ブルーピーシーズ

弧川ふき@ひのかみゆみ

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第4章 ケズレルモノ

32-2 顔と埋め合わせ

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 ふと、居那正いなまささんが言った。「早くその連中を捕まえられれば、置き去り殺人の被害者も出ずに済むのに……か」
 マギウト練習場は静まり返った。発言の悲しさゆえに。
 まるでここに誰もいないみたい。

「――そうですね」吐息に乗せるように、風浦かざうらさんが答えた。「ただ、彼らは最近、置き去り殺人を行っていない。ここ一か月と少し、被害者が出ていないんです。その分、燐治りんじくんの調査に時間を割いていたんでしょう。……これから先、彼らは優先順位を変え、燐治くんや大樹だいきくんしか狙わない、そういう可能性もある、さっきもそういう意味で――」

「それは、ただの可能性だよ」居那正いなまささんが言った、鋭く忠告するように。
 そちらに向けて、風浦さんはうなずいた。「そうですね、ただの可能性です。もし被害者が出るとしたら、今の私達にはまだ止められません」
 風浦さんはそう言うと肩の力を抜いたみたいだった。そのすぐあとに、首を横に小さく振った。

 小さな深呼吸をしたように見えた――そのあとで風浦さんが。
「もし彼らに、あなた方の身柄を引き渡しても……もしくはその振りをして何人か捕まえられても、彼らが手当たり次第の致をしないかどうかは分かりません。もしマギウト使いでない者の中に素養みたいなものを見いだして調べているとしたら。それは止められない。彼らの本拠地も分からない以上、まだこちらも手当たり次第にしか動けません」
 早く捕まえたいのに――という感情が風浦さんの顔には出ている、僕にはそう見えた。

 そこで、舞佳まいかさんが手を挙げた。「誘い出すのは駄目なんですか? たとえば誰かがマギウトの映像を場所が分かるように作って彼らの目に留まるように――」
 勇ましい姿勢に見えた。
 そうやっても勝つという気概そのものが見えた気がした。
 それに対する答えは、歌川うたがわさんが。
「そんなのは危険過ぎるし、世間にまで……混乱を招いたらどうする? たとえ彼らにしか伝わらなくても、どうなるかは分からない以上、そんなことはさせられない」

 つまり被害者は出続けるかもしれないのに、奴らの居場所なんかに関する調査が終わるまでただ待つだけ……。
 あまりにも歯がゆい。

 本当にどうすることもできないのかな。

 そこで、風浦かざうらさんが、「うーん」と頭を悩ませたみたいで、それから。
「我々が知っていて人があまり来ない場所……、その監視をこれからは常に行って、奴らがもしそこに来たら対処できるようにしておきます。特に、この前戦闘になった鬼千堂きせんどうデパートは重点的に。ほかにも、被害者の出方などから見て、どこに活動拠点がありそうか、何か彼らにつながりそうな証拠がないか、地理的な分析と合わせて捜索を続けていきます」

 風浦さんはそう言うと二、三度うなずいて。
「話はこれで終わりです。今言ったことに注意して、今後の生活を――乗り越えていきましょう。では……もうお帰りになって結構です。あ、大樹くんはちょっとまだいてね」
 風浦かざうらさんは率先してパイプ椅子から立ち上がった。

 数秒後には燐治りんじさんが立ち上がって、大扉に向かって歩き出した。
 誰も引き留めなかった。
 その必要もない。彼の居場所は、しばらくはここ。

 さあ帰ろう、という雰囲気をまとってゲートルームに向かう者は多くいた。
 谷地越やちごえさんは佐倉守さくらもり家と一緒に歩いて行った。

 ――あれ? なんでだろ。……あ、誰かにどこかへ送ってもらうのか! なるほどね。そういや自分もそうだった、最初は。

 残ったのは僕と奏多かなたさんと舞佳さんとお兄ちゃん。
 そんな状況で歌川さんが。「残るなら椅子の片付けを手伝ってくれよ。それと、大樹くんには話を聞きたい、片付けのあとで。いいかな」
「ええ」
 言われてガチャガチャと。運んだ先は一階下の施設備品倉庫。

 運び終えたあとで、歌川さんが声を掛けてきた。
大樹だいきくん、それとお兄さんも」
 僕は備品倉庫から出た所で待機してた、そこにはお兄ちゃんもいて、ほぼ一緒に歌川さんの方を向いた。
「何ですか?」って、まずは僕が聞いた。
 ほかの二人も振り返ってはいた。でも奏多さんと舞佳さんは、先にどこかへと向かい始めた。多分練習場だ。
 僕があとから行くと思ったのかもしれない、そこで待ってあとで聞けばいいとでも思ったのかも。それに、歌川うたがわさんが話したい相手は僕とお兄ちゃんの二人だけみたいだった、だからすぐに去ったのかもなあ。
「あの時、顔を見られたろ、あの連中に」
「あ、そうですね、そういうことに――」
「ってことだから、大樹くんの写真がどこかに載ってるとまずいんだ。まあ、奴らの記憶力が頼りにならないことを祈るが、それだけに頼るのはよくないからな」
「あ、そっか……! どうなんだろう。学校のパンフレットとかには載ってるのかな」
 僕がそう言うと、お兄ちゃんが。
「大樹、書道とか漢検とかやってるだろ、それ関係は?」
「うん、それもだね」
 あとは、ほかから探られてしまうかどうか。
「あ、クライミングもです。賞状と一緒に撮られた写真なんかがどこかにあるかも。クライミングは――あ、書道もか――その二つは中学生の時です。漢検は高校生になってからですけど」

