたシルバーのリングがふっと目に入った。
大我が立ち止まる。
「……冴夢。」
「ん?」
「……ペアリング、買うか。」
(それくらいなら…いいよな?)
唐突すぎた。
でも、その声がどこか照れてて、胸の奥がじんわり温かくなる。
「……え……いいの?」
「思いつき。買いたくなった。」
(……なんでこんな、急に……
でも……すごく、うれしい……)
ふたりで並んでジュエリーショップに向かおうとした、そのとき。
——後ろから、軽い声が聞こえる
「……大我?」
大我がぴたりと足を止めた。
「は?……え、麗美?」
鮮やかなメイクの女性が、破顔の笑顔で駆け寄ってきた。
「わーー!!大我じゃん!!やば、久しぶり!
元気してた?生きてた?ねぇ!」
(テンション……美琴みたい……)
大我は気まずそうに、でもどこか昔を知る顔で苦笑した。
「……うるせぇよ。元気に決まってんだろ。」
麗美はそのまま冴夢の方へ視線を滑らせた。
「え……彼女?
ちょ……まじかわ……え?かわ……え?」
「うるせぇ、見んな。」
一瞬で語気が変わった。
麗美は眉を上げる。
「へぇ~?そう言うこと言うんだ?“あの”大我がねぇ?へぇ~?」
「なんだよ。」
「いやぁ、あんたもそう言う顔できたんだなって。」
軽く笑って手を振る。
「じゃ、私もう帰る!
旦那待ってっから!」
「旦那?結婚したのか。」
「したよ~。」
「おー。おめでとう。」
「ありがと!じゃね~大我~~!」
ぱたぱたと走り去っていく。
残ったのは、
知らない“大我の素の顔”。
優しい恋人じゃなく、
昔の友達と話すときの
ちょっと荒い、地元男子の大我。
(……知らない……私の知らない……声……)
胸がきゅっと痛くなる。
大我が覗き込む。
「……冴夢?どした?」
「んーん……なんでもないよ。
行こ。」
笑顔を作ったつもりなのに、
声がほんの少し沈んでしまった。
大我はそれに、すぐ気づいていた。
⸻
ージュエリーショップ
柔らかい音楽。ガラスの輝き。
並んだ指輪。
なのに、冴夢の胸はざわついていた。
大我が静かに言う。
「……冴夢。おまえ、様子おかしい。」
「そんなこと……ないよ……?」
「嘘つくな。
“あれ”嫌だったって、顔に書いてある。」
冴夢は慌てて首を振る。
「……ちが……ほんとに違うの……」
胸がぎゅっとして、
自分でも理由がうまく言えない。
繋いでる手を、ぎゅっと握る。
けれど震えが止まらない。
大我が一瞬まばたきし、
表情の奥でため息みたいな優しさが生まれる。
(……これ、やきもちじゃん……
かわ……じゃなくて……)
冴夢が目を伏せる。
「……大丈夫だから……」
大我はすっと手を引き寄せた。
声は低く、優しく、逃がさない。
「冴夢。本当のこと言え。
言わないと……ここで抱きしめるぞ?」
(店員:えっ…………今……店で……?無理……イケボで脅し?甘すぎ……処理できない……)
冴夢はかすかに震えたまま、
小さな声でつぶやく。
「……大我の……知らない顔が……
いっぱいあって……
なんか……さびしくなっちゃった……」
その一言に、大我の喉が動いた。
ゆっくり、冴夢の手を包み込む。
「……冴夢。」
ふっと表情が柔らかくなる。
怒ってない。
困ってない。
ただ、愛しさでいっぱい。
「俺の過去なんかどうでもいい。
“今の俺”は……冴夢だけのだよ。」
冴夢の瞳が大きく揺れる。
涙が滲む。
(店員:あっ……死んだ……はい昇天……なんでプロポーズ前提みたいなセリフ……
私いま何を見せられてるの?ドラマ?ドラマなの?……)
大我は冴夢の涙を指で拭う。
「……よし。選ぶぞ。
“これからの俺たち”の指輪。」
冴夢は小さくうなずいた。
ふたりの指が、そっと重なる。
ガラスケースの光が反射して、
小さな銀の輪が寄り添って見えた。
(……知らない大我もいるけど……
“これから知っていく大我”は……
全部、私のだ……)
冴夢はそっと笑った。
大我も、冴夢の手を離さずに笑った。
(店員:尊ッ!)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
店を出た瞬間、
秋の風が頬を撫でた。
手の中には、ふたりの指輪の小さな箱。
その重さが、大我には胸の奥まで響いていた。
(……やっと……渡せる。)
(あの日、誕生日にあげられなかった “形” を……。)
冴夢の横顔を見るだけで、
胸の奥がじゅわっと熱くなる。
大我が口を開いた。
「……冴夢。」
「ん?」
「……帰ろ。」
いつもより少し優しい。
でもどこか急いでて、落ち着かなくて、
期待で胸がいっぱいの声。
冴夢は目を丸くする。
「え?もう?
