転生したら鼻毛でした。

超絶ラビリンスコーヒースライム隊長Lv3

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鼻毛続きの続き。

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「こ、これは……?」













 ギルド受付の女が声を震わせて言った。













「こいつか? ボスのゲボスだ」













「ボ、ボス?」













 受付女が言うと、ギルドフロアに悲鳴が上がった。













「ボ、ボスだって?」「嘘だろ?」「あり得ない!」













 そんな声が至る所から上がったが、それを持ってきた当のモッサンはどこ吹く風だ。













「そんな事はどうでもいいから、早く鑑定して買い取ってくれ。俺達はすぐに装備を調えて、違うダンジョンに向かいたいんだ」













 俺達と言われて、我に返ったのか、受付女がモッサンの周りを見渡す。













「そ、その犬は、いえその狼はもしや十年に一度出現のレアモンスターモフ蔵!?」













「がるるるっ」













 知らない女に名前を呼ばれて、不快だったのかフーモがうなり声を上げる。













「おい、フーモ。やめろ。そいつに害はない」













「ワン」













 モッサンの制止の言葉に素直に従うフーモ。













「う、嘘でしょ。調教されている? もしかしてペットにしたっていうの? そんなの伝説だとばかりおもっていたけれど……」













 そして受付女の視線は今度はフードを目深にかぶったリックへと向けた。













「あ、あなたは……」













 フードを被っているリックを値踏みするように見ていた受付女。しかしリックが「余計な詮索はするな」と強い口調で言ったので「す、すみません」と受付女は謝った。













「す、少しお待ち下さいね。すぐに鑑定しますから」













 そして待つ事数十分。













「この金額になりますが、よろしいでしょうか」













 心なしか、金額を提示する受付嬢の声が震えている。













「こ、こんなに貰えるのかよ。城が買えるんじゃねえのか?」













 そのモッサンの一言でどれほど、素材が高く売れたのかが理解できた。













 モッサンはお金を受け取ると僕達はすぐに、ギルド受付を後にした。













「こりゃあ予想以上に、稼げたな。それは良いことだ。でも厄介でもあるな」













「厄介? どういう事だ?」













 リックがモッサンに聞いた時、フーモが「ワン!」と吠えた。













「早速来たか。強盗だよ」













 モッサンは溜息を吐き出した。













 相手は二人組の、ガラが悪そうな男共。モッサンは荒くれ者と呼ばれていたが、実際はそうではなかった。今目の前にいる男達こそ、それを形容するに相応しい風貌や仕草をしていた。













 人物鑑定が出来ない僕は相手のステータスを鑑定する事は出来ないが、それでもあまり強そうな輩には見えなかった。













「おい、お前達。さっき大金を手にしていたじゃねえか。俺達におすそわけ……」













 そこまで強盗が喋った所でフーモの電光石火の攻撃が強盗達に襲い掛かった。













 強盗二人はフーモの攻撃で地面に倒れ込んだ。













「ま、まさか殺してないよな」













 モッサンが心配そうな声で言う。













「ワ、ワワン」













 大丈夫だとのフーモの返事。













「ふうっ」













 モッサンは安心したのかため息を吐き出した。どうやら気絶させただけらしい。













「すぐに行きましょう」













 リックが促したので、僕達はすぐに前に武器を買った、武器屋へと向かった。




「おやまあ、ようこそおいで下さいました」













 店主の言葉にモッサンが「この間、来たばかりじゃないか」と少し呆れ気味に言った。













「それで、今回はどのようなご用件で」













「ここは武器屋なんだけど、防具も売っているのか?」













「ええ、あります。ご覧になりますか?」













「ああ、見せてくれ。おっと先に言っておくな。金ならボスを討伐した関係で腐るほどある」













「ボ、ボスですか。それは凄い。ではその心配はなさそうですね」













 店主はお客だと自覚して、気を引き締めたのか変わり身の術でも使っているんじゃないか、ぐらいの変わりようで、一気に営業スマイルを顔に張りつけた。













「ああ、今回は武器も後で見させてもらうけど、防具を優先させるんでな。他のダンジョンに向かう為に」













「はあ。で、どのような防具をご希望ですか?」













「犬が着れる防具と、女冒険者用の防具、そして俺の防具だな。俺はどんな奴でもいいや。防御力が高ければ」













「かしこまりました」













 武器屋から入る、隣の部屋の防具売り場に入った僕達は、店主がうーんと、ああでもないこうでもないと、悩んでいるのをしばらく眺めていた。













「えっと、女の方の防具はこちらで、そしてモッサンさんの防具はこちらで。それで申し訳ないのですが、犬の防具は取り扱っておりません」













「ぐるるっ」













 それを聞いたフーモがうなり声を上げる。というかフーモ確実に人間の言葉を理解しているよね。どう考えても。スキル鑑定ではそういうスキルを持っているって載っていないけれども。感覚で分かるのかな。













「フーモ。しょうがないだろう。お前は特別なんだから」













 モッサンが上手く、フーモをいつものように手玉に取るような感じで宥める。するとフーモはにっこりと笑ったように見えた。













「ここには鍛冶屋はないのかしら」













 今までそのやりとりを見ていた、リックが店主に言った。













「鍛冶屋か。ここにはないが、ある場所なら知っているぞ。そこなら武器だけでなく、防具もオリジナルの物が作れるだろうな。まあ金はかかるがな」













「金なら心配するな」













「そうでしたな」













「じゃあ、フーモの防具は鍛冶屋で作ってもらうとして、この見繕ってもらった防具を頂くとしよう。そしてまた、武器を見せて欲しい」













「分かりました。ただあの武器だけはだめですよ」













「分かっているって。他にも特殊な武器があったら教えて欲しい」













「かしこまりました」













 モッサンと、リックが防具を買い、試着室で装備をした。













「軽くて、丈夫そうな防具ね」













 リックはどうやら気に入ったらしい。













「俺は、裸でも良いんだけどな。何だか窮屈でよ。締め付けがな」













 モッサンらしい感想だな、と僕は思った。




次に、以前買った武器店で武器を探していると、モッサンが「おい気になる武器があったら鼻毛で指せよ」と鼻毛の僕に言ったので、僕は鼻こちょして、了承の意を示した。













 あれは何だ? 以前見た時は気にならなかった、というか置いていなかった気がする壁に飾られている飾りのような武器を発見した。もしかしたら本当に飾りかもしれないけれど。













 僕はモッサンの鼻の中から一本だけ出て、それを指した。













「うん? あれが気になるのか?」













 鼻毛首肯する僕。













「あれは何だ?」













 モッサンが店主に問う。













「ああ、あれですか。良く気づきましたね。あれは今日入荷したばかりの投擲武器の手裏剣っていう奴ですよ。先端に毒とかを塗れば遠距離からでも攻撃できます。後、遠距離の武器としては弓がありますけれど」













