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第4章 ケズレルモノ
32 事件と目標
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翌日、日曜日の朝。起きてすぐ、カーテンを開けて眠気を覚まそうと明るい空を見ている時に、僕のスマホが鳴った。画面を見る。風浦さんからの電話らしい。
「もしもし」
「ああ、大樹くん、君、日曜はいつもこっちでマギウトを練習してるよね」
「あー、はい、してますけど。あ、でも、今日は埋め合わせにデートするんで……練習場には行きませんよ」
言いながらも、まだある眠気に抗いながら、耳に集中。
何の用なんだろう……と思いながら。
「そっか……ごめん大樹くん、実千夏ちゃんには悪いけど、今日はそれを取りやめにして会議に参加してくれないか。それは君達のための大事な会議なんだよ。マギウト使い全員に伝えておかなきゃいけない、とりあえず君は家族全員に伝えて。ほかはこっちで伝える」
嘘だろ、折角の埋め合わせすら。
にしても、妙に深刻そうだ、まるでこれは依頼じゃなくて命令みたい。
「……分かりました、じゃあ、また――」
「本当にごめんね。じゃあまた」
終始、慌ただしい声だった。一体何の会議なんだ?
自分のスマホで実千夏に電話を掛けると、僕は予定が変わってしまったことを伝えた。
電話口に、実千夏は、
「……いいよ、大丈夫。今度の土曜日まで待てばいいんだから。それができない私だと思う?」
って。
確かに実千夏は芯が強い。
「いや、それは……思わない。思わないけどさ。でもごめん、こんな――」
「謝らないでよ。いいんだよ。悪いの? 違うでしょ? 悪くないんだから」
「でも付き合ってるのが僕だからさ。もし僕じゃなかったら、実千夏はこんな想い――」
「そんなこと思わないでって言ってるの。選んだのは私もだよ。私も大ちゃんも、自分で選んだ。ほかの人とだったとしても何かは起こるよ。私達だと今なだけ。私、嫌じゃないから」
「……ありがとう。土曜日が待ち遠しいよ」
そのあと少しだけ間があった。共感の間だろう。実千夏もトーンを落として「うん。私も」って。ほんっとうに待ち遠しいし、僕とじゃなかったら行けたんだ。
僕はまだ話していたかった。名残惜しい。
同じように実千夏も思ってるかも。そう思うと……。
とりあえず予定のことを。
「実千夏はそれで、今日どうするの?」
「そうだねえ、練習かなあ、トロンボーンも料理も。――それより、みんなに伝えなくていいの?」
「あー、うん、そうなんだけど」
「……いいんだよ? 電話、切っても。私のことは気にしないでよ。会える日はいっぱいあるんだから」
「…………うん、そうだね。ありがと。じゃあ、また」
「うん。こっちこそ、気にしてくれてありがと。またね」
「うん」
切っていいよという間が数秒あった。それから通話を切った。
「はぁ……」
溜め息も出る。そのあとで家族みんなに伝えに行った。
昼。
組織・隈射目のマギウト練習場に大勢の人が集まった。
佐倉守家の居那正さん、希美子さん、希美子さんの夫(一般人)、奏多さん、禅慈さん、紫音さん、舞佳さん。
藤宮家の僕、お父さんの泉蔵、お母さんの香菜、近延お兄ちゃん、理美お姉ちゃん。
鮎持燐治さん。
谷地越愛理紗さん。
この計十四人に加え、調査の説明をする二人、風浦さんと歌川さん。
あまりにも人数が多い。
だから広いマギウト練習場で、ということらしい。
全員、パイプ椅子に座っていた。説明する側二人はこちらと向き合うように。対して僕らは弧を描くように。
僕と国邑さん以外は谷地越さんをほとんど知らないかも――と思ったけど、お母さんが言った。
「あ、どこかで見たと思ったけど、あなた、うちに来たことない?」
するとお姉ちゃんが言った。「私の友達じゃあないけど」
「ん? 俺の知り合いでもねえよ!?」
お兄ちゃんは動揺を見せた。変なことを言われたくなかったからかな、きっとそうだ。
谷地越さんが説明すると思ったけど、なんだか言い辛そう。
