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第3章 隠し事
26-2 嫌な繋がりといい繋がり
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佐倉守家の船を見てから更に数日後。
お姉ちゃんと一緒にマギウト練習場にいる。
当然、僕はシャー芯の入ったケースを持ってるけど、お姉ちゃんは泡立て器を持ってきてる。
最初は、え? それなの? っていう感が強くあったけど、自分もシャー芯のケースだしね。似たようなもんだね。
「これを念じて動かして、手を使わないでクリームを混ぜたりするのが得意なのよね」本人は語る。「実際手応えって大事なんだけど、私はこっちで慣れちゃった」
お姉ちゃんはケーキ作りなんかをよくしている。
僕らが見ていない時だけはマギウトを使ってた? そんな所か。
練習もまあまあ済んだかな、という時、右柳さんから声が掛かった。
「大樹くん、理美ちゃん、ちょっと」
お姉ちゃんと一緒に右柳さんに連れられ、同じ階にある談話室に入って、そこで腰掛けた。
右柳さんも座って、それから話が始まった。
「DNAの件だが……君らの父親、泉蔵さんのDNAと、華賀峰繊一と貫次の父親、華賀峰厚亮のDNAとで比べてみた、結果は、五十パーセント一致した」
「てことは」
と、僕が促すと、右柳さんが、
「華賀峰繊一や貫次は、血筋で言えば君らの叔父ということになるな」
って。
「うげ」とお姉ちゃんが言った。
気持ちは痛いほど分かる。あんな人達だったもんね。
「血液型も見たが、確実に受け継いでる」
そう言われて気になる。「えっと、佐倉守家と華賀峰家の繋がりには、こんな風に確証は出てるんですか?」
「いや、そっちはない。だが、物的証拠って奴だな、それしかない、その推察についてはもう知ってたんじゃないのか?」
「まあ、そういう話はしましたけど」これは僕の返事。
もし血が繋がっているとしたら、僕と居那正さんの間には、ほかに何の違いがあるんだろう。そこだけはよく分からない。居那正さんも僕以外とは違うけど、僕と居那正さんの違いはそれよりも大きな違いだ。突然変異? それで片付けていいのかなぁ……。
「何か気になるのか?」
右柳さんの不思議がっているらしい顔を見て、まるで「気にしなくていいんじゃ?」って言われてる気分になった。
確かにそうだ。どうだっていい。僕は僕だ。そういう思いが強くなる。
そうだ、それでいい。もう何も、これに関する嫌なことに巻き込まれないなら、分からなくてもいいんだ。そうだ、どうだっていいかもしれない。今までやってこれたし、僕が生きてるうちに解けない謎かもしれないしね。
夏休み明けのある日。最初の体育の授業のためにシャツを着替えるという時に、要太が言った。
「お、おい、何だよそれ」
僕の傷を見てのことだ。
聞かれるだろうからどう話そうかと随分前から考えてた。それを言う。
「実は、夏休み中にちょっとした事故があってさ」
とりあえず切り出し方はこれでいい。
「ちょっとしたって、これ……そういう傷か?」要太は疑って上半身裸の僕の傷を見てる。
決意は鈍らなかった。僕は隠し通す。
「まあ無事だったし。長い人生が終わんなきゃ何でもちょっとしたもんでしょ」
すると、勉強会なんかも一緒だった翔っていう名前の友達が。
「いやいやいや、そういうことじゃねえだろ、全然ちげえ。命は一個よ? キミ、分かってる?」
翔は冗談めかして、覗き込むように僕を見た。
「あー、まあ……、そうだね、確かに。大変なことだけど、ほら、大丈夫。ホント、生きててよかった! へへ」
僕が笑うと、この傷を見ていた四、五人の友人は、もうそのことに触れなくなった。
翔だけは少し触れた。
「お前って案外図太いんだな。それにあんまり自分のこと話さねえし。ちったあ話せよ」
まあそれもそうだよね、夏休み中にも話さなかった訳だし。