 僕は猛烈に鼻の中を暴れまくった。手裏剣? 手裏剣ってあの僕の前世で知っている手裏剣か。確かに多少形は僕が知っているのとデザイン面で違うから、手裏剣とは気づかなかったけれど、というか僕が手裏剣の種類を知らないだけで、日本の手裏剣にもたくさん種類があるのかもしれない。でもここは異世界。まさか手裏剣があるとはな。これは僕好みの、というか僕専用の武器になり得るな。前みたいに、剣を扱って、三刀流、いや王鼻毛になったことによって、十刀流も不可能ではないのかもしれないけれど、剣では武器が大きすぎて、もしかしたら鼻毛がこんがらがってしまう恐れもある。まだ鼻毛の王になって日が浅い僕は訓練もしていないので、剣を上手く扱えないかもしれない。それはつまり足手まとい、ただの邪魔な鼻毛になってしまう恐れもあるので、剣はやるならば三刀流に現時点ではして、手裏剣ならば、投擲だから比較的扱いやすいかもしれない。だからまずはそこから慣れて行った方がいいかもしれない。それに本体の僕の鼻毛以外の操作するたくさんの鼻毛は感覚的にだけど、あまり強くない気がするというのも直感的に感じている。まあそれも仕方がないのかもしれない。王である僕の本体の鼻毛と、民である他の鼻毛ではどうしても、色々不都合が生じてしまうのかもしれないな。そして弓も欲しいな。さっきここの武器屋に来る時に僕が鼻毛の全てを操作できるのをパーティーメンバーに知らせたから、これについても僕の意見が通るかどうかは分からないけれど、考えてくれるだろう。いいね。弓を扱い、弓を引く鼻毛。想像するだけで楽しくなってくるよ。いづれは弓の弦を鼻毛で代用したりね。どんな強力な弓矢が出来るのだろうか。













 そんな事を考えながら、妄想しながら、僕はモッサンの了承を得るのを待った。




「店主、あの手裏剣全部と弓をくれ」













「かしこまりました」













 手裏剣と弓を買い、リックに渡すモッサン。しかしリックの顔は浮かれないように見えた。













「どうしたんだ? 何か不満でもあるのか?」













「うん。だって、その手裏剣と弓は私の中にいる鼻毛専用の武器でしょ。つまりその武器を使うっていう事は私の鼻の中から鼻毛が、たくさん出て来て、暴れるっていうことだよね。それは女の私にとっては羞恥以外の何ものでもない」













「なるほどな」













 確かに分からなくはない。でも、この先、危険な冒険が待ち構えている以上。恥などという事に囚われ、命を失うことなど、あってはならないことだ。だからと言って、僕がいつでも自由に出て行って、リックの機嫌を損ねて、鼻毛を抜かれるという事態も避けたい。どうすればいいのだろうか。













 リックの鼻毛から新たに鼻毛転移するという方法もあるが、現時点では考えていない。モッサンやゲボスの時は仕方なく鼻毛転移したのだ。モッサンの時はゲボスを倒す為に、ゲボスの時は僕の死を逃れるために。鼻毛転移は一度すると、元の鼻毛の主には戻る事が出来ない。だから、出来る限り僕は宿主がスキルをもう獲得しないという確信と同時に、僕自身のレベルがマックスになって、固有スキルを獲得する以外では鼻毛転移は使いたくはない。僕が鼻毛転移した後にレアスキルを元、鼻毛主が獲得したりなんかしたら、悔しいことこの上ないだろうから。でも僕はリックが恥ずかしくなくなる方法が一つあるのではないかと思っている。それはリックがレベルを上げたりして、新たなスキルを獲得するという事だ。元々リックは人間界では架空の存在とすら言われている兎族だ。その隠匿性は驚愕に値すると言ってもいいだろう。ということはだ。もしスキルが獲得する本人とリンクしているという可能性があるのだとすれば、今後リックは隠匿性のあるスキルを獲得する可能性もあるのではないだろうか。そしてそれを獲得したとするならば、そのスキルを同時に獲得出来る、鼻毛の僕も隠匿性、ステルススキルを獲得する事が出来るようになるということだ。それを使えば、鼻毛の僕が見えなくなり、そしたら、リックも恥ずかしくなくなるはずだ。それにリックは獣人でもある。そして人間と意思疎通をそつなく交わす。それを更に高度なスキルとして獲得する事が出来るようになるかもしれない。例えばテレパシースキルとか。それを僕も獲得出来れば、念願の人間との実際に音は発さなくても、直接本人と意思疎通が出来るようになるかもしれない。それに狼のフーモとも。そうすれば、今、店で武器を選ぶ時のように鼻毛で一々商品を指、じゃなくて鼻毛指ししなくてもいいし、可否の判断にも一々鼻毛で上下左右に振ったり、鼻の中をわざわざ刺激することで肯定、否定を示す必要もなくなり、煩わしさも減り、活動性も上がるだろうし、何より時間短縮になり、旅がスムーズに行くであろう。だから、その可能性を信じて僕はリックの鼻の中でしばらく旅を続けようと思う。だからレベルを上げて、良いスキルを獲得出来る事を信じて頑張ってくれ、リック。













 僕はそう思うのであった。




武器と防具を揃えた僕らは次に、フーモの防具を作る為に武器屋の店主から鍛冶屋の場所を聞き、そこへ向かった。













「おう。入れ」













 鍛冶屋と聞くと、ドワーフが営んでいるイメージだが、扉を叩いて出てきた男は普通の人間の姿だった。













「鍛冶屋って、ドワーフがやるもんじゃねえんだな。もしかしてあんたはただの受付か?」













 モッサンの言葉に、男は不敵に笑った。













「まあ、世間一般のイメージはそうだな。それにそれは大方合ってはいる。9割方の鍛冶屋はドワーフだからな。あいつらは遺伝なのか気質なのかは分からないが、職人に合っているんだよ。黙々と自分の技術を極めるのが、得意かつ性格に合っているんだな」













「じゃあ、あんたはドワーフより腕は落ちるのか?」













「失礼な事、言うんじゃないよ。モッサン」













 リックがモッサンを責めるように言う。













「だって今の話だと、ドワーフの方が、職人気質って本人も認めているじゃないか。どうなんだ?」













「それはさっき言ったように、たいていは、って話だ。俺の場合は例外だな」













「何が例外なんだ?」













「俺は鍛冶のスキル持ちなんだよ」













「なるほど。スキル持ちであれば、遺伝や気質をカバーできるな確かに」













 そんな会話をしながら、店内に自然な流れで案内され、石で出来たイスにモッサンとリックは腰かけた。













「所で誰の武器を作るんだ?」













「ああ、そうだったな。今回は武器ではなく、防具何だが鍛冶屋で防具って作れるのか? 武器のイメージが強いんだが」













「もちろん出来る。だが、金はかかるぞ。材料費ももちろんだが、俺の腕の代金が加算されるからな」













「だが、腕がいい割には人はあまりいないみたいだな」













「ここはこんな、なりだが知る人ぞ知る名店的な場所でな。割かし有名なんだぜ。国王とかから依頼もあるほどにはな」













「そ、そうなのか」













「だから、ある意味この店は近寄りがたい雰囲気があるらしく、一般客は敬遠されているんだ。だが、間違えて、訪ねたわけでなく、ここが鍛冶屋だと知った上で、自らの意志で来るということは誰かの紹介ということだろう?」













「ああ、この街の武器屋に聞いた」













「なるほどね。まあ、そんなことより、誰の防具を作るんだ?」













「この狼。フーモの防具だ」













「フーモ?」













 言った鍛冶屋の男は初めてそこでフーモに気づいたと言った様子で、足元を見た。













「こいつは犬……? いや……まさか。モフ蔵か!?」













「よく分かったな」













「そんな。こいつは伝説の狼のはずだ。しかも生きて懐いている、だと? 一体全体どんなマジックを使ったらこいつが仲間になるんだよ」













「さあな。それは俺が聞きたいな。わっはっは」













「だが、伝説のモフ蔵の防具が作れる。鍛冶屋にとってこんなにやりがいのある仕事は久方ぶりだな。勇者に剣を作った時以来だな」













「勇者に剣を作ったことがあるの?」













 リックが聞いた。













「ああ、随分昔にな。とは言っても勇者が旅立つ時の剣だから、今は新たな武器を手にしたりして、もう使っていないかもしれないがな」













「でも勇者に剣を作るって相当なものよ」













「そうだな。だが、その時と同じぐらいの喜びを俺は今感じているんだ。俺に依頼を持って来てくれてありがとうよ」













 逆に鍛冶屋に感謝されることになった。













「ウー、ワン、ワンワン!!」













 フーモは尻尾をフリフリしてとても嬉しそうその光景を眺めていた。




「予算はいくらぐらいだ?」













「これぐらいだ」













 そう言って、モッサンは手に入れた金を鍛冶屋の前に置いた。













「なんと……もしやボスを倒したのか?」













「よく分かったな。封印されしゲボスを倒したのだ」













「ゲボス。あの悪名高いあいつか。それならばその金も納得だ。よし、ではそのモフ蔵のフーモとやらの防具を作ってやろう。しかし、善処はするがあまり期待はするな。作れても中の上の防具だな。何せ、防具に使う素材が鋼しかないのだからな」













