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鼻毛続きの続きの続き。
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そして、いよいよ目的地のダンジョンに到着した。
「いるかしら。ここに私の弟が」
「いるかどうかは入ってみないと分からないだろ」
「そうね。モッサン。考えてみてもしょうがないわね。その為に来たって言うのに……」
皆で弟探しを始めて一つ目のダンジョンだ。だけど、安心は出来ない。ダンジョンってのは何があるか分からないので一瞬たりとも油断は禁物なのだ。それは過去の歴史が物語っている。有名な勇者だって、床に仕掛けれられた毒針で死んだなんて話もあるぐらいだ。慎重に慎重を重ねても、まだ足りないぐらいだ。
「何だか凄い臭いね。何だか腐敗臭のような」
「そうか?」
モッサンが言ったけど、僕は単にモッサンの鼻が詰まっているだけだと思った。
鼻の中から洞窟の様子を窺う、天井から水が垂れるぽたぽたという音と仲間の靴音だけが、洞窟内に響き渡る。
「静かすぎるよな」
鍛冶屋のフェイザーが言った。
と、その時洞窟の先から赤く光るモンスターの目を見つけた。そしてそれが近づいて来た時、リックが声を上げた。
「嘘でしょ! 魔獣よ!」
魔獣。それは噂には聞いた事がある、魔界に住むとされる生き物だった。
「何でこんな所に魔獣がいるの?」
リックが驚いている。
「確かにあいつは普通ダンジョンなんかにはいない魔獣ですね。ですがあいつはあまり強くない奴です。心配はいりませんよ」
フェイザーが言う。
それを聞いた僕はリックの鼻の中を刺激して、僕がやる、との意思表示をした。
「だ、大丈夫なの? 鼻毛……」
「どうした? 鼻毛がやると言っているのか?」
会話に入って来たのはモッサンだ。
「ええ、そうみたい。でもあいつをどうやるつもりかしら」
僕には考えがあった、透明鼻毛のスキルを使って透明になり、更に民鼻毛の皆を使って透明化した鼻毛達による一斉攻撃だ。あるいはよけられた時は投網のように捕縛に切り替えるBプランもある。
僕はそっと鼻の中から抜け出し、魔獣へとにじりより、そして従えた透明化した民鼻毛と共に魔獣を一斉攻撃した。
「ギャー!!」
断末魔の声を上げて、魔獣は死んだ。魔獣の体からは至る所から鼻毛によって開けられた穴によって血がピューピューと噴き出している。
「す、すごい怖いのだけれど」
リックが青白い顔で言う。
「確かにこの光景だけ見ればなんかの病気で死んだみたいで怖いですね。ですが俺達はそうではないと知っています。鼻毛の攻撃は透明化されていたので見えなかったのですが、それでもやっぱり只者じゃないですね。只鼻毛じゃないですね。彼は」
「彼で良いのか? 彼女ではないのか?」
「鼻毛に性別なんてあるわけないでしょ」
リックが呆れたように言う。
そして倒した魔獣を袋に回収した僕達はこの先進むべきかどうか悩んだ。
「どうするこの先」
モッサンが言う。だが、別に不安だから聞いているのではなさそうだった。ただ単に仲間に確認を取る意味だったと思う。
「どうもこうも、先に進むしかないでしょう。弟がいるかもしれないんだから」
「お前は? フェイザー」
「俺も進むべきだと思う。どの道追われている身なんだから、どこに行こうと一緒だ。引き返して捕まる可能性と先に進んで死ぬ可能性。しかし捕まったら国家反逆罪で一生牢獄の可能性もあるから、それならば進んで死んだ方が良いな俺は」
「お前は、フーモ」
「ワ、ワン!」
「そうか、お前も進む道を取るか」
いや、今のワ、ワンで分かるのかよ。犬語を喋れるのかよ。モッサン。だけど、皆の意見は決まった。
僕は鼻の中から出て、鼻毛お辞儀をしたから肯定の意志を示した。
「そうか、俺ももちろん進むべきだと思っていたから進むか。魔獣がこんな低階層にいるって事は、もしかしたらゲボス並みのあるいはもっと強いボスがいる可能性もあるけど覚悟は良いな!」
皆、モッサンの言葉に気合いの言葉で答えた。
そして、地下二階層へと突入した。
と、ここで僕はさっき魔獣を倒した時にレベルが上がっていたので、ステータスを確認した。すると『鼻毛飛ばし』というスキルを覚えていた。
内容は鼻毛の先端を針のようにして飛ばす事が出来るというスキルだった。
僕はそれを見て新たなる技を閃いた。それは鼻毛ファイアーで燃やしている鼻毛の先端を飛ばす事で、火を纏った鼻毛を相手へと放つ事が出来ると思ったのだ。しかし今はそれを練習しているような状況じゃないので、その試みはまた今度やろうと思う。リックの確認をとって。
リックに鼻毛移動して正解だった。兎族というレアな伝説民族故に、覚えるスキルも聞いた事のないレア物ばかりだ。いや鼻毛の僕が覚えるスキルは全てレアか……。
地下階層を進んで行く。二階以降は魔獣などのモンスターは出てこないでゴブリンやら、オークやらが出てきたけど、そいつらは僕達の戦力からすれば瞬殺レベルだ。しかし、ゴブリンには知性の高いゴブリンや特殊魔法を使うゴブリンがいるって聞いた事があるから油断は禁物だ。
やっぱり油断しないで良かった。
僕達一行が洞窟を曲がった瞬間、大爆発が起こったのだ。
間一髪フーモが危険を察知して僕達に知らせてくれたおかげで皆助かったけど、その爆発でフーモは重傷を負ってしまった。
「くーん。くーん」
「だ、大丈夫か。フーモ」
モッサンがフーモをぺろぺろしながら言った。あんたやめてくれよ。
「ちょ、ちょっとあいつゴブリンじゃない? ゴブリンが魔法を使ったわよ」
「本当だ。まさか本当に存在するとは。噂には聞いた事があるけど、信じていなかったが」
フェイザーが青ざめた表情で言った。
目の前にはたいまつを持ったゴブリン集団。しかしいつもと違うのは、連携が取れているように見える事だ。普通のゴブリンはただ、空港で飛行機を待つ人間集団みたいに彷徨っている感じだけど、このゴブリンは戦闘のリーダー的ゴブリンを筆頭に、剣を持ったゴブリン。そして杖を持ったゴブリン、白い帽子を被った回復役っぽいゴブリンと陣形を取っているように見えるのだ。
僕はこのままではやられると思った。
戦力としては僕を除いてフーモがチームで最強だろう。しかしそのフーモが負傷してしまった。だからこのままでは全滅してしまうかもしれない。と、僕が思っていると。
「このままでは全滅してしまうわ。ねえ鼻毛、力を貸して!」
まさかのリックからの懇願。決して僕に対して頼みごとをするような人ではないのだが、自分の羞恥よりも優先させるべき事をリックはよく分かっている。
僕は鼻の粘膜を刺激してリックに肯定の意を示した。
僕はスキル、幽体鼻毛を使用して敵の周囲を幽体離脱して探った。
隠れている敵もいたが、その場所も把握した僕はまずは先制攻撃に移る事にした。
『透明鼻毛』を使用しつつ、王鼻毛としての威厳を駆使して、民鼻毛を動かし、リックの全ての鼻毛を鼻の外へと連れ出し、忍び足ならぬ忍び鼻毛で敵の背後へと回り、隠れていたゴブリン達に攻撃を開始した。
「ギャー!」
ゴブリンの断末魔の声で異変に気付いたのか、先頭のゴブリン達が後ろを振り返った。その瞬間を狙って、後ろに回らないで地面で待機していた民鼻毛と、本体の僕自身の鼻毛は透明化したままゴブリンのボスと思しき奴に硬質化して、攻撃を放った。しかし、ゴブリンのボスは僕の、僕達鼻毛の攻撃を気配で察知したのか、受け流した。しかし今までの経験がこちらにはある。攻撃を躱された時はそこから更なる攻撃へと転じればいいのだ。受け流された鼻毛の僕はそのままくるりと腕に巻き付きゴブリンボスを捕縛した。そしてそのまま鼻毛でゴブリンボスの心臓へと鼻毛を突き立てた。だが、固い……。ゴブリンボスの肉体は鼻毛の僕でも貫くことが出来なかった。そして巻き付いた他の民鼻毛達だったが、すぐ隣にいた、魔法使いゴブリンによってすぐさま燃やされてしまい、鼻毛が短くなった。僕は王鼻毛だったので何とか耐える事が出来た。しかしなぜ透明化した民鼻毛を見破ることが出来たのだろうか。たぶん魔法使いゴブリンなので、透明化に気付き、見破ることが出来たのかもしれない。恐るべし魔法使いゴブリン。しかしということは僕の透明化にももちろん気づいているだろうから、僕が次に狙われるのは必然とも言えた。折角捕縛に成功したのに、みすみす逃がしてまたこちらがピンチになるのは不味い。外側が頑丈ならば内部からなら、と僕は思い鼻毛を更に伸ばして、ゴブリンボスの体の中に入った。そして胃の中まで進んだ僕は胃の中で鼻毛ファイヤーを使った。直後ゴブリンボスが悶え苦しんだ。
そしてその事で透明化に気付いていた魔法使いゴブリンが僕を焼こうとして一瞬気を反らした瞬間、モッサンの剣が魔法使いゴブリンの首をはねた。更にフェイザーも疾風の速さで回復薬のゴブリンの体を一刀両断し、兎族のリックは穴を掘ってトンネルを進み、ゴブリンの前に突如として出現し、剣を持ったゴブリンの体にキックをかました。いくら兎族だからってキックが主体だとは思わなかった。しかし、リックのキック攻撃を耐えきったゴブリンはリックを人質に取ってしまった。
「し、しまった。まさか私のキックに耐えるなんて……」
よほどリックはキックに自信があったのか。しかし攻撃に耐えられたらその後は、無防備状態というのは爪が甘いと僕は思った。リックのキックに耐えたゴブリンは強固な肉体を誇っていて、持っている剣も相当に大きい。肉体一本の力技でのし上がってきたゴブリンなのだろうか。僕が倒したボスゴブリンと比較しても体格的には大差はない。だが、リックが人質に取られてしまった以上、対策を考えねばならない。リックが穴に潜ると言ったので、王鼻毛の僕と、民鼻毛は独立鼻毛でリックの鼻の中から独立していたので、僕の今の肉体はゴブリン達の正面にある。だがこのまま先ほど獲得した鼻毛飛ばしのスキルで鼻毛を仮に飛ばしても果たしてゴブリンに当たるかどうか。僕達は一旦独立鼻毛を解除してリックの鼻の中に戻った。そして民鼻毛を操作して、リックの鼻の中から出して、リックを人質に取っているゴブリンの両手両足に巻き付き動きを封じた。そこで僕の出番だ。王鼻毛の僕が硬質化してゴブリンにとどめを刺そうとした時、隠れていたゴブリンが襲い掛かって来た。ちくしょうまだ隠れていたのか。だが僕は先ほど獲得した鼻毛飛ばしのスキルと鼻毛ファイアーを併用して炎を纏った鼻毛をそのゴブリンへと飛ばした。すると火を纏った鼻毛が直撃したゴブリンの一部が焼け体に穴が開いた。炎の火力で肉体を溶かしたのだ。ゴブリンを燃やすと思っていたけど、熱で体を溶かすとは……。見た目的には綺麗だ。しかしゴブリンは死んだ。死んでいる。鼻毛程の小さな穴が体に開いているだけだ。僕は凄まじい技を手に入れたと実感したと同時に戦闘がようやく終わりを告げたのでほっと溜息をついた。
「おい、フーモ。大丈夫か」
モッサンが負傷したフーモに声を掛ける。
「く、くーん」
「可哀そうに。こんなに負傷して」
それはモッサンのフーモ愛から来る大げさな表現ではなさそうだった。なぜならば腹から大量出血していたからだ。
「誰か、誰か医者はいないか!」
モッサンが珍しくうろたえて、こんなダンジョン内にいるはずのない医者に呼びかけた。
「モッサン、少し落ち着いてよ」
「だ、だがフーモが。俺の可愛いワンコが……」
「私、小さい頃回復魔法を習ったことがあるの」
「ほ、本当かリック!」
「ちょっと、話しを最後まで聞きなさいよ。でもね一度たりとも成功した事なかったの」
「何だと?」
「それで、言われた言葉がね。あんたは人の事を心底思って回復魔法を使おうとしていないって。回復魔法自体は一応覚えているの。だけど使えないの」
僕はそれを聞いて、多分確率で発動する魔法、もしくは思いを伴った時に発動する魔法なんじゃないかと推測した。
「それじゃあ、意味がないじゃないか!」
「だから、私はここでもう一度やってみようって思ったの。それしかフーモを救う手だてはないし、私はフーモの事大好きだから」
「なるほどな。だがそれは賭けだぞ。フーモにとってもお前にとってもな。もし成功しなかった場合、フーモは死ぬし、お前の心にも傷痕が残る。今ならフーモをダンジョン外に連れ出せばもしかしたら何とかなるかもしれない」
「ワ、ワン!」
フェイザーの言葉にフーモが吠えた。
「お、お前。リックに任せようっていうのか?」
「ワン!」
「分かった。本人の意志ならば仕方があるまい。任せたぞ。リック!」
「ええ、任せて!」
そう言って、リックは両手を組んで、目をそっと閉じ祈り始めた。
リックが呪文を詠唱すると、フーモの傷口がみるみる塞いで言った。
「すごいじゃないか! リック」
フェイザーが感嘆の声を上げた。
「ありがとうリック」
モッサンの瞳から涙が一粒零れ落ちた。
モッサンがまさか涙を流すとは思ってもみなかった。それほどまでにフーモはもう僕達の仲間だったんだ。いや、もう仲間というより家族みたいなものだったのだ。
「流石に疲れたわ」
言って、リックは背中を壁に預けた。
「今夜はここで泊まろう。もうモンスターの気配はこの階層にはない。だが一応見張りは一人付けて後の皆は体力回復に努めて、明日からまた頑張ろう」
「だけどよ。食料がないぜ」
「食料ならあるじゃないか」
「ま、まさか。ゴブリンか? ぐえー」
「贅沢言うなよ。フェイザー。ゴブリンだって貴重な食料だぜ。まあ確かに臭みはあるけどな。それにこのゴブリン達は俺は見た事ないから、もしかしたら美味しいかもしれないぜ」
「確かにな。モッサン。こいつらは普通のゴブリンとは違ったからな。魔法は使えるし、肉体強化も普通のゴブリンの比ではなかった。となると味も違うかもな」
そんな会話をしていたモッサンとフェイザーだったけど、僕は一人違う事を考えていた。回復魔法、リックが使えるって事は僕にも使える可能性があるって事だ。僕が回復魔法を使えればかなりパーティーは楽になるな。
僕は回復魔法が使えるかもしれないワクワクから早くレベルを上げたいと思った。
「ここは、凄いダンジョンだな。敵が強い奴が多すぎる」
「本当そうね。でも本来ならばこのダンジョンは大したダンジョンじゃないはず。一体何があったのかしら。あるいは何かがこのダンジョンで起きているのかしら」
「そうかもしれない。リック。俺の鍛冶屋としての勘がそう言っている」
「鍛冶屋としての勘ってそれ当てになるの?」
「当然だ。鍛冶屋ってのは勘も大事なんだ。まあ経験による勘もあるけどな」
「直感って事?」
「そうだ。まず何かがいつもと違うと無意識で感じる時、必ず何かが起きる。武器にひずみが生じたり。それと一緒でこのダンジョンは敵が強いけど、それとは別に何か普通のダンジョンとは違う何かを感じるんだ」
「ふーん。信じていないけど」
「それでいい。当たらないのであればそれに越したことはないからな」
そんな会話をしながら、ダンジョンを進んで行き、僕達は着実にレベルを上げて行った。そして僕の欲しかった魔法『回復鼻毛』を手に入れる事が出来た。回復鼻毛は一人の体力を完全回復までは行かないけど、瀕死から、重傷ぐらいまでは回復出来る魔法だ。いずれ上位魔法が手に入れられるかもしれないから、現状では回復鼻毛を手にしただけでも十分満足だった。
「ここがこのダンジョンの最下層か……。何もないな」
「本当ね。ハズレね。フェイザー何もなかったわね」
「そうだな。勘が外れたか。まあその方が良い」
フェイザーが本心なのか、負け惜しみなのかその台詞を言った直後、地面が大きく揺れ地面からモンスターと思しき何かが姿を現そうとしていた。
「キャー! 何? 何?」
「落ち着くんだリック!」
モッサンが慌てふためくリックに声を掛ける。
「皆さん、注意して下さい! これは只の地割れじゃない。モンスターだ!」
「ワ、ワワン!! グルルルルッ」
一体何が出現しようと言うのか……。僕達は固唾を飲んで様子を見守った。
「ド、ドラゴンだと……?」
目の前に現れたのは圧倒的な威圧感を放つ、黒い巨大なドラゴンだった。
「あ……あわわわわっ」
「くっ、足が動かん!」
「俺もだ。モッサン。まさかダンジョンにドラゴンが出現するとは聞いた事がない」
「きゅいーん」
皆、驚きと恐怖で顔から血の気が引いているように見える。それは鼻毛の僕も同じだ。圧倒的な存在感に鼻毛の僕ですら、恐怖を感じる。どうすればいいのか。しかしまずは相手に敵対心があるかどうかを確かめねばならない。ドラゴンは知性が非常に高いと聞いた事があるからだ。だが、それすらも本当かどうかは分からない。それほどまでにドラゴンというのは貴重だからだ。生態には謎が多い。ドラゴンを調教しているのは、聖騎士などの一部で他のドラゴンはどこに住んでいるのかすら分からない。聖騎士などは見つけたドラゴンを倒し、魔法で操っているのかはたまた、知性を生かして飼いならしているのかそれすらも不明であるが、ドラゴンは人間の言語を理解する種もいるという。果たしてこの目の前のドラゴンはどうなのだろうか。一歩間違えば、即、死に繋がる。そんな事を考えていた時、モッサンが言葉を発した。
「お前人間の言葉が分かるか?」
「ニンゲンゴトキガリュウニハナシカケルナ!」
驚いた。まさか本当に人語を理解しているとは。しかもそれだけではない。言葉も喋れるのか竜は。だが、相手の言葉からは人間に対する敵意が感じられる。言葉は通用するが分かり合えるのかはそう簡単ではなさそうだ。
僕はそう思った。
「我に力を示せる者でなければ、話す価値などない」
ドラゴンは語気を強めて言った。
「どうやら戦う運命は避けられそうにないな。残念だが」
「あ、あうぅ。怖いよぅ」
「皆、気合いで負けていたら終わりだぞ。せめて気合いだけでも相手を上回らないと」
「そうわ言ってもな……」
「きゃいぃーん」
震えが止まらない。今僕はリックの鼻の中で震えている。つまり鼻毛震えをしている状態だ。こんな事は鼻毛に転生して今まで一度たりともなかった。普段の時に僕が仮に鼻毛震えをもししたら、リックは鼻がむずむずして痒くなり、くしゃみをしてしまうだろう。しかしリックは目の前のドラゴンに対峙した事による恐怖からなのか、全くそのような様子はない。気持ちは分かる。僕もそうだからだ。しかしこのままでは、気圧されて負けてしまうのは必然。どうにかしなければ。ドラゴンだって生き物。そしてこの状態で何とか出来るのは、体が小さい鼻毛の僕だけなのかもしれない。まさか知性の高いドラゴンだって鼻毛が意識を持っているなんて思いもしないだろうから。僕が考えた攻撃方法はまず第一にリックの鼻の外へとにゅっと民鼻毛と共に這い出て、ドラゴンの目を狙って、スキル『鼻毛飛ばし』をする事だ。鼻毛ファイアーとの併用であれば相手の目を失明に追いやる事が出来るが、炎を纏った鼻毛だとドラゴンに明かりで感づかれ、手や尾で薙ぎ払われ、攻撃が無効化されてしまう恐れがある。そうなれば全てが終わりだ。先制攻撃は失敗し、ドラゴンは怒り狂うだろう。そうなったらもう誰にも止めらえない。だから鼻毛ファイアーは纏わないただの鼻毛飛ばしをする事に決めた。それでも目に命中すれば、ダメージは確実に与えられるだろう。
鼻毛の王である僕は民であるリックの無数の鼻毛を引き連れて、鼻の外へとそっと出て、鼻毛飛ばしを打ち放った。
「痛っ。目に何か入った。ゴミかな」
ドラゴンが言った。
嘘だろ? 僕の鼻毛攻撃が全く効かなかった。いや痛いと言わせることは出来たのだがゴミ扱いだ。まさか鼻毛飛ばしがその程度しか効かないとは予想外だった。僕の鼻毛飛ばしは岩に突き刺さる程の威力のはず。これでは先制攻撃にはならない。
「えっ、もしかして鼻毛、今攻撃した?」
ば、馬鹿。リック。思っていても口に出すな。
「今、何て言った? 我に攻撃したと申したか?」
「言ってないわ。鼻毛がむずむずしたっていう事よ。ただそれだけの状況説明よ」
「ふんっ。まあそんな事はどうでもいい。どの道聞くだけ意味がない。さあ始めようじゃないか。戦いを」
ただの鼻毛飛ばしが効かないのであれば、鼻毛ファイアーを纏うしかない。しかしそれでは防がれてしまう恐れがある。どうすれば……。僕はステータスを開き、確認した。するとそこにはメンソールの魔法があった。そうかメンソールの魔法を使いすーぅっとした状態で鼻毛飛ばしをすれば、メンソールを纏った鼻毛を飛ばす事が出来るかもしれない。一か八かに掛けてみるしかないな。
僕はメンソールの魔法を使用した瞬間鼻毛飛ばしをして、ドラゴンの両目へと放った。
「目が、目が痛い。涙が出てくる。つんと来る!」
良し、効いた。今だ皆ドラゴンがひるんだ隙に一気に攻撃をするんだ!
僕はリックの鼻の中を刺激して戦闘の合図だという事を知らせた。
「えっ、もしかして鼻毛が先制攻撃を成功させたの? 分かったわ。戦闘開始ね! 皆! 一斉攻撃よ!」
「了解だ!」
「よし!」
「ワン!」
モッサンとフェイザーは武器を取り出し、フーモは壁を走り、リックは地面を掘り穴を潜り、僕は独立鼻毛でリックの鼻から離脱して、皆各々散ってドラゴンへの攻撃を開始した。
僕は『鼻毛伸ばし』と『硬質化』を合わせ、ドラゴンの体をぐるぐると鼻毛で縛った。
「我の身に一体何が起きていると言うのか……皆目見当もつかない」
ドラゴンはどこか放心状態で言った。まあこのドラゴンは口調から推測するに自分の力に絶対的な自信を持っていて、自分が攻撃された事などないようだから、自分が攻撃を受けている今自身の状況を頭が受け入れられない、分かっていない状態なのかもしれない。
「チャンスよ! チャンス!」
穴を掘っていたリックはドラゴンの後ろに出て、背後からドロップキックをかました。
「おらおら」
モッサンとフェイザーはドラゴンの腹を連続攻撃で切りつけている。
フーモはドラゴンの頭に噛みつき攻撃をして、もがいているドラゴンはフーモを振り払おうと必死だ。
ドラゴンをぐるぐる巻きにしている僕は先端に鼻毛ファイアーで火を纏った鼻毛をドラゴンへと突き差した。
「ぐおぉおおお! 痛い。これが痛みか!」
何だか面白い反応だ。今まで敵の攻撃による痛みを経験した事がなかったのだろう。言葉には驚きと同時にドラゴンの楽しさみたいなのも混じっているように見受けられる。一歩間違えば違う道に行きそうな感じもありそうだ。しかしそんなどうでもいい推測はこの緊迫した現在には考える事は無用。僕達はどんどんと攻撃を繰り出した。
「ぐぅううう! 参った……」
やがてドラゴンはそう呟いた。
「えっ、勝ったの?」
リックが驚きの声を上げた。
「どうやらそのようだな。しかし……全く勝った気がしないが」
モッサンが言うのも頷ける。なぜならば目の前のドラゴンはほぼ無傷だからだ。それなのに今や何の抵抗もなくぐったりとしている。
「俺達が勝ったのか。だが、ドラゴン。答えられるのであれば答えて欲しい。なぜそんなにも簡単に負けを認めるのか」
「そんなの決まっているではないか。我は今まで生まれてから一度も敵によって傷つけられたことがない。しかし、汝らは我の腹の表皮を薄く破り、背後キックでは泥を付け、頭齧りでは皮膚が赤くなった。更になんか毛のような攻撃で我は自身の血を見た。これは敵の攻撃では初めてだ」
なるほど。敵に傷つけられた事が全くなかった、これからもないと思っていた相手からの初めての傷でドラゴンはショックを受けたと同時に、僕達を認めたのか。でも本当にノーダメージだよね。血だって僕の攻撃でちょっとチクッとさせただけだし。まあ血を流させたのは僕だけだけど。
「ふ、ふざけるな。そんな事で負けを認めるとは。男児としてあるまじき精神!」
モッサンが怒る。
「ふざけるな! だと?」
ドラゴンは鼻毛で縛っていた体を動かし、鼻毛をぶち切った。その事で僕のHPが半分に減った。
「う、嘘……でしょ。簡単に鼻毛の束縛から抜け出した?」
「こんなのは抜け出せるのは容易い。そんな事は問題ではない。お前達が俺の体に傷をつけた事。それだけが問題なのだ。なぜ、こんな下等生物だと思っていた奴らが我の体に傷をつけれたのか」
「思っていたっていう事は、今は下等生物だとは思っていないって言う事?」
「今は……な。実に興味深い人間共だ。いや兎族と犬もいるな」
「私の事を知っているの?」
「ウサ耳がぴょんってあって更に穴を潜る種族、それは兎族以外に考えらえない」
「ガウガウ!!」
「何だ犬。何を怒っている」
「そいつは犬じゃねえよ。伝説のモンスターモフ蔵のフーモだ」
「何と、そいつはモフ蔵か。我と同じ世間では伝説と呼ばれている。しかし懐かないはずの狼、モフ蔵が何故人間の仲間に。実に興味深い」
「きゃいんきゃいん。くーん。くーん」
フーモが仲間全員の周りを回り、尻尾をフリフリさせた。
「ぐううっ。信じられん光景だ。まるで幻覚を見ているようだ。しかし目を背けてはいけないな。これは事実だ。そして最後に聞きたい事がある。兎族の女よ。汝の攻撃、特に鼻の中からの得体の知れない攻撃、実に見事であった。良ければそなたの鼻の中からの攻撃について聞かせてはくれないか」
「わ、私の鼻の中? ……いいわ。教えてあげる。それはね。鼻毛がやったのよ」
ドラゴンは初めて戸惑いの表情をした後、天を仰ぐように視線を洞窟の天井へと向けた。
「鼻毛がやった。意味が分からないな。我がおかしいのか。それともお前が兎族だからなのか。もう一度我に丁寧に教えろ」
「教えて欲しい立場なのにどうして命令形なの?」
「黙れ! まだ我がお前達の全てを受け入れたわけではない」
「ひっ!」
「おいドラゴン! リックを怯えさせるなよ。いくらお前の方が力があるとは言え、自ら負けを認めたんだろう。だったら威圧的になるのは筋違いじゃないか」
「確かにな。人間」
「俺は人間って名前じゃない。モッサンだ」
「ふんっ。分かったモッサン。威圧的な態度は改めよう。では改めてそこの女に聞く」
「お、女じゃない。リックよ」
「リック。では詳しく教えてくれ」
「分かったわ。私の鼻の中から攻撃したのは私の鼻毛なのよ」
「ほうっ。それはお前の特殊能力か何かなのか?」
「違うわよ。私の鼻毛に勝手に乗り移ったのよ」
「寄生という事か? ではお前の鼻毛は敵なのか? 敵であるのならば、我が炎でお前の鼻毛を焼き尽くそうぞ」
「ちょっ、話しを最後まで聞きなさいよ。私の中にいる鼻毛、最初は勝手に私の中に移動したわ」
「移動した? つまり移動能力を持った鼻毛という事か」
「うん。どうやらそうみたい。最初はそこのモッサンの鼻毛として活躍していたわ。そしてボスのゲボスと対決した時に私達がやられそうになった事で、ゲボスの鼻毛に移動したの」
「なるほど」
「鼻毛には意志がちゃんとあって、私達と私の鼻の中を刺激する事を通して意思疎通も交わす事が出来るわ」
「信じられん」
「そうでしょうね。私だって最初は信じられなかったわ。でもね。事実なの。ねえ、鼻毛。事実だと証明する為に私の鼻の中から出て来て挨拶して頂戴」
僕はリックから出て来て挨拶をしろと言われたので、リックの鼻の中からぬっと出た。
「信じられん。本当に鼻毛が出てきた。しかしそれだけではその鼻毛がリックの意志ではないという証明にはならん」
「そうね。言葉を喋る事が出来ないから証明とかは出来ないけれど。これで鼻毛攻撃については事実だと分かった?」
「ああ、疑ってすまなかった」
僕はリックの鼻の外へと出た後、スキル『独立鼻毛』を使用して一人鼻毛になって地面に降り立った。
「な、何だ? どうして鼻毛が地面に降り立った?」
「どうやら、この鼻毛敵を倒したりすると私達と同じく経験値を獲得出来る鼻毛みたい。そしてレベルアップした鼻毛が獲得したスキルがどうやら鼻毛単体として独立出来る能力のようなの」
「ますます頭が混乱して来たぞ。しかし鼻毛とやら、もしお主が本当に自分の意志で動けるのなら我に何か能力をいくつか見せて欲しい」
僕はドラゴンに言われたので地面に〇を書いてオッケーの意志を示した。
「驚いた。我の言葉に反応している……本当に鼻毛に意志が存在しているというのか……」
僕は鼻毛ファイアーで洞窟内に炎を放ち、直後鼻毛伸ばしで鼻毛を伸ばし、鼻毛飛ばしで転がっていた岩を砕いた。最後に透明になった。
「……もはや言葉が浮かばん。この世界の全ての価値観がひっくり返ったような衝撃だ。しかしその鼻毛、特殊故敵も多いのではないか?」
「ど、どうして分かったの? 私達今現在。現在進行形で国に追われている最中なのよ!」
「国に追われている? くっくっく。がっはっは」
突如としてドラゴンが大笑いをし始めた。その笑いっぷりは笑っただけで洞窟が崩れそうな豪快な笑いだった。
「ちょ、ちょっとやめてくれよ。ダンジョンが崩壊してしまうよ」
フェイザーが情けない声を上げる。
「くーん。くーん」
フーモもどこか怯えている。
「すまない、すまない。だが最高に面白い奴らだなお前等。我は人間が嫌いだ。なぜならば人間はドラゴンを見つけると全て敵だと思い込むか、あるいは軍事目的として利用しようとするだけだ。だがお前等はどうやらそいつら人間とは違うようだ。我は人間に捕えられた他のドラゴン達を救出したいだけなのだ」
「他のドラゴンを救出? じゃあやっぱり聖騎士達はドラゴンを操っているのね」
「当然だ。もともとドラゴンは誰かに操られる事を激しく嫌う。人間ごときが飼いならせる生物ではないのよ。我は見たんだ。他のドラゴンが道具で無理やりドラゴンの意志を奪うのをな!」
ドラゴンの顔には怒りが滲み出ていた。
「そう言う事ね。確かにあんたの怒りは分からないでもないわ」
「そこで提案がある」
「提案? あんまり良い予感はしないんだが……」
「我もお前達の旅に連れて行って欲しい」
「「「はあぁあああ??」」」「ワオーン」
フェイザーがダンジョン全ての階に響きそうな声で叫び、フーモは雄たけびを上げ、鼻毛の僕はびっくりしてリックの鼻の中に戻った。
「いや、ドラゴンが仲間って。確かに戦力として考えればこれ以上ない戦力だけれど。でも一緒に行動する事を考えれば更に狙われる条件が増えるだけで」
「ドラゴン。冗談じゃないよな」
「我が冗談などいうと思うか。この誇り高きドラゴンが」
「どっちが良いんだろうか。おいフェイザーどう思う?」
「俺はドラゴンがいても良いと思う。元々ドラゴンが本気を出していたら俺達はやられていた。ある意味助けられた身でもあるんだから」
「それは言えているな。簡単に鼻毛の束縛から逃れられ、俺達の攻撃がほぼ無効だった事もあるし。それは否定はしない。だが、この先待ち受けているであろう困難を考えるとそう簡単に結論も出せないとも思う」
「それは心配するな」
ドラゴンが低い声で言った。
「それはどうしてだ?」
「ふん。お前達はドラゴンというこの姿で人々の前に姿を現す事を恐れているのであろう」
「そりゃあそうだろう。人間に狙われるぞ。お前だけでなく俺達も」
「我を何だと思っている。伝説の生き物、知性も肉体も人間の常識の範疇を超えておるわ」
言ってドラゴンは呪文のような言葉を唱え始めた。
「何をする気だドラゴン」
ドラゴンの行動に僕達に緊張のような空気が流れた。
「黙って見ていろ。お前達に危害を加える気などないわ」
そして、ドラゴンが呪文を唱え終わった直後、ドラゴンの体に異変が、変化が起き始めた。
骨格がミシミシと音を立て、肉体が折りたたまれるように、あるいは圧縮されるように縮み始めたのだ。そして、変化から数十秒後、ドラゴンの体は人間の体へと変わっていた。
「体が変化した? そんな馬鹿な」
「ふんっ。人間と言うのはドラゴンについてはまだ何も知らないようだな。我々ドラゴンは長寿であり、高い知性も兼ね備えておる。ただ大きいだけでここまで繁栄出来たとでも思っていたのか? 人間の想像などとうに超えた存在だ」
「確かにドラゴンが人間に変身出来るなんて誰も思わないだろう。ドラゴンが見つからない理由の一つとしてそれもあるのか」
「そう言う事だ。この状態で死ぬとドラゴンに戻るわけではなく人間の姿のままで死を迎える事になる。だからドラゴンが発見される事はまあないだろう。血すらも人間に偽装出来るしな」
「そうか。だが、人間の想像を超えた存在ならばドラゴン以外にもいるぞ」
