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第1章 始まりの受難
05 力の理由と解説
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第一給湯室。
地下六階にある部屋だ、この施設に入って階段を一つ降りた先の。
その給湯室の前まで戻ってきてから、檀野さんに聞いてみた。
「そう言えば、ルールとかあるんですか? ここだけのルールとか」
「いや、特には。ああ、でも、誰にも話さないでってことは確かにルールだけどね」
まあそれは簡単なルールだろ、と言いそうな感じで檀野さんは笑った。
そしてまた。
「というか、ルールはあってないようなもんだよ」
それでいいの?
なんて思いながら何となくうなずく。でも多分信頼してくれているからだろう、今の言葉は。だったら僕は、それに応えられる態度でいたいな。
第一給湯室に入ると、ソファーに座っている老人の姿が目に映った。あれ? どこかで見たような。
その老人が僕らに。「やあ、遅かったね」
「案内をしていたものですから」
檀野さんが彼にそう言った。その次は僕に。「さあ、そこに座って」
言われた通りに――老人の対面に――座った。檀野さんもその横に。
すると老人が話し出した。
「私ぁ君と同じでね、とても強い不思議なパワーを宿している」
パワーを強調したお爺さん口調、なんか妙に可愛い。
そう思ってから聞き入ろうとした。
そこでピンときた。
「そうか、『表示されるのはもう一人いて、縮尺がどうの』って言ってた」
すると、檀野さんが答え合わせを。
「そう、彼はそのもう一人だ。あの時出し抜かれたと言ったが――、ほら、君の友達に嘘を言っただろ?」
「ええ」
「出し抜かれたのは本当なんだ。反応機の表示に先にあいつらが気付いて、この機会を逃すまいと思ったんだろう、あいつらはその表示を、そっくりな色と模様を印刷したシールで巧みに隠してたんだ」
ということは――と、僕は人さらい達の行動を想像した。
「表示が増える場合を想定して準備してたのか」
「そういうこと」
と檀野さんが肯いた。
「そうか、それで僕の場所を特定できたのは、本当は、この人をヘリに乗せて――、そっか、どこかで見たと思ってた、ヘリで見たんだ」
檀野さんはまた首を縦に。そして。「反応機の映像を受け取って、表示が重なる位置まで飛んでたんだよ、あの時はね」そう解説したあと、立ち上がりながら。「じゃあ一族のことを教えてあげてください。俺はこの子のための認証用カードを作ってきますので」
言い切ってしまうと、檀野さんは部屋を出ていってしまった。
僕は一人、ご老人としっかり向き合い、その目や手を見詰めた。
「さて、何から話すかねえ」
ご老人がそう言った。
見た感じ、元気な七十代後半――だと思う。
「佐倉守さん、ですよね?」
「ああそうだよ、佐倉守。私ぁ佐倉守イナマサ、居住の『居』に、与那国の『那』、正しいの『正』と書いて、居那正」
「……居那正さん。僕の中にあるサクラっていうエネルギーだとか、マギウトっていう技法――魔法みたいな――、ああいうのは一体、その……どうして誕生したんですか? その……、佐倉守家と、要因は同じなんでしょうか」
言ってて不安になった。自分のルーツがよく分からない、そう言ってるんだ、僕は。それに、言い方もこれで合ってるワケじゃないかもしれない。この力の誕生については、分からないかも。
もし血筋が関係ないなら、佐倉守の初代と僕は同じことが理由で? まあこの力の『起こり』が初代でのことなのかすらも微妙だけど。突発的な何かが僕に? それとも……?
