ブルーピーシーズ

弧川ふき@ひのかみゆみ

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第4章 ケズレルモノ

52 戦力と労力

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 ……! 何だ……!?

 展望台上空に、黒い円柱でできたゲートが出現した。そこから腕が出てきた。ゲート開通とほぼ同時に。そこに待機していて、驚かない訳がなかった。

 そして、見えてから一秒と経たずにゲートだけが消えた。
 すると腕だけがボトリと。落ちた。

 私はとっさにガラスをその落下地点まで操り、地面に触れさせないようにした。これが誰の腕か分からないし、敵の腕だとしても、だから傷口を汚していいということにはならない、常々そういったことを考えてはいたからだった。

 ちょうど私はその方向を見ていたから気付けたけれど、そうじゃない者もいたはず。だから――
「皆さん、誰かの腕がそこに!」
 と、まずは呼び掛けた。

「何ッ? ゲートでか!」イチェリオさんの声。
「ええ!」
 私はルオセウにいる時のように、部下として返事をした。
 駆け寄る中、それが誰の腕かということを私は気にしていた。最悪の可能性もありえたから。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「な、なんで――!」

 苦しみながら男が言う。左腕を押さえつつだ。
 男が左腕を押さえることができたのは、僕が押し付けた黒い枠を、ゲート化解除した状態で既に左肩から引き離していたからだった。

 通路にはまだこいつのサイコロが転がっている。
 引き離したゲート用の枠をそのままこちらから見て左に移動させると、それを再びゲート化させ、通路に転がっているサイコロをそのゲートが『喰う』ようにし、目の前にできた開通先用のゲートからサイコロが半分見えた時点で、解除で切断。

 ついでにモニター室内に転がっているサイコロも同じ要領で切断。

 これで無力化できたはず。
 これらの行為に掛かった時間は、たったの数秒。

「なんで分かったんだ――!」

 男は僕に、苦しそうに問い続けた。



 イチェリオさんと見た写真。自衛隊員が持ってきたあの。証拠というか証明用というか、そういう写真。引きで撮ったり顔を撮ったりと、色々な撮り方で撮られていた。その一枚には傷が写っていた。彼の左の二の腕の部分に。そこ以外に大きな傷はない。
 その傷周辺の筋肉は、微妙……に盛り上がっているように見えなくもなかった。注意して見ないと分からないくらいではあったけど。
 それに。
 廊下からサイコロを放った時の、男の姿勢。なぜか『左の二の腕に』右手をかざすような動きを見せてからその手をこちらに向けた、僕にははっきりとそう見えた。

 腹とあごを攻撃されたのに『そのどちらにも手をやらずに』左の二の腕に右手をやった。それからこちらにその右手を突き出して――。彼はその一連の動作を、その腕を守るためじゃなく、無意識にサクラを込めやすくするために、呼び動作みたいにやってしまったんだろう。僕はそう考えたんだ。



 決断した経緯の話を僕はしなかった。
 何度も問い掛ける男の前まで行くと、僕は目の前で、

「姿勢だよ、無意識に右手を近付けた。それにあんたの写真を撮ってた」

 と。答えたのはそれだけ。
 言いながら傷を見、そしてシャツを脱いだ。それで止血したかった。

 僕がシャツを脱いだ直後、彼は「くそっ」と嘆いた。
 シャツで彼の腕の傷から肩に近い所をきつく縛りながら、僕は言っておこうと思った。

「ここから運び出すから。死にたくないならじっとして」
「治すつもりか!? これを!?」

 彼は左肩を必死に押さえている。僕が縛ったシャツもみるみる赤く……なんてことはよく分からなかった、もともと黒いシャツだから。

 彼の消え入るような翻訳された声が、僕の耳に微かに届く。「な……なんで……」
「こんなやり方になって悪いけど、僕は殺したいって思ってる訳じゃない」

 僕はゲートで展望台前に行けるようにすると、芯で円盤を作り、それに彼を乗せ、連れて行った。
 彼は抵抗しなかった。というより、抵抗できるほどの意識と体力を、既に保ってはいなかった。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 落ちてきた腕へと皆が駆け寄った。しゃがみ込んだイチェリオさんがそれを持ち上げ、入念に確認。
 その際シリクスラさんは、床と化していたガラスをイチェリオさんの腰の高さまで移動させた。

 二の腕の力こぶができる部分の外側寄りの位置に傷。

 シリクスラさんは二枚目を出現させ、その傷の部分にガラスの刃を突き立てた。そこから少しだけ血が出る。
 そして傷を開く。と、シリクスラさんはそこに指を入れ、珍しい形のサイコロを取り出した。十二面の。
 そんな所に武器が。

 ――

 と、私は一人納得した。

 シリクスラさんはそのサイコロを、前方上空へと投げた。そして更に別の一枚を呼び出し、数秒経ってサイコロが落下し始めてすぐという時に、二枚を大きなガラス板にしてそれらで挟んだ。上と下から。この一回の衝撃で、そのサイコロは粉々に砕けた。

 と、そんなところで、再びゲートが。これも黒い円柱を組み合わせたゲート。
 それを通って大樹だいきくんが現れ、叫んだ。

「ゲートをお願いします! 治療できる所に!」
 私はタオルを環状にしてつなげた。支部に。まずは治療エリアの天井付近――。

 その環状ゲートで、組織・隈射目くまいめの滋賀支部へと、男とその腕が運ばれていった。
 彼を、国邑くにむらさんと糸瀬いとせさんが処置する――。

 隈射目滋賀支部の手術室を出た所で、私は再びタオルを巨大化、且つゲート化させた。
 突入しようとして展望台前にいた中で滋賀支部に一旦行った全員が、私のそのゲートで展望台へと戻った。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 希美子きみこさんが戻ってきたその時に、イチェリオさんが言った。
「大樹くん、俺達は行こう、奴らの船に」
 彼は翻訳後の言葉を届けながら、持っていたシャー芯ケースを僕に向かって投げた。

 受け取って、左手にあった芯を入れながら、僕は思った。

 ――そうだよな、僕のゲートがないと、手っ取り早くは行けない……。

 ただ、僕は、ここにいる人達を送り込みたくない。マギュート使いじゃない者もいる。確かに彼らは警察官や自衛隊員だから強いけど。
 でも、僕が通さなくても、やっぱりどうにかして行ってしまうんだろうな――。

 この時、シリクスラさんは妙な機械を持っていた。大きさの割に軽そうなもの。

 ――何だろう。

 そう思ってすぐに答えが出た。多分あれはサイコロ男に対して使ったレントゲンのような検査ができるもの。その話を聞いていなかったらすぐに連想できはしなかったと思う。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 展望台に来る前に、俺は船に一旦戻っていた。クオゾラ検査機を探すためだった。
 見付けはしたが――。

「一つしかない。ということは」

 翻訳機付き医療用マスクとイヤホンを取るのも手間なので取ってはおらず、日本語に変換されていたのが俺の耳にも聞こえた。
 全部で二つあるはずだった。つまりこれは予備。恐らくマサカという名の駐屯地にもう一つが。そちらはヴェレンがサイコロの男を検査したあとのままになっているのだろう。

 そこへチョークのゲートで移動し、念のため一度使った方を回収し、戻ってきていた。

 俺は責任を持って人質救助に専念しようと考えていた。だから――無力化できたか敵の体内を確認する行為については、任せることにした。それをシリクスラに持たせていたのは、そういう理由からだった。
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