「材料不足っていうわけか」













「そうだ。ミスリルがあれば、強度が高く、軽い防具が可能なのだが、しかし生憎の不足でな。だが、俺の技術で鋼素材でもそれを補い、中の上まで強度と軽さとしなやかさを兼ね備えてやる。だから、金はそこまで気にすることはない。その金の10分の1もあれば十分な防具が作れる」













「それはありがたいが、もっといい素材があれば文句がなかったのにな」













 そう言ったモッサンだが、何か考え、ふと思いついたような顔をした。













「そうだ。一つ提案したい素材があるのだが……」













「何だ? 言って見ろ。俺は素材鑑定のプロでもあるからな」













「ちょっと待っていろ。おい、リック。ちょっとこっちへ来い」













「な、何よ」













「お前、一本鼻毛を抜け」













「はっ? 何でよ」













「今の会話の流れで分かるだろう。防具の素材にするんだよ。フーモの」













「えっ、意味が分からないんだけれど」













「俺も、分からないが詳しく教えてくれないか」













 鍛冶屋の男が会話に割って入る。













「このリックの鼻毛はかなりの強度があると思うんだよ。だからそれを素材として使えば防具の強度が上がるかもしれないと思ってな」













「鼻毛の強度……だと? もしかしてお前は聞いたことはないが、鼻毛のスキル持ちか何かなのか?」













「まあ、当たらずとも、遠からず、って所かな」













 またモッサン。俺の事を持ち出したよ。この鍛冶屋信用できるのかよ。腕は確かにいいんだろうけれどさ。













「と、いうわけだ。さあ抜けリックよ」













「い、嫌よ」













「恥ずかしがっている場合じゃないだろう。今後のパーティーメンバーの命がかかっているんだぞ」













「そ、それはそうだけれども」













「おい、鼻毛。聞こえただろう。そういうわけだから、お前自身が抜いても良いと思う鼻毛をとりあえず一本でいいから、鼻の外へと出してくれ」













 僕に対しての要望をモッサンは出したので、しょうがないなと思った僕は、王である僕以外の鼻毛の一本を操り、リックの鼻の中から、外へとにゅっと一メートルぐらいの長さまで伸ばして出した。ちなみにレベルが低かった時は、切った鼻毛は元の長さに戻ったのだけれど、レベルが上がった僕は『鼻毛伸ばし』で伸ばしたままの状態で保てるようになったから、例え鼻毛を長い状態で切っても長い状態が保たれる。













「何と、鼻から鼻毛が出てきた。しかもあんたの要望に応えて。もしかしてその鼻毛は自分の意志がある鼻毛なのか? それともAI鼻毛なのか?」













「そこまでは企業秘密よ」













 リックが鍛冶屋に言う。ナイスカバー。どうやら俺の守秘義務はギリで守られたようだ。













「分かった。それ以上は詮索すまい」













 リックの鼻から地面まで伸びている本体の王鼻毛ではない民鼻毛の一本をモッサンは再度僕と、抜いていいか確認した後、モッサンはその鼻毛を抜こうとしたが、リックに手で制された。













「これは私の鼻毛なんだから、私が抜くわ」













 顔には羞恥が浮かんでいるのが『幽体鼻毛』で確認できる。













 そして意を決したのか、リックは床まで伸びた床鼻毛の民を一本つまんで抜こうとした、が抜けなかった。













「えっ、ど、どうして? 鼻毛が抜けない?」













「どういうことだ? なぜ鼻毛が抜けないんだ。俺に抜かせろ」













 モッサンが言う。













 最初は断固拒否の姿勢を貫いていたリックだったが自分の力ではどうやっても抜けなかったらしく、諦めたようで、モッサンに抜くのを手伝ってもらうことになった。













「ぬ、抜けない。なぜだ」













「俺も手伝おう」













 今度は鍛冶屋が申し出を上げた。













「ぬ、抜けない」













 しかし鼻毛は抜けなかった。













 気づけば、モッサンと鍛冶屋が、そしてフーモも牙で加わって、正面に立つリックから伸びる床鼻毛を綱引きするように引っ張る構図となった。













 そしてようやく、僕が操作した民鼻毛の一本が抜けた。しかしその拍子に二人と、フーモはその衝動で後ろの壁にひっくり返る形で激突し、リックは鼻毛が抜けた衝撃で、痛みで失神した。













「大丈夫か? リック」













 モッサンがリックの頬を軽くペシペシと叩く。













「う、う~ん。私は一体?」













「お前は鼻毛が抜かれた痛みで気絶したんだよ」













「そう言えば、そうだったわ。抜かれた瞬間、痛すぎて意識が薄れたの」













 何とか、大事には至らなかったようだ。しかしここまで抜けないとは我が鼻毛ながら思わなかった。レベルが上がったにより、毛根が太くなったことが抜けにくくなったことの要因であるのではないだろうか。何せ僕のレベルは鼻毛としては異例のレベル200なのだ。というか鼻毛としてレベルがあること自体が異例というか、他に類を見ないのだろうが。鼻毛が抜けにくくなった事、切れにくくなった事、それは嬉しい反面、寄生主にとっては厄介な問題なのではないだろうか。鼻毛の手入れなどに関しての今後に悩むな。と、僕はそう思った。




「どうだ? この鼻毛、素材としての価値はありそうか?」













「しばし待たれよ」













 言って、鍛冶屋は奥の部屋へと今しがた抜けたばかりの床鼻毛を手に持ち、向かった。













「鼻毛なんかが素材になるわけないでしょう?」













 当の鼻毛の持ち主のリックが不満そうな声で言う。













「いや、分からないぞ。あの鼻毛、そしてお前の鼻に根付いているその鼻毛達は元は俺の鼻毛でもあり、ゲボスの鼻毛でもあった。そして今度は伝説の獣人のお前の鼻毛へと渡っている。それがもしただの移動だけでなく、鼻毛としての能力を受け継いでいると言う可能性があるとすれば、お前の鼻毛は間違いなくただの鼻毛ではないな。俺の鼻毛だった時に既にただの鼻毛ではなかったのだから」













「私の鼻毛がただの鼻毛ではないって言われても嬉しく感じないのはなぜなのかしら」













 そんな会話をしていると奥から驚きの声が聞こえた。













「こ、これは凄い。凄い素材だ」













「鍛冶屋の奴の声だ。行ってみよう」













 モッサンが鍛冶屋がいる奥の部屋に向かったので、リックとフーモが後を追う様に続いた。













「どうだ? 何とか使えそうか?」













「おお、あんたか。この鼻毛。とんでもない素材だぞ」













「と、言うと?」













「ああ、まず強度が信じられないほど強い。素材を確かめる為に持っているここで唯一持っているミスリル性のハサミでもなかなか切れなかった。そして次に火にかけてみた。だが燃える様子が全くない。つまり耐火性を備えている。次に冷却したのだが、全く素材が、鼻毛が痛む様子が見受けられない。この様子だと他の属性にも耐えられる可能性を秘めている」