僕の返事を聞く前に、翔は「痛そう~」と続けた。マイペースだ。
とりあえず返事。「うん、できるだけそうするよ。……ありがと、翔」
「ん、お、おう。んなマジに返事すんなよ、照れるだろ、要らねえんだよそんなん」
「はは」
と笑い合ったあと、別の友人に言われる。「どんな事故だったの」
それにはこう答えた。「ああ、バイクが窓に衝突してさ。それで近くにいた僕の方にガラスが」
「ううぇえっ、それでかよ」「それでこれなら勢いやばそう」「めちゃ痛そうじゃん」などと、友人達は言う。
どうやら納得できたらしい。
そして段々と他愛のない話に移行していった。
更衣室からみんなが出ていって運動場に向かう、その途中で、要太が僕の肩をつついた。
振り向いて問う。「ん? 何?」
要太はしばらく無言だった。みんなとの距離が開いてから、僕にだけ聞こえる声で、要太が。「お前、何か隠してないか」
言う訳にいかない。これ以上知らせて関わらせるようなことは……。
ただ、万が一なんてもうないかもしれない。言っていいような気がしないでもない。
一瞬だけ迷った。
でも、結局言えないと思った。だってあんな事があったんだから。
「んん? 要太に?」
何も隠し事がない、見当が付かない、そういう振りをした。
「俺にだけじゃない。前にも……あ、そうだ、柔道で妙な気迫を見せただろ、あれ、何だったんだよ。その傷と関係してんじゃないのか。本当に事故か?」
「事故だってば。でも、あんまり詮索しないでよ、示談で済んでるから相手に悪いし。ほら、遅れるよ」
みんなの方を指で示して急かす。
僕が走り出すと、要太も走ってついて来た。
そんな要太がまた。「まあ、本当に何もないならいいんだよ。ごめん、色々言って」
「いや、いいよ別に。本当に何かあったら、その時は要太のおかげで助かるかもしれない訳じゃん? そういうのはありがたいからね」
「……そか」
運動場へ向かう列の最後尾に、僕と要太はいる。前にいるみんなを追い駆けるこの日常の中にいられることが、僕の幸福、そう思えた。
もう、妙なことはきっとない。そうだ、きっとないんだよ。幸せだ。
お姉ちゃんと一緒にマギウト練習場にいる。
当然、僕はシャー芯の入ったケースを持ってるけど、お姉ちゃんは泡立て器を持ってきてる。
最初は、え? それなの? っていう感が強くあったけど、自分もシャー芯のケースだしね。似たようなもんだね。
「これを念じて動かして、手を使わないでクリームを混ぜたりするのが得意なのよね」本人は語る。「実際手応えって大事なんだけど、私はこっちで慣れちゃった」
お姉ちゃんはケーキ作りなんかをよくしている。
僕らが見ていない時だけはマギウトを使ってた? そんな所か。
練習もまあまあ済んだかな、という時、右柳さんから声が掛かった。
「大樹くん、理美ちゃん、ちょっと」
お姉ちゃんと一緒に右柳さんに連れられ、同じ階にある談話室に入って、そこで腰掛けた。
右柳さんも座って、それから話が始まった。
「DNAの件だが……君らの父親、泉蔵さんのDNAと、華賀峰繊一と貫次の父親、華賀峰厚亮のDNAとで比べてみた、結果は、五十パーセント一致した」
「てことは」
と、僕が促すと、右柳さんが、
「華賀峰繊一や貫次は、血筋で言えば君らの叔父ということになるな」
って。
「うげ」とお姉ちゃんが言った。
気持ちは痛いほど分かる。あんな人達だったもんね。
「血液型も見たが、確実に受け継いでる」
そう言われて気になる。「えっと、佐倉守家と華賀峰家の繋がりには、こんな風に確証は出てるんですか?」
「いや、そっちはない。だが、物的証拠って奴だな、それしかない、その推察についてはもう知ってたんじゃないのか?」
「まあ、そういう話はしましたけど」これは僕の返事。
もし血が繋がっているとしたら、僕と居那正さんの間には、ほかに何の違いがあるんだろう。そこだけはよく分からない。居那正さんも僕以外とは違うけど、僕と居那正さんの違いはそれよりも大きな違いだ。突然変異? それで片付けていいのかなぁ……。
