兄嫁〜あなたがくれた世界で〜

SAKU

文字の大きさ
44 / 52

四十三章

しおりを挟む
──翌朝。

点滴の効果で、熱はようやく落ち着いていた。
まだ身体はだるくて重いけれど、昨日の“意識が薄れるギリギリ”の感覚とは違う。

大我は、ゆっくりとまぶたを開けた。

視界の端で——
椅子に座ったまま、うつむきながら寝てしまった冴夢が見える。

胸の奥が、ぎゅっとした。

(……ずっと……手、握ってたのか……)

自分の手を見下ろすと、冴夢の指がそっと重ねられていた。
弱ってる間ずっと握ったままだったのだろう。
タオルも飲みかけのスポドリも、全部“冴夢がやってくれた跡”が残っている。

(……俺が……守るつもりだったのに……)

ゆっくりと喉が鳴る。

(弱ったら……誰でも……こんなに心細いのか……)

自分が熱で朦朧とした時、
扉の向こうに“冴夢の気配”があるだけで救われた。

それと同時に、
扉を閉めた自分の愚かさにも気づいた。

(……あれ……冴夢だったら……どうする?)

胸が苦しくなる。

もし冴夢が倒れて、
もし冴夢が声を出せないほど弱って、
もし扉の向こうで返事がなくなったら——

自分は“発狂”していた。

冴夢は、
大我が鍵を閉めた瞬間、泣きながら震えていた。

聖が来てくれたのは奇跡だ。

(……でも、聖は“他人”なんだよな……)

大我はベッドの上で、ゆっくり息を吐いた。

聖は親友で、助けてくれた。
本当に感謝している。

けれど——
もし本当に命に関わる状態だったら?

冴夢の緊急連絡先は?
家族として病室に入れるのは?
手術にサインを書くのは?

大我は目を閉じた。

兄・世那の事故のとき。
自分は“兄弟だから”全部の説明を聞き、
全部の決断を迫られた。

(……冴夢は?
 冴夢を守る立場の俺は?
 俺は……なんなんだ……?)

胸がちくりと痛む。

(……足りない……
 んだ……“立場”が足りない……)

冴夢を守りたい。
誰より近くで。
誰より先に。
誰より正当に。

そのためには——

(……家族にならないと……)

ゆっくりと目を開ける。

冴夢が寝息を立てている。

小さな肩。
細い手。
昨日、自分を必死で支えた指。

この子の“側で倒れる権利”も、
“側で支える権利”も全部持ちたい。

(……冴夢を……家族にする……)

その決意は、
熱よりも静かに、
深く胸の奥に沈んでいく。

──ちょうどその瞬間。

「……大我……?」

冴夢が目をこすりながら顔を上げた。

寝ぼけたまま覗き込む。

「大我……起きてた……?
 ……熱、下がってる?」

「……あぁ。だいぶな。」

冴夢はほっと息を吐いた。

「……昨日、ごめんな。怖い思いさせた。」

「ううん。いいよ。
 でも……次はやめてね?
 一人で倒れないで。
 大我のこと…私だって守りたいんだから……」

言わないけど——
冴夢は夜中ずっと泣いていた。

大我はゆっくりと頷いた。

「……あぁ。
 呼ぶ。
 これからは……ちゃんと……呼ぶから。」

「……うん。」

冴夢は、またほっと笑った。

その笑顔を見ながら——
大我の胸の奥で、決意は静かに固まっていく。

(……俺が守る。
 もう絶対……離さねぇ。
 冴夢を……俺の家族にする……)

……でも。

(……プロポーズは……タイミング見て、だな……
 ……待てよ……)

ちょっとだけ笑った大我の横顔を、
冴夢は不思議そうに見つめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

雪の日に

藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。 親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。 大学卒業を控えた冬。 私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ―― ※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。

お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚

ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。 五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。 ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。 年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。 慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。 二人の恋の行方は……

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜

白山小梅
恋愛
大学に入学して以来、ずっと天敵だった六花と宗吾。しかし失恋をして落ち込む宗吾に話しかけたのをきっかけにわだかまりが解け、慰めの一度だけ関係を持ってしまう。それから卒業まで二人は友人として過ごす。 それから五年。同棲していた彼との関係が煮え切らず、別れ話の末に家を飛び出した六花。そんな彼女の前に現れたのは宗吾だった。行き場をなくした六花に、宗吾はある提案をしてきてーー。

処理中です...