だからこのタイミングで僕が言うことに。
「彼女は僕の知り合いだよ、ほら、僕がわざと風邪引いて健康診断を休んだあと、家に来たでしょ」
「ああ! 二人来たのよね」お母さんが納得しながら。「てっきりモテモテなのかと思ったわよ、あれ」
「そう? まあでも、僕には実千夏がいるし、選択の余地はないよ。……てかそんな話じゃなくて。谷地越さんはマギウトのことで悩んでて、僕が屋上で電話口に話すのを――誰にも聞かれてないと思って検査について話してたんだけど、それを――聞かれてて、それであの時、僕に相談に来たんだよ、本当はね」
「あ~っそうだったのね!」
って、お母さんが。この納得は、場を和ませたんじゃないかと思う。
僕が説明を付け加えようとしたら、谷地越さんが。
「私、ここのことは知ってたけど、扱う事件に関わるのが怖くて、私のことを知らせないでって大樹くんにお願いしてたんです、それで――。でも、色々と私に関わりそうな事件が起きたみたいだったし、守ってもらえそうだから、その、今朝、組織の人達に連絡してみて、私を知ってもらったんです。大樹くんも言ってたんですけど、関わらなくていいからって、今朝、言われて。それで」
「そうだったんだね。俺は禅慈、佐倉守禅慈って言うんだ」
「俺は――」
「私は――」
自己紹介が続くのも当然だけど、それが終わるまでかなり待ったよ。
燐治さんはもじもじしてた。何か言わなきゃいけないのかな、言葉に迷うなぁ――なんて思ったのかも。
燐治さんだけ自己紹介してない段階で、歌川さんが、燐治さんの身に起こったことを話した。鉄の吸収ができるようになってそれが原因で恐らく発見され、狙われて追われたんだっていうことを。
で、僕もその力を使えるようになったということも。
燐治さんの紹介もほどほどに、風浦さんが、
「さて」
って言って空気を変えた。緊張した空気が漂ってる。
「その追手の乗っていた車ですが――『置き去り殺人の被害者のもの』と判明しました」
「え?」
思わず眉間に力が入る。
どういうこと?
僕はそのニュースを知ってる、多分ほかの人も。
「置き去り殺人……?」
それは希美子さんの声だったけど、ほかの誰が疑問を投げ掛けても不思議じゃなかった、これはそれほどの事件だった。
風浦さんの声が届く。
「ニュースで最近までよく見られたと思います、遺体の発見場所が殺害現場ではない、首を切られて失血死しているが、その血が発見場所にそこまで付着していない、というもの。犯人の手掛かりがあまりにもないことや、手口がほぼ同じという点で、連続殺人と見られている事件」
「被害者が運ばれて放置されてるっていう、あれか……」
そう言ったのはお兄ちゃんだった。
「無差別っぽいんですよね、あれ」これは奏多さんの確認。
ひとまずって感じで、風浦さんも歌川さんもうなずいた。
風浦さんが続ける。
「奴らが人をさらって殺し、別の場所に放置している犯人グループ。多分それで間違いありません。偶然で置き去り殺人の被害者の車を盗むなんて輩もそうはいない。しかもその被害者の『ほぼ全ての』車をです。その被害者の車だから狙われて盗まれたのだとしても、これでは警察の目をあまりにも無視しています。……気になって調べたら、実は……遺体が置き去り殺人の被害者のものとして発見された時には、既にその被害者の家には車がなかったとのことでした。我々が先日確保した車はナンバープレートを変えられていた。その置き去り殺人の被害者の車はほとんどが行方不明。つまり、マギウトを使える者が置き去り殺人を実行し、被害者の車をも盗み、移動方法などに幾つかの車をバレないように活用しようと企んだということ。これでほとんどのことに説明が付きます。現場に遺体を放置しにゲートで運んでゲートで帰っているから足取りが掴めない、恐らくそういうこと。神出鬼没な理由もそれなら納得できる。そしてゲート設置のためにあらゆる場所に行っておく必要があるため、とにかく見て回ったはず。そのための移動にも盗んだ車を使える。ほぼ百パーセント彼らが置き去り事件を起こしているし、車を盗んでいるし、その車で燐治さんを追った……ということです。車から採取できた飛沫や皮膚、髪の毛などを使ったDNA鑑定で各事件の証拠との照合を試みていますが、その結果を見るまでもなく、ほぼ決定でしょう、彼らはその犯人」