「何か気になるのか?」
右柳さんの不思議がっているらしい顔を見て、まるで「気にしなくていいんじゃ?」って言われてる気分になった。
確かにそうだ。どうだっていい。僕は僕だ。そういう思いが強くなる。
そうだ、それでいい。もう何も、これに関する嫌なことに巻き込まれないなら、分からなくてもいいんだ。そうだ、どうだっていいかもしれない。今までやってこれたし、僕が生きてるうちに解けない謎かもしれないしね。
夏休み明けのある日。最初の体育の授業のためにシャツを着替えるという時に、要太が言った。
「お、おい、何だよそれ」
僕の傷を見てのことだ。
聞かれるだろうからどう話そうかと随分前から考えてた。それを言う。
「実は、夏休み中にちょっとした事故があってさ」
とりあえず切り出し方はこれでいい。
「ちょっとしたって、これ……そういう傷か?」要太は疑って上半身裸の僕の傷を見てる。
決意は鈍らなかった。僕は隠し通す。
「まあ無事だったし。長い人生が終わんなきゃ何でもちょっとしたもんでしょ」
すると、勉強会なんかも一緒だった翔っていう名前の友達が。
「いやいやいや、そういうことじゃねえだろ、全然ちげえ。命は一個よ? キミ、分かってる?」
翔は冗談めかして、覗き込むように僕を見た。
「あー、まあ……、そうだね、確かに。大変なことだけど、ほら、大丈夫。ホント、生きててよかった! へへ」
僕が笑うと、この傷を見ていた四、五人の友人は、もうそのことに触れなくなった。
翔だけは少し触れた。
「お前って案外図太いんだな。それにあんまり自分のこと話さねえし。ちったあ話せよ」
まあそれもそうだよね、夏休み中にも話さなかった訳だし。
僕の返事を聞く前に、翔は「痛そう~」と続けた。マイペースだ。
とりあえず返事。「うん、できるだけそうするよ。……ありがと、翔」
「ん、お、おう。んなマジに返事すんなよ、照れるだろ、要らねえんだよそんなん」
「はは」
と笑い合ったあと、別の友人に言われる。「どんな事故だったの」
それにはこう答えた。「ああ、バイクが窓に衝突してさ。それで近くにいた僕の方にガラスが」
「ううぇえっ、それでかよ」「それでこれなら勢いやばそう」「めちゃ痛そうじゃん」などと、友人達は言う。
どうやら納得できたらしい。
そして段々と他愛のない話に移行していった。
更衣室からみんなが出ていって運動場に向かう、その途中で、要太が僕の肩をつついた。
振り向いて問う。「ん? 何?」
要太はしばらく無言だった。みんなとの距離が開いてから、僕にだけ聞こえる声で、要太が。「お前、何か隠してないか」
言う訳にいかない。これ以上知らせて関わらせるようなことは……。
ただ、万が一なんてもうないかもしれない。言っていいような気がしないでもない。
一瞬だけ迷った。
でも、結局言えないと思った。だってあんな事があったんだから。
「んん? 要太に?」
何も隠し事がない、見当が付かない、そういう振りをした。
「俺にだけじゃない。前にも……あ、そうだ、柔道で妙な気迫を見せただろ、あれ、何だったんだよ。その傷と関係してんじゃないのか。本当に事故か?」
「事故だってば。でも、あんまり詮索しないでよ、示談で済んでるから相手に悪いし。ほら、遅れるよ」
みんなの方を指で示して急かす。
僕が走り出すと、要太も走ってついて来た。
そんな要太がまた。「まあ、本当に何もないならいいんだよ。ごめん、色々言って」
「いや、いいよ別に。本当に何かあったら、その時は要太のおかげで助かるかもしれない訳じゃん? そういうのはありがたいからね」
「……そか」
運動場へ向かう列の最後尾に、僕と要太はいる。前にいるみんなを追い駆けるこの日常の中にいられることが、僕の幸福、そう思えた。
もう、妙なことはきっとない。そうだ、きっとないんだよ。幸せだ。
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