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どうして
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先日の夜のこと。
耐えられる気がしていた。でも耐えられなかった。その事実を突き付けられたせいか、今日の撮影に少しばかり支障が出た。人通りの少ない、とある路地にて――
「いつもの元気がないじゃん。あともう何回か撮るからね」
と、カメラマンさんから言われ、これではダメだと思った。
マシンみたいに何も考えず淡々としていればいいんだろうか。つまりは心を殺せばいいんだろうか。
そうして、撮影はうまくいった。
でも、ちあちゃんと心と体を通わせる場面で、心を殺すなんてしたくない。そうしたくないのに、それしかない気がして……嫌な気分が抜けない。
傷を塞ぐ行為だと思いさえすれば、うまくやれるのかな。
でもそれだと忘れられない……そんな気がする。どうしたら気にならなくなれるんだろう。
ふたりの思い出をどんどん作っていくということはしたいと思っている。次は何をしようか。何ならやれるんだろう。……縮こまりたくなった。
その夜、風呂を終えた頃、自宅にいる時に、腕時計が着信音を鳴らした。スイッチひとつで板状に変化したそれの画面を操作して、メールが来ていることが分かった。プライベートメールを意味するプーメというアプリ。そのメールを確認すると――
「別れよう」という文字が。
送り主はちあちゃんだった。
――なんで? 抱き締めてくれたのは何だったの?
急いで電話を掛けた。
「もしもし、ちあちゃん? さっきのプーメ、何? 別れるなんて、なんで――」
「私達、やっぱり合わなかったんだよ。ただでさえ住む世界が違うし」
「そんなことない! この電話でつながってる世界はなに! 同じ世界だよ? 変なこと言わないで! 別れるなんて言わないで!」
「私じゃ守れないかもしれない」
「そんなことない!」
「私にはムリだったんだよ」
「そんな――」
「さよなら」
そこで、プツッと通話は切れた。
味方がひとり確実に消えた。そう感じた時にはもう涙目だった。
頭がおかしくなる。ちあちゃんの代わりなんてどこにもいないのに。
――もういいや。もういい。……可愛くなれた。惹かれ合ったと思ってたのに。それでもこうなるんなら……もういい、もういいよ。何のために生きるの?……どうすればいい? 分かち合う人がいない……。もういい。もういい。
「フォンボード」をリビングのテーブルに置いた。置く場所はどこでもよかった。
キッチンの前に立ち、包丁を取り出した。
その時だ。
インターホンが鳴った。
表情を崩さずに出る――と、インターホンの音は宅配のせいだと分かった。
対応後、リビングに「箱」を持っていき、その「箱」をテーブルに置き、送り主がちあちゃんだと分かってから、中の物を取り出した。
コーヒーカップとガラスのコップだった。
「遅い」「今じゃない」そんな言葉が浮かぶのと同時に、それらに背を向けた。
ダイニングの方を向いたのに、よく見えない。
あたしの顔と視界は完全にゆがんだ。
「どうして」
ポツリと出た言葉はそれだけ。
しばらくボーッとしていた。すると――。
ピリリリリ、ピリリリリ。
電話が鳴った。キッチンを離れ、リビングに置いていた「フォンボード」の所へ行き、出てみる。
「はい、どちら様ですか」
と、必死に声を出した。
「302号室の村田です。同じマンションの」
男性だった。彼――村田さんは、三十歳前後くらいの、顔の整った渋い声の人。
「もしよかったら、今度うちのパーティに来ませんか? バーベキューとかたまにやるんですよ。今回はたこ焼きですけど」
あたしは、またキッチンに立った。今度は出しておいた包丁を戸の収納穴にしまった。
――最後に思いっ切り、楽しんでもいいのかな。……ハメを外しても……。
「行きます」
「本当ですか? 嬉しいです。○月×日の12時、予定が空いていれば、302号室に――」
「はい」
