ブルーピーシーズ

弧川ふき@ひのかみゆみ

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第4章 ケズレルモノ

39-3 作戦と胸のよどみ

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 組織の第一会議室。
 シリクスラさん達が黙って考えているような素振りを見せる中、ふと、兄の声が。

「でも、本当に大樹だいきを釣るためだったとしても、それ、どうやって確認するんですか。本物かどうかをどうやって」

 その質問に対しては、ヴェレンさんが、
「変身後の姿が本人のものか確認する手段は、傷の有無や位置くらいしかありません」
 と答えた。涼やかに。
 僕は思い出した。異常な大きさのヤモリに変身した姿で腕を撃たれたあと変身を解いた時、傷は、塞がりはせずに腕にあり続けた、そのことを。古傷も同じなんだろう。

 数秒後、イチェリオさんの方から声が。
「この話に乗って現場でその目で見るか、もしくは、本物のイマギロ部長にしか分からない話を振って鎌を掛けるかしか」
「そんなの――」させる訳に行かない、とでも言いたくなったんだろうか、風浦かざうらさんがそんな風に何か言いそうになってやめたように見えた。
 そして一旦息を吸い、ゆっくり吐くと、風浦さんがまた。「どうやると言うんです。失敗すればどうなるか。あまりにも危険ですよ」

 風浦さんが焦るほどに心配してくれている、そして落ち着いて考えようともしてくれている、そう思えて嬉しくなった。ただ、そんな感情に浸っている場合でもない。
 ――じゃあどう考えよう。
 とにかく頭を使った。
 本人かどうか。今の焦点はそこ。
 そして、いつまで経っても『もし本物のイマギロ部長がそもそも何やら企てている人物の一人だったら?』という話にはならなかった。だから、イマギロ部長っていうのはとっても信頼されている人物なんだな――って、そう思えた。
 それが正しければ――これが罠なら――誰かが変身しているということになる。

 だけど、イマギロ部長が脅されている可能性は? それも考えた。
 ただ、それはきっとない。
 奴らも最近思い付いたような感じでこの電波ジャック作戦を行ったはず。僕のことであの映像を作ったんだ、僕を認識する前からこの方法を思い付いてなどいなかったんじゃないか? そんな気がした。元燐治りんじさん、粋暁きよあきさんの調査の段階でこの手段を使っていないのも気になるし。
 もしあれがイマギロ部長本人なら、奴らが最近になってから宇宙を旅して戻って脅してその部長を連れて地球にまた旅して来なければならない。
 先日聞いた話だと、ルオセウから地球まで、ゲートを使った航行方法とやらで、確か一か月掛かると聞いた。そのはず。作戦を思い付いて往復まで? さすがに間に合わない。そもそも脅しが利かない可能性だって考えるはず。
 だからきっと本人が脅されているのではなく、誰かが変身しているんだ。罠なら、絶対にそれしかない。

 つまり、本人がこの三人を送り出したあとで『やはり私も』なんて言って地球に来て善意でやったことか、あるいは誰かの変身による罠か、答えはそのどちらかのはず。

 ……いや待てよ、こんな状況だ、ルオセウからほかの調査用の船が来ていたら? 楽観的だけど観光船みたいなものが来ていたら? 善意で別人が注意喚起として――という可能性は?
 こういうことをイチェリオさん達が言わないってことは……と考えるべきか? いや、もし来ていても――そして警告してくれようとしても――イマギロ部長になり切る必要性がそもそもないのか。服装も、そうである必要がない。本人が乗ってきたならありうる、か。

 どちらにしろ、本人の善意と、変身による罠のどちらかだ、多分。
 そう思う上で、罠だと考えた。タイミングがどうも怪しい。
 だけどまあ、あとはイチェリオさんやシリクスラさん、ヴェレンさんがどう出るか次第。ルオセウのことが絡む以上、彼らの意見を主軸にして作戦を練らなければならない。

「ああ、あとは私達で話します。別のことをしていて結構ですよ」歌川うたがわさんが僕ら藤宮ふじみや家の面々に言った。
「あの」僕は聞いてみた。「これから話すのって、確かめに行く現場での作戦なんでしょう? その作戦実行の時、僕も行っていいですか」
 すると、シリクスラさんがムッとした表情を見せた。

 そりゃ僕が守られなきゃ意味がないけど、『僕ならできること』だってある、そう言いたかった。
 でもイチェリオさんが。
「駄目です。あなたが安全な場所にいなければ最悪の事態がありえてしまいます」
 その最悪の事態を、僕がいない方が回避できる? 彼らにも自信があるんだろう。

 それでも僕は。「でも、僕がいなくて困ることがあったら……。それこそその本人か確かめる時、援助を求めたい振りでもするんなら、僕がいないと怪しまれるんじゃ」
「その心配は無用です」ヴェレンさんはそう言うと急に自身の顔を変形させた。身長も縮む。「で会いに行きますから」
 彼は僕の姿になった。
 それなら……。それなら確かに、怪しまれないようにできる……。
 ただ、翻訳機付きマスクを着けていると怪しまれるからマスクも多分なし。話すと終わる。話さなくていい状況に持っていく? なら――その時だけなら――対応はできる……のか……。
 僕は渋々、「分かりました」と言うほかなかった。
 あとは任せる。それでいいんだ。そう思うことにしよう。
 そう思った時だ。
「あっ」
 僕は思い出した。連中が善人の振りをしようとしている、ということを。
 今回の映像の人物が本物のイマギロ部長だった場合、奴らは極端な行動に出てしまう、そんな気がする。そんな時に実千夏みちか要太ようたが狙われ兼ねない。

 ――あれ? でもそれって、そんな時だけか……?

「あの!」僕はみんなに向けて。「思ったんですけど、あれがイマギロ部長本人だとしてもそうでないとしても、奴らが、『暴かれたからしょうがない』みたいな感じで、手当たり次第に襲って僕のことを聞き出そうとしたらどうなります? 奴らが善良な組織の者だという振りをしなくていいようになったら、みんなが……危ない――僕を知ってる人みんな……クラスの人も先生もみんな……! 学校内の誰も……! もしかしたら無差別にも――!」

 すると、風浦かざうらさんが僕に手のひらを一度だけ向けて「落ち着いて」と言ってから、教えてくれた。
「君の学校の職員室その他諸々から、奴らの目をくぐるように細心の注意を払った上で、君に関連する情報、クラス名簿や教師の持つ情報……それらをらす元となるあらゆる書類やデータを既に移してある。一応、その運び出しの最中に襲われることはなかったし、学校のみんなはもう避難していて休校中だ。だから恐らく心配する必要はない。奴らは、今は次の作戦を考えているだけさ、そうじゃなきゃ被害が情報になってるさ、何らかの形でな」

 言われて思う。確かにそうかもしれないと。
 奴らの手が止まる? もう止まってる? どこの誰を脅せば僕の情報が入るか、分かっていない?
 分からないけどもしそうなら……奴らが暴走しそうな場合でも、心配する必要はない……?
 それでも胸に残る。
 不安。重圧。責任感。僕のせい。そういう思い……。
 いつどこで誰が犠牲になるかなんて、分かったもんじゃない。それが、自分が狙われるせいだなんて。
 なのに、捕まってもいいと軽々しく思うことはできない。僕が犠牲になったら、それはそれでルオセウが……。しかも、戦いに出て、隙を突かれて連れ去られてしまったら……。それを危惧されている。
 僕は今、何もできない、何もしてはいけないって言われてる……。
 僕だって生きていたい。
 けど、僕は……今の僕は……ほかの、誰かのための命……。そういうことなんだ、何もできないでいるのに。

 息苦しい気がしながらマギュート練習場に向かった。衰えないように、もっと早く、もっと柔軟に対応できるように、もしものために練習を積んでおかないと。そのもしもなんて起こらないことを願う。けど、それだけでは駄目な気がしたし、何だか嫌な予感がする。
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