「つまりどういうことだ?」













「つまり極レア素材っていうことだ。それもまだ誰も発見していない手つかずの。言うならばダイヤの原石と言った所かな。いや現時点では誰もこの素材を知らない以上、その価値はダイヤの否ではない」













「ほう。それは俺が思っていた以上だな。じゃあ頼む」













「た、頼むって何をだ?」













「だから言っただろう? その鼻毛が素材に使えないかって。で、鼻毛が素材に使える以上その鼻毛を使って、フーモの防具を作って欲しいんだ」













「この鼻毛を防具に練り込むというわけか」













「いや、それはあんたの腕次第だよ。その鼻毛を使って、どうすれば一番防具として強化されるのかを見極めて作って欲しい。それは鍛冶屋ではない俺には分からない。だからその素材は好きに使って欲しい。だが、間違っても金を積まれて誰かに譲るとか、情報を漏らすとか言った事はやめて欲しい。もしそんな事をしたら、もうあんたの所には二度と来ない。それこそ、他のドワーフがいる鍛冶屋にでも行って、そこで作ってもらう」













「そんなことするか。俺を舐めるな。俺だってただスキルを持っているから鍛冶屋になれたわけじゃない。鍛冶屋として成功を収めたわけじゃないんだ。俺はドワーフに負けない、いやそれ以上の維持とプライドを持ってこの仕事に取り組んでいるんだ」













「それならば安心だな。がっはっは」













 なるほど、スキルを持っているだけでなく、強い意志と向上心、誇りを持っているからこそスキルも輝くのか。いやそれを持っていたからこそ、スキルを獲得したのかもしれない。いずれにせよ。この鍛冶屋はこの仕事が天職ってことだな。













「では、早速とりかかろうと思う。しかし出来上がるのには二、三日は最低でもかかるだろう。それまでどうする?」













「この街をちょっと散策でもしているわ」













「ワン!」













 とリックとフーモ。













「そうだな。いい機会だ。この街に他にも良い場所があるかもしれないから観て周るとするか」













 という事で、鍛冶屋を後にした僕達は街を散策する事にした。




「良い所ね」













 リックが歩きながら、そんな感想を漏らす」













「そうだな。整備された石畳の道は、歩いていて楽しいな。特に俺の場合、基本家にいたからな」













 とモッサン。













 そしてフーモは「ワン!」と鳴く。













 客観的に見たら、これは恋人同士、あるいは婚約者に見えるのだろうか。そんな事を考えながら、街ではやりの、魔物の肉を使ったハンバーガーをモッサンが食べ、リックはクレープみたいなスイーツを食べて歩いていて、奥の裏路地とでも言えそうな場所を曲がった瞬間、声を掛けられた。否、絡まれた。













「よう、ちょっとそこの姉ちゃん。面を貸してくれないか」













 人相の悪い、いかにも犯罪者面をした髭が伸び放題で、死んだ魚のような目をしている。感情がこもらない、淡々とした、当然のごとく悪を行う者の顔だ。













「何よ。あんた、ナンパならお断りよ」













「へへっ。そういうなよ。こちとら頼まれて仕事でやっているんだからさ」













「頼まれて? 誰によ」













「それは言えねえなあ」













「あんた。通行の邪魔だからどいてくれ」













「お前には言っていねえ」













「おい、リック早く行こうぜ。どうやらこの街のゴミ捨て場に入り込んじゃったようだな」













「そうね。行きましょう。ゴミは捨てるもんであって、ゴミと共にいることは害でしかないわ」













「おいおい、散々な事を言ってくれるじゃねえか。どの道通さねえよ」













 男が言うと、どこから現れたのか、他に二人リックを囲むように現れた。













「おい、リックお前狙われているぞ」













「どうやらそのようね。もしかして私の存在がどこからかばれた?」













「察しが早いじゃねえか。そうだ。お前の存在。お前の鼻の中の鼻毛に興味がある。さあ、着いてきてもらおうか」













「えっ、鼻毛に?」













 リックが私が伝説の獣人だからというわけではないのね。と小さな声で呟くのが聞こえた。













「そうだ。上からの命令でな。だが、断っても無駄だ。例え無理やりに連れて帰る」













 そこでモッサンがため息を吐き出す。













「相手を見てから言え」













 モッサンとリックは輩の横を通り過ぎようとする。













「おい、ちょっと待てよ」 













 そう言って、リックに手をかけようとしたが、直前でやめた。輩は異様な気配に気づいたようだ。













 そして、その気配の方を輩達が見るとそこには怒りを露わにした全身の毛を逆立てたフーモの姿があった。













「お、おい。こいつやばくねえか? 何か異様な雰囲気を感じるけど」













「構うな。ただの犬だ」













 そんなやりとりの後、横を通り過ぎたリックに追いつこうとした瞬間。フーモが輩達に噛みついた。













 疾風迅雷の攻撃で輩達は、物の数秒で倒された。













「安心しな。殺してはいない。甘噛みだ」













 モッサンがそう、輩達に言い残し僕達はその場を後にした。













「それにしても、私自身が狙われたわけじゃなかったけど、鼻毛が狙われるとは。まるで私の鼻毛の価値を知っているかのような感じだったわね」













「そうだな。今しがた、鼻毛の価値の凄さを鍛冶屋で知ったばかりだからな。もしかしてあの鍛冶屋が裏で差し金をしたか? いやしかし、それではあからさますぎるな」













「そうね」













「だが、リック。私自身が狙われたわけではないというが、今やその鼻毛はお前の鼻毛。俺のでもあったが、今は完全にお前の鼻で定着する、お前の遺伝子が組み込まれているお前自身の鼻毛なのだぞ。他人事のように言っている場合ではないぞ」













「そ、そうね。そろそろ認めなくちゃね。私の中の鼻毛は私の鼻毛だって。当然と言えば、当然の話なのだけれど、それがなかなか認められなかったの」













「それはしょうがない。意志を持った鼻毛というのは聞いたことがないからな。しかし、もうその鼻毛は俺達のパーティーメンバーだ」













「ええ。そうね。よろしく鼻毛」













 僕はリックにそう言われたので、鼻の中からにょろっと出て来て、鼻毛お辞儀をした。




「しかし、鼻毛が狙われていると分かった以上、あの鍛冶屋に戻る事はもうないな。鼻毛一本取られた形になってしまったが、まあ命があるだけいいだろう」













「ええ、そうね。鼻毛一本の犠牲で済んだのであれば、良くはないけれど、まだ何とか良かった気もするわ」













「だが、リックの鼻毛の価値に気付いた輩達がこれからどんどん襲ってくる可能性があるから、何かと面倒になってきやがったな」













 モッサンと、リックが会話をしていると遠くから、声が聞こえた。













「待ってくれー。ちょっとお前等待ってくれー」













 うん? あいつは? さっきの鍛冶屋だ。必死の形相でこちらへと向かってくる。













「ねえ。モッサン。あいつ来たよ。もしかして私の鼻毛を抜きに来たのかも」













「いや、あの焦った顔をみて見ろ。どう見ても、助けを請うているような。すがるような顔にしか見えないぞ」













「それもそうね。それにフーモも怒っていないし」













「あ、ありがとう。逃げないでくれて」













「どうしたんだ? まあある程度の察しはついているが」













「そうなの? モッサン」













「ああ、大かた。あんたの所にも鼻毛強盗的なのが押し入ったのだろう? それで必死に逃げてきたと」













「そ、そうなんだ。だが、鼻毛強盗はのした。でも俺の店に入ったって事はお前達にも襲い掛かっている最中なんじゃないかって思って、お前にもらった貴重なサンプルの鼻毛と後、俺の道具を持ってここを飛び出してきたんだ。また強盗がいつ押し寄せてくるか分からないからな」













