兄嫁〜あなたがくれた世界で〜

SAKU

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四十四章

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 ──二月十三日・午後。

冷たい風がガラス張りのビルに当たり、
チリンと小さくドアベルが鳴る。

その音に、店内の柔らかな光が揺れた。

ジュエリーショップ
《Re:Design(リデザイン)》

扉の前で一瞬だけ息を吸った男がいた。

枢木大我。

仕事帰りのスーツ姿のまま。
コートのポケットには、微かに震える指先。

(……25歳、今日で終わりか……)

明日になれば、
兄・世那と同じ年齢になる。

(“26歳の兄貴”を、俺は……越える。)

胸が少しだけ痛んだ。

でも——
痛みよりも強い言葉が胸の奥で固まっている。

(……冴夢を、家族にする。
 その“決意”を……形にする日だ。)

だから大我は今日ここに来た。

──指輪を受け取るために。

──────────────────────────

レジ横に立っていた店員が明るく微笑む。

「枢木さま、こんにちは。
 お約束していたお品物、仕上がっております。」

「……お願いします。」

緊張で声が少し低くなる。

作業室のほうから出てきたのは、
黒いエプロンを着けた青年——

片桐玲かたぎりれい。(RE:Iより)※pixiv掲載別作品

《Re:Design》でオーダーメイドを請ける。
フリーのデザイナー兼クリエイター。

玲は軽く笑った。

「おまたせ。
 依頼どおりの“形”になってるはずだよ。」

その後ろには、控えめに立つ女性。

玲の妻—— 片桐澪かたぎりみお

澪は穏やかな微笑で頷く。

「仕事として、だけど……
 とても素敵なデザインだったわ。
 大切な人、喜んでくれるわよ。」

大我は小さく深呼吸して、
差し出された小箱を受け取る。

黒革の表面が、ひどく重く感じる。

(……これが……
 冴夢に“渡すもの”。)

玲が静かに言う。

「君の話、澪から少しだけ聞いた。
 ——いい決意だと思うよ。」

「……そう、ですかね。」

「うん。
 君みたいなタイプは、
 本気になった時の“想いの深さ”が違う。
 隠しても、全部顔に出てる。」

「……出てますか。」

横で澪が可愛く笑う。

「出てるわよ。
 優しい目をしてる。」

大我は照れたように視線を逸らし……

ポケットに、小箱をそっと入れた。

(……重い。
 けど……怖くない。)

冴夢の顔が浮かぶ。

泣きながら自分を看病してくれた手。
熱に浮かされながら、その手を離さなかった夜。

(……守りたい。
 誰より近くで。
 誰より先に。
 誰より正当に。)

大我はゆっくりと店員へ頭を下げる。

「ありがとうございます。」

「素敵な日になりますように。」

玲と澪が静かに見送る中、
扉がカラン、と軽く鳴った。

外の空気がひんやりと肌に刺さる。

(明日……
 バレンタインで……俺の誕生日だ。)

(……“ちょうどいい口実”だろ。)

自然に、冴夢を誘える。
自然に、手を繋げる。
自然に、“その流れ”へ持っていける。

でも——
胸の奥だけは自然じゃなかった。

ポケットの小箱が
“カタッ”と鳴るたび、心臓も跳ねる。

(……明日。
 全部、言うからな……冴夢。)

大型犬みたいに少しそわそわした足取りで、
大我はマンションへ向かって歩き出した。

今日の夜、
冴夢はまだ知らない。

明日——
恋人として過ごすバレンタインが、
“家族への一歩”になることを。

──────────────────────────

──二月十三日・夜。

大我の誕生日は明日。
そして、バレンタイン。

冴夢の部屋には、
紙袋とラッピング用品が静かに並んでいた。

(……明日、どうしよう……)

ずっと前から考えていたのに、
病み上がりの大我のことを想うと
胸の奥がふわっとあったかくなった。

(……大我、もう熱は下がってるけど……
 無理させないように、でも喜んでほしい……)

テーブルの上には——

■ 大我の好きなブランドの手袋
■ 手作りのガトーショコラ
■ バレンタイン用の小さなカード

そして、

“今日こそ、ちゃんと渡そうと思う言葉”

がメモに書かれたまま伏せられていた。

──「大我、お誕生日おめでとう。いつもありがとう。」

冴夢はその文字を見て、
ほんの少し照れたように笑った。

「……好き、っていうのは……
 まだ恥ずかしいけど……
 でも、伝わるよね……これで……」

ラッピングしながら、ふと大我の顔が浮かぶ。

昨日、弱った姿を見せてくれて。
今日、また少し照れながら「ありがとう」って言ってくれて。

(……大我、ほんとかわいい……
 大我……大好き……)

仕上がったラッピングを抱きしめて、
冴夢はぽつり。

「……喜んでくれるかな……
 ちょっとでも……大我、笑ってくれたら……」

そこでスマホが光った。

大我《明日、少しだけ出かけよう。
   誕生日だし。》

たったそれだけのメッセージなのに、
冴夢の心臓はとくん、と跳ねる。

(……大我から“出かけよう”なんて……珍しい……)

もしかして、
誕生日だから気を使ってくれているのかもしれない。

(……風邪、治ったばかりなのに……
 がんばってくれてる……)

胸が熱くなり、冴夢はすぐ返信した。

冴夢 《うん。行こう!大我の誕生日だからね》

送信してから、
ぎゅっとラッピングを抱きしめる。

(……明日、ちゃんと渡すんだ……
 大我に“世界でいちばん好き”って思ってること……
 頑張って伝えたい……)

明日が楽しみで、
眠れる気がしなかった。
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