ブルーピーシーズ

弧川ふき@ひのかみゆみ

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第4章 ケズレルモノ

30-3 推察

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 地下七階にある第二会議室に入った時、燐治りんじさんを見付けた。
 燐治さんは、ただただ一人で、自分の写真が貼られたホワイトボードをながめてる。
 檀野だんのさんが燐治さんの近くにいるものと思ってたけど、今この場にはいない。

 歌川うたがわさんと風浦かざうらさんの二人と共に近付いて、
「あの」
 と声を掛けてみた。
 燐治さんは振り返って僕に目を向けた。すぐにその目は歌川さんや風浦さんに向け直されて。
「どうなるんです? 俺は。もうあの家にだって戻れない。そうなんでしょ」

 絶望してるみたいだ。『どう助けてくれるって?』そう言っているように見える。でもまあ、そりゃあそうだよね、連れ去られそうになった、もしくは、殺されそうになったんだから。

「そうだな」風浦さんが肯定した。言葉はまだ続いた。「君が学びたかったものは、どこか別の場所で学べるようにする、それなら構わないだろ?」
 すると燐治さんは。
「でも、それじゃあ俺は資金面で……、困ってたから俺、あれを使ってたんですよ」
「どんな力なんですか?」
 気になったからそう聞いてみた。ついでに困ってるのをどう解決しようとしていたのか、教えてもらえるとも思ったし。
 燐治さんは、僕をちらっとだけ見てから、ここにいる全員に向けるように。
「俺は粘土を増やせた。形が崩れないように硬くすることもできた。大きさを変えられることは知らなかったけど」
 そしてまた僕に向けたその視線を、彼は、風浦さんと歌川さんの二人のあいだで行き来させながら。
「増やして費用を浮かしてたんですよ、俺に金なんてない、バイトしても生活するのがやっとで、ろくに学べそうもなくて。だから何度も粘土を増やして、せめて、資材費を減らすために、この力の回復のために――って。でも、だからかお腹が減りやすくなって、最近は大量のパンの耳がないと駄目で――」
「……この組織は、君への支援が可能だ。だからもう力を使うのはやめろ」歌川さんの指摘だ。それが続いた。「鉄の吸収も、身元がバレる、絶対にやめろ」
 燐治さんはしばらく黙り込んだ。
 数秒後、燐治さんが。「分かりました。それで、バレないで学ぶ生活ができるなら……、ああいう奴らに見付からずにいられるなら……」

 一段落したらしい。
 そこで風浦さんの声。
「檀野はどうした? もう一人いた茶髪の男だ、一緒にいたろ」
「カードを作ってくれるってどこかに。ここの出入りができるように念のためにって」
 燐治さんが手を適当に動かしながらそう言った。

 ふむ――という感じで、風浦さんが壁に視線を移して、まばたきをした。「あとは――大樹だいきくん、聞きたいことがあるなら今聞くといい」

 そうだ、僕には聞きたいことがあった。
「あの。燐治さんは、自分の力の……その……ルーツを、知りませんか? 父親の家系からなのか、母親の家系からなのか……とか」
「てことは何、これって遺伝なの?」
「はい」
「……でも、それは分かんない。俺の記憶では、母さんはそんなの関係ない気がするし……。うちの父は、事故で、随分前に死んで……父さんにももう確かめられないし」

「本当に事故なのか?」
 風浦さんがそう言った。
 少し間があってから、燐治りんじさんが何かを危するような顔で。「な、何言ってるんですか。まさか何かの陰謀だったとか? そんなこと」
 風浦さんは首を縦に振った。そう思うのも無理はない、という意味かもしれない。でも。「いや違う、もしマギウト使いの遺伝子を受け継いでいて目覚めていたら、遺体を検査された時に、色々と発覚してしまうんだよ。それを、誰かが隠した可能性もある……、資料に何かあるかもしれんが、とにかく、どういう事故だったんだ?」
「いや、車の衝突で……、ただの交通事故です。衝突された側で。父さんは歩道で立ってて」

「……そうか。原因が分かり切っていて検死されなかったんだな、だから俺達も知らなかった。それなら、父方も母方もまだどっちも怪しいか」
 歌川さんがそう推理した。
 死の淵のレントゲンで――ということかと僕は納得した。ただ、即死ですぐ検査されていたらありえるけど、すぐじゃなかったら以前国邑くにむらさんが教えてくれたみたいに、サクラは霧散してそうだ。即死でなければ病院で何かありそう――でも、そういった発見がもしあったら以前から明るみになってるはず――。

 僕も同意見。ただ、付け加えたいことはあった。「マギウトを使えるようになってなかったとしたら、検査がもしあっても引っかかってない、ですよね?」

「ありうるな」歌川さんが言った。「調べても何も分からない可能性は高い、ってことか」
 これなら、祖父母を調べるのが一番だろう。
「何か分かればまたお願いします。これ以上は分からなそうだから。僕はこれで」
「ああ、じゃあな」
 風浦さんにそう言われて帰ろうとした時、気になった。変身について聞いておこうか、と。
 共通点がどれだけあるか確かめておきたい。

 多分、変身のことを燐治さんが知っても、燐治さんにとって不都合はない――どうせ華賀峰かがみね家由来の血のせいで力を使えるに違いないから。僕のお爺ちゃんの血からとは思えないし。
 佐倉守さくらもり家からの別ルートだとしても同じだ、変身できても多分八分くらいで解ける。彼に変身できるかもと知らせてもきっと問題はない。
 彼が変身をすでに知っていて、したこともあるという可能性もある。それが八分ほどの自動解除式である可能性は……九十パーセントくらいじゃ? と思うけど、僕のようかもしれないんだ。そこを知りたい。維持できるかどうか。

