ブルーピーシーズ

弧川ふき@ひのかみゆみ

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第2章 X

17 血の繋がり

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 ある日の夕方、グミのお菓子をコンビニで買った。グミは大好物。それを持ってコンビニから帰ってきた時、リビングから流れるテレビの音声が気になった。理由はニュースキャスターの声だ。

華賀峰かがみね貫次かんじさんの兄に取材した所――」

 あの話だった。
 僕をさらったあの男にお兄さんがいたのか。
 そう思ってテレビに近付き、立ったまま見やる。
 VTRもあった。華賀峰貫次の兄というテロップ付きで、顔にはモザイク。プライバシー保護をされた声でVTRの中の兄が言う。
「早く解決してほしいというか、見付けてほしいですよ。会社のみんなも心配してますし、兄としてだって心配してます。どうなってるのかがまず本当に心配で……。ただの事故なんてこともあるかもしれません、そりゃあ……言い切れはしませんけど。だからこそとにかく心配なんです。こんなこと今まで無かったので……」

 僕はそれを聞くなり部屋へ直行。スマホで檀野だんのさんに掛けた。でもつながらなかった。じゃあ、右柳うりゅうさんに掛けてみるか。

「どうした?」

 こっちは繋がった。ほっ。

「あの。ニュースで見たんです。華賀峰かがみね貫次かんじにお兄さんがいたって。あの人、事件のこと知らないみたいでしたけど……」
「ああ、そうだな、彼は何も知らないよ。こちらとしても話せない。警察が調査するも見付からず、七年後、死亡したとみなされる、それを待つだけだ」
「そんなの悲し過ぎでしょ……。いいんですか、話さなくて。弟がどんなだったか、そりゃ、知らない方がいいかもしれないけど、でも――」
「そいつがマギウト使いだったら、話しておいた方がよさげなんだがな、そういう素振りすら見せないんだ、ただのいい奴だろう、ま、弟の本性には気付けなかったことになるが、そんなこともある。親身に心配してる感もあるしな、だから、余計に辛いが、話さない、そういう処置にならざるを得ない」
「そうですか……」

 心底、可哀想だと思った。弟があんな人で。なのに、事件やマギウトのことを知らずに、心配し続ける毎日を過ごすだなんて。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

佐倉守さくらもり家の家系図の中で、途切れた部分、除名された人物、そういった、今回の事件と繋がりそうな部分はないものかと思いまして」
 私は年寄り同士気が合うと思い、自ら出向きました。
 白髪同士で話し合います。
 玄関の所で「こちらです」と言ったのは居那正いなまささん本人でした。

 佐倉守さくらもり家の倉の中から書物を引っ張り出すのを手伝い、家系図や葉書、封筒、文書を調べました。部下には役所も活用させましてね。

 これらの調査は、もしかしたら、大樹だいきくんの出自の問題に答えを出せるものになるかもしれない。大樹くんは未だに親に『自分は本当の子か』なんて聞けていないようです……。まあ、聞けていてもこんなアプローチは必要になっていた訳ですが。
 さて、何が分かるか、それとも分からないのか――。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 数日間は平穏な日々が続いた。夜のマギウトの練習時間を短縮して、一気にやって、早く寝ることにした。

 朝はその分早く起きると、弁当作りと格闘だ。
 出汁巻き卵とチャーハン系、ガーリックライス等は得意だ、サラダもだ、特にポテトサラダ。
 ――というか、やっぱりレシピ通りにやるのが覚えるのに最も効率いいし、馴染みがあったり好みだったりする料理は特に覚えやすい。
 こんなにスムーズにできたのは、お母さんを手伝ったり、特にお父さんを手伝ったりしたことがあったおかげだと思う。
 でもそれだけじゃなくて、そもそも『楽しいことって大事なんだな』ってしみじみ思った。楽しければゼロからでも何でもできるんじゃないか、僕が料理を始めた最初の頃だって、そんな感じだったかもな、なんて思う。

 昼は、そうやって作ったお弁当を、実千夏みちかの作ったお弁当と交換して食べた。レンコン入りのミニハンバーグがシャキシャキしておいしくて『これが実千夏の味か』と思うと新鮮! 楽しかったぁ。

 僕の弁当も喜んでもらえた。
 お互いの嬉しそうな反応は、僕らの人生にとってスパイスになったってことだと思う、これが恋愛の味? 幸福の味とも言えるよね。なんだかくすぐったくなっちゃう。
 授業の話や趣味の話もした。
 互いにいいところだけじゃなく悪いところの指摘をすることもあった。それでも、そうか、って受け入れられることが続いたから――きっとそれは互いに改められるレベルのことだし――何の不満もなく、確かに幸せな時間を過ごせてる、そんな実感につながった。

 帰る時も、二人でいたからか満ち足りた気分になる。話も弾む――。

 僕は覚悟した。
 彼女を守る。いつもだ。いつも守りたい。
 もし力が必要な時がきたとしても、そんな時もきっと守ってみせる。それを心に誓って言葉にはしなかった。それは、このことを言わないけど態度で示してはいるもりだからでもあるし、言ってめられることを求めてはいないからでもあった。

 ぼかして言うことはできたかもしれないけど、それでも言わない。やっぱり、なんだか見返りを求めているみたいに見えてしまう気がして……。

 ただ、僕は守りたいだけ。気持ちは本物中の本物。
 僕の手が届かないような状況もありうる。そんな状況でも実千夏を危険から遠ざけておくためには、組織・隈射目くまいめの協力も必要かもしれない。実千夏だけでなく、家族全員のことも……。