ゆっくり見たり──」
「……帰る。」
迷いゼロ。
冴夢を包む手に力が入る。
「なんで……?」
大我は一瞬、言葉を飲み込んだ。
胸の奥にあるのは、長年の想い。
——誕生日に渡したかった。
——でも世那のリングがあった。
——“お前は世那の”って、自分に言い聞かせてた。
——だからネックレスを選んだ。
——自分の願いを押し込んで、我慢した。
(……でも、もう我慢しなくていいよな。
冴夢が俺を選んでくれたんだから……)
その全部が、笑顔に変わる。
子どもみたいな、
嬉しさを隠せない笑顔。
「……指輪、はめたい。」
冴夢「え……?」
「冴夢の指に “俺の印” つけたい。」
声が少し震えてる。
でも、それ以上にあったかい。
冴夢は胸の奥がどくん、と揺れた。
「……うん?」
大我は八重歯を見せて、
今日いちばんの笑顔を浮かべた。
どこまでも素直で、
どこまでも少年みたいで、
でも目にはずっと隠してきた“願い”があった。
「帰ろ。
……俺たちの家に。」
冴夢の指をそっと引き、
大我の歩幅が自然と早くなる。
冴夢は気づかなかった。
大我の手が、
ほんの少しだけ震えていたことに。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ー帰宅
玄関のドアが閉まった瞬間。
外の空気と違う“家の匂い”が胸に広がる。
だけど——
今日だけは、その温度よりも近い。
大我の“気配”。
靴を脱いでいる間も、
上着を脱ぐ間も、
大我は冴夢の手を離さない。
むしろ、
さっきより強くつないでる。
(……どうしよう……
大我、なんか……いつもと違う……)
リビングに入ると、
大我はゆっくりと振り返った。
「冴夢。」
名前を呼ぶ声が、
いつもより低い。
でも優しすぎて震えてる。
「……座れ。」
少し照れたように、
でも逃がさない声音。
ソファに座る冴夢の前で、
大我は一瞬だけ深く息を吸った。
まるで、
これから大事な儀式を始めるみたいに。
白い小箱を取り出す。
「……開けていい?」
冴夢はこくりとうなずく。
大我が蓋を開けると、
ガラスより静かで、
秋の夕焼けみたいな銀の輪が光った。
冴夢の息がふっと漏れる。
「……きれい……」
大我は、小さく笑った。
「冴夢のほうがきれい。」
「えっ……!」
「手……出せ。」
震える指先で、
冴夢はそっと左手を差し出す。
その手を、大我は両手で包んだ。
まるで、
壊れものに触れるみたいな優しさで。
——ほんとに、大事なんだ。
その触れ方だけでわかる。
大我は指輪をつまんだ。
でも、その手が震えている。
(……大我……震えて……)
「……ごめん。」
「え……?」
「……ちょっと……緊張してる。」
声が少しだけ笑っていて、
でも、隠しきれない震えが混じってる。
大我は冴夢の左薬指を見つめたまま言う。
「……やっと……つけられる。」
「……大我……?」
「……ずっと欲しかったんだよ。
ここに……俺のもんって“印”。」
冴夢の胸がふるっと震えた。
その言葉は重くない。
ただ、まっすぐで、真剣で、
ずっと我慢してきた人の声。
大我はゆっくり、
ゆっくり、指輪を滑らせた。
金属が、冴夢の肌に冷たく触れる。
その瞬間。
「……っ……」
大我も息を飲んだ。
二人の心臓の音が
ソファの上で同じリズムに跳ねる。
指輪が“入った”。
ぴたりと吸い付くように、
冴夢の指に収まる。
大我はその指を持ったまま、
ほんの少し顔を上げた。
「……似合ってる。」
冴夢の胸がじんわり熱くなる。
「……大我。」
「ん。」
そのまま大我は冴夢の手の甲に
そっと唇を落とした。
甘いとか優しいとかじゃない。
——誓いに触れるみたいなキス。
「……これからも……
俺と一緒にいろよ。」
そう言う声が、
あまりに真剣で
あまりに愛してて
あまりに大我で。
冴夢の目がにじむ。
「……いるよ。
大我のとなりに。」
涙が一粒落ちるより早く、
大我は冴夢を抱き寄せた。
強く。
でも壊れ物みたいに優しく。
大我は冴夢の肩に顔を寄せ、
息が触れる距離でそっと囁く。
「……冴夢。
大事にする。
ちゃんと……守る。」
「……知ってるよ。」
冴夢も大我の背中を抱き返した。
指輪がふたりの間で光る。
ただの飾りじゃなく、
“これから”を繋ぐ印として。
その温度が
二人の胸にじんわり染みていく。
(……この家は、ふたりの家なんだ……)
冴夢はそっと笑った。
大我も、
抱きしめたまま、
小さく笑った。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚
ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。
五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。
ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。
年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。
慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。
二人の恋の行方は……
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
白山小梅
恋愛
大学に入学して以来、ずっと天敵だった六花と宗吾。しかし失恋をして落ち込む宗吾に話しかけたのをきっかけにわだかまりが解け、慰めの一度だけ関係を持ってしまう。それから卒業まで二人は友人として過ごす。
それから五年。同棲していた彼との関係が煮え切らず、別れ話の末に家を飛び出した六花。そんな彼女の前に現れたのは宗吾だった。行き場をなくした六花に、宗吾はある提案をしてきてーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる