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救いの手
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302号室は、あたしの部屋からは遠い。だからか、村田さんがどんな人かをあたしは知らない。
――そういえばなんで彼はあたしの電話番号を――。
同じマンションだし、そんなこともあるか……と思ってからは、そのことを考えるのをやめた。
その302号室の、リビングの中で、ソファーに座り、ボーッとしたまま、ただパーティの光景を眺めた。
村田さんは、あたしを含め、八人をパーティに呼んでいたらしい。
あたしは眼鏡をしていて、今は、二つ結びの髪両方を胸の前へと垂らしている。そんなあたしに声が掛かった。
「やぁ、食べてくれた?」
「最初に一個だけ」
と、指でも示してみた。
「ちょっと見せたい物があるんだよ。こっち。来て」
何だろうと思いながらついて行く。
そうして入った部屋の壁には、水鉄砲のような銃や軍が使いそうな銃が飾られていた。
「サバイバルゲームなんかをよくやるんだ、たまにはいい息抜きになるんだよ」
――そういう人なんだ。
思ったその時、ドアの方からガチャリという音がした。
「言っておくけど、叫んでもムダだよ、この部屋の中の音も振動も、全部の波が外には伝わらない」
ふと、あたしをクラブに連れて行った男を思い出した。
――ああ、そういう人だったんだな……。
あたしはベッドに押し倒された。
力は村田の方が上。抵抗しようとはしたけど、ムリだった。
――殺される?……嫌だ……そんなの嫌。こんなのは望んでない。こんなのは……。
思ってからすぐには悲鳴が出なかった。怖さで口も喉も動かなかった。
数秒が経ってからやっと――
ただただ叫んだ。長く、長く。
だけど、それは誰にも届いていないようで、外の様子は変わらなかった。駆け付ける足音もない。
村田はあたしの服をめくり上げたり、胸を揉んだりした。
……もう、声を上げる気も失せていた。
あたしは無表情。こんな男たちは消えればいいと思った。
そして死にたくなった。
あたしの人生はこんなもの。この状況でというのは最悪で、憤りしかないけど。でも。
――もういい。もういいよ。
そんな時だ。
壁か何か――多分ドア――が激しく叩かれる音がして、それから壊れたらしいドアが、開かれた。
入ってきたのは、ちあちゃんと、みーちゃんと、あーちゃんだった。
足音は少しばかり聞こえていた。この部屋の内側から外へはダメでも、外から内へは音の波もやってくる、きっとそんな状態にするのが、村田のSTEOP能力なんだろう。
それを利用してあたしを襲った村田は、たった今、ちあちゃんが念じたのであろう赤い殺虫剤のスプレー缶で殴られ、ベッドの脇に倒れた。
あたしはベッドで身を起こして、服を整えた。そして質問を声にした。
「なんで?……なんで分かったの? なんで来れたの? なんでちあちゃん達なの……?」
「脅迫状が届いてたの。別れろって書かれてた」
「――! それで……」
「うん。で、みーちゃんはニオイを嗅ぎ分けることができるの。だから……ひとまず脅迫に乗ったフリをして辿ったワケ」
そのちあちゃんの言葉を最後まで聞いたら、切なさが込み上げるのとともに、視界がぼやけた。
「じゃ、じゃあ……あれは、脅されてたからなの? 別れるって――」
「そう。そうだよ」
「じゃあ……あたし……あたし、ちあちゃんと一緒にいてもいいの?」
「うん。……ごめんね。しばらく不安にさせたよね」
そう言うちあちゃんとあたしが抱き合うのを見ていたからか、みーちゃんの方からも声が聞こえた。
「よかったぁ」
「これで解決かな」
と言ったのはあーちゃんだった。
「脅迫状のニオイは村田のだったよ」
と、みーちゃんが言った。
誰が呼んだのか、警察が来て、STEOPによる事件として取り扱われ、村田は逮捕された。
事情を聴取されたあと、自分の部屋に戻った。ひとりでではなく、友達二人と恋人のちあちゃん、計三人を連れて――。
「どうなるかと思った」などと話されてからは、世間話をして、気を紛らわせた。怖さと心細さがまだあったから――。
数十分は話したあとで、みーちゃんとあーちゃんは、あたしの部屋を去った。
リビングのテーブルを前にして、ちあちゃんとあたしは、ふたりだけ。
そうなってから、ふたり横に並ぶように――あたしからちあちゃんの左隣に移動した。
その腕にしがみ付いて、あたしは決めた。
「もう離れない。離さないからね、絶対ダメだよ。あんなこともう言っちゃダメ」
「……うん……分かった。私も離さない。ずっと一緒だよ」
ちあちゃんはそう言うと、まぶたを閉じて安心を噛み締めていたあたしの頬に、キスをした。
――そういえばなんで彼はあたしの電話番号を――。
同じマンションだし、そんなこともあるか……と思ってからは、そのことを考えるのをやめた。
その302号室の、リビングの中で、ソファーに座り、ボーッとしたまま、ただパーティの光景を眺めた。
村田さんは、あたしを含め、八人をパーティに呼んでいたらしい。
あたしは眼鏡をしていて、今は、二つ結びの髪両方を胸の前へと垂らしている。そんなあたしに声が掛かった。
「やぁ、食べてくれた?」
「最初に一個だけ」
と、指でも示してみた。
「ちょっと見せたい物があるんだよ。こっち。来て」
何だろうと思いながらついて行く。
そうして入った部屋の壁には、水鉄砲のような銃や軍が使いそうな銃が飾られていた。
「サバイバルゲームなんかをよくやるんだ、たまにはいい息抜きになるんだよ」
――そういう人なんだ。
思ったその時、ドアの方からガチャリという音がした。
「言っておくけど、叫んでもムダだよ、この部屋の中の音も振動も、全部の波が外には伝わらない」
ふと、あたしをクラブに連れて行った男を思い出した。
――ああ、そういう人だったんだな……。
あたしはベッドに押し倒された。
力は村田の方が上。抵抗しようとはしたけど、ムリだった。
――殺される?……嫌だ……そんなの嫌。こんなのは望んでない。こんなのは……。
思ってからすぐには悲鳴が出なかった。怖さで口も喉も動かなかった。
数秒が経ってからやっと――
ただただ叫んだ。長く、長く。
だけど、それは誰にも届いていないようで、外の様子は変わらなかった。駆け付ける足音もない。
村田はあたしの服をめくり上げたり、胸を揉んだりした。
……もう、声を上げる気も失せていた。
あたしは無表情。こんな男たちは消えればいいと思った。
そして死にたくなった。
あたしの人生はこんなもの。この状況でというのは最悪で、憤りしかないけど。でも。
――もういい。もういいよ。
そんな時だ。
壁か何か――多分ドア――が激しく叩かれる音がして、それから壊れたらしいドアが、開かれた。
入ってきたのは、ちあちゃんと、みーちゃんと、あーちゃんだった。
足音は少しばかり聞こえていた。この部屋の内側から外へはダメでも、外から内へは音の波もやってくる、きっとそんな状態にするのが、村田のSTEOP能力なんだろう。
それを利用してあたしを襲った村田は、たった今、ちあちゃんが念じたのであろう赤い殺虫剤のスプレー缶で殴られ、ベッドの脇に倒れた。
あたしはベッドで身を起こして、服を整えた。そして質問を声にした。
「なんで?……なんで分かったの? なんで来れたの? なんでちあちゃん達なの……?」
「脅迫状が届いてたの。別れろって書かれてた」
「――! それで……」
「うん。で、みーちゃんはニオイを嗅ぎ分けることができるの。だから……ひとまず脅迫に乗ったフリをして辿ったワケ」
そのちあちゃんの言葉を最後まで聞いたら、切なさが込み上げるのとともに、視界がぼやけた。
「じゃ、じゃあ……あれは、脅されてたからなの? 別れるって――」
「そう。そうだよ」
「じゃあ……あたし……あたし、ちあちゃんと一緒にいてもいいの?」
「うん。……ごめんね。しばらく不安にさせたよね」
そう言うちあちゃんとあたしが抱き合うのを見ていたからか、みーちゃんの方からも声が聞こえた。
「よかったぁ」
「これで解決かな」
と言ったのはあーちゃんだった。
「脅迫状のニオイは村田のだったよ」
と、みーちゃんが言った。
誰が呼んだのか、警察が来て、STEOPによる事件として取り扱われ、村田は逮捕された。
事情を聴取されたあと、自分の部屋に戻った。ひとりでではなく、友達二人と恋人のちあちゃん、計三人を連れて――。
「どうなるかと思った」などと話されてからは、世間話をして、気を紛らわせた。怖さと心細さがまだあったから――。
数十分は話したあとで、みーちゃんとあーちゃんは、あたしの部屋を去った。
リビングのテーブルを前にして、ちあちゃんとあたしは、ふたりだけ。
そうなってから、ふたり横に並ぶように――あたしからちあちゃんの左隣に移動した。
その腕にしがみ付いて、あたしは決めた。
「もう離れない。離さないからね、絶対ダメだよ。あんなこともう言っちゃダメ」
「……うん……分かった。私も離さない。ずっと一緒だよ」
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