「ほう。それは一体誰だ?」
「分かるだろ。鼻毛だよ。鼻毛なのに意志を持ち、様々な能力を獲得しレベルアップもする。こんな存在他にどこにいるだろうか。もしかしたらお前以上の存在になり得る可能性を秘めていると言っても過言ではないぞ。そこの鼻毛は」
「笑止! いくら意志を持とうと、能力を獲得しようと所詮は鼻毛、我々ドラゴンに敵うはずはない。それは我が鼻毛による束縛を破った事で証明したではないか。確かに我に傷をつけた事で我は敗北を認めた。しかし、だからと言って、完全敗北というわけではない。勝負としては一旦負けにしておこうとそう言う事だ。我のプライドを傷つけた事による精神的な価値であり、勝負としての勝ちではないという事を言っておこう」
「あんた。ドラゴンの癖に潔くないな。プライドを傷つけられた事による負けであろうとそうでなかろうと、負けは負けなんだろう?」
「う、うむ。確かに。それに我はお前達とこれから仲間としてやっていきたいと思っておる。今までの無礼な態度は許して欲しい。我は今まで一度たりとも人間と対話などした事ないのだからな」
「一度も?」
リックが驚く。
「まあな。知識として人間がいかに醜悪か、狡猾かというのは学んでいたが。対話は初めてだ」
「じゃあ、このダンジョンから出たことはないの?」
「いや、ある。人間の姿になり人間界を散歩した事はある。しかし話をするのは初めてだ」
「寂しくなかったの?」
「寂しいか。我らドラゴンは孤高の種族の為、そのような感情は今一理解出来ないな」
「ふーん。可哀そうね」
「リック、それは違うぞ。何でも人間の価値観で比べること自体がおかしいんだ」
モッサンが言う。
「そうだな。種族が違えば考え方も違うのは当然の事だ。俺達はそれを尊敬した上で仲間としてやっていこうって事だ」
「分かってくれて嬉しいぞ。だが、我も孤高である事が良しとは思っていない。人間の感情や行動に興味がある。我はそれらを学び人間の気持ちを理解したいと思っておる」
「ドラゴンに対する価値観が変わったよ」
フェイザーが言って、フーモも同意の「ワン」ってな感じで吠えた。そして僕らは人間に変身したドラゴンと共にダンジョンを後にした。
「それであんたの事はどう呼べばいいのかな。ドラゴンさん」
モッサンがドラゴンに聞いた。
「我の名か……。我の名はヴォーズと古から呼ばれていた」
「ヴォ、ヴォーズ? それってよくおとぎ話に出てくる竜の名前じゃない。じゃあもしかしてあんたがそのモデルの竜?」
「まあ、そうだな」
「でも、じゃああんた一体何歳なのよ」
「我は四千歳だ」
まるで中国の歴史のようなドラゴンだと思った。
「じゃああんたこの世界の事、とても詳しいんじゃない?」
「いや、最近数千年は籠っていたらからこの世界の事はほとんど知らない」
「それは酷い」
フェイザーが嘆くように言った。
「でも、おとぎ話に出て来るって事はあんた何か偉大な事を成し遂げたんでしょ」
「昔魔王に勇者パーティーとして参加した事はあるな」
「それを先に言ってよ!」
リックが興奮する。
「まあ、当に昔の話さ……」
ヴォーズがどこか遠い目をして言った。
「でもそれじゃああんたもう老竜じゃない」
「そう思うだろ? 残念でした。クラゲに若返るクラゲがいるのを知っているか?」
「知らないわ」
「我も似たような事が出来るんだ。だから少し前までは老竜だったけど若返って今はぴちぴちの人間で言う所の二十歳じゃな」
「若返りが出来るとは。それはスキルか?」
「スキルというか普通に肉体の進化だな」
胸を反らして自慢げにヴォーズが言った。
「だけど元勇者メンバーと一緒に行動出来るとは頼もしいな」
「勇者か。あいつは強かった。今でも鮮明に覚えている。だけどな我はその勇者と出会った時と同様、いやそれ以上の衝撃をさっき感じたのだ」
「勇者以上の衝撃って?」
フェイザーが聞く。
「それは鼻毛とやらに出会った事だよ」
「は、鼻毛?」
リックが自分の鼻の中を指差す。
「そう、お前の鼻の中に潜む鼻毛だよ。そいつを見た時、我の胸に電撃がビビッと流れたようなショックを受けた」
「それは恋じゃないのか?」
「恋ではない。だが近い所もあるかもしれん。鼻毛なのに、スキルを使いこなし、しかも強い。そして使いこなすだけの頭を持っていて、仲間思いな所もある。まるでそこの鼻毛は勇者のようじゃ。いやもしかしたら勇者の生まれ変わりかもしれんな」
ヴォーズが笑みを零しながら言った。
「鼻毛が勇者の生まれ変わりか。まあ俺もその鼻毛は只者じゃないとは思ってはいたけどな。それよりもあんたの名前だがヴォーズって格好良いと最初は思ったんだけど、よくよく聞いてみたら坊主みたいに聞こえるから。坊さんで良いか?」
「いいわけないだろー!」
ドラゴンが怒って、地面が激しく揺れた。
「それでこれからどこへ向かうんだ?」
ヴォーズが聞いた。
「ええと、私の弟を探しに行こうと思っているの」
「ほう、当てはあるのか?」
「いえ、ないわ。でもダンジョンにいると思うの」
「どうしてそう思う」
「ダンジョンに行くって言っていたから」
「いや、だからと言って、ダンジョンに向かう途中で失踪した可能性もあるし、もしかしたらダンジョンに行くのを急にやめたかもしれないだろう?」
「私の弟はそんなに意志が弱くない」
「意志が弱いとか強いとか以前の問題で何かあった可能性も否定は出来ないだろう? 例えば倒れているお婆さんを医者に連れて行くとか」
「それならばあり得る。私の弟、優しいもん」
「ありえるのか」
モッサンが冷静に突っ込む。
「まあ、でもこのまま闇雲にダンジョン巡りをしていて良いのでしょうか」
「だってそれしかないじゃない。フェイザー。それに私達追われているのよ」
「うん。そうだな。でもこのままずっと流浪の旅もしんどそうだな。いっそ闇地域へと向かうか?」
「馬鹿な事言わないでしょ。闇地域ってあれでしょ。雲が常にかかっていて詳細は一切不明の地域で、しかも検索魔法もほぼ効果がないって言われている未開の地域じゃない。しかもモンスターが半端ない強さって聞いた事あるわ。一度出たら出られないとも」
「まあ、そうだけどその地域に入れば俺達はもう追われることはないはずだ。まあ地域の境界付近で俺達を張っているかもしれないけどな」
「そうよ。それに未開地域に入ったら、すぐに死ぬと私は思うわ。私達だってそんなに強くないじゃない」
「そんな事はないぞ」
ドラゴンのヴォーズが言った。
「どうしてよ」
「現に我が仲間になる程の強さじゃ」
「いや、あんたが勝手に仲間になっただけだと、俺は思っているけど」
「ガーン」
ドラゴンがショックを受けた。案外精神は脆いのか?
「まあ、でもドラゴンが仲間になった事はでかいことは確かだよ」
「そうだけど、モッサン」
「えっへん」
「それに俺達には鼻毛が付いているじゃないか」
「ねえ。鼻毛ってどんな人間にも存在しているわよね」
「ああ」
「我にも付いているぞ」
「そう、ドラゴンにも付いている。だから鼻毛という一般的な呼び方じゃ、皆どの鼻毛か迷うと思うの」
「つまりそれは鼻毛に名前を付けるという事か?」
「そう。それが良いと思うのモッサン」
リックが鼻毛の僕に名前を付けると言ったけど、僕は鼻の中を強く刺激して、否定の意志を示した。
「鼻毛が名前を付けられるのを嫌がっている」
僕の寄生主のリックが僕の気持ちを汲んでくれた。
「でもどうしてなんだろう」
フェイザーの疑問はもっともである。だけど僕は名前を付けられたくなんてなかった。それは何故かというと、僕は鼻毛という一般的な概念で最強を目指したいのだ。それを名前を付けられて、特別な、世界に一つだけの鼻毛のようなレアな感覚で扱われたらそのこと自体に僕は違和感を感じるし、ましてや耐えられない。僕は平凡などこにでもある、普通の鼻毛から、普通の鼻毛として頂点を目指したいのだ。だから僕は名前を付けられるのを拒んだ。
「もしかして、特別扱いされたくないのかもしれない」
「そうか。お前が言うなら多分そうなんだろう。リック。しょうがない、鼻毛の気持ちを汲んであげよう」
そして僕は今まで通り、名前のないただの鼻毛としてこれからも頂点を目指す事にした。
ダンジョンから抜け出た僕達は闇地域目指す事に決めた。
「弟はダンジョンにいるかどうか分からない以上、そして街にもダンジョンが数多く存在している事を考慮して、これ以上のダンジョン攻略は現時点であまり得策ではないわね」とのリックの言葉が決め手となった。
「しかし、どうやって闇地域に向かうかだよな」
「そうだなモッサン」
「我の背中に乗るがよい」
「でも、見つかったらドラゴン討伐に遭うぞ」
「大丈夫、攻撃されるよりも高く飛べばいいだけの話だからな」
「なるほど。でもそれより心配なのはフーモだよ。お前との戦闘後、ずっと寝ているし」
「それは大丈夫だ。我の状態異常感知魔法で詮索してみたが異常はなかった。『ただの疲れ』と出ている」
「そうかそれならば安心だな」
「よし、決まりだな。我は再びドラゴンに戻る」
言って、人間の姿からドラゴンの姿に戻ったヴォーズ。やはりそれは恐ろしいほどのエネルギーを備えたドラゴンだった。しかし戦った時は敵意がこちらに向いていたが、今はそうではない。仲間だ。恐ろしいのは強大なエネルギーそのもので、敵意の籠った恐怖によるものではなくてそれが前とは全然違った。
「さあ乗るがよい」
その言葉を皮切りに、フーモを抱えたモッサン、フェイザー、リック、リックの鼻毛の僕がドラゴンの背中に乗って、ヴォーズは飛び立ち、いよいよ新天地へと飛び立つのであった。
新天地へ向かう前、最後の街に装備を整える為に寄ることになった。
新天地は生きて帰る者がいないとされる地域なので、その街で売られている装備は高級品が数多く並ぶ。しかし、それでも売り切れが続出するほどだという話をドラゴンの背に乗っている時、モッサンが言っていた。
町からは少し離れた森の開けた場所にドラゴンは降り、そこから街へと向かう事にした。まだ街までは100キロ以上はあるが、あまり街に近づきすぎると、ドラゴンの存在に気づかれ大騒ぎになる可能性があるから、随分と手前で降りた。しかしその降りた場所が厄介な場所だった。
「ねえここ、何だか変な森じゃない?」
「そりゃあ、そうだろう。迷いの森だからな」
当然の如く、ヴォーズが言った。
「迷いの森!? 強力なモンスターばかりが出ると言うあの!?」
「何だ、フェイザー知らなかったのか」
ヴォーズが当然かの様子で言った。
「知るわけないだろ。それに知っていたら俺はここに降りる事を断固として反対したぞ」
「まあ、心配するな。我が付いている」
「そりゃあ、ドラゴン様が付いていれば心強いけどさ」
「おい、呑気な会話をしている余裕はないぞ」
モッサンの言葉で、僕を含め皆はっとなった。辺りからは殺気が漂っている。そしてその殺気は僕達へと確実に向けられていた。
「来るぞ!」
モッサンがそう言った直後、四方から挟み撃ちするようにガタイの良い筋骨隆々の狼が姿を現した。
「あ、あわわわわっ。あのモンスター図鑑で見た事ある。Aランクモンスターの破壊狼じゃない?」
「そうだな。まあ、割と厄介なモンスターだ」
ドラゴンのヴォーズが言った。
「ちょっと、呑気な事を言っていないであんたも協力しなさいよ」
「悪いが我は今回の戦いはパスだ。長時間飛んで疲れたからな。それにこの程度のモンスターにやられるぐらいならば、協力など出来ん」
「薄情者!」
「我はドラゴンだ」
「薄情竜!」
「冗談じゃよ。まあ、お主達が勝てなそうだったら我も力を貸そう。しかし自分達の力で対処してみるんだな。我を苦しめたお主達であればこの程度のモンスター屁でもないじゃろう」
「ちょっと、A級モンスターなのよ? そんな甘いわけないじゃない」
「口論は良いから戦うぞリック。それにドラゴンの言う通りだ。俺達自身で勝たなければ、強くならなければ、ドラゴンばっかりに今後も頼ってはいられないぞ」
「そうだけど……」
破壊狼が予備動作なく、突撃して来た。僕は鼻毛ファイアーを鼻毛に纏い、リックの鼻の中から出て、破壊狼の目を目がけて鼻毛飛ばしのスキルを行使した。そしてそれは見事に命中した。
「やったわ。鼻毛」
どうやらリックは昼間でも鼻毛の僕が出ていることを気にしていないようだった。まあ、森の中で薄暗いというのもあるだろうが。
「って、あんたスキルで透明化しなさいよ!」
リックに言われて、僕は鼻毛の体を透明化して姿を隠した。
「そう、それでよし!」
リックの怒りはどうやら収まったようだった。そして姿を消した方が見えない鼻毛を相手に向かって飛ばせるので優位なのも間違いなかった。
「凄いな。鼻毛。まさに一網打尽だ。いや一毛打尽だな。がっはっは」とモッサン。
僕は全ての破壊狼に鼻毛を命中させたが、全てそれが相手にとっての致命傷にはならなかった。一匹は目を潰したが、鼻が利くのか目を潰しても破壊狼はこちらへと突進をやめなかった。しかし、数々の強敵と対戦して来た僕達の経験が勝り、リックの穴潜りからのバックをとっての首の骨を折る攻撃やモッサンの二刀流の乱打切り、フェイザーの鍛冶屋としてのハンマー打ち付け&ハサミ攻撃でなんとか、いや難なく破壊狼を撃退する事が出来た。そしてそこで僕のレベルが上がったのを感じた。それはリックの鼻毛での最高レベル到達の知らせでもあった。
最大レベルになればその人からしか得られないスキルもしくは魔法が使えるようになる事が今までの経験で分かっていた。そして僕はリックの鼻毛として得たスキルはようやくの『思念送達』だった。言葉は話す事が出来なかったが、自分の意志をテレパシーで相手に飛ばせるようになったのだ。これで今までのようなまどろっこしい鼻の中を刺激してイエスやノーを示す必要がなくなったのだ。僕は早速皆に思念送達で思いを伝えた。
『僕、鼻毛、今テレパシーをマスターした。とても嬉しい』
片言な言い方で皆に思念を送達したら、皆の表情が「!!???」てな感じになった。
「鼻毛が喋った!!??」
「いや、違うわ。これはテレパシーよ」
「驚いた」
「何と、ドラゴンである我も鼻毛が喋るとは想像もしていなかった」
「ワン!」
全員が僕のテレパシーに驚愕していたのは明白だった。
「いるかしら。ここに私の弟が」
「いるかどうかは入ってみないと分からないだろ」
「そうね。モッサン。考えてみてもしょうがないわね。その為に来たって言うのに……」
皆で弟探しを始めて一つ目のダンジョンだ。だけど、安心は出来ない。ダンジョンってのは何があるか分からないので一瞬たりとも油断は禁物なのだ。それは過去の歴史が物語っている。有名な勇者だって、床に仕掛けれられた毒針で死んだなんて話もあるぐらいだ。慎重に慎重を重ねても、まだ足りないぐらいだ。
「何だか凄い臭いね。何だか腐敗臭のような」
「そうか?」
モッサンが言ったけど、僕は単にモッサンの鼻が詰まっているだけだと思った。
鼻の中から洞窟の様子を窺う、天井から水が垂れるぽたぽたという音と仲間の靴音だけが、洞窟内に響き渡る。
「静かすぎるよな」
鍛冶屋のフェイザーが言った。
と、その時洞窟の先から赤く光るモンスターの目を見つけた。そしてそれが近づいて来た時、リックが声を上げた。
「嘘でしょ! 魔獣よ!」
魔獣。それは噂には聞いた事がある、魔界に住むとされる生き物だった。
「何でこんな所に魔獣がいるの?」
リックが驚いている。
「確かにあいつは普通ダンジョンなんかにはいない魔獣ですね。ですがあいつはあまり強くない奴です。心配はいりませんよ」
フェイザーが言う。
それを聞いた僕はリックの鼻の中を刺激して、僕がやる、との意思表示をした。
「だ、大丈夫なの? 鼻毛……」
「どうした? 鼻毛がやると言っているのか?」
会話に入って来たのはモッサンだ。
「ええ、そうみたい。でもあいつをどうやるつもりかしら」
僕には考えがあった、透明鼻毛のスキルを使って透明になり、更に民鼻毛の皆を使って透明化した鼻毛達による一斉攻撃だ。あるいはよけられた時は投網のように捕縛に切り替えるBプランもある。
僕はそっと鼻の中から抜け出し、魔獣へとにじりより、そして従えた透明化した民鼻毛と共に魔獣を一斉攻撃した。
「ギャー!!」
断末魔の声を上げて、魔獣は死んだ。魔獣の体からは至る所から鼻毛によって開けられた穴によって血がピューピューと噴き出している。
「す、すごい怖いのだけれど」
リックが青白い顔で言う。
「確かにこの光景だけ見ればなんかの病気で死んだみたいで怖いですね。ですが俺達はそうではないと知っています。鼻毛の攻撃は透明化されていたので見えなかったのですが、それでもやっぱり只者じゃないですね。只鼻毛じゃないですね。彼は」
「彼で良いのか? 彼女ではないのか?」
「鼻毛に性別なんてあるわけないでしょ」
リックが呆れたように言う。
そして倒した魔獣を袋に回収した僕達はこの先進むべきかどうか悩んだ。
「どうするこの先」
モッサンが言う。だが、別に不安だから聞いているのではなさそうだった。ただ単に仲間に確認を取る意味だったと思う。
「どうもこうも、先に進むしかないでしょう。弟がいるかもしれないんだから」
「お前は? フェイザー」
「俺も進むべきだと思う。どの道追われている身なんだから、どこに行こうと一緒だ。引き返して捕まる可能性と先に進んで死ぬ可能性。しかし捕まったら国家反逆罪で一生牢獄の可能性もあるから、それならば進んで死んだ方が良いな俺は」
「お前は、フーモ」
「ワ、ワン!」
「そうか、お前も進む道を取るか」
いや、今のワ、ワンで分かるのかよ。犬語を喋れるのかよ。モッサン。だけど、皆の意見は決まった。
僕は鼻の中から出て、鼻毛お辞儀をしたから肯定の意志を示した。
「そうか、俺ももちろん進むべきだと思っていたから進むか。魔獣がこんな低階層にいるって事は、もしかしたらゲボス並みのあるいはもっと強いボスがいる可能性もあるけど覚悟は良いな!」
皆、モッサンの言葉に気合いの言葉で答えた。
そして、地下二階層へと突入した。
と、ここで僕はさっき魔獣を倒した時にレベルが上がっていたので、ステータスを確認した。すると『鼻毛飛ばし』というスキルを覚えていた。
内容は鼻毛の先端を針のようにして飛ばす事が出来るというスキルだった。
僕はそれを見て新たなる技を閃いた。それは鼻毛ファイアーで燃やしている鼻毛の先端を飛ばす事で、火を纏った鼻毛を相手へと放つ事が出来ると思ったのだ。しかし今はそれを練習しているような状況じゃないので、その試みはまた今度やろうと思う。リックの確認をとって。
リックに鼻毛移動して正解だった。兎族というレアな伝説民族故に、覚えるスキルも聞いた事のないレア物ばかりだ。いや鼻毛の僕が覚えるスキルは全てレアか……。
地下階層を進んで行く。二階以降は魔獣などのモンスターは出てこないでゴブリンやら、オークやらが出てきたけど、そいつらは僕達の戦力からすれば瞬殺レベルだ。しかし、ゴブリンには知性の高いゴブリンや特殊魔法を使うゴブリンがいるって聞いた事があるから油断は禁物だ。
やっぱり油断しないで良かった。
僕達一行が洞窟を曲がった瞬間、大爆発が起こったのだ。
間一髪フーモが危険を察知して僕達に知らせてくれたおかげで皆助かったけど、その爆発でフーモは重傷を負ってしまった。
「くーん。くーん」
「だ、大丈夫か。フーモ」
モッサンがフーモをぺろぺろしながら言った。あんたやめてくれよ。
「ちょ、ちょっとあいつゴブリンじゃない? ゴブリンが魔法を使ったわよ」
「本当だ。まさか本当に存在するとは。噂には聞いた事があるけど、信じていなかったが」
フェイザーが青ざめた表情で言った。
目の前にはたいまつを持ったゴブリン集団。しかしいつもと違うのは、連携が取れているように見える事だ。普通のゴブリンはただ、空港で飛行機を待つ人間集団みたいに彷徨っている感じだけど、このゴブリンは戦闘のリーダー的ゴブリンを筆頭に、剣を持ったゴブリン。そして杖を持ったゴブリン、白い帽子を被った回復役っぽいゴブリンと陣形を取っているように見えるのだ。
僕はこのままではやられると思った。
戦力としては僕を除いてフーモがチームで最強だろう。しかしそのフーモが負傷してしまった。だからこのままでは全滅してしまうかもしれない。と、僕が思っていると。
「このままでは全滅してしまうわ。ねえ鼻毛、力を貸して!」
まさかのリックからの懇願。決して僕に対して頼みごとをするような人ではないのだが、自分の羞恥よりも優先させるべき事をリックはよく分かっている。
僕は鼻の粘膜を刺激してリックに肯定の意を示した。
僕はスキル、幽体鼻毛を使用して敵の周囲を幽体離脱して探った。
隠れている敵もいたが、その場所も把握した僕はまずは先制攻撃に移る事にした。
『透明鼻毛』を使用しつつ、王鼻毛としての威厳を駆使して、民鼻毛を動かし、リックの全ての鼻毛を鼻の外へと連れ出し、忍び足ならぬ忍び鼻毛で敵の背後へと回り、隠れていたゴブリン達に攻撃を開始した。
「ギャー!」
ゴブリンの断末魔の声で異変に気付いたのか、先頭のゴブリン達が後ろを振り返った。その瞬間を狙って、後ろに回らないで地面で待機していた民鼻毛と、本体の僕自身の鼻毛は透明化したままゴブリンのボスと思しき奴に硬質化して、攻撃を放った。しかし、ゴブリンのボスは僕の、僕達鼻毛の攻撃を気配で察知したのか、受け流した。しかし今までの経験がこちらにはある。攻撃を躱された時はそこから更なる攻撃へと転じればいいのだ。受け流された鼻毛の僕はそのままくるりと腕に巻き付きゴブリンボスを捕縛した。そしてそのまま鼻毛でゴブリンボスの心臓へと鼻毛を突き立てた。だが、固い……。ゴブリンボスの肉体は鼻毛の僕でも貫くことが出来なかった。そして巻き付いた他の民鼻毛達だったが、すぐ隣にいた、魔法使いゴブリンによってすぐさま燃やされてしまい、鼻毛が短くなった。僕は王鼻毛だったので何とか耐える事が出来た。しかしなぜ透明化した民鼻毛を見破ることが出来たのだろうか。たぶん魔法使いゴブリンなので、透明化に気付き、見破ることが出来たのかもしれない。恐るべし魔法使いゴブリン。しかしということは僕の透明化にももちろん気づいているだろうから、僕が次に狙われるのは必然とも言えた。折角捕縛に成功したのに、みすみす逃がしてまたこちらがピンチになるのは不味い。外側が頑丈ならば内部からなら、と僕は思い鼻毛を更に伸ばして、ゴブリンボスの体の中に入った。そして胃の中まで進んだ僕は胃の中で鼻毛ファイヤーを使った。直後ゴブリンボスが悶え苦しんだ。
そしてその事で透明化に気付いていた魔法使いゴブリンが僕を焼こうとして一瞬気を反らした瞬間、モッサンの剣が魔法使いゴブリンの首をはねた。更にフェイザーも疾風の速さで回復薬のゴブリンの体を一刀両断し、兎族のリックは穴を掘ってトンネルを進み、ゴブリンの前に突如として出現し、剣を持ったゴブリンの体にキックをかました。いくら兎族だからってキックが主体だとは思わなかった。しかし、リックのキック攻撃を耐えきったゴブリンはリックを人質に取ってしまった。
「し、しまった。まさか私のキックに耐えるなんて……」
よほどリックはキックに自信があったのか。しかし攻撃に耐えられたらその後は、無防備状態というのは爪が甘いと僕は思った。リックのキックに耐えたゴブリンは強固な肉体を誇っていて、持っている剣も相当に大きい。肉体一本の力技でのし上がってきたゴブリンなのだろうか。僕が倒したボスゴブリンと比較しても体格的には大差はない。だが、リックが人質に取られてしまった以上、対策を考えねばならない。リックが穴に潜ると言ったので、王鼻毛の僕と、民鼻毛は独立鼻毛でリックの鼻の中から独立していたので、僕の今の肉体はゴブリン達の正面にある。だがこのまま先ほど獲得した鼻毛飛ばしのスキルで鼻毛を仮に飛ばしても果たしてゴブリンに当たるかどうか。僕達は一旦独立鼻毛を解除してリックの鼻の中に戻った。そして民鼻毛を操作して、リックの鼻の中から出して、リックを人質に取っているゴブリンの両手両足に巻き付き動きを封じた。そこで僕の出番だ。王鼻毛の僕が硬質化してゴブリンにとどめを刺そうとした時、隠れていたゴブリンが襲い掛かって来た。ちくしょうまだ隠れていたのか。だが僕は先ほど獲得した鼻毛飛ばしのスキルと鼻毛ファイアーを併用して炎を纏った鼻毛をそのゴブリンへと飛ばした。すると火を纏った鼻毛が直撃したゴブリンの一部が焼け体に穴が開いた。炎の火力で肉体を溶かしたのだ。ゴブリンを燃やすと思っていたけど、熱で体を溶かすとは……。見た目的には綺麗だ。しかしゴブリンは死んだ。死んでいる。鼻毛程の小さな穴が体に開いているだけだ。僕は凄まじい技を手に入れたと実感したと同時に戦闘がようやく終わりを告げたのでほっと溜息をついた。
「おい、フーモ。大丈夫か」
モッサンが負傷したフーモに声を掛ける。
「く、くーん」
「可哀そうに。こんなに負傷して」
それはモッサンのフーモ愛から来る大げさな表現ではなさそうだった。なぜならば腹から大量出血していたからだ。
「誰か、誰か医者はいないか!」
モッサンが珍しくうろたえて、こんなダンジョン内にいるはずのない医者に呼びかけた。
「モッサン、少し落ち着いてよ」
「だ、だがフーモが。俺の可愛いワンコが……」
「私、小さい頃回復魔法を習ったことがあるの」
「ほ、本当かリック!」
「ちょっと、話しを最後まで聞きなさいよ。でもね一度たりとも成功した事なかったの」
「何だと?」
「それで、言われた言葉がね。あんたは人の事を心底思って回復魔法を使おうとしていないって。回復魔法自体は一応覚えているの。だけど使えないの」
僕はそれを聞いて、多分確率で発動する魔法、もしくは思いを伴った時に発動する魔法なんじゃないかと推測した。
「それじゃあ、意味がないじゃないか!」
「だから、私はここでもう一度やってみようって思ったの。それしかフーモを救う手だてはないし、私はフーモの事大好きだから」
「なるほどな。だがそれは賭けだぞ。フーモにとってもお前にとってもな。もし成功しなかった場合、フーモは死ぬし、お前の心にも傷痕が残る。今ならフーモをダンジョン外に連れ出せばもしかしたら何とかなるかもしれない」
「ワ、ワン!」
フェイザーの言葉にフーモが吠えた。
「お、お前。リックに任せようっていうのか?」
「ワン!」
「分かった。本人の意志ならば仕方があるまい。任せたぞ。リック!」
「ええ、任せて!」
そう言って、リックは両手を組んで、目をそっと閉じ祈り始めた。
リックが呪文を詠唱すると、フーモの傷口がみるみる塞いで言った。
「すごいじゃないか! リック」
フェイザーが感嘆の声を上げた。
「ありがとうリック」
モッサンの瞳から涙が一粒零れ落ちた。
モッサンがまさか涙を流すとは思ってもみなかった。それほどまでにフーモはもう僕達の仲間だったんだ。いや、もう仲間というより家族みたいなものだったのだ。
「流石に疲れたわ」
言って、リックは背中を壁に預けた。
「今夜はここで泊まろう。もうモンスターの気配はこの階層にはない。だが一応見張りは一人付けて後の皆は体力回復に努めて、明日からまた頑張ろう」
「だけどよ。食料がないぜ」
「食料ならあるじゃないか」
「ま、まさか。ゴブリンか? ぐえー」
「贅沢言うなよ。フェイザー。ゴブリンだって貴重な食料だぜ。まあ確かに臭みはあるけどな。それにこのゴブリン達は俺は見た事ないから、もしかしたら美味しいかもしれないぜ」
「確かにな。モッサン。こいつらは普通のゴブリンとは違ったからな。魔法は使えるし、肉体強化も普通のゴブリンの比ではなかった。となると味も違うかもな」
そんな会話をしていたモッサンとフェイザーだったけど、僕は一人違う事を考えていた。回復魔法、リックが使えるって事は僕にも使える可能性があるって事だ。僕が回復魔法を使えればかなりパーティーは楽になるな。
僕は回復魔法が使えるかもしれないワクワクから早くレベルを上げたいと思った。
「ここは、凄いダンジョンだな。敵が強い奴が多すぎる」
「本当そうね。でも本来ならばこのダンジョンは大したダンジョンじゃないはず。一体何があったのかしら。あるいは何かがこのダンジョンで起きているのかしら」
「そうかもしれない。リック。俺の鍛冶屋としての勘がそう言っている」
「鍛冶屋としての勘ってそれ当てになるの?」
「当然だ。鍛冶屋ってのは勘も大事なんだ。まあ経験による勘もあるけどな」
「直感って事?」
「そうだ。まず何かがいつもと違うと無意識で感じる時、必ず何かが起きる。武器にひずみが生じたり。それと一緒でこのダンジョンは敵が強いけど、それとは別に何か普通のダンジョンとは違う何かを感じるんだ」
「ふーん。信じていないけど」
「それでいい。当たらないのであればそれに越したことはないからな」
そんな会話をしながら、ダンジョンを進んで行き、僕達は着実にレベルを上げて行った。そして僕の欲しかった魔法『回復鼻毛』を手に入れる事が出来た。回復鼻毛は一人の体力を完全回復までは行かないけど、瀕死から、重傷ぐらいまでは回復出来る魔法だ。いずれ上位魔法が手に入れられるかもしれないから、現状では回復鼻毛を手にしただけでも十分満足だった。
「ここがこのダンジョンの最下層か……。何もないな」
「本当ね。ハズレね。フェイザー何もなかったわね」
「そうだな。勘が外れたか。まあその方が良い」
フェイザーが本心なのか、負け惜しみなのかその台詞を言った直後、地面が大きく揺れ地面からモンスターと思しき何かが姿を現そうとしていた。
「キャー! 何? 何?」
「落ち着くんだリック!」
モッサンが慌てふためくリックに声を掛ける。
「皆さん、注意して下さい! これは只の地割れじゃない。モンスターだ!」
「ワ、ワワン!! グルルルルッ」
一体何が出現しようと言うのか……。僕達は固唾を飲んで様子を見守った。
「ド、ドラゴンだと……?」
目の前に現れたのは圧倒的な威圧感を放つ、黒い巨大なドラゴンだった。
「あ……あわわわわっ」
「くっ、足が動かん!」
「俺もだ。モッサン。まさかダンジョンにドラゴンが出現するとは聞いた事がない」
「きゅいーん」
皆、驚きと恐怖で顔から血の気が引いているように見える。それは鼻毛の僕も同じだ。圧倒的な存在感に鼻毛の僕ですら、恐怖を感じる。どうすればいいのか。しかしまずは相手に敵対心があるかどうかを確かめねばならない。ドラゴンは知性が非常に高いと聞いた事があるからだ。だが、それすらも本当かどうかは分からない。それほどまでにドラゴンというのは貴重だからだ。生態には謎が多い。ドラゴンを調教しているのは、聖騎士などの一部で他のドラゴンはどこに住んでいるのかすら分からない。聖騎士などは見つけたドラゴンを倒し、魔法で操っているのかはたまた、知性を生かして飼いならしているのかそれすらも不明であるが、ドラゴンは人間の言語を理解する種もいるという。果たしてこの目の前のドラゴンはどうなのだろうか。一歩間違えば、即、死に繋がる。そんな事を考えていた時、モッサンが言葉を発した。
「お前人間の言葉が分かるか?」
「ニンゲンゴトキガリュウニハナシカケルナ!」
驚いた。まさか本当に人語を理解しているとは。しかもそれだけではない。言葉も喋れるのか竜は。だが、相手の言葉からは人間に対する敵意が感じられる。言葉は通用するが分かり合えるのかはそう簡単ではなさそうだ。
僕はそう思った。
「我に力を示せる者でなければ、話す価値などない」
ドラゴンは語気を強めて言った。
「どうやら戦う運命は避けられそうにないな。残念だが」
「あ、あうぅ。怖いよぅ」
「皆、気合いで負けていたら終わりだぞ。せめて気合いだけでも相手を上回らないと」
「そうわ言ってもな……」
「きゃいぃーん」
震えが止まらない。今僕はリックの鼻の中で震えている。つまり鼻毛震えをしている状態だ。こんな事は鼻毛に転生して今まで一度たりともなかった。普段の時に僕が仮に鼻毛震えをもししたら、リックは鼻がむずむずして痒くなり、くしゃみをしてしまうだろう。しかしリックは目の前のドラゴンに対峙した事による恐怖からなのか、全くそのような様子はない。気持ちは分かる。僕もそうだからだ。しかしこのままでは、気圧されて負けてしまうのは必然。どうにかしなければ。ドラゴンだって生き物。そしてこの状態で何とか出来るのは、体が小さい鼻毛の僕だけなのかもしれない。まさか知性の高いドラゴンだって鼻毛が意識を持っているなんて思いもしないだろうから。僕が考えた攻撃方法はまず第一にリックの鼻の外へとにゅっと民鼻毛と共に這い出て、ドラゴンの目を狙って、スキル『鼻毛飛ばし』をする事だ。鼻毛ファイアーとの併用であれば相手の目を失明に追いやる事が出来るが、炎を纏った鼻毛だとドラゴンに明かりで感づかれ、手や尾で薙ぎ払われ、攻撃が無効化されてしまう恐れがある。そうなれば全てが終わりだ。先制攻撃は失敗し、ドラゴンは怒り狂うだろう。そうなったらもう誰にも止めらえない。だから鼻毛ファイアーは纏わないただの鼻毛飛ばしをする事に決めた。それでも目に命中すれば、ダメージは確実に与えられるだろう。
鼻毛の王である僕は民であるリックの無数の鼻毛を引き連れて、鼻の外へとそっと出て、鼻毛飛ばしを打ち放った。
「痛っ。目に何か入った。ゴミかな」
ドラゴンが言った。
嘘だろ? 僕の鼻毛攻撃が全く効かなかった。いや痛いと言わせることは出来たのだがゴミ扱いだ。まさか鼻毛飛ばしがその程度しか効かないとは予想外だった。僕の鼻毛飛ばしは岩に突き刺さる程の威力のはず。これでは先制攻撃にはならない。
「えっ、もしかして鼻毛、今攻撃した?」
ば、馬鹿。リック。思っていても口に出すな。
「今、何て言った? 我に攻撃したと申したか?」
「言ってないわ。鼻毛がむずむずしたっていう事よ。ただそれだけの状況説明よ」
「ふんっ。まあそんな事はどうでもいい。どの道聞くだけ意味がない。さあ始めようじゃないか。戦いを」
ただの鼻毛飛ばしが効かないのであれば、鼻毛ファイアーを纏うしかない。しかしそれでは防がれてしまう恐れがある。どうすれば……。僕はステータスを開き、確認した。するとそこにはメンソールの魔法があった。そうかメンソールの魔法を使いすーぅっとした状態で鼻毛飛ばしをすれば、メンソールを纏った鼻毛を飛ばす事が出来るかもしれない。一か八かに掛けてみるしかないな。
僕はメンソールの魔法を使用した瞬間鼻毛飛ばしをして、ドラゴンの両目へと放った。
「目が、目が痛い。涙が出てくる。つんと来る!」
良し、効いた。今だ皆ドラゴンがひるんだ隙に一気に攻撃をするんだ!
