ブルーピーシーズ

弧川ふき@ひのかみゆみ

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第4章 ケズレルモノ

51 作戦と敵の視野

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 あの洋館で、イチェリオさんは言っていた。
「もし俺達が、敵の設置するゲートを見ることすらできなかったら、その時は――」

 あの時イチェリオさんに言われた作戦を、僕を実行していた。
 それはこういうものだった。
 相手が僕から武器を取り上げるなら、その瞬間、自由にしている左手に芯を増やすことで移した状態にする。実際にはケースを投げるように言われたので、そのタイミングはこちらで調節できた。

 そうして僕の左手の中には、ケースにも入っていないたった一本の芯がある状態に。

 そのあとで手を調べられる際には、口の中に一本増やし、手からはことで移動したのと同じ状態にする。
 口の中を調べられる時は前に手に。『手はそのまま開いて見せていろ』と指示されるなら増やす場所を裾にする。
 裾を調べられるなら別の場所に移動させる。そもそもズボンを脱がされていた場合は足の下に。実際には裾に隠すことで成功した。

 相手の持ってきた服に着替える際、芯を持っている手を相手に見せないようにした。それが難しそうなら口の中――舌と上あごのあいだに増やし、そのあとで手から減らして消す。

 慎重に。飲み込まないように。見られてバレたり、地面に落として音でバレたりしないように。

 裾に隠した場合はそれを地面に落として見失わないように。まあ、もしそうしてもサクラの込め方を広げることでケアできる可能性は高かったけど。
 傷の所に隠しているかどうか確かめられた時は手に持っていた。割らないように注意した。

 そうやって手品のように増減能力で別の場所に増やしたあとで元を減らすことで持っていない状態だと錯覚させる、そういう手ぶらな振りをした……!

 増減能力を、失敗せずに正確に、しかも身体検査の最中に使い続けるのは至難の業だったらしいが、それでも僕はやり切った。――イチェリオさんの指導のたまものだ。
 これらは全て『あんな風に囲まれて隠されるかもということを想定していたからこその行動』だった。全く外から見えないことを想定したもの。
 この策を話し合っていてよかった。この時に僕が起こすべき最適解、それ自体は行えた――という状況だったんだけど……まあ、中にはこれを知らなかった味方もいたかもしれない。

 裸のたった一本の芯は、今はもう、僕の左手の中。
 さて。
 ここからが肝心だ。

 連中の船の中に(もしくは近くに)シャー芯を運べたあとの作戦は、大きく場合分けすると二通りあった。
 第一の作戦は、あの現場が覆われずにゲート越しにゲートを設置する方法が使えた場合。
 第二の作戦は、ゲートであの現場の様子が隠されゲート越しのゲートが使えなかった場合。

 第一の作戦では、即座に相手を行動不能にし、ゲートを設置して部隊を幾つも来させる。
 ただ、これは船の位置が分かっていないとできない。敵を行動不能にするとそのゲートは消える。だからだ。消えるまでしか接続が不能。
 目撃例はないが地震の発生地からして北海道中央部が怪しいとされている。そのことから僕が直接だいたいの距離、方角をイメージし、ゲートの作成に成功すればここに直接つなげられるかもしれない。だけど、これは何の確認もせずにできることじゃあない。

 そのためイチェリオさんかシリクスラさんが船に乗り込んだあとで僕とは別行動し、情報を保管している機械を探り当てる。船の機械でもいいが、相手のスマホでもいい。そこに地図や船の位置の情報があればよし。彼らも把握しておきたいだろうから恐らくあるはず。
 位置を把握すればゲートで部隊を呼べる。そして隊を分散し人質を探す。

 途中で敵と出会えば交戦。

 もし場所の把握ができそうになかったらゲートで部隊を呼べないから、イチェリオさんかシリクスラさん、もしくはその両方と僕で二手か三手に分かれて人質を探す。

 ただ、敵がこのような事態にすぐに気付くことも考えられる。だから船内で地図情報を手に入れる人とモニター室に行く人とに最初から分かれる必要がある。

 ルオセウの機械を使えない僕は、もちろん、地図情報なんか探さずモニター室を探すことに専念した方がいい。

 イチェリオさんとシリクスラさん二人共が侵入できたなら、そのどちらかと僕でモニター室を探すが、人質を先に見付ければ僕が連れ出すことを優先する。

 イチェリオさんとシリクスラさんのどちらかしか侵入できなかったら僕だけでモニター室を探し、僕が人質を先に見付けたら人質を連れながらモニター室を探すことになる。

 連携させないようにモニター室にいるかもしれない敵を無力化させたいが、もしいなければそこを占拠する。全てが終わったら救出。
 イチェリオさんとシリクスラさん両方が入れた場合で人質を見付けたのが僕でなかったとしても、その救出は優先される。僕がその救出に合流できて連れ出す任務を代わってやればルオセウ人穏健派にとっても都合がいいだろう。でも、それは意図してするのではなく、僕がモニター室を見付ける前に人質と移動中のイチェリオさんかシリクスラさんと偶然合流できた時のみ。モニター室を探す動きが何より優先され、その途中で人質を見付けた時のみ直接救出の動きにシフトする。

 それが人質の救出確率が最も高くなる方法。連携されにくい状況が恐らく生まれるし、船内探索は目的が何であろうとするも同然だからだ。(まあ船に付属している情報管理用の機械で誰にも見られずに地図を見られるなら、そこに到着したイチェリオさんかシリクスラさんだけはそこから少しの時間だけは移動しないことになるけど)