もし血筋が関係あるなら――。
考える僕に、居那正さんは言った。
「君の力の原因と、私達の力の原因、か。一緒かどうかは、分かってないとしか言えないねえ。しょうがないから、順序立てて、うちに伝わってることだけを話すよ、いいかい?」
「はい」
「実はね、うちの祖先――、初代の親の一人が、宇宙人らしいんだよね」
――度肝を抜かれた。可能性としては実は考えていた。考えていたのに、言葉にされるとこんなにも違和感というか、衝撃が大きいなんて。あまりにも現実離れした言葉を経験豊かそうな老人が口にしたからかな。
居那正さんは続けた。
「古い書物にあったんだけどね、世を羽で流れることに於ける、という字で、流於世羽と読ませるらしい文面があったんだよ。『人』をあとに付けた『流於世羽人』という表記もある。ほかに、平仮名の表記がある書もあってね。これらは全部、一族だけで隠し読まれてきた異星望郷日記という古書に書かれてるんだ」
居那正さんの隣にはバッグがある。
彼はその中から一冊の古書らしきものを出した。表紙と各ページが一枚一枚、丁寧にファイリングされたもの。
居那正さんはそれをテーブルにそっと置いた。
「に、日記……。つまり、その……ルオセウ人っていうのが、日本の古語で、ですか?」
「そう、当時の日本の言葉を理解したんだ、あとはその時代の字を学んで書くだけ。それができるかどうかはルオセウ人の能力にもよるが、ま、できた証拠がこれ、ということだね、学んで書けるようになったこともこれには書かれていた」
「そ、そ、それで……、え? 何が原因で力が……。宇宙船に何かあった、とかですか? 事故とか?」
「うん、それだけどね――。子供ができたんだよ」
「子供が……?」
「遺伝でってことさ、この力はね」
「――! え……えと、人間と、その……、できたってことですか? 宇宙人は僕らみたいな、に、人間っぽかったんですか!?」
「まあシルエットは近いし、構造は似てたみたいだよ。まあ幾つか違いはあったらしいけどね。ちょうど、この書には筆で描いたような絵もあって、それが『ルオセウ人の元の姿に違いない』って話でね。幾つか違いはあった、と言ったけど、一番の違いは手足に甲羅のようなものがあること。首は長いが、それを支える首から肩に掛けての筋肉が物凄く発達している、ま、今もそうかは分からないけどね。目は私達に似ているけど、ギョロっとした感じが強い。私達のように白目部分も普段から見えるし、上下左右に動かせもする。瞳孔は黒、これは目に入った光が外に出にくいからで、当然の原理だね。虹彩は……分かるかい? 虹彩」
「はい分かります、瞳の周りの、人によって違う色の部分のことですよね」
「うん。彼らの虹彩は、そこが基本、緑色らしい」
居那正さんは部位ごとにジェスチャーを交えながら、たまに古書のページをめくりながら話した。
そしてジェスチャーはやめてもページをめくるのだけは適宜し、話し続ける。
「背の高さは二メーターくらいで、体毛は少ない、あるのは髪の毛くらい。肌の色も薄青い、『色如薄藍』と書かれているんだよ、絵に添える形でね」
一旦、深呼吸が挟まれたが、また。
「口は前に突き出ていて、鼻はその口先と眉間の間の大分前の方にちょこんとある、平たい感じでね。そこだけ考えるとちょっと蛙に似ているような印象を受けるよ。――これがその絵」
書の中の問題の絵の所が開かれ、目に入る。
「ほあえぇ……」
つい、変な声が出た。
地下六階にある部屋だ、この施設に入って階段を一つ降りた先の。
その給湯室の前まで戻ってきてから、檀野さんに聞いてみた。
「そう言えば、ルールとかあるんですか? ここだけのルールとか」
「いや、特には。ああ、でも、誰にも話さないでってことは確かにルールだけどね」
まあそれは簡単なルールだろ、と言いそうな感じで檀野さんは笑った。
そしてまた。
「というか、ルールはあってないようなもんだよ」
それでいいの?
なんて思いながら何となくうなずく。でも多分信頼してくれているからだろう、今の言葉は。だったら僕は、それに応えられる態度でいたいな。
第一給湯室に入ると、ソファーに座っている老人の姿が目に映った。あれ? どこかで見たような。
その老人が僕らに。「やあ、遅かったね」
「案内をしていたものですから」
檀野さんが彼にそう言った。その次は僕に。「さあ、そこに座って」
言われた通りに――老人の対面に――座った。檀野さんもその横に。
すると老人が話し出した。
「私ぁ君と同じでね、とても強い不思議なパワーを宿している」
パワーを強調したお爺さん口調、なんか妙に可愛い。
そう思ってから聞き入ろうとした。
そこでピンときた。
「そうか、『表示されるのはもう一人いて、縮尺がどうの』って言ってた」
すると、檀野さんが答え合わせを。
「そう、彼はそのもう一人だ。あの時出し抜かれたと言ったが――、ほら、君の友達に嘘を言っただろ?」
「ええ」
「出し抜かれたのは本当なんだ。反応機の表示に先にあいつらが気付いて、この機会を逃すまいと思ったんだろう、あいつらはその表示を、そっくりな色と模様を印刷したシールで巧みに隠してたんだ」
ということは――と、僕は人さらい達の行動を想像した。
「表示が増える場合を想定して準備してたのか」
「そういうこと」
と檀野さんが肯いた。
「そうか、それで僕の場所を特定できたのは、本当は、この人をヘリに乗せて――、そっか、どこかで見たと思ってた、ヘリで見たんだ」
檀野さんはまた首を縦に。そして。「反応機の映像を受け取って、表示が重なる位置まで飛んでたんだよ、あの時はね」そう解説したあと、立ち上がりながら。「じゃあ一族のことを教えてあげてください。俺はこの子のための認証用カードを作ってきますので」
言い切ってしまうと、檀野さんは部屋を出ていってしまった。
僕は一人、ご老人としっかり向き合い、その目や手を見詰めた。
「さて、何から話すかねえ」
ご老人がそう言った。
見た感じ、元気な七十代後半――だと思う。
「佐倉守さん、ですよね?」
「ああそうだよ、佐倉守。私ぁ佐倉守イナマサ、居住の『居』に、与那国の『那』、正しいの『正』と書いて、居那正」
「……居那正さん。僕の中にあるサクラっていうエネルギーだとか、マギウトっていう技法――魔法みたいな――、ああいうのは一体、その……どうして誕生したんですか? その……、佐倉守家と、要因は同じなんでしょうか」
言ってて不安になった。自分のルーツがよく分からない、そう言ってるんだ、僕は。それに、言い方もこれで合ってるワケじゃないかもしれない。この力の誕生については、分からないかも。
もし血筋が関係ないなら、佐倉守の初代と僕は同じことが理由で? まあこの力の『起こり』が初代でのことなのかすらも微妙だけど。突発的な何かが僕に? それとも……?