日時をメモした。そのメモをリビングのテーブルの上――誰からも見やすい所に、わざと置いた。
耐えられる気がしていた。でも耐えられなかった。その事実を突き付けられたせいか、今日の撮影に少しばかり支障が出た。人通りの少ない、とある路地にて――
「いつもの元気がないじゃん。あともう何回か撮るからね」
と、カメラマンさんから言われ、これではダメだと思った。
マシンみたいに何も考えず淡々としていればいいんだろうか。つまりは心を殺せばいいんだろうか。
そうして、撮影はうまくいった。
でも、ちあちゃんと心と体を通わせる場面で、心を殺すなんてしたくない。そうしたくないのに、それしかない気がして……嫌な気分が抜けない。
傷を塞ぐ行為だと思いさえすれば、うまくやれるのかな。
でもそれだと忘れられない……そんな気がする。どうしたら気にならなくなれるんだろう。
ふたりの思い出をどんどん作っていくということはしたいと思っている。次は何をしようか。何ならやれるんだろう。……縮こまりたくなった。
その夜、風呂を終えた頃、自宅にいる時に、腕時計が着信音を鳴らした。スイッチひとつで板状に変化したそれの画面を操作して、メールが来ていることが分かった。プライベートメールを意味するプーメというアプリ。そのメールを確認すると――
「別れよう」という文字が。
送り主はちあちゃんだった。
――なんで? 抱き締めてくれたのは何だったの?
急いで電話を掛けた。
「もしもし、ちあちゃん? さっきのプーメ、何? 別れるなんて、なんで――」
「私達、やっぱり合わなかったんだよ。ただでさえ住む世界が違うし」
「そんなことない! この電話でつながってる世界はなに! 同じ世界だよ? 変なこと言わないで! 別れるなんて言わないで!」
「私じゃ守れないかもしれない」
「そんなことない!」
「私にはムリだったんだよ」
「そんな――」
「さよなら」
そこで、プツッと通話は切れた。
味方がひとり確実に消えた。そう感じた時にはもう涙目だった。
頭がおかしくなる。ちあちゃんの代わりなんてどこにもいないのに。
――もういいや。もういい。……可愛くなれた。惹かれ合ったと思ってたのに。それでもこうなるんなら……もういい、もういいよ。何のために生きるの?……どうすればいい? 分かち合う人がいない……。もういい。もういい。
「フォンボード」をリビングのテーブルに置いた。置く場所はどこでもよかった。
キッチンの前に立ち、包丁を取り出した。
その時だ。
インターホンが鳴った。
表情を崩さずに出る――と、インターホンの音は宅配のせいだと分かった。
対応後、リビングに「箱」を持っていき、その「箱」をテーブルに置き、送り主がちあちゃんだと分かってから、中の物を取り出した。
コーヒーカップとガラスのコップだった。
「遅い」「今じゃない」そんな言葉が浮かぶのと同時に、それらに背を向けた。
ダイニングの方を向いたのに、よく見えない。
あたしの顔と視界は完全にゆがんだ。
「どうして」
ポツリと出た言葉はそれだけ。
しばらくボーッとしていた。すると――。
ピリリリリ、ピリリリリ。
電話が鳴った。キッチンを離れ、リビングに置いていた「フォンボード」の所へ行き、出てみる。
「はい、どちら様ですか」
と、必死に声を出した。
「302号室の村田です。同じマンションの」
男性だった。彼――村田さんは、三十歳前後くらいの、顔の整った渋い声の人。
「もしよかったら、今度うちのパーティに来ませんか? バーベキューとかたまにやるんですよ。今回はたこ焼きですけど」
あたしは、またキッチンに立った。今度は出しておいた包丁を戸の収納穴にしまった。
――最後に思いっ切り、楽しんでもいいのかな。……ハメを外しても……。
「行きます」
「本当ですか? 嬉しいです。○月×日の12時、予定が空いていれば、302号室に――」
「はい」
日時をメモした。そのメモをリビングのテーブルの上――誰からも見やすい所に、わざと置いた。
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