「あ、あのー、だったとしてもっすよ」と、お兄ちゃんが切り出した。「なんでそいつらって遺体を捨てて放置するんですかね。逃げられるんなら別にどこに遺体があってもいいじゃないですか」
すると歌川さんが。
「それに関しては捜査のかく乱のためだと見ている――し、もしかしたら彼らも我々のような、佐倉守のような集団もしくはマギウト使い個人を探していて、接触できるように、メッセージになるようにしているのかもしれない」
「ふぇえ」と妙な納得の声を出した後で、お兄ちゃんが。「そうかなるほど……」
風浦さんが息を吸い、手を動かし、どこでもない空中を示した。「ただ、あの犯行がメッセージでもあるにしても、やり方はほかにもあったはずです。この方法には別の意味があるはず。我々が調査員として今気にしているのは、そういう意味での彼らの目的です」
体の向きを、全体に話すように色んな方向に向けながら、風浦さんがまた。「なぜあんなに共通点のない複数の人を殺すのか。人だ、ということが既に共通点なのか? もしそうなら彼らは人をどういう意味で狙っているのか。殺したい衝動で? 切られているのは首だけ。ほかに何の痕もない。なんだか怪しいですよね。それとも殺す前に何かをしているのか」
そんな疑問を投げ掛けられても、という感は否めなかった。
だって僕なんかは、ただの高校生だし。
「うーん」僕もよく分からない。被害者を、マギウト使いか断定できていたら、一般人だと分かっていたってことに……。彼らは一般人に用が?……なんで? 逆にその断定ができていなかった? ほかに基準が?
静まり返ってから、歌川さんが。「マギウト使いが直接動くくらいだ、もしかすると遺伝子レベルの素養みたいなものを調査しているのかもしれない。私達のような組織がほかにも存在しているのだとすると、燐治さんを狙っていたのもそういう意味でだろうと思える」
すると僕のお父さんが急に。「それは――彼のことは――確かにそれで納得できます」燐治さんが狙われた理由のことだ。
ただ、お父さんは、不明な点があるという顔。
「でも、置き去り殺人の被害者は全員マギウト使いではないんでしょう? それはどうしてなのか……。どうお考えなんです?」
対して、ふう、と息を吐いた歌川さんが。
「正直言うと、なぜマギウト使いじゃない者を、という事に関しては、確かなことは分かっていません。ですが、だからこそ『手当たり次第かもしれない』と考えています」
「手当たり次第?」
と、希美子さんの旦那さんがオウム返し。
これが正しいなら僕のお母さんも希美子さんの旦那さんも危ない。
――ああ、だから聞いたんだな。つい聞いてしまう気持ち、分かるなぁ……。
そのオウム的発言に対しては、歌川さんが答えた。
「狙った相手が偶然マギウト使いであればそれでよしとする集団なのかもと――その可能性が高いとは思っています、八割くらい」
そこで言葉が止まったからか、風浦さんが補足した。「彼らもX線検査でサクラが見えることは分かっているでしょう、そしてそれを利用して被害者を検査し、確かめ、マギウト使いではないと分かったから用のない遺体としてどこかに捨てているのかもしれない……ということです。ほかになんの痕跡もないのは、それで――X線検査だけで――済んでいるからなのかもしれないんです」
「なるほど」僕のお父さんの理解の声。「それでその犯人達は、妙な組織がほかにいないかと、接触しようとするためにメッセージになるようにと離れた場所に……殺して……捨ててるかもしれない、と」
それに対して歌川さんが。「まあそこまで深い考えはないかもしれません。が、我々はそのようにメッセージ性があると考えて行動することにしました。そして、これは恐るべき事態です」
――確かに。
お母さんも、希美子さんの旦那さんも、さっき怯えてた。誰が狙われるか分からない。それほどの事態。
こんなの、関係者じゃなくっても及びうる。とんでもない恐怖だ。
そんな恐怖を煽られたのもあって、もっと聴くことに集中した。
その時、風浦さんの口が動いた。
「彼らは新たな確証を得た。鉄の吸収から探り、そこの鮎持燐治くんに行き着いた。つまり、もし、もうマギウト使いであるか確かでない者を調査する気がなく、調査の仕方を変えているとしたら、彼らのターゲットは、今度は、ここにいる全員になりうる」
もっと確かな恐怖。
みんながざわついた。
声がある程度治まってから、また風浦さん。「今回のことでは佐倉守家以外の皆さんが特に危険です――が、佐倉守家の皆さんも十分に注意を」
佐倉守家のみんながうなずく。神妙に。まあそれも当たり前だ。
そして、また風浦さんが先を進めた。
「鉄の吸収が可能になった者がいることは、彼らにとっても想定外なのかどうなのか……とにかく調べたいと思われてしまったんでしょう、確実に狙われると思うべきだ。この鉄吸収の発現は、恐らく、佐倉守家の遺伝子に起因したことではない。大樹くんや燐治くんにしか発現していない。以前話を聞いたんですが、大樹くんの御兄弟、お二人は未熟児だったそうですね。つまり、近代のルオセウ人の遺伝子を進化する形で受け継ぐことが可能であったか否か。きっとそこです。この見解はきっと正しい。大樹くんと燐治くん――能力の由来不明という意味で愛理紗ちゃんも――この三人が狙われる可能性はほかより高い」
そこまで言うと、風浦さんは僕らだけに向けて。「ってことだから、注意するんだよ。鉄の吸収を特に見られないように、そんなことが必要にならないように」
僕はこくりとうなずいた。
『ほかの二人』も同じようにうなずいてる。きっと、僕以上に不安を感じてもいる。いつ消えるかも分からない不安をだ。
今度は歌川さんが。
「護衛を付けます。が、近付いてピッタリ守るということはできません、逆に怪しまれます。ですので個人個人でも十分に注意してください。一人になることや人混みもできるだけ避けるように。一人にならざるを得ない時は周囲に気を付けてください、いいですね?」
みんながうなずく。
当人としては、緊張感が半端ない。力が無ければどれだけ不安になるか。
「ともあれ、かなり危険そうに思えますが、バレなければいいだけの話です」歌川さんはまとめに入ったみたいだった。「マギウト使いだとバレなければ……そして周囲に警戒して一人になりさえしなければ……そこまでの事態にはそうそうならないはずです」
確かに。
楽観的と思えるかもしれないけど、実際、連中から身を守るのは、今言われた通りのことができれば可能な気がしてきた。
ふと思った。佐倉守家はどういう気持ちなんだろう――って。
より特別な存在が出てきた。そういう流れだ。
でも、そのことに真摯に向き合っていて、できることを見つめてる、そんな真剣さが滲み出てるように見える。
こちらを心配しているようにすら見える。それまで一番特別だったのに――っていうコンプレックスは微塵も感じられない、彼らの態度からはいつも献身の精神が感じられる、そんな気がする。
彼らがとてもカッコよく映ったからこそ、僕もそんな風であれたらいいなって、そんな事を思った。この力で、献身を。僕も。そんな姿勢でいようと。
「もしもし」
「ああ、大樹くん、君、日曜はいつもこっちでマギウトを練習してるよね」
「あー、はい、してますけど。あ、でも、今日は埋め合わせにデートするんで……練習場には行きませんよ」
言いながらも、まだある眠気に抗いながら、耳に集中。
何の用なんだろう……と思いながら。
「そっか……ごめん大樹くん、実千夏ちゃんには悪いけど、今日はそれを取りやめにして会議に参加してくれないか。それは君達のための大事な会議なんだよ。マギウト使い全員に伝えておかなきゃいけない、とりあえず君は家族全員に伝えて。ほかはこっちで伝える」
嘘だろ、折角の埋め合わせすら。
にしても、妙に深刻そうだ、まるでこれは依頼じゃなくて命令みたい。
「……分かりました、じゃあ、また――」
「本当にごめんね。じゃあまた」
終始、慌ただしい声だった。一体何の会議なんだ?
自分のスマホで実千夏に電話を掛けると、僕は予定が変わってしまったことを伝えた。
電話口に、実千夏は、
「……いいよ、大丈夫。今度の土曜日まで待てばいいんだから。それができない私だと思う?」
って。
確かに実千夏は芯が強い。
「いや、それは……思わない。思わないけどさ。でもごめん、こんな――」
「謝らないでよ。いいんだよ。悪いの? 違うでしょ? 悪くないんだから」
「でも付き合ってるのが僕だからさ。もし僕じゃなかったら、実千夏はこんな想い――」
「そんなこと思わないでって言ってるの。選んだのは私もだよ。私も大ちゃんも、自分で選んだ。ほかの人とだったとしても何かは起こるよ。私達だと今なだけ。私、嫌じゃないから」
「……ありがとう。土曜日が待ち遠しいよ」
そのあと少しだけ間があった。共感の間だろう。実千夏もトーンを落として「うん。私も」って。ほんっとうに待ち遠しいし、僕とじゃなかったら行けたんだ。
僕はまだ話していたかった。名残惜しい。
同じように実千夏も思ってるかも。そう思うと……。
とりあえず予定のことを。
「実千夏はそれで、今日どうするの?」
「そうだねえ、練習かなあ、トロンボーンも料理も。――それより、みんなに伝えなくていいの?」
「あー、うん、そうなんだけど」
「……いいんだよ? 電話、切っても。私のことは気にしないでよ。会える日はいっぱいあるんだから」
「…………うん、そうだね。ありがと。じゃあ、また」
「うん。こっちこそ、気にしてくれてありがと。またね」
「うん」
切っていいよという間が数秒あった。それから通話を切った。
「はぁ……」
溜め息も出る。そのあとで家族みんなに伝えに行った。
昼。
組織・隈射目のマギウト練習場に大勢の人が集まった。
佐倉守家の居那正さん、希美子さん、希美子さんの夫(一般人)、奏多さん、禅慈さん、紫音さん、舞佳さん。
藤宮家の僕、お父さんの泉蔵、お母さんの香菜、近延お兄ちゃん、理美お姉ちゃん。
鮎持燐治さん。
谷地越愛理紗さん。
この計十四人に加え、調査の説明をする二人、風浦さんと歌川さん。
あまりにも人数が多い。
だから広いマギウト練習場で、ということらしい。
全員、パイプ椅子に座っていた。説明する側二人はこちらと向き合うように。対して僕らは弧を描くように。
僕と国邑さん以外は谷地越さんをほとんど知らないかも――と思ったけど、お母さんが言った。
「あ、どこかで見たと思ったけど、あなた、うちに来たことない?」
するとお姉ちゃんが言った。「私の友達じゃあないけど」
「ん? 俺の知り合いでもねえよ!?」
お兄ちゃんは動揺を見せた。変なことを言われたくなかったからかな、きっとそうだ。
谷地越さんが説明すると思ったけど、なんだか言い辛そう。
だからこのタイミングで僕が言うことに。
「彼女は僕の知り合いだよ、ほら、僕がわざと風邪引いて健康診断を休んだあと、家に来たでしょ」
「ああ! 二人来たのよね」お母さんが納得しながら。「てっきりモテモテなのかと思ったわよ、あれ」
「そう? まあでも、僕には実千夏がいるし、選択の余地はないよ。……てかそんな話じゃなくて。谷地越さんはマギウトのことで悩んでて、僕が屋上で電話口に話すのを――誰にも聞かれてないと思って検査について話してたんだけど、それを――聞かれてて、それであの時、僕に相談に来たんだよ、本当はね」
「あ~っそうだったのね!」
って、お母さんが。この納得は、場を和ませたんじゃないかと思う。
僕が説明を付け加えようとしたら、谷地越さんが。