もし血筋が関係あるなら――。
考える僕に、居那正さんは言った。
「君の力の原因と、私達の力の原因、か。一緒かどうかは、分かってないとしか言えないねえ。しょうがないから、順序立てて、うちに伝わってることだけを話すよ、いいかい?」
「はい」
「実はね、うちの祖先――、初代の親の一人が、宇宙人らしいんだよね」
――度肝を抜かれた。可能性としては実は考えていた。考えていたのに、言葉にされるとこんなにも違和感というか、衝撃が大きいなんて。あまりにも現実離れした言葉を経験豊かそうな老人が口にしたからかな。
居那正さんは続けた。
「古い書物にあったんだけどね、世を羽で流れることに於ける、という字で、流於世羽と読ませるらしい文面があったんだよ。『人』をあとに付けた『流於世羽人』という表記もある。ほかに、平仮名の表記がある書もあってね。これらは全部、一族だけで隠し読まれてきた異星望郷日記という古書に書かれてるんだ」
居那正さんの隣にはバッグがある。
彼はその中から一冊の古書らしきものを出した。表紙と各ページが一枚一枚、丁寧にファイリングされたもの。
居那正さんはそれをテーブルにそっと置いた。
「に、日記……。つまり、その……ルオセウ人っていうのが、日本の古語で、ですか?」
「そう、当時の日本の言葉を理解したんだ、あとはその時代の字を学んで書くだけ。それができるかどうかはルオセウ人の能力にもよるが、ま、できた証拠がこれ、ということだね、学んで書けるようになったこともこれには書かれていた」
「そ、そ、それで……、え? 何が原因で力が……。宇宙船に何かあった、とかですか? 事故とか?」
「うん、それだけどね――。子供ができたんだよ」
「子供が……?」
「遺伝でってことさ、この力はね」
「――! え……えと、人間と、その……、できたってことですか? 宇宙人は僕らみたいな、に、人間っぽかったんですか!?」
「まあシルエットは近いし、構造は似てたみたいだよ。まあ幾つか違いはあったらしいけどね。ちょうど、この書には筆で描いたような絵もあって、それが『ルオセウ人の元の姿に違いない』って話でね。幾つか違いはあった、と言ったけど、一番の違いは手足に甲羅のようなものがあること。首は長いが、それを支える首から肩に掛けての筋肉が物凄く発達している、ま、今もそうかは分からないけどね。目は私達に似ているけど、ギョロっとした感じが強い。私達のように白目部分も普段から見えるし、上下左右に動かせもする。瞳孔は黒、これは目に入った光が外に出にくいからで、当然の原理だね。虹彩は……分かるかい? 虹彩」
「はい分かります、瞳の周りの、人によって違う色の部分のことですよね」
「うん。彼らの虹彩は、そこが基本、緑色らしい」
居那正さんは部位ごとにジェスチャーを交えながら、たまに古書のページをめくりながら話した。
そしてジェスチャーはやめてもページをめくるのだけは適宜し、話し続ける。
「背の高さは二メーターくらいで、体毛は少ない、あるのは髪の毛くらい。肌の色も薄青い、『色如薄藍』と書かれているんだよ、絵に添える形でね」
一旦、深呼吸が挟まれたが、また。
「口は前に突き出ていて、鼻はその口先と眉間の間の大分前の方にちょこんとある、平たい感じでね。そこだけ考えるとちょっと蛙に似ているような印象を受けるよ。――これがその絵」
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