 人質をもし僕が先に見付けて救出できたら、その瞬間は、船の中にはシリクスラさんとイチェリオさんだけが味方として居ることになる。でも、ゲートで部隊を呼べれば戦況は変わる。
 それに、人質を安全な場所に運べれば、僕が中に戻ってもいい。連中が動けなくなるような、もしくは意識を失うような、そういう芯のぶっ放し方をする。それか武器を奪う。そういう戦争になる。

 ……という第一の作戦は、もう実行不可能となっている。これができればどんなによかったか。これだけ作戦を立てていたのに。

 もう一つの場合。第二の作戦――つまり今の状態からの作戦――においては、ここに味方が自分自身しかいない。下手な行動は取れない。
 人質を発見してどうにか脱出させられればとは思うけど、『同じ場所に監禁される』という保証はない。
 今の状況では、僕を連れ歩くこの男を攻撃できない。人質、モニター室、どちらも探したいけど、そのどちらかしか選べないような状況な上、部屋数はかなりありそうに見える。

 一か八かに頼ってこの男を攻撃すると、それを見られていて人質が死ぬ、なんてことになり兼ねない。それだけは駄目だ。

 移動してきた地点が入口付近であればまだ……。まあそんな風に見えなくもないけど……。

 図面を思い出しながら、黙ってついて行く。
 連れられて歩いている最中にモニター室を見付けられないかと、チェックは欠かさない。
 でも、どの部屋も中が見えない。どの壁も、透明な仕切りとかじゃなくて、青い艶々としたもの。扉だけは白いようだけど。

 ――くぅっ……。どこがモニター室かなんて分かんない。どうすれば。このままじゃ僕も人質に加わるだけ。そうなったら最悪だ。

 そう思ってから少し経って、ふと気付いた。

 ん? あの文字。

 壁の上のプレート。そこに刻まれたルオセウのものであろう文字。多分部屋の役割を示している。図面を見ている時にイチェリオさんが指を差した所の文字と同じに見える――僕はその文字の形を覚えていた――。

 あれだ! あそこがモニター室!

 そこへ入るための扉は閉ざされていた。

 そんなモニター室内に人がいるか、もしいるなら何人いるのか、それらをどうにかして確かめたいけど……。

 僕は側頭部がかゆくてく振りをして、耳を隠し、耳を澄ませた。
 意識を集中すると――、耳が、変形した。

 できると分かっていた。かつて巨大な姿になった。、壁登りが得意なヤモリとそうでもなく全体的に黄色いヤモリの特徴が合わさったモノになれた。その当時の変身は恐らく記憶が混ざっていたせい。レオパードゲッコーとトッケイヤモリ。どっちの手の構造がつるつるした壁をも登れるものなのか。それがあやふやになっていたせいだと思ったもんだけど――とにかく。そんな部分ごとの変身ができることは当時から理解していた。

 だったら一部分だけ変化させることもできるのではと、作戦時に話して試していた。そして、耳だけ――ただし聴覚器官ごと――という変身ができるのを確認していたんだ。
 青い耳。
 僕がこれを選んだのにも理由はあった。

 最悪な思い出の中の銃声。女性が死んでしまったあの時の。

 コンクリの廃墟で辺りを見て、どこから銃声が聞こえたのかを確認する時、思い出そうとするだけで、なぜか『こっちから聞こえた』とすぐに分かった。聞こえていたんだ。この耳では聞こえていた――。
 ヤモリの時もそうだったけど、ヤモリは人と違って虫類。ルオセウ人と地球人の体の構造の方が近い。だからそちらを選んだ。

 この耳で、青い小さな細胞の一端で、聴く。
 モニター室に、どうやら人はいる。椅子の音がする。ギシッときしむ音も。
 耳を元に戻すと、僕は、側頭部を痒くて掻いている振りをやめ、耳を隠していたその手を下げた。そして、左手に持つ芯に強くサクラを込めた。

「あんた、なんでこんなことするんだ?」放つ前に問い掛けた。それが肝心。
「理由なんて知った――」
 ところで、と言おうとしただろうけど、その際の振り向きで彼の腹が真横を向いた辺りで、僕は放った。超高速の弾丸。男の腹目掛けて。

 男が悲鳴も上げられずにその場にうずくまる――かもしれないが、それを見送ることもせず、モニター室の開扉スイッチ前まで素早く動いた。
 狙いはそのスイッチ。イチェリオさんから教わっていた――そのマークのスイッチを、素早く押す。開いた扉から中に入りながら、当然、また芯を飛ばした。

「キ――」
 何か聞こえた。振り向いた瞬間の相手の声。恐らく型紙使いの男。その腹部に命中。彼を気絶……させることに……多分成功。

 ホッとしそうになる。
 でも、安心し切るのはまだだ。チンタラするなと自分を叱咤しったして駆け寄った。
 型紙使いの服のポケットなんかを調べようとしたところで、彼の座っていた椅子の前のテーブル部分に一台のスマホが載せられているのを発見した。それを奪う。

 この行動のあいだに、型紙使いが起きることはなかった。これも大きな利点。

 よし!

 ここから誰かに伝わることは、現状、もうない。
 僕はモニター室を素早く出ようとし、扉から顔だけをのぞかせた。
 すると視線の先……さっきの場所では、僕を連れ歩かせていた男が、壁に背を付けて座った状態から、少し身をよじり、立ち上がろうとしていた。そして立とうとしながら、顔を上げてこちらを見ていた――!
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