「じゃあほかに何かに貢献したとかは?」
 歌川さんはそう問いながら、ジャケットのポケットから何かを取り出した。メモ帳だ。そしてその目は僕を見てる。
「さあ……」僕は思い出しながら。「地域清掃の写真なんかがあったら分からないですけど……ありますかね?」
「分からん、調べてみよう。とりあえず書道と漢検、クライミングだな、あと中学校は――」
深笠屋みかさや中学校です」
「――中学校……とクライミング、書道、漢検、だな?」歌川うたがわさんはペンも取り出していて、僕の言ったことを全てメモしたみたいだ。
 僕がうなずくと。
「時間を取らせて悪かったな。さ、普段の用事に戻っていいぞ」
「あ、はい、じゃあ」
「ども」お兄ちゃんの返事はあっさり。

「さあ行った行った」そう言ってから、歌川さんは、しばらくして風浦かざうらさんと合流すると、同じ階の会議室へと向かった。
 それを後方に見ながら、僕らは上階へ。

 練習場に戻った。
 そこに奏多さんと舞佳さんがいた。ちょうど二人はマギウトの練習をしていた。やっぱり二人はそのために残ろうとしてたんだ、きっとそう。
 奏多さんがその拡大物を元の消しゴムに戻して手に持ち、僕らに向かって、「さっきどんな話をしたの?」って聞いてきた。
 まずはさっきの話を。
 すると。
「なるほど? 大樹だいきくんは注意しないとね、家族みんなで気を付けたりもしないと」
「ですね……」
 話し合ってから「じゃあ僕はここで」「おう」とやり取りをして、ゲートルームに戻り、家に帰った。


 今日はそれからの時間で、実千夏みちかとのデート。部屋に戻ってすぐ話し合って、行く場所を決めてから鳥谷とりたに公園前で待ち合わせた。
 埋め合わせの分だけでも楽しもう、楽しませてやりたい。大事な時間だからね。

 連れて来れてよかった――荻赤山おぎあかやまスカイライク。このデパートで、物を買ったり食べたりということだけじゃなくて、ウィンドウショッピングを楽しむ実千夏を見るのは格別楽しい。
 僕も冗談みたいな服を自分の体に当てて見せ、笑わせることもできたし。

 洋服店グリンモントではあまりはっちゃけられなくて、気恥ずかしくて、「どうしたの?」なんて実千夏に言われた。内心ヒヤヒヤだ。だってそこがあの場所の入口だし。
 でもまあそこまでの心配はない。
 あらかじめ、待ち合わせ前に「知らない振りをしていてください」って裏口から言いに行っておいたもんね。
 それにしても皮肉だ。この日、予定を変えてまで僕がいた組織の本部を隠す場所に、こうしてまた来たんだから。ふふ。変な気分。


 今頃、奏多さんと舞佳さん、それにわざわざ残ったお兄ちゃんも、マギウトの練習をしてるんだと思う。立ってマギウトを使ったり、座ってそうしたり、注意し合って走りながら使ったり。多分そんな練習を。
 いや、もしかしたら、もう今日の分は終えているのかもしれないけどね。


 夜。
 この日できなかった練習の半分くらいは……って思って練習場に行って、そこでシャー芯を操った。昼の分を今取り戻そう、そのくらいの気持ちで。

 ただ、練習量を絶対に少なめにするぞ、と今回は意識した。疲れてまた鉄を吸収してしまったら……。不用意にそうなることだけはできるだけけたい。

 練習の最中、学校のフェンスのことを思い出した。あの跡からバレやしないか。……少し不安なんだよね……。

 ある程度練習したあと、考えに集中したくなった。
 芯の大きさを戻す。
 上下左右に動かしていたジュースの缶くらいの大きさの芯を目の前の床近くに動かし、ほぼ一瞬で元の大きさくらいに戻すと、サクラを込めるのをやめる。すると完全に元の大きさになり、芯はその場に――あぐらをかいた僕の目の前に――落ちた。
 その一本を拾い上げ、持っているシャー芯のケースに入れる。

 さて休憩――がてら考える。あぐらを掻いたまま。
 あのフェンスの状態がマギウトのせいだとバレるか否か。
 ……やばいんじゃ?
 いや待てよ?
 あれをマギウト使いの鉄の吸収によるものだとあの連中に思えるのかな。肝心なのはそこだ。

 バレない気がする。
 あのくらいなら大丈夫、何も知らなきゃありふれたただの破損部分だ。きっと妙な能力のせいだなんて思えない。うん。大丈夫。きっと大丈夫。

 自分を安心させると、また練習。
 それも終えると、向かいにあるトレーニングルームに入った。
 5キロのダンベルを拾い上げた。そこまでの重さには感じない。
 それを何度も上下に動かした。こういう積み重ねが今後起こりうる何かにつながるよね――そう思いながら。
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