僕はリックの鼻の中を刺激して戦闘の合図だという事を知らせた。
「えっ、もしかして鼻毛が先制攻撃を成功させたの? 分かったわ。戦闘開始ね! 皆! 一斉攻撃よ!」
「了解だ!」
「よし!」
「ワン!」
モッサンとフェイザーは武器を取り出し、フーモは壁を走り、リックは地面を掘り穴を潜り、僕は独立鼻毛でリックの鼻から離脱して、皆各々散ってドラゴンへの攻撃を開始した。
僕は『鼻毛伸ばし』と『硬質化』を合わせ、ドラゴンの体をぐるぐると鼻毛で縛った。
「我の身に一体何が起きていると言うのか……皆目見当もつかない」
ドラゴンはどこか放心状態で言った。まあこのドラゴンは口調から推測するに自分の力に絶対的な自信を持っていて、自分が攻撃された事などないようだから、自分が攻撃を受けている今自身の状況を頭が受け入れられない、分かっていない状態なのかもしれない。
「チャンスよ! チャンス!」
穴を掘っていたリックはドラゴンの後ろに出て、背後からドロップキックをかました。
「おらおら」
モッサンとフェイザーはドラゴンの腹を連続攻撃で切りつけている。
フーモはドラゴンの頭に噛みつき攻撃をして、もがいているドラゴンはフーモを振り払おうと必死だ。
ドラゴンをぐるぐる巻きにしている僕は先端に鼻毛ファイアーで火を纏った鼻毛をドラゴンへと突き差した。
「ぐおぉおおお! 痛い。これが痛みか!」
何だか面白い反応だ。今まで敵の攻撃による痛みを経験した事がなかったのだろう。言葉には驚きと同時にドラゴンの楽しさみたいなのも混じっているように見受けられる。一歩間違えば違う道に行きそうな感じもありそうだ。しかしそんなどうでもいい推測はこの緊迫した現在には考える事は無用。僕達はどんどんと攻撃を繰り出した。
「ぐぅううう! 参った……」
やがてドラゴンはそう呟いた。
「えっ、勝ったの?」
リックが驚きの声を上げた。
「どうやらそのようだな。しかし……全く勝った気がしないが」
モッサンが言うのも頷ける。なぜならば目の前のドラゴンはほぼ無傷だからだ。それなのに今や何の抵抗もなくぐったりとしている。
「俺達が勝ったのか。だが、ドラゴン。答えられるのであれば答えて欲しい。なぜそんなにも簡単に負けを認めるのか」
「そんなの決まっているではないか。我は今まで生まれてから一度も敵によって傷つけられたことがない。しかし、汝らは我の腹の表皮を薄く破り、背後キックでは泥を付け、頭齧りでは皮膚が赤くなった。更になんか毛のような攻撃で我は自身の血を見た。これは敵の攻撃では初めてだ」
なるほど。敵に傷つけられた事が全くなかった、これからもないと思っていた相手からの初めての傷でドラゴンはショックを受けたと同時に、僕達を認めたのか。でも本当にノーダメージだよね。血だって僕の攻撃でちょっとチクッとさせただけだし。まあ血を流させたのは僕だけだけど。
「ふ、ふざけるな。そんな事で負けを認めるとは。男児としてあるまじき精神!」
モッサンが怒る。
「ふざけるな! だと?」
ドラゴンは鼻毛で縛っていた体を動かし、鼻毛をぶち切った。その事で僕のHPが半分に減った。
「う、嘘……でしょ。簡単に鼻毛の束縛から抜け出した?」
「こんなのは抜け出せるのは容易い。そんな事は問題ではない。お前達が俺の体に傷をつけた事。それだけが問題なのだ。なぜ、こんな下等生物だと思っていた奴らが我の体に傷をつけれたのか」
「思っていたっていう事は、今は下等生物だとは思っていないって言う事?」
「今は……な。実に興味深い人間共だ。いや兎族と犬もいるな」
「私の事を知っているの?」
「ウサ耳がぴょんってあって更に穴を潜る種族、それは兎族以外に考えらえない」
「ガウガウ!!」
「何だ犬。何を怒っている」
「そいつは犬じゃねえよ。伝説のモンスターモフ蔵のフーモだ」
「何と、そいつはモフ蔵か。我と同じ世間では伝説と呼ばれている。しかし懐かないはずの狼、モフ蔵が何故人間の仲間に。実に興味深い」
「きゃいんきゃいん。くーん。くーん」
フーモが仲間全員の周りを回り、尻尾をフリフリさせた。
「ぐううっ。信じられん光景だ。まるで幻覚を見ているようだ。しかし目を背けてはいけないな。これは事実だ。そして最後に聞きたい事がある。兎族の女よ。汝の攻撃、特に鼻の中からの得体の知れない攻撃、実に見事であった。良ければそなたの鼻の中からの攻撃について聞かせてはくれないか」
「わ、私の鼻の中? ……いいわ。教えてあげる。それはね。鼻毛がやったのよ」
ドラゴンは初めて戸惑いの表情をした後、天を仰ぐように視線を洞窟の天井へと向けた。
「鼻毛がやった。意味が分からないな。我がおかしいのか。それともお前が兎族だからなのか。もう一度我に丁寧に教えろ」
「教えて欲しい立場なのにどうして命令形なの?」
「黙れ! まだ我がお前達の全てを受け入れたわけではない」
「ひっ!」
「おいドラゴン! リックを怯えさせるなよ。いくらお前の方が力があるとは言え、自ら負けを認めたんだろう。だったら威圧的になるのは筋違いじゃないか」
「確かにな。人間」
「俺は人間って名前じゃない。モッサンだ」
「ふんっ。分かったモッサン。威圧的な態度は改めよう。では改めてそこの女に聞く」
「お、女じゃない。リックよ」
「リック。では詳しく教えてくれ」
「分かったわ。私の鼻の中から攻撃したのは私の鼻毛なのよ」
「ほうっ。それはお前の特殊能力か何かなのか?」
「違うわよ。私の鼻毛に勝手に乗り移ったのよ」
「寄生という事か? ではお前の鼻毛は敵なのか? 敵であるのならば、我が炎でお前の鼻毛を焼き尽くそうぞ」
「ちょっ、話しを最後まで聞きなさいよ。私の中にいる鼻毛、最初は勝手に私の中に移動したわ」
「移動した? つまり移動能力を持った鼻毛という事か」
「うん。どうやらそうみたい。最初はそこのモッサンの鼻毛として活躍していたわ。そしてボスのゲボスと対決した時に私達がやられそうになった事で、ゲボスの鼻毛に移動したの」
「なるほど」
「鼻毛には意志がちゃんとあって、私達と私の鼻の中を刺激する事を通して意思疎通も交わす事が出来るわ」
「信じられん」
「そうでしょうね。私だって最初は信じられなかったわ。でもね。事実なの。ねえ、鼻毛。事実だと証明する為に私の鼻の中から出て来て挨拶して頂戴」
僕はリックから出て来て挨拶をしろと言われたので、リックの鼻の中からぬっと出た。
「信じられん。本当に鼻毛が出てきた。しかしそれだけではその鼻毛がリックの意志ではないという証明にはならん」
「そうね。言葉を喋る事が出来ないから証明とかは出来ないけれど。これで鼻毛攻撃については事実だと分かった?」
「ああ、疑ってすまなかった」
僕はリックの鼻の外へと出た後、スキル『独立鼻毛』を使用して一人鼻毛になって地面に降り立った。
「な、何だ? どうして鼻毛が地面に降り立った?」
「どうやら、この鼻毛敵を倒したりすると私達と同じく経験値を獲得出来る鼻毛みたい。そしてレベルアップした鼻毛が獲得したスキルがどうやら鼻毛単体として独立出来る能力のようなの」
「ますます頭が混乱して来たぞ。しかし鼻毛とやら、もしお主が本当に自分の意志で動けるのなら我に何か能力をいくつか見せて欲しい」
僕はドラゴンに言われたので地面に〇を書いてオッケーの意志を示した。
「驚いた。我の言葉に反応している……本当に鼻毛に意志が存在しているというのか……」
僕は鼻毛ファイアーで洞窟内に炎を放ち、直後鼻毛伸ばしで鼻毛を伸ばし、鼻毛飛ばしで転がっていた岩を砕いた。最後に透明になった。
「……もはや言葉が浮かばん。この世界の全ての価値観がひっくり返ったような衝撃だ。しかしその鼻毛、特殊故敵も多いのではないか?」
「ど、どうして分かったの? 私達今現在。現在進行形で国に追われている最中なのよ!」
「国に追われている? くっくっく。がっはっは」
突如としてドラゴンが大笑いをし始めた。その笑いっぷりは笑っただけで洞窟が崩れそうな豪快な笑いだった。
「ちょ、ちょっとやめてくれよ。ダンジョンが崩壊してしまうよ」
フェイザーが情けない声を上げる。
「くーん。くーん」
フーモもどこか怯えている。
「すまない、すまない。だが最高に面白い奴らだなお前等。我は人間が嫌いだ。なぜならば人間はドラゴンを見つけると全て敵だと思い込むか、あるいは軍事目的として利用しようとするだけだ。だがお前等はどうやらそいつら人間とは違うようだ。我は人間に捕えられた他のドラゴン達を救出したいだけなのだ」
「他のドラゴンを救出? じゃあやっぱり聖騎士達はドラゴンを操っているのね」
「当然だ。もともとドラゴンは誰かに操られる事を激しく嫌う。人間ごときが飼いならせる生物ではないのよ。我は見たんだ。他のドラゴンが道具で無理やりドラゴンの意志を奪うのをな!」
ドラゴンの顔には怒りが滲み出ていた。
「そう言う事ね。確かにあんたの怒りは分からないでもないわ」
「そこで提案がある」
「提案? あんまり良い予感はしないんだが……」
「我もお前達の旅に連れて行って欲しい」
「「「はあぁあああ??」」」「ワオーン」
フェイザーがダンジョン全ての階に響きそうな声で叫び、フーモは雄たけびを上げ、鼻毛の僕はびっくりしてリックの鼻の中に戻った。
「いや、ドラゴンが仲間って。確かに戦力として考えればこれ以上ない戦力だけれど。でも一緒に行動する事を考えれば更に狙われる条件が増えるだけで」
「ドラゴン。冗談じゃないよな」
「我が冗談などいうと思うか。この誇り高きドラゴンが」
「どっちが良いんだろうか。おいフェイザーどう思う?」
「俺はドラゴンがいても良いと思う。元々ドラゴンが本気を出していたら俺達はやられていた。ある意味助けられた身でもあるんだから」
「それは言えているな。簡単に鼻毛の束縛から逃れられ、俺達の攻撃がほぼ無効だった事もあるし。それは否定はしない。だが、この先待ち受けているであろう困難を考えるとそう簡単に結論も出せないとも思う」
「それは心配するな」
ドラゴンが低い声で言った。
「それはどうしてだ?」
「ふん。お前達はドラゴンというこの姿で人々の前に姿を現す事を恐れているのであろう」
「そりゃあそうだろう。人間に狙われるぞ。お前だけでなく俺達も」
「我を何だと思っている。伝説の生き物、知性も肉体も人間の常識の範疇を超えておるわ」
言ってドラゴンは呪文のような言葉を唱え始めた。
「何をする気だドラゴン」
ドラゴンの行動に僕達に緊張のような空気が流れた。
「黙って見ていろ。お前達に危害を加える気などないわ」
そして、ドラゴンが呪文を唱え終わった直後、ドラゴンの体に異変が、変化が起き始めた。
骨格がミシミシと音を立て、肉体が折りたたまれるように、あるいは圧縮されるように縮み始めたのだ。そして、変化から数十秒後、ドラゴンの体は人間の体へと変わっていた。
「体が変化した? そんな馬鹿な」
「ふんっ。人間と言うのはドラゴンについてはまだ何も知らないようだな。我々ドラゴンは長寿であり、高い知性も兼ね備えておる。ただ大きいだけでここまで繁栄出来たとでも思っていたのか? 人間の想像などとうに超えた存在だ」
「確かにドラゴンが人間に変身出来るなんて誰も思わないだろう。ドラゴンが見つからない理由の一つとしてそれもあるのか」
「そう言う事だ。この状態で死ぬとドラゴンに戻るわけではなく人間の姿のままで死を迎える事になる。だからドラゴンが発見される事はまあないだろう。血すらも人間に偽装出来るしな」
「そうか。だが、人間の想像を超えた存在ならばドラゴン以外にもいるぞ」
「ほう。それは一体誰だ?」
「分かるだろ。鼻毛だよ。鼻毛なのに意志を持ち、様々な能力を獲得しレベルアップもする。こんな存在他にどこにいるだろうか。もしかしたらお前以上の存在になり得る可能性を秘めていると言っても過言ではないぞ。そこの鼻毛は」
「笑止! いくら意志を持とうと、能力を獲得しようと所詮は鼻毛、我々ドラゴンに敵うはずはない。それは我が鼻毛による束縛を破った事で証明したではないか。確かに我に傷をつけた事で我は敗北を認めた。しかし、だからと言って、完全敗北というわけではない。勝負としては一旦負けにしておこうとそう言う事だ。我のプライドを傷つけた事による精神的な価値であり、勝負としての勝ちではないという事を言っておこう」
「あんた。ドラゴンの癖に潔くないな。プライドを傷つけられた事による負けであろうとそうでなかろうと、負けは負けなんだろう?」
「う、うむ。確かに。それに我はお前達とこれから仲間としてやっていきたいと思っておる。今までの無礼な態度は許して欲しい。我は今まで一度たりとも人間と対話などした事ないのだからな」
「一度も?」
リックが驚く。
「まあな。知識として人間がいかに醜悪か、狡猾かというのは学んでいたが。対話は初めてだ」
「じゃあ、このダンジョンから出たことはないの?」
「いや、ある。人間の姿になり人間界を散歩した事はある。しかし話をするのは初めてだ」
「寂しくなかったの?」
「寂しいか。我らドラゴンは孤高の種族の為、そのような感情は今一理解出来ないな」