 ある日の夜、調理中のお母さんに言った。「コンビニ行ってくる」
「すぐ帰りなさいよ~」お母さんは味見なんかをしながらそんな返事をした。
「はぁい」
 コンビニにっていうのは嘘だ。マンション前の池のそばにあるベンチ、そこに座った。
 周りを警戒し、ポケットからスマホを取り出す。それで電話を掛ける。右柳うりゅうさんに。
「もしもし」
「ほっ、よかった、今話せます?」
「大丈夫だけど、どうした?」
「あの……申し訳ないんですけど、実千夏みちかに……僕の恋人に護衛を付けてほしいんです、僕がよく接するから、狙われたら巻き込まれるかもしれないから。そんなことを防ぐために。それに、僕の家族にも」
「――分かった、話を通しておく」


「よっ」
 数日後の学校からの帰り道で、いつかのようにまた檀野だんのさんに呼び止められた。
 ただ、今回は彼一人じゃない。
「こんばんは。あの……護衛の話ですか? それとも……? 何か別件ですか?」
 僕はそう言ってから、檀野さんの隣に目を向けた。
 そこには七十代くらいの男性の姿が。白髪で細身だけど健康そうで、姿勢はシュッとしている、ダンディな人。

 この人は? って僕が檀野さんに聞く前に、彼自身が言い始めた。
「話に入る前にまず挨拶あいさつを。私は嘉納かのう丑寅うしとらと申します」
 名刺を渡されて、どう書くのかを覚えた。
 この丑寅でロゴを描きたくなっちゃうな――なんて思いつつ、
「初めまして」
 って僕が言うと、嘉納さんも。
「ええ、初めまして」
 それからすぐに話さずに、やっぱりまた、ここでは何だからと別の場所へ。

 前とは少し違うパーキングエリアに連れてこられて、車に乗る。
 僕は後部座席。その隣に嘉納かのうさん、前の席に檀野だんのさん。それらの位置に座って数秒後、嘉納さんが話し始めた。

「実はこのあいだの、華賀峰かがみねグループ・カガミネ電機の元社長、貫次かんじ氏がなぜマギウトを使えたのか、その理由を探るべく佐倉守さくらもりの家系を調べてみたのですがね。百二十年くらい前に、佐倉守家の内部で言い争いの末『鷹継たかつぐ』という男が家を捨てて出たらしいのです。華賀峰家の家系と照らし合わせましたが、『鷹継たかつぐ』の名は出てきませんでした、ですが、華賀峰かがみね家の何代も前の会長が鷹継たかつぐという男を招き入れ護衛としてそばに置いていたらしいのです。これは諜報任務に長けたうちの調査員の確かな情報です。かつて華賀峰家で務めていた元執事の家を雇用名簿から探り当て、うちの諜報員が直に話を聞き、資料を預かっている家があったのでそこで調べ、家系図ではなく極秘資料としての文書の中から――」

「詳しいことは分かりませんけど、それはつまり、その、鷹継たかつぐって人を気に入って、華賀峰かがみね家の女性との間に?」
「そういうことでしょう。ですがそれは隠された。そしてそれからは、ルオセウの血がその家系にも流れ始めてしまった」
 そうか……。
 僕がうなずいて納得を示したところで、嘉納かのうさんがまた。
大樹だいきくんのお父様は孤児だとか」
「え、ええ」
 僕がうなずくと、嘉納さんは言った。
「もしかしたらその華賀峰家の誰かが、外に愛人を作ったのかもしれません。もし血が外にれていれば、そこから藤宮泉蔵ふじみやせんぞう氏とつながる――環境が環境ゆえに、だからこそ孤児になるような――何か辛い出来事があったのかもしれません、まだ推測ですが」

 ありうる気がした。
 華賀峰かがみね家に血が混じってからすぐの頃は、『鷹継たかつぐ』本人か、『鷹継たかつぐ』に気があった女性によって、目立たないように、能力の素養をバラまかないようにと抑制が利いていたかもしれない。でも、彼らは――少なくともその子孫の貫次かんじという人物は――マギウトのマの字も知らない、そんな風に感じた。
 多分、マギウトについての知識を伝え損ねた代がある? 能力に目覚めることを信じない者でもいたのか? 目覚めない代が続いた? それで伝え損ねた?……伝えるべき情報を、『鷹継たかつぐ』に気があった女性は、もしかしたら『鷹継たかつぐ』から教わらなかった可能性もある。それでそもそも知らなかった?
 とにかく――
 どんな風にかは分からないけど、伝え損ねた代がある、それだけは確かっぽい。
 だからこそ、マギウトについて知らないせいで、羽目を外して血をバラまくようなことがあったのかも……?

 色々と知って、なぜか、心臓がドクドクと、速く脈打った。
 それからハッとした。
 谷地越やちごえ愛理紗ありささん――彼女はどうなんだ? あの人の家系にも、もしかしたら華賀峰かがみね家の誰かから血を分けた人がいたのかも。

「まあ、今回わかったのはこんなところです」
 嘉納かのうさんがそう言ったあとすぐ、檀野だんのさんが。「今日はこれだけだ、気を付けて帰れよ」
 言葉を取られたような顔をしてから、嘉納かのうさんが僕に、「お気を付けて」と朗らかに言った。
「わざわざありがとうございました、では」
 僕はそう言ってから車を降りた。
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