「道具を持ってくる必要性はあったのか?」













「もちろんだ。もう俺はあそこに戻る気はないし、道具は俺の戦闘の武器にもなるからな」













「お前あそこにはもう、戻らないのか?」













「ああ、国に監視されていると分かった以上あそこに住む理由はない」













「国に監視? それは本当か?」













「ああ、前々からおかしいとは思っていたんだ。俺が新しい素材を発見すると、いつの間にか素材がなくなっていたり、あるいは新製品に試作品が出来ると、タイミング良く、国が規制をかけて試作品を没収したりな。だからあの店には何か盗聴器、あるいは盗聴魔法がかけられていて、情報が逐一チェックされていたんだと思う。それで、お前達があの店に来て、鼻毛が、いやリックの鼻毛が激レアだという情報を掴んで鼻毛を没収に、そしてお前達の元にも刺客が送られてきたんだろう」













「そうだったのね。じゃあ私達は他の場所に避難するからまたどこかであったら、よろしくね」













「ちょ、ちょっと待ってくれ。その事で相談があるのだが」













「えっ、何?」













「その、何だ? 俺も仲間に入れてくれないか? 俺は戦闘に関して強くはないが、足を引っ張るほど弱くはない。それに鍛冶屋としてお前達に貢献できるだけの自信はある。だから……」













「ワン!!」













 鍛冶屋が言い終わる前に、フーモがワンと鳴いた。これはフーモが認めたという事だろう。













「フーモが良いって言うのならば、断る理由はないな」













 モッサンが言った。













「ええ、そうね。フーモは人を、そして鼻毛を見る目があるからね」













 とリック。鼻毛を見る目って。まあ、どちらにせよ僕も異論はなかったのでリックの鼻の中から出た僕は、肯定の鼻毛お辞儀を示した。













「全員一致ってわけだ。じゃあよろしくな鍛冶屋」













 モッサンが言うと、鍛冶屋が「あ、ありがとう。感謝している。この恩は必ず返させてもらう」と言った。













「そんなに堅苦しくなるなよ。自然体で良いぜ」













「ありがとう」













 こうして、新たに鍛冶屋の仲間が加わった。




「でも、国から追われているのなら、私達逃げられるのかしら」













「リックさん、そこは大丈夫だと思う。国だって馬鹿じゃない。こんな行為が毎回起こっていたら噂になり、怪しむ民も出てくる。だからしばらくはそれほど心配しなくてもいいかも」













「おいおい、その裏を突いて逆に噂になっても構わないから一気に攻めてくる可能性だって考えられるぞ」













「ワン!」













 モッサンの考えにフーモが同意の吠えを示した。













「そうか。その可能性も確かに否定は出来ない。分かった。用心していこう」













 折角観光出来ると思ったのに、まさかの国が絡んだと思われる鼻毛泥棒との遭遇で観光どころではなくなったので、僕達はまっすぐにリックの弟がいそうなダンジョンへと向かうのであった。レベルがマックスになったらどんな特有魔法を覚えるのか待ちきれなかった僕はレベルを上げるためモンスターを倒すべく、リックの鼻の中から出た。と、そこでリックが鼻を押さえて僕の体、つまり鼻毛を鼻の中へと押し戻した。













 何をするんだ! 僕はそんな気持ちでリックの鼻の中を刺激した。













「ちょっと! 勝手に鼻の中を刺激しないでくれる? そして勝手に私の鼻の中から出てこないでくれる? 私の許可なしに」













 そんな。それは酷い。じゃあ僕はどうやってレベルを上げればいいって言うんだ。













「ねえ。鼻毛たぶんあなたは自身のレベルを上げたいから、私の鼻の中から出て来てモンスターを退治したいのでしょう? 自分の鼻毛だから何となくあなたの気持ちは察する事が出来るわ。でもね。私は嫌なの。ねえ。私は乙女なのよ。分かるかしら。もし仮にあなたが私の鼻の中からでて、地面に着くぐらいの長さで出て、自在に動き回って御覧なさい? 結果はどうなるか分かるわよね。まず私は一生結婚できません。誰かに見られてもしそれを映像か何かに撮られていたとしたら、トラウマ物です。心に傷が残ります」













「おいおい、鼻毛が出ているぐらいで大げさだな」













「モッサンは黙ってて!!」













「お、おおう」













「そしてね。私は全てを投げ出したくなる衝動に駆られるでしょう。もちろん今のこのパーティーからは当然抜けるわ。そして私は勝手な行動をした鼻毛であるあなたに恨みを抱くでしょう。これがどういう事だか分かる? そうあなたを私の鼻の中からぶち抜くのよ」













 僕はそれを聞いてリックは本気だ、と思った。













「だからね。これからは私の許可なしに鼻の中から出てこないで頂戴。でもそれじゃあ、流石にあなたも可哀そうだと思うから提案があるの。寝静まって辺りに明かりなどがない夜になら、ぶらっと出て来ても良いわ。でもねあまり音を立てないで静かにね。それにあなた多分だけど、鼻毛としてのレベルを上げるのはモンスター退治だけじゃなく、鼻の中の貢献度が経験値として得られると思うの。ねえ当たっている?」













 その通りだ。流石鼻毛の寄生主のリックだ。僕の気持ちも以心伝心しているようだ。













 僕は鼻の中で正解的な感じでとんとんと鼻の中を叩いた。













「これは合っているという事よね」













 僕は再びとんとんと鼻の中を刺激した。













「やっぱりね。じゃあ、これで決まりに普段は私の鼻の中の掃除とウイルス、花粉とかからの侵入を阻止して、鼻毛としての貢献度を高めて経験値を上げて頂戴。そして誰もいない夜にたまに出て来て息抜きをして頂戴。夜にモンスターと遭遇した場合は、例外で戦っても良いわ」













 はあっ。何だか居心地が悪い鼻の中だなあ。いや、鼻の中、手入れはされているから、住みやすさではダントツ良いんだけど、精神的な居心地が悪いって話だ。でも納得せざるを得ない僕は肯定の意味で鼻の中を刺激した。早くテレパシーとか、透明になれる魔法とか覚えればいいのになあ。そういえばリックはどんな能力あるいは魔法を使えるのだろうか。リックが使える能力はレベルが上がれば僕も使えるようになるのだから。













「さあ、行きましょう」













「おいリック。もうすぐ暗くなるぞ。どこか宿屋を探した方が良いんじゃないか?」













「それは危険よ。まだ狙われている可能性があるから。大丈夫心配しないで。私は辺りを照らすライトの魔法が使えるから。私達兎族は穴の中でひっそり暮らしているでしょう? ライトの魔法は必須なのよ」













 何と、リックはライトの魔法が使えるのか。という事は鼻毛の僕もレベルが上がればライトの魔法が使えるっていう事だ。それだけでリックの鼻毛になったかいがあったってもんだ。夜暗く寂しい時に鼻の中でライトの魔法を使えば何だか安心して寝られそうだ。僕前世じゃ真っ暗な部屋じゃ寝れなかったから。