 僕と燐治さんが鉄を直接吸収できるようになった原因は、生活環境の中にあるのかも。で、それで僕のような変身形式に……なんてことがありえるとしたら? まあほかの要因もあるかもしれないけど――その場合僕には想像も付かない。

 ……やっぱり聞いておきたい。
 振り返って再度近付き、問いかけた。「あの、もう一つ聞きますけど、変身はできますか?」
 僕が燐治りんじさんをじっと見つめると、彼は、
「え、変身? 姿を変える意味のヘンシン?」
 と意外そうにした。
 僕のうなずきを見ると、また燐治さん。「え、マジで変身できるのか?」驚きと疑問が混ざった眼だ。
「はい。まあ、もしかしたらってコトですけど」
「そ、そんなこと考えたこともない。けど、何、お前はできるのか? 俺も?」
 自分を指差して、すっごく不思議がっている――そう見える。

「えと、僕はできるけど、燐治さんもかは分かりません。もしできるなら同じような存在なのかもって、色々……絞れそうで」
「絞れそう? 何か、そうやって知りたいことがあるってことか?」
「まあ、はい」
 僕がうなずくと、燐治さんは申し訳なさそうな顔をした。
「あー、でも、ごめん、俺全然知らない、変身なんて。やったこともない。その……ごめんな、参考にならなくて」
「いえ、構いません、聞けたことが大きいので。もし今後何かに変身できたりしたら、それ、ぜひ僕に教えてください。あ、もちろんこの組織にも。その方が絶対にいいですから」
「ああ、うん、その時は」
「じゃあ今度こそ失礼します。何かあったらまた」
 僕はそう言って、その場の三人に手を振った。
「ああ」
 と、燐治さん以外に見送られて、去っていく。燐治さんは戸惑いの中だろうし、挨拶あいさつし辛くても仕方ないよね。

 第二会議室を出て、何か忘れてるような気がした。
 考えたけど、でも、思い出せない。
 多分気のせいだ。
 不明な点がまだまだ多いからそんな気がしてるだけ、僕はそう思いながら広間を歩き、階段を上がり、そのタイミングで頬に傷があるのを思い出して、『あ、これ忘れてた。このことかもな』と、診察・検査室に向かった。

 ゲートルームから帰るのはそこで処置されてからかな……あっ、いや、お腹も減ってるから、処置されたら次は食堂だな。帰宅はそれからだ。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「とりあえず君を別の大学に通わせる手続きをする。それから、今は地下十階以下の居住階層に住まわせることにする。というワケで、案内しよう、ついて来な」
 俺はそう言って、燐治りんじくんをさらに地下へと連れていった。

 居住階層はマンションの1LDKのような部屋を何列にも連ねている感じだ。その地下十一階の右から六列目を奥の方へ歩きながら、俺はそれぞれの部屋のドアの取っ手を見ていった。
 ドアの取っ手の横に青いランプが点いているのが誰も住んでいない印だった。六〇四号室には誰も住んでいないらしい。
 そのドアを開けた。
「とりあえずここに入ってくつろいでろ、鍵はこれ」
 開けたドアの近くの棚に置いてあるキーを取って燐治くんの方に差し出した。

 キーを受け取ってもらえてからも説明を続けた。
「部屋ん中は快適にできてる、ソファーも保存食もある。が、それ以外……きちんと調理されたものを食べたければ、自分でちゃんと作るか、食堂だな。それ以外の、掃除道具やベッド、布団、風呂も完備してる。いい所だが、ここを去る時は、後始末をきちんとしてもらうからな、散らかすなよ」
「はあ」燐治くんの気のない返事。
 まだあまり飲み込めていないのかもしれない、気持ちは分からんでもない。
「少し下の階に行けば俺達専用のコンビニもある。何かつまみたかったらそっちでもいい」
 俺は去ろうとした。すると。
「あ、ありがとうございました。その……えと……」
歌川うたがわだ」
「……ウタガワさん、すみません色々と」
「いいんだよ、俺じゃなくてもやるし、仕事なんだよ、これが」


 俺が第二会議室に戻ってきた時、風浦かざうらが、何かの用紙とにらめっこしながら。「やっぱりか」
「ん? どうした?」
 俺が言って近付くと、風浦が。「車検証だよ、あいつらの車の運転席の天井にあった。でも、あんな風に車で追ってくるくらいだ、マギウトまで使った奴らが、足が付く物を車の中にほったらかしにするとは思えない。なのにあった。変だと思うだろ?」
「確かに、足が付きそうなものだし、普通なら取り除くよな」
「で、調べてみた、どこかで見た名前だと思って。そしたらビンゴだ」
「やっぱ盗難車ってことだよな」
 俺は紙切れを手渡されながらそう言った。
 それを見る俺の横で、風浦が。「歌川はどう思う? これはあの事件の被害者の名前だ。これが本当なら――」
……ってか? 確かに不思議だけど、なんで奴ら、こんなことしてるんだ?」
 俺が新たな疑問を提示したら、風浦は、無言でこくりと。
「大元の理由なら俺にも分からん」
 そこからして謎――そこが一番の謎――ということらしい。
 本当に謎だ。
 ただ、今まで解けなかったが、今なら、奴らがマギウトと関わりがあると知ってる。というか使い手だったし。
 ということは、つまり……?
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