「ふーん。可哀そうね」
「リック、それは違うぞ。何でも人間の価値観で比べること自体がおかしいんだ」
モッサンが言う。
「そうだな。種族が違えば考え方も違うのは当然の事だ。俺達はそれを尊敬した上で仲間としてやっていこうって事だ」
「分かってくれて嬉しいぞ。だが、我も孤高である事が良しとは思っていない。人間の感情や行動に興味がある。我はそれらを学び人間の気持ちを理解したいと思っておる」
「ドラゴンに対する価値観が変わったよ」
フェイザーが言って、フーモも同意の「ワン」ってな感じで吠えた。そして僕らは人間に変身したドラゴンと共にダンジョンを後にした。
「それであんたの事はどう呼べばいいのかな。ドラゴンさん」
モッサンがドラゴンに聞いた。
「我の名か……。我の名はヴォーズと古から呼ばれていた」
「ヴォ、ヴォーズ? それってよくおとぎ話に出てくる竜の名前じゃない。じゃあもしかしてあんたがそのモデルの竜?」
「まあ、そうだな」
「でも、じゃああんた一体何歳なのよ」
「我は四千歳だ」
まるで中国の歴史のようなドラゴンだと思った。
「じゃああんたこの世界の事、とても詳しいんじゃない?」
「いや、最近数千年は籠っていたらからこの世界の事はほとんど知らない」
「それは酷い」
フェイザーが嘆くように言った。
「でも、おとぎ話に出て来るって事はあんた何か偉大な事を成し遂げたんでしょ」
「昔魔王に勇者パーティーとして参加した事はあるな」
「それを先に言ってよ!」
リックが興奮する。
「まあ、当に昔の話さ……」
ヴォーズがどこか遠い目をして言った。
「でもそれじゃああんたもう老竜じゃない」
「そう思うだろ? 残念でした。クラゲに若返るクラゲがいるのを知っているか?」
「知らないわ」
「我も似たような事が出来るんだ。だから少し前までは老竜だったけど若返って今はぴちぴちの人間で言う所の二十歳じゃな」
「若返りが出来るとは。それはスキルか?」
「スキルというか普通に肉体の進化だな」
胸を反らして自慢げにヴォーズが言った。
「だけど元勇者メンバーと一緒に行動出来るとは頼もしいな」
「勇者か。あいつは強かった。今でも鮮明に覚えている。だけどな我はその勇者と出会った時と同様、いやそれ以上の衝撃をさっき感じたのだ」
「勇者以上の衝撃って?」
フェイザーが聞く。
「それは鼻毛とやらに出会った事だよ」
「は、鼻毛?」
リックが自分の鼻の中を指差す。
「そう、お前の鼻の中に潜む鼻毛だよ。そいつを見た時、我の胸に電撃がビビッと流れたようなショックを受けた」
「それは恋じゃないのか?」
「恋ではない。だが近い所もあるかもしれん。鼻毛なのに、スキルを使いこなし、しかも強い。そして使いこなすだけの頭を持っていて、仲間思いな所もある。まるでそこの鼻毛は勇者のようじゃ。いやもしかしたら勇者の生まれ変わりかもしれんな」
ヴォーズが笑みを零しながら言った。
「鼻毛が勇者の生まれ変わりか。まあ俺もその鼻毛は只者じゃないとは思ってはいたけどな。それよりもあんたの名前だがヴォーズって格好良いと最初は思ったんだけど、よくよく聞いてみたら坊主みたいに聞こえるから。坊さんで良いか?」
「いいわけないだろー!」
ドラゴンが怒って、地面が激しく揺れた。
「それでこれからどこへ向かうんだ?」
ヴォーズが聞いた。
「ええと、私の弟を探しに行こうと思っているの」
「ほう、当てはあるのか?」
「いえ、ないわ。でもダンジョンにいると思うの」
「どうしてそう思う」
「ダンジョンに行くって言っていたから」
「いや、だからと言って、ダンジョンに向かう途中で失踪した可能性もあるし、もしかしたらダンジョンに行くのを急にやめたかもしれないだろう?」
「私の弟はそんなに意志が弱くない」
「意志が弱いとか強いとか以前の問題で何かあった可能性も否定は出来ないだろう? 例えば倒れているお婆さんを医者に連れて行くとか」
「それならばあり得る。私の弟、優しいもん」
「ありえるのか」
モッサンが冷静に突っ込む。
「まあ、でもこのまま闇雲にダンジョン巡りをしていて良いのでしょうか」
「だってそれしかないじゃない。フェイザー。それに私達追われているのよ」
「うん。そうだな。でもこのままずっと流浪の旅もしんどそうだな。いっそ闇地域へと向かうか?」
「馬鹿な事言わないでしょ。闇地域ってあれでしょ。雲が常にかかっていて詳細は一切不明の地域で、しかも検索魔法もほぼ効果がないって言われている未開の地域じゃない。しかもモンスターが半端ない強さって聞いた事あるわ。一度出たら出られないとも」
「まあ、そうだけどその地域に入れば俺達はもう追われることはないはずだ。まあ地域の境界付近で俺達を張っているかもしれないけどな」
「そうよ。それに未開地域に入ったら、すぐに死ぬと私は思うわ。私達だってそんなに強くないじゃない」
「そんな事はないぞ」
ドラゴンのヴォーズが言った。
「どうしてよ」
「現に我が仲間になる程の強さじゃ」
「いや、あんたが勝手に仲間になっただけだと、俺は思っているけど」
「ガーン」
ドラゴンがショックを受けた。案外精神は脆いのか?
「まあ、でもドラゴンが仲間になった事はでかいことは確かだよ」
「そうだけど、モッサン」
「えっへん」
「それに俺達には鼻毛が付いているじゃないか」
「ねえ。鼻毛ってどんな人間にも存在しているわよね」
「ああ」
「我にも付いているぞ」
「そう、ドラゴンにも付いている。だから鼻毛という一般的な呼び方じゃ、皆どの鼻毛か迷うと思うの」
「つまりそれは鼻毛に名前を付けるという事か?」
「そう。それが良いと思うのモッサン」
リックが鼻毛の僕に名前を付けると言ったけど、僕は鼻の中を強く刺激して、否定の意志を示した。
「鼻毛が名前を付けられるのを嫌がっている」
僕の寄生主のリックが僕の気持ちを汲んでくれた。
「でもどうしてなんだろう」
フェイザーの疑問はもっともである。だけど僕は名前を付けられたくなんてなかった。それは何故かというと、僕は鼻毛という一般的な概念で最強を目指したいのだ。それを名前を付けられて、特別な、世界に一つだけの鼻毛のようなレアな感覚で扱われたらそのこと自体に僕は違和感を感じるし、ましてや耐えられない。僕は平凡などこにでもある、普通の鼻毛から、普通の鼻毛として頂点を目指したいのだ。だから僕は名前を付けられるのを拒んだ。
「もしかして、特別扱いされたくないのかもしれない」
「そうか。お前が言うなら多分そうなんだろう。リック。しょうがない、鼻毛の気持ちを汲んであげよう」
そして僕は今まで通り、名前のないただの鼻毛としてこれからも頂点を目指す事にした。
ダンジョンから抜け出た僕達は闇地域目指す事に決めた。
「弟はダンジョンにいるかどうか分からない以上、そして街にもダンジョンが数多く存在している事を考慮して、これ以上のダンジョン攻略は現時点であまり得策ではないわね」とのリックの言葉が決め手となった。
「しかし、どうやって闇地域に向かうかだよな」
「そうだなモッサン」
「我の背中に乗るがよい」
「でも、見つかったらドラゴン討伐に遭うぞ」
「大丈夫、攻撃されるよりも高く飛べばいいだけの話だからな」
「なるほど。でもそれより心配なのはフーモだよ。お前との戦闘後、ずっと寝ているし」
「それは大丈夫だ。我の状態異常感知魔法で詮索してみたが異常はなかった。『ただの疲れ』と出ている」
「そうかそれならば安心だな」
「よし、決まりだな。我は再びドラゴンに戻る」
言って、人間の姿からドラゴンの姿に戻ったヴォーズ。やはりそれは恐ろしいほどのエネルギーを備えたドラゴンだった。しかし戦った時は敵意がこちらに向いていたが、今はそうではない。仲間だ。恐ろしいのは強大なエネルギーそのもので、敵意の籠った恐怖によるものではなくてそれが前とは全然違った。
「さあ乗るがよい」
その言葉を皮切りに、フーモを抱えたモッサン、フェイザー、リック、リックの鼻毛の僕がドラゴンの背中に乗って、ヴォーズは飛び立ち、いよいよ新天地へと飛び立つのであった。
新天地へ向かう前、最後の街に装備を整える為に寄ることになった。
新天地は生きて帰る者がいないとされる地域なので、その街で売られている装備は高級品が数多く並ぶ。しかし、それでも売り切れが続出するほどだという話をドラゴンの背に乗っている時、モッサンが言っていた。
町からは少し離れた森の開けた場所にドラゴンは降り、そこから街へと向かう事にした。まだ街までは100キロ以上はあるが、あまり街に近づきすぎると、ドラゴンの存在に気づかれ大騒ぎになる可能性があるから、随分と手前で降りた。しかしその降りた場所が厄介な場所だった。
「ねえここ、何だか変な森じゃない?」
「そりゃあ、そうだろう。迷いの森だからな」
当然の如く、ヴォーズが言った。
「迷いの森!? 強力なモンスターばかりが出ると言うあの!?」
「何だ、フェイザー知らなかったのか」
ヴォーズが当然かの様子で言った。
「知るわけないだろ。それに知っていたら俺はここに降りる事を断固として反対したぞ」
「まあ、心配するな。我が付いている」
「そりゃあ、ドラゴン様が付いていれば心強いけどさ」
「おい、呑気な会話をしている余裕はないぞ」
モッサンの言葉で、僕を含め皆はっとなった。辺りからは殺気が漂っている。そしてその殺気は僕達へと確実に向けられていた。
「来るぞ!」
モッサンがそう言った直後、四方から挟み撃ちするようにガタイの良い筋骨隆々の狼が姿を現した。
「あ、あわわわわっ。あのモンスター図鑑で見た事ある。Aランクモンスターの破壊狼じゃない?」
「そうだな。まあ、割と厄介なモンスターだ」
ドラゴンのヴォーズが言った。
「ちょっと、呑気な事を言っていないであんたも協力しなさいよ」
「悪いが我は今回の戦いはパスだ。長時間飛んで疲れたからな。それにこの程度のモンスターにやられるぐらいならば、協力など出来ん」
「薄情者!」
「我はドラゴンだ」
「薄情竜!」
「冗談じゃよ。まあ、お主達が勝てなそうだったら我も力を貸そう。しかし自分達の力で対処してみるんだな。我を苦しめたお主達であればこの程度のモンスター屁でもないじゃろう」
「ちょっと、A級モンスターなのよ? そんな甘いわけないじゃない」
「口論は良いから戦うぞリック。それにドラゴンの言う通りだ。俺達自身で勝たなければ、強くならなければ、ドラゴンばっかりに今後も頼ってはいられないぞ」
「そうだけど……」
破壊狼が予備動作なく、突撃して来た。僕は鼻毛ファイアーを鼻毛に纏い、リックの鼻の中から出て、破壊狼の目を目がけて鼻毛飛ばしのスキルを行使した。そしてそれは見事に命中した。
「やったわ。鼻毛」
どうやらリックは昼間でも鼻毛の僕が出ていることを気にしていないようだった。まあ、森の中で薄暗いというのもあるだろうが。
「って、あんたスキルで透明化しなさいよ!」
リックに言われて、僕は鼻毛の体を透明化して姿を隠した。
「そう、それでよし!」
リックの怒りはどうやら収まったようだった。そして姿を消した方が見えない鼻毛を相手に向かって飛ばせるので優位なのも間違いなかった。
「凄いな。鼻毛。まさに一網打尽だ。いや一毛打尽だな。がっはっは」とモッサン。
僕は全ての破壊狼に鼻毛を命中させたが、全てそれが相手にとっての致命傷にはならなかった。一匹は目を潰したが、鼻が利くのか目を潰しても破壊狼はこちらへと突進をやめなかった。しかし、数々の強敵と対戦して来た僕達の経験が勝り、リックの穴潜りからのバックをとっての首の骨を折る攻撃やモッサンの二刀流の乱打切り、フェイザーの鍛冶屋としてのハンマー打ち付け&ハサミ攻撃でなんとか、いや難なく破壊狼を撃退する事が出来た。そしてそこで僕のレベルが上がったのを感じた。それはリックの鼻毛での最高レベル到達の知らせでもあった。
最大レベルになればその人からしか得られないスキルもしくは魔法が使えるようになる事が今までの経験で分かっていた。そして僕はリックの鼻毛として得たスキルはようやくの『思念送達』だった。言葉は話す事が出来なかったが、自分の意志をテレパシーで相手に飛ばせるようになったのだ。これで今までのようなまどろっこしい鼻の中を刺激してイエスやノーを示す必要がなくなったのだ。僕は早速皆に思念送達で思いを伝えた。
『僕、鼻毛、今テレパシーをマスターした。とても嬉しい』
片言な言い方で皆に思念を送達したら、皆の表情が「!!???」てな感じになった。
「鼻毛が喋った!!??」
「いや、違うわ。これはテレパシーよ」
「驚いた」
「何と、ドラゴンである我も鼻毛が喋るとは想像もしていなかった」
「ワン!」
全員が僕のテレパシーに驚愕していたのは明白だった。
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それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
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