 少し居心地が悪いなとか思った事を一気に吹き飛ばしたリックの言葉だった。




「なあ、今の話で思ったんだけどリックは他にどんな魔法が使えるんだ?」













 ナイスモッサン! 僕が聞きたかった質問を聞いてくれた。流石、元僕の寄生主。













「私の使える魔法? 魔法はライトだけよ。でも他にも特殊能力があるの」













「ほう。教えてくれ」













「そうね。隠すような能力じゃないし、それに仲間だしね」













 リックの口から仲間という言葉を聞くと何だか嬉しくなる。伝説の兎族が僕達の事を、人間と鼻毛と犬いや、狼の事を仲間だと言っているんだから。













「それは嬉しいな。俺も皆をかけがえのない仲間だと思っている」













 モッサンの口からも仲間という言葉が出て、何だか不思議な気がしたけど、当然だが悪い気分ではなかった。













「ええ、嬉しいわ。それで私の他の能力はね。穴掘りよ。後は自然と共に生きる私達は自然の力を借りて辺りの空気を僅かだけど浄化する事が出来るの。後はそうね……周囲の景色に溶け込む事が得意かな」













 やった。それが本当なら僕のレベルが上がれば穴掘りと空気清浄、それと念願の姿隠しが可能かもしれない。穴掘りと空気清浄は今の所用途は分からないけれど、姿を忍者のように隠す事が出来る能力があればリックも僕が昼間鼻の外へ這い出しても怒らないかもしれない。













 そういう考えに至った僕は何としてでもレベルを上げようと思った。




「でも、ダンジョンへ行くのには詳しい地図がないから道がよく分からないわ」













「それは心配するな。俺がこの辺りで一番近いダンジョンなら知っている」













 鍛冶屋の男が言った。













「なあ、鍛冶屋よ。俺達はお前の名前をまだ知らない。つまりこれから先、仲間として行動を共にするからには、名前をまず教えてもらわないと色々と不便なんだが」













「そ、そうか。まだ名前を名乗っていなかったか。それは失礼した。俺の名前はフェイザーって言う。よろしくな」













「フェイザー。案外良い名前ね」













「それは、どうもリック」













「で、この一番近くのダンジョンを知っているとの事だけど」













「ああ。だが、近くとは言っても山を越えなければならないから、最低でも現時点の俺達では一週間はかかるだろうな」













「現時点とはどういう事だ?」













 モッサンが鍛冶屋のフェイザーに聞く。













「いや、移動手段、例えば馬車や、車、飛行魔法、あるいは時空間移動魔法、俊足魔法などが使えれば別だが、俺達に今、そのような物は一切ないだろう?」













 何と、この世界には移動にも色々な手段があるのか。













「だが、馬車はともかく車はまず高級すぎて手に入らない。それに時空間魔法も使える物は僅かだ。飛行魔法、俊足魔法も高位の魔法使いでなければ使えない。結局は歩くしかないって事だな」













 モッサンが言う。













「そうね。それか、どこかでドラゴンを見つけて手なずけて、ドラゴンに乗るか」













「それこそ、雲をつかむような話だぞ。ドラゴン何てここ数十年で、見た者はいないとされる今や、絶滅したとも言われている伝説の生き物だからな」













「でも、その伝説の生き物と言われている私がここにいます」













 リックが胸を張って誇らしげに言う。













「確かに。ドラゴンももしかしたら、どこかの奥地でひっそり人間から隠れて生きているのかもしれないな」













「一時はドラゴン狩りが盛んでしたからね。だが、ドラゴンは知性も高い、もし力を合わせて襲い掛かってきたりでもしたら人間が滅んでもおかしくはないような生物でしたから、この今ドラゴンが確認されていない現状もそれは別に悪いと言える状態ではないですけれど」













「だが、それが自然と呼べるのかどうかという話だな。もしドラゴンがどこかに隠れているのだとしたら。ドラゴンは自然に生息し、空を自由に飛んでこそのドラゴンだろう。ひっそりどこかに息を潜めているドラゴンなど、ドラゴン本来の生き方ではない」













「ええ、そうね。もし生きていたとして知性が高いドラゴンが人間を襲う機会をうかがっている可能性も否定は出来ないわね」













「そうかな。俺はドラゴンはそんな姑息な生き物だとは思えないがな。あえて、人間に関わり合いにならないように身を引くのならばともかく」













「そうか。それもそうね。ドラゴンはもしかしたら人間に愛想をつかしてどこかへと隠れたのかもしれないわね」













 そんな感じでダンジョンへと向かう野道で皆の話に鼻毛の耳を傾けていた僕だった。




「今日はこの辺りまでだな。あの木の根元をねぐらにして、野宿をしよう」













「はあっ。そうね。確かに野宿しかないものね」













「ワン!」













 リックの憂鬱そうな言葉とは対照的に嬉しそうに吠えるフーモ。













「どうした? 野宿が好きなのかい? フーモは」













 フェイザーが言うと、フーモは、くるくると近場の地面を回って、喜びを体で表現した。













「多分みんなで一緒に寝れるのが嬉しいんだろうな」と、モッサン。













 ああ、僕だけ会話に参加できないこのジレンマ。早く言葉を覚えたい。と、そんな事を考えていた時、フーモが吠えた。













「うん? 敵か?」













 モッサンが警戒心のある声で言った。僕はまだ夜になっていないから、リックの鼻の中から這い出す事を許可されていない。













「ここは任せて」とフェイザーが言うと、すっと立ち上がり懐から何やら取り出した。それはブーメランだった。













「ブーメランか。使えるのか?」













「モッサン使えなきゃ持っていないよ。俺は実用重視なんでね」













「なるほどね。猪鼠か」













 フェイザーは構えを取り、ブーメランをフーモが吠えた方向へと向けた。













 僕はそっと鼻の穴の入口まで鼻毛を伸ばすと、敵の姿を視認した。見た目は猪、しかし動きが猪突猛進ではなく、ジグザグに動く狙いを定めづらい敵だ。あれは厄介そうな敵だ。













「当たるか?」













「何年鍛冶屋をやっていると思っているんだ? 手元を狂わすようじゃ、家事や失格だぜ」













 言って、フェイザーはブーメランを猪鼠へと向かって放った。













 ブーメランは猪鼠の顔面に見事に直撃し、首を綺麗に切り落とし、フェイザーの手元へと返って来た。













「お見事」













「当然!」













 どうやら今夜の夕食は猪鼠で決まりだな。鼻毛の僕は食べられないけれど。




辺りは夕暮れに包まれ、やがて完全に日が落ちた。













 それまでの間、モッサンの武器を使ってリックが先ほど仕留めた猪鼠の解体を行っていたのだ。













「ほう、慣れた手つきだな」













 フェイザーが言うと、リックは「当然よ」と返した。













「兎族が料理も得意とは意外だな。狩りは上手いというイメージはあるが、足が速い分」













「まあ、人から隠れて暮す民族故、何でも自分で出来るようになる器用さが求められるのよね。少数精鋭ってやつかもね」













「ああ、なるほどね」













 フェイザーが感心して言う。













「ねえ。もう暗くなったから私の鼻の中から出て来ても良いわよ。鼻毛。そして炎でこんがりと、それでいて、ジューシーにでも中は若干レアで焼いてくれるかしら」













 注文の多いご主人様だ事、いやリックは女だから主人ではないけど。まあでも鼻の中から出て良いというお許しを貰ったからそこは良かったな。













 僕はリックの鼻の中から鼻の粘膜を刺激しないようそっと、移動し鼻の外へと抜け出すと、まずは辺りがあまりに暗くて、何が何だかよく分からない状態だったので、近くの乾燥した小枝を拾いそれに『鼻毛ファイアー』で火を点けた。