「私、ここのことは知ってたけど、扱う事件に関わるのが怖くて、私のことを知らせないでって大樹くんにお願いしてたんです、それで――。でも、色々と私に関わりそうな事件が起きたみたいだったし、守ってもらえそうだから、その、今朝、組織の人達に連絡してみて、私を知ってもらったんです。大樹くんも言ってたんですけど、関わらなくていいからって、今朝、言われて。それで」
「そうだったんだね。俺は禅慈、佐倉守禅慈って言うんだ」
「俺は――」
「私は――」
自己紹介が続くのも当然だけど、それが終わるまでかなり待ったよ。
燐治さんはもじもじしてた。何か言わなきゃいけないのかな、言葉に迷うなぁ――なんて思ったのかも。
燐治さんだけ自己紹介してない段階で、歌川さんが、燐治さんの身に起こったことを話した。鉄の吸収ができるようになってそれが原因で恐らく発見され、狙われて追われたんだっていうことを。
で、僕もその力を使えるようになったということも。
燐治さんの紹介もほどほどに、風浦さんが、
「さて」
って言って空気を変えた。緊張した空気が漂ってる。
「その追手の乗っていた車ですが――『置き去り殺人の被害者のもの』と判明しました」
「え?」
思わず眉間に力が入る。
どういうこと?
僕はそのニュースを知ってる、多分ほかの人も。
「置き去り殺人……?」
それは希美子さんの声だったけど、ほかの誰が疑問を投げ掛けても不思議じゃなかった、これはそれほどの事件だった。
風浦さんの声が届く。
「ニュースで最近までよく見られたと思います、遺体の発見場所が殺害現場ではない、首を切られて失血死しているが、その血が発見場所にそこまで付着していない、というもの。犯人の手掛かりがあまりにもないことや、手口がほぼ同じという点で、連続殺人と見られている事件」
「被害者が運ばれて放置されてるっていう、あれか……」
そう言ったのはお兄ちゃんだった。
「無差別っぽいんですよね、あれ」これは奏多さんの確認。
ひとまずって感じで、風浦さんも歌川さんもうなずいた。
風浦さんが続ける。
「奴らが人をさらって殺し、別の場所に放置している犯人グループ。多分それで間違いありません。偶然で置き去り殺人の被害者の車を盗むなんて輩もそうはいない。しかもその被害者の『ほぼ全ての』車をです。その被害者の車だから狙われて盗まれたのだとしても、これでは警察の目をあまりにも無視しています。……気になって調べたら、実は……遺体が置き去り殺人の被害者のものとして発見された時には、既にその被害者の家には車がなかったとのことでした。我々が先日確保した車はナンバープレートを変えられていた。その置き去り殺人の被害者の車はほとんどが行方不明。つまり、マギウトを使える者が置き去り殺人を実行し、被害者の車をも盗み、移動方法などに幾つかの車をバレないように活用しようと企んだということ。これでほとんどのことに説明が付きます。現場に遺体を放置しにゲートで運んでゲートで帰っているから足取りが掴めない、恐らくそういうこと。神出鬼没な理由もそれなら納得できる。そしてゲート設置のためにあらゆる場所に行っておく必要があるため、とにかく見て回ったはず。そのための移動にも盗んだ車を使える。ほぼ百パーセント彼らが置き去り事件を起こしているし、車を盗んでいるし、その車で燐治さんを追った……ということです。車から採取できた飛沫や皮膚、髪の毛などを使ったDNA鑑定で各事件の証拠との照合を試みていますが、その結果を見るまでもなく、ほぼ決定でしょう、彼らはその犯人」
「あ、あのー、だったとしてもっすよ」と、お兄ちゃんが切り出した。「なんでそいつらって遺体を捨てて放置するんですかね。逃げられるんなら別にどこに遺体があってもいいじゃないですか」
すると歌川さんが。
