ブルーピーシーズ

弧川ふき@ひのかみゆみ

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第4章 ケズレルモノ

55-3 行き先である星への備え

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 床にも壁にも、透明な浴槽のようなモノが四つずつある。その一つの中に僕はいた。
 そして僕がいたモノの中にあった液体が引いていった。誰かがスイッチでも押したんだろう、なるように。

「点滴の管を取れ」

 言われた通りに取ると、一部の壁が開き、チューブが壁の中の何やら装置に巻き取られていくように吸い込まれ、そして蓋をされた。
『浴槽』内の液体が完全になくなったあとで、また声が。

梯子はしごを登ってドアの前へ行け」

 多分さっきから出ている指示は、全部、型紙の男によるもの。彼の声に聞こえた。
 しかもこちらの視点をよく考えての指示に聞こえた。どこかで見てるのか。
 怒らせても意味はない。思って言われた通りに梯子を登る。

 ドアの前まで――というよりドアの下まで登ったという形になった。そのタイミングで、ドアの横の三列四行のボタンの上部にある小さな細い赤のランプが緑色に勝手に変わった。
 直後、ドアがスライドして開いた。

 目の前に広がった景色を見て、目を疑った。ドアの向こうの通路が、まるで電車の中から見る風景みたいに横に動いているように見えるからだ、実際そうなのか?

 いや、この部屋が動いていると考えた方がなんとなく納得できる――と、そこまで考えてから気付いた。そうか、これ、この部屋というか、一番外側の層みたいなのが丸ごと回ってるんだ。遠心力か。それで重力があるように感じて……。だから液体のあり方や引き方もあんな風だったのか。

 謎が解けたタイミングで、また指示が。
「よし、今出ろ、今すぐにだ」
 今すぐじゃないと駄目? と考えて思ったのは、『そうか出る場所を指定したいのか』ということだった。あながち間違いじゃなさそうだ。
 この程度のことなら指示に背くことに意味もなさそうだと思い、出てみた。

 すると体が浮いた。そして上下の感覚が分からなくなった気がした。潜入した時の外周通路の床がまるで壁に。
 浮遊感はあるが、慣れれば違和感はなくなりそうだ。そんな完全な無重力。
 少し動いた所で、また型紙の男の声が。
「そこから動くな」

 これには少しくらい背いてみるか?

 そう思って辺りを見た。
 一方の通路の先は鉄格子で塞がれていて、その先にはどうやら行けそうにない。

 逆の方へ行ってみたけど、そちらも鉄格子で封鎖されていた。
 一旦戻り、その地点から中央への通路を進んでみる。だけど、そこにも鉄格子。
 どう行っても、その通路が塞がれていると知るだけだった。

 なるほどと思ったところで型紙の男が現れた。鉄格子の向こうに、だ。
 彼はなぜかガスマスクらしき物を装着している。その中から声が――

「とりあえずそこでいい。一歩も動くなよ」

 彼の手には、ダンベルを持つ時のような握り方で持って放つ銃のようなものがあった。それがこちらに向けられた。
 一瞬後、彼の手の握りが強くなったような、そんな動きが目立った。するとガスが噴射された。

 いったい何のガスを――!

 息をしないようにしながら咄嗟とっさに鉄格子を蹴った。奥に一気に浮遊移動する。

 よし、逃げられたんじゃ――。

 そんな僕をすぐに眠気が襲った。
 同時に目がヒリヒリした。熱くなったとも言える。

 まさか目に当たっても駄目だったのか? 逃れられなかった……?

 意外に早く、僕の目蓋まぶたは……。



 次に目を開けた時は布団に寝ていた。床に敷くタイプ。
 ある時またスピーカーから聞こえた。

「その部屋はお前だけのものだ。自由にしていい。ただしその部屋からは出られない。食事を出してもらいたければ大人しくしておけ」

 この部屋には重力があるようだった。また外周の部屋か? 点滴をされていた部屋の側からあの通路の光景が見えたんだ、やっぱりリング状に連なった部屋なんだろう、そして梯子はしごを登るようにして出る構造。
 そして回っている。
 今いる部屋みたいにそんな部屋が複数ありそうだ。重力があるから布団も床に敷かれているのか、固定具もなく。やっぱり遠心力でそうなってるんだ。

 ――奴らはこちらに話し掛けてくるけど、僕からはできないのかな。

 マイクでもないかと――探したらそれっぽいものが出入口への梯子はしご付近の壁にあるのを発見したけど、何度話し掛けても返事はなかった。
 ただ、今一度と、最後と思って試した時だけは違った。

「無駄だ、お前から通話を開始することはできないようにしてある」

 その場に罵りたくなる。
 それからは飲食物を一定時間ごとに出された。洋館で見たタイプの直方体の大きな固形。
 あの時は白色のものも見たが、この船内で僕の目の前に現れる携帯食は青緑色のもののみだった。
 しかも一回の食事量もそこまで多くはない。

 もしや白い方は鉄分メインの携帯食? ずっと青緑の携帯食とパッキングされた水だけだった。
 奴らはきっと僕にサクラの回復をさせたくないんだろう。食事の制限理由と言ったらそのぐらいしか思い付かない。

 サクラの補充をさせまいとしているなら、イチェリオさん達がしていたような鉄分吸収効率のいい状態への変身をするだけ無駄だ、労力の方が大きい。……変身の練習もできそうにない。というか警戒させるのもよくない、か。

 ……何か手があれば。

 そう思ってから、本来の姿のままでそれらを食べることにした。

 まあ、飲食には困らなかった。奴らが食事を出さずに僕に嫌がらせるするかもしれない、そう思った時もあったが、ほぼそんなことはなかった。
 ただ、食事によるサクラの回復ができないと思えても、もし変身せざるを得ない時が来たら――と考えた時、とんでもないことに気付いた。――あの姿ではまともにしゃべれない、日本語ですら。

 喋る練習をすべき?
 いや、星についたあとでルオセウ人の姿になりさえしなければいい? 翻訳されることを考えれば……。
 でも、あの姿にならざるを得ない状況になってしまったら……?

 そう考えたからこそ――
 奴らが寝静まった頃に変身し、喋る練習をひっそりとやった。短時間の練習を終えたら元の姿に戻り、寝て何事もなかったかのように振る舞う。

 ひっそりとやるのは――そうやってバレずにいればそれだけ何かで裏をけそうだからだ。
 鉄の吸収をしてしまわないように注意したりもした。船を壊してしまわないようにと。
 だからこそサクラの回復方法は実質皆無。いつサクラが底を突くかと考えると、喋る練習の期間は、どうしても短くなりそうだった……。
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