「ちょ、ちょっと何勝手にたき火してんのよ! 明るくなるじゃない!」













「良いじゃないか。これぐらい。今の所リックの鼻からは鼻毛が出ているようには見受けられないぜ」













「そ、そう? なら別にいいけど」













 そしてたき火による仄かな明かりで、猪鼠の解体された肉が見えたので、僕は鼻毛一本じゃあ肉を焼くのに時間がかかると判断し、王鼻毛の称号で得た、全ての鼻毛を統率する力を使い、リックの鼻毛に召集をかけ、無数の鼻毛をリックの鼻の外へといざなった。そして、その民鼻毛達に全ての解体された肉を持ち上げさせ、王である僕はその肉の下に移動し、下から『鼻毛ファイアー』で一気に肉を加熱した。だがこのままでは肉が余るなとも感じた僕はいつか燻製肉の作り方なども学び、保存食として作れるようになりたいなと思った。













「美味しい! 嘘、鼻毛で焼いて、こんなに美味しくなるとは思わなかった」













「確かにな。炭で焼いた時のような遠赤外線の肉と同じぐらい美味いな。いやもしかしたらそれ以上かも」













「そうですね。全てにおいてパーフェクトです。これは店で金を取れるレベルですよ。しかも行列ができるレベルで」













「ワ、ワワン!」













 皆が一様に褒めてくれて、鼻毛なんだけど、凄い嬉しくなった。と、そしてその瞬間僕のレベルが上がる感覚があった。




 レベルアップで獲得したスキルは『鼻毛穴掘り』だった。













 その名の通り、鼻毛で穴を掘ることが出来るらしい。そして、僕は今思い出したのだが、『独立鼻毛』という鼻毛単体で生きて行けるスキルも獲得していたのだった。やはり鼻毛の性なのか誰かの鼻の中にいないと不安でしょうがないという、気持ちからすっかりとそのスキルの事を忘れていた。だが、このスキルは危険と隣り合わせのもろ刃の剣でもある。吹けば飛んでしまう儚い鼻毛、うっかりするとすぐに仲間とはぐれてしまう恐れがある。やはり、単独での行動はまだ何かない限りするべきではないな、という結論に至った僕だった。













「なあ、リック。お前屋台でも出したらどうだ?」













「屋台って?」













「肉を焼いて売るんだよ。ただそれだけさ。しかも焼くのは鼻毛が良い感じで焼いてくれるから楽だろう? 絶対売れるぞ」













「モッサン、私がそんな事やるわけないでしょう。私は、いや今や私達は皆追われる身なのよ。そんな堂々と人前に出れるわけないじゃない」













「それもそうだな。くそっ。良いアイデアだと思ったんだけどな」













「第一、皆の前で私の鼻の中から鼻毛が出て来て、肉を焼くっていう訳? そんな鼻毛がボーボーの女が焼くお肉何て誰が食べたいと思う?」













「ぬぬぬっ。よ、夜限定で屋台をやればいいじゃないか」













「もう、モッサン私はね。そんな事をしている暇はないのよ。弟を探さなくちゃならないの。もしそれを本気で言っているのなら、私はパーティーから抜けるわ」













「悪かったよ。冗談だ。気にしないでくれ」













「もうっ」













 そんな冗談とも本気とも取れない会話をしながら、やがて皆眠りに就いた。




だけど、さっきのレベルアップは肉を焼いただけだけどそれでも経験値が入るのか。なんか経験値の入り方が良く分からないな。鼻毛としての本質ではない気がするけれど。というか、寄生主の為に何かをする事自体、寄生主が喜びさえすれば経験値は入るのかもしれないな。ならば、今まで経験値の獲得で悩んでいた僕が馬鹿みたいだ。













 僕はリックが寝るのを確認すると、鼻の外へと出て、そしてリックの服に付いた小さなゴミや虫などをそこからリックの体からどかした。これでも今までの経験から考えると経験値は間違いなく入っているはずだ。そして、思った通り僕はすぐにレベルが上がったのを感じた。













 早速、何かスキルあるいは魔法を獲得していないかを確認する。すると『鼻毛虫よけ』という魔法を獲得した。この魔法を使うと、寄生主の周囲十メートルぐらいに虫が近付きにくくなるという魔法らしい。これは野宿する上では必須だな、と思った。やはり寄生主が持っているスキルや魔法と同等あるいはその系列の魔法やスキルを覚えるというのは本当らしい。リックは兎族だから『鼻毛穴掘り』を覚えたし、今回もリックが空気清浄スキルを使えるから、それと同系列っぽい『鼻毛虫よけ』を覚えた。だからそろそろ、覚えてもいいだろう。隠匿系のスキルをそれならば『独立鼻毛』を使わないで寄生主と共にいながら安全に、鼻毛としての役割を全うする事が出来るし、鼻毛である僕が飛ばされる、あるいは地面で草に紛れてはぐれる恐れもなくなる。僕はその夜、徹夜して『鼻毛虫よけ』はあえて使わないで、近寄ってくる虫などの排除をして、経験値を稼いだ。




「ふぁーあ、良く寝た。何でかしら野宿なのに熟睡出来たわ」













「おう、目覚めたかリック。俺も同じ感想だな。一足早く目が覚めたが、俺も熟睡出来た。お前はどうだ? フェイザー」













「ええ、俺も同じですね。しかし不思議ですよ。野宿と言ったら蚊や色々な虫に悩まされて眠れないイメージがありましたが。疲れていたんですかね」













「もしかして、私の鼻毛が寝ずの番をしてくれていたりなんかして」













「ははは。鼻毛の見張りか。おい、それは本当か? 鼻毛。もし本当ならリックの鼻を刺激してみてくれ」













 僕はそう言われて、リックの鼻の中を突こうと思った。しかし、徹夜をして虫の駆除を行った疲れからか、僕の意識は眠気で急に薄れて行き、鼻の中を刺激しモッサンに質問の返事を返す事が出来なかった。













「なっ、鼻毛じゃないって言っただろ」













「そうね」













 そんなモッサンとリックの声が薄れ行く意識の中聞こえ、親の心、子知らずならぬ、鼻毛の心、宿主知らずと僕は思って意識がそこで落ちた。













 目が覚めた時には既に皆、旅を再開し歩き始めていた。













「まだまだ、かかりそうだな。ダンジョンまでは」













「そうですね。山を越えなければダンジョンはありませんから。そしてまだ山すら見えていないのですから、先は長いですよ」













「モンスターが出てくればまだ退屈凌ぎにはなりそうだけど、モンスターがいる気配もないしね」













「リック、モンスターが出る事を期待しない方が良いですよ。むしろ出ないに越した事はありませんから」













「そう? だってレベル上げたいじゃない。より強くなった方が自分の身を守れるし」













「そうなのですが、積極的にモンスターと戦うことを願っているといつか、危険を晒す事になりますよ。いつ強い敵と遭遇してもおかしくはないのですから。……ほら、あのように」













 フェイザーが首で示した方向を見ると、溢れんばかりのモンスターの大群を遥か彼方先に確認する事が出来た。




「流石にあの数は多すぎるな。逃げよう」













「そうね。モッサン。あれは相手に出来る数じゃないわ」













 モッサンとリックが言って、前方にいる敵に背を向け逃げようとした時「嘘だろ」と鍛冶屋のフェイザーの声を震わしたかのような声が聞こえた。













「グルルルルッ」













 フーモも気が立っているようだ。僕はどんな感じなのかを『幽体鼻毛』で幽体離脱して確認した。













 囲まれていた。敵に四方八方逃げ道がないほどに。













「これはまずいな」













 楽観的なモッサンですら、焦りの声を出す。













 敵の情報をスキルで確認すると、一匹一匹は大したことがない敵だ。丸い体にトゲトゲが付いていて、転がり体当たりをしてくるモンスター、しかしその数が尋常じゃない。数百体はいる。しかもどうやら連携するようで、横と縦の動きを混ぜ、連携して攻撃してくるようだ。