「それに関しては捜査のかく乱のためだと見ている――し、もしかしたら彼らも我々のような、佐倉守のような集団もしくはマギウト使い個人を探していて、接触できるように、メッセージになるようにしているのかもしれない」
「ふぇえ」と妙な納得の声を出した後で、お兄ちゃんが。「そうかなるほど……」
風浦さんが息を吸い、手を動かし、どこでもない空中を示した。「ただ、あの犯行がメッセージでもあるにしても、やり方はほかにもあったはずです。この方法には別の意味があるはず。我々が調査員として今気にしているのは、そういう意味での彼らの目的です」
体の向きを、全体に話すように色んな方向に向けながら、風浦さんがまた。「なぜあんなに共通点のない複数の人を殺すのか。人だ、ということが既に共通点なのか? もしそうなら彼らは人をどういう意味で狙っているのか。殺したい衝動で? 切られているのは首だけ。ほかに何の痕もない。なんだか怪しいですよね。それとも殺す前に何かをしているのか」
そんな疑問を投げ掛けられても、という感は否めなかった。
だって僕なんかは、ただの高校生だし。
「うーん」僕もよく分からない。被害者を、マギウト使いか断定できていたら、一般人だと分かっていたってことに……。彼らは一般人に用が?……なんで? 逆にその断定ができていなかった? ほかに基準が?
静まり返ってから、歌川さんが。「マギウト使いが直接動くくらいだ、もしかすると遺伝子レベルの素養みたいなものを調査しているのかもしれない。私達のような組織がほかにも存在しているのだとすると、燐治さんを狙っていたのもそういう意味でだろうと思える」
すると僕のお父さんが急に。「それは――彼のことは――確かにそれで納得できます」燐治さんが狙われた理由のことだ。
ただ、お父さんは、不明な点があるという顔。
「でも、置き去り殺人の被害者は全員マギウト使いではないんでしょう? それはどうしてなのか……。どうお考えなんです?」
対して、ふう、と息を吐いた歌川さんが。
「正直言うと、なぜマギウト使いじゃない者を、という事に関しては、確かなことは分かっていません。ですが、だからこそ『手当たり次第かもしれない』と考えています」
「手当たり次第?」
と、希美子さんの旦那さんがオウム返し。
これが正しいなら僕のお母さんも希美子さんの旦那さんも危ない。
――ああ、だから聞いたんだな。つい聞いてしまう気持ち、分かるなぁ……。
そのオウム的発言に対しては、歌川さんが答えた。
「狙った相手が偶然マギウト使いであればそれでよしとする集団なのかもと――その可能性が高いとは思っています、八割くらい」
そこで言葉が止まったからか、風浦さんが補足した。「彼らもX線検査でサクラが見えることは分かっているでしょう、そしてそれを利用して被害者を検査し、確かめ、マギウト使いではないと分かったから用のない遺体としてどこかに捨てているのかもしれない……ということです。ほかになんの痕跡もないのは、それで――X線検査だけで――済んでいるからなのかもしれないんです」
「なるほど」僕のお父さんの理解の声。「それでその犯人達は、妙な組織がほかにいないかと、接触しようとするためにメッセージになるようにと離れた場所に……殺して……捨ててるかもしれない、と」
それに対して歌川さんが。「まあそこまで深い考えはないかもしれません。が、我々はそのようにメッセージ性があると考えて行動することにしました。そして、これは恐るべき事態です」
――確かに。
お母さんも、希美子さんの旦那さんも、さっき怯えてた。誰が狙われるか分からない。それほどの事態。
こんなの、関係者じゃなくっても及びうる。とんでもない恐怖だ。