 僕はこれはマズイ、とは思わず逆にチャンスだと思った。これだけの数の敵を倒す事が出来れば、レベルが飛躍的に上がるのではないだろうか、と思ったのだ。













 僕はリックの鼻の中を刺激した。













「ちょ、何よ。何なのよ」













 僕は再度リックの鼻を突く。













「何? もしかして鼻毛、モンスターと戦うっていう訳?」













 僕は肯定の意を示す粘膜刺激をした。













「何だって? 鼻毛の奴。やるつもりか? このモンスターの大群と」













「うん。鼻毛はそうしたいみたい。どうする?」













「どうするも何も、逃げる事はどうみても不可能でしょう。やるしかありませんね」とフェイザー。













「しょうがないわね。昼間だけれど、生きるか死ぬかのこの事態、今回だけは特別に目をつぶってあげる。出てきなさい。鼻毛」













 僕はリックの許可が下りたので鼻の中から、民鼻毛と共に全ての鼻毛を支配し鼻の外へと誘導した。













「ほう、中々立派な鼻毛だな」













「ねえ、モッサン。それはセクハラって言うのよ」













「すまない。今後気を付ける」













「じゃあ、行きましょうか。でもどう戦うつもりなの? 鼻毛は」













 僕には考えがあった。モッサンの剣を一つ借りて、剣で戦うのでは効率が悪すぎる。だから無数の鼻毛を、地面の前後左右に伸ばし這わせ、敵が鼻毛の上を通った瞬間『鼻毛ファイアー』で焼き尽くすという一網打尽の考えた。













 僕が全方向の地面に粘菌の成長のように鼻毛を這わせ、そして襲い掛かって来た敵が鼻毛の上を踏んだ瞬間、『鼻毛ファイアー』で焼き尽くした。













「凄い、こんな事も出来るのですね」













 フェイザーは感心しっぱなしだ。













「ここは俺達の出番はなさそうだな」













「そうね。鼻毛を踏んだら、逆に私達が鼻毛に焼かれてしまうかもしれないものね」













「ガウガウ、ガウー」













 フーモは戦いたくてしょうがないようだ。でも今回だけは僕に任せてくれ。













 そして、一時間後には全てのトゲトゲモンスター、峠付近に出没するモンスターの本当の名前は『トゲ峠』を壊滅する事に成功した。と、同時にレベルアップを感じたので、ステータスを確認した。




新たに獲得したスキルを見て僕は喜んだ。遂に念願の一つだったスキルを獲得したのだ。スキル名『透明鼻毛』このスキルを使うと、鼻毛を透明化する事が出来るとの事だった。これはどういう事かというと、つまり常にリックの鼻の外に出ていてもリックの鼻毛が出ている事に誰も気づかないので日中でも鼻毛出し放題という夢のスキルだ。そして、『独立鼻毛』で鼻毛単体で行動したとしてもこの『透明鼻毛』を使う事で、隠密に鼻毛として一人歩きする事が可能となった。













 僕は早速そのスキルを獲得した事を報告する為に、リックの鼻の外に出ている鼻毛伸び放題みたいな『鼻毛伸ばし』スキルの最中に『透明鼻毛』のスキルを合わせた。すると、僕の体が徐々に透明化して行った。













「な、何これ? 私の鼻毛が薄くなっている?」













「違うリック、良く見てみるんだ。これは鼻毛が透明化して行っているんだ。多分鼻毛の奴、新たなスキルを獲得したんだろう。そうだろう? 鼻毛」













 僕はモッサンの言葉を聞いて、その通りと返事をする代わりに透明になった鼻毛を使って地面に丸を書いた。













「何この丸。もしかしてその通りっていう合図かしら」













「多分そうだろう。合っているのなら、再び地面に丸を書いてくれ」













 僕は再び地面に丸を鼻毛で書いた。













「やはりな。どうやら本当に鼻毛を透明化出来るスキルを獲得したらしい。なあリック。これでお前が鼻毛問題で悩む必要はなくなったな」













「ええ、見た目的にはそうね。でもやっぱりまだ問題はあるわ?」













「まだあるのか? 例えばどんなだ」













「常に鼻毛が伸びている状態だと、足に引っかかったりして躓いたり、道行く人とすれ違ったりした時、鼻毛がぶつかって下手すれば怪我をするわ」













「ああ、確かに。店で商品にぶつかったりしたら、商品を落としたり傷つけたりして弁償しなくてはいけなくなるかもしれないから、厄介だな」













「そうなのよ」













「よし、じゃあこういうのはどうだ? 町中では鼻毛は外に基本出ない。でも道中では基本自由に出てもいいというのは」













「それなら別に……」













 リックのお許しが出て、僕は嬉しくなった。













「そういう事だ。良かったな鼻毛。それもこれもお前がこのモンスター達を倒してくれたからだ。スキルも覚えてな。それに俺達の命を救ってくれたしな」













「そうね。本来だったらば透明化しても自由に鼻の外に出られると、何だか家から逃げ出したペットみたいな感覚に不安感がありそうだから、嫌だったけど、命の恩人だからね。鼻毛は。ありがとう」













 まさかリックに礼を言われるとは。リックの鼻毛になって初めて本当にリックの鼻毛として貢献したような気分に僕はなった。




 山の頂上に着くと、辺り一面には湖の景色が広がっていた。













「凄いな。何て壮大な美しい景色なんだ」













「本当。聞いた事はあるけどまさかこんなに美し景色だったなんて……」













「俺は小さい時に親と旅行で湖にピクニックに行ったことがあるけど、大人になってから見るとまた違う景色に見えるな」













「フェイザーここに来たことあるの? だって今は観光客なんて誰もいないじゃない」













「俺が小さい時は、この辺りはモンスターはほとんどいなくて、安全だったからな。それがダンジョンが出来た影響からかモンスターが徐々に増え始めたんだよ」













「そうだったのね。それにしてもこの景色が開放されていないなんて、なんて人生の損なの! 絶対にダンジョンを攻略してここを安全地帯に戻そうね」













「いや、リックお前、弟を探しに来たんじゃなかったのか?」













「そ、そうだけど。それとついでにダンジョン攻略も出来ればした方がいいじゃない。宝箱に良いアイテムが入っているかもしれないし。フーモみたいな激レアモンスターにも出あえるかもしれないし」













「いや、俺はフーモがいれば仲間はモンスター仲間はもういらないな」













「ワン!」













「いや、仲間にするとかしないとか関係なしに激レアモンスターに出会いたくない? 賞金稼ぎの面でも」













「まあ、それはそうだ」













「そしてついでに仲間に出来れば仲間にしたいし」













「やっぱ仲間にしたいんじゃねえか」













「く~ん」













 フーモがどこか哀しそうに鳴いた。













「ち、違うのよ。フーモ。仲間はたくさんいた方が旅は楽しいじゃない。それにもしかしたら同じモフ蔵仲間がダンジョンにいて、フーモと仲良くなってもし女の子ならフーモの恋人ひいていは奥さんになるかもしれないじゃない! ねっ、そうでしょ?」













「ワ? ワン! ワワン!」













 フーモの急速な感情の変化に僕は苦笑したが、それも含めて可愛いなと鼻毛の僕は思った。





























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