そんな恐怖を煽られたのもあって、もっと聴くことに集中した。
その時、風浦さんの口が動いた。
「彼らは新たな確証を得た。鉄の吸収から探り、そこの鮎持燐治くんに行き着いた。つまり、もし、もうマギウト使いであるか確かでない者を調査する気がなく、調査の仕方を変えているとしたら、彼らのターゲットは、今度は、ここにいる全員になりうる」
もっと確かな恐怖。
みんながざわついた。
声がある程度治まってから、また風浦さん。「今回のことでは佐倉守家以外の皆さんが特に危険です――が、佐倉守家の皆さんも十分に注意を」
佐倉守家のみんながうなずく。神妙に。まあそれも当たり前だ。
そして、また風浦さんが先を進めた。
「鉄の吸収が可能になった者がいることは、彼らにとっても想定外なのかどうなのか……とにかく調べたいと思われてしまったんでしょう、確実に狙われると思うべきだ。この鉄吸収の発現は、恐らく、佐倉守家の遺伝子に起因したことではない。大樹くんや燐治くんにしか発現していない。以前話を聞いたんですが、大樹くんの御兄弟、お二人は未熟児だったそうですね。つまり、近代のルオセウ人の遺伝子を進化する形で受け継ぐことが可能であったか否か。きっとそこです。この見解はきっと正しい。大樹くんと燐治くん――能力の由来不明という意味で愛理紗ちゃんも――この三人が狙われる可能性はほかより高い」
そこまで言うと、風浦さんは僕らだけに向けて。「ってことだから、注意するんだよ。鉄の吸収を特に見られないように、そんなことが必要にならないように」
僕はこくりとうなずいた。
『ほかの二人』も同じようにうなずいてる。きっと、僕以上に不安を感じてもいる。いつ消えるかも分からない不安をだ。
今度は歌川さんが。
「護衛を付けます。が、近付いてピッタリ守るということはできません、逆に怪しまれます。ですので個人個人でも十分に注意してください。一人になることや人混みもできるだけ避けるように。一人にならざるを得ない時は周囲に気を付けてください、いいですね?」
みんながうなずく。
当人としては、緊張感が半端ない。力が無ければどれだけ不安になるか。
「ともあれ、かなり危険そうに思えますが、バレなければいいだけの話です」歌川さんはまとめに入ったみたいだった。「マギウト使いだとバレなければ……そして周囲に警戒して一人になりさえしなければ……そこまでの事態にはそうそうならないはずです」
確かに。
楽観的と思えるかもしれないけど、実際、連中から身を守るのは、今言われた通りのことができれば可能な気がしてきた。
ふと思った。佐倉守家はどういう気持ちなんだろう――って。
より特別な存在が出てきた。そういう流れだ。
でも、そのことに真摯に向き合っていて、できることを見つめてる、そんな真剣さが滲み出てるように見える。
こちらを心配しているようにすら見える。それまで一番特別だったのに――っていうコンプレックスは微塵も感じられない、彼らの態度からはいつも献身の精神が感じられる、そんな気がする。
彼らがとてもカッコよく映ったからこそ、僕もそんな風であれたらいいなって、そんな事を思った。この力で、献身を。僕も。そんな姿勢でいようと。
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といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
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のぞみ
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