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八章 動画の反響
4. 朝のお仕事
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十二月第二日曜日の法事に合わせて、土曜日の午後から私は休みをもらい、帰省させてもらうことになった。
有本さんと交代で、私が七時に出勤して、開店準備と八時の開店をして昼過ぎまで働く。カフェ業務をしたことのない有本さんは、昼前から入って製造補助をしながら、カフェエリアのお手伝いをしてもらう。
月曜日まで実家でゆっくりしておいでと言ってもらい、日曜と月曜は沙耶さんの親戚の人を手伝いに呼んでくれることなった。
前日にお店の扉の鍵を店長から受け取って、翌朝七時前に鍵を開けて出勤した。
「おはようございます」
焼きあがったパンをオーブンから出していた店長は、早朝でも変わらずの優しい笑顔。
「おはようございます。朝早いですけど、大丈夫ですか」
「はい。よろしくお願いします」
開店までは製造補助をすることになっている。
エプロンをつけて、「よし」と気合を入れる。製造補助は、先月の地域のイベントでグルメバーガーを作って以来。
少し緊張している。
店長に教えてもらいながら、ドーナツのコーティングをした。
ドーナツの半分をチョコにつけてから、スプレーチョコをつける。
カラフルで粒粒しているチョコのことをスプレーチョコ、という名称だと初めて知った。
他に粉砂糖を振りかけたり、湯煎で溶かしたチョコやホワイトチョコをスプーンですくい、ドーナツの上に細くかけたり、砕いたピーナッツを乗せたりして、ドーナツを彩った。
コロネにカスタードやチョコを注入して、透明の袋に包み、冷蔵庫に並べる。
店長が作ってラッピングまでしているサンドイッチとカスクートもコロネの隣に。
出来上がったパンを並べていくのは日常業務。
フランスパンやバゲットを籠に入れ、クロワッサン・ソフトフランス・ベーコンエピ・ソーセージエピ・塩バター・あんぱん・クリームパン・アップルパイ・パンオショコラ・マフィン・ショコラツイスト・食パンなどなどを、棚に並べる。
揚げ上がったばかりの熱々のカレーパンを並べていると、父のことを思い出した。
父は祖父母宅にすでにいるらしい。母は昼まで仕事をしてから向かうことになっている。
私が到着するのは夕方ころ。夜ご飯を食べる頃合いになるかもしれない。
店長のパンを取り置きさせてもらおうか悩んで、仕事を上がるタイミングで買って帰ることに決めた。
朝早くからパンを楽しみにして買いに来てくれるお客さんを優先しないといけないと思ったから。
八時になり、開店のため、看板を置き換え、暖簾を掛けた。
「いらっしゃいませ」
開店直後からお客さんが入ってきて、トレーとトングを手にして、パンを取り分けていく。
土曜の朝だから学生さんは少ないけれど、社会人らしきお客さんがパンを求めている。
レジのひとつはセルフで、ひとつは私が打つ。
「嬢ちゃん、今日は朝の出勤かい?」
庭師の雷蔵さんが、朝からパンを買いに来た。
「おはようございます。そうなんです。今日は帰省するので、朝の人と交代してもらったんです」
操作しながら、雷蔵さんと話をする。見知ったお客さんがいてくれて、気持ちが解れた。
「帰省かい? 家族楽しみしてるだろうなあ。気を付けて帰れよ」
「はい。ありがとうございます」
レジをしつつ、パンの補充をし、ドリンクを求めているお客さんに手渡す。
そうこうするうちに沙耶さんが出勤してきた。
「どのパン作ったの?」
「ドーナツとコロネです」
「楽しかった?」
「はい。ドキドキしましたけど、自分が作った物をお客さんが取ってくれて、嬉しくなりました」
「気持ちわかるよ。美味しく食べてくれるといいね」
「はい!」
店長が作ったドーナツだし、コーティングはいつもと同じ物。だから味はいつもと変わらないはず。
だけど自分が作った物、という特別な気持ちが湧いて、沙耶さんの言葉に頷いた。
しばらくしてから有本さんも出勤してきて、挨拶を交わす。
「今日は時間を交代してもらって、すみませんでした。ありがとうございます」
いつもは顔を合わせるだけだけど、今日は三時間ほど一緒に働ける。楽しみにしていた。
「いいえ。お互い様ですから。ゆっくりしてきてくださいね」
ショートヘアの上に茶色いベレー帽をかぶり、エプロンをしめた有本さんは、沙耶さんからカフェ業務を教えてもらい始めた。
沙耶さんより有本さんの方が五歳ほど年齢は若いらしいけど、沙耶さんが美魔女すぎて驚く。
カフェのオープン時間になると、外で待ちわびていたお客さんが、次々に入店してくる。
「いらっしゃいませ。お好きなお席にどうぞ」
庭に向いたソファー席に座ったお客さんに、お水を提供する。
「いらっしゃいませ。ワンちゃんとご一緒でしたら、庭席へどうぞ。後ほどテーブルに伺います」
犬連れなんです、というお客さんを外から庭席へどうぞ、とお伝えし。忙しい時間帯に向かっていった。
十三時になり、私が上がらせてもらう時間になった。
エプロンを外して、帰る挨拶をしてからパンをいくつか買い、着替えを入れたリュックを背負って駅に向かった。
次回⇒5 帰省
有本さんと交代で、私が七時に出勤して、開店準備と八時の開店をして昼過ぎまで働く。カフェ業務をしたことのない有本さんは、昼前から入って製造補助をしながら、カフェエリアのお手伝いをしてもらう。
月曜日まで実家でゆっくりしておいでと言ってもらい、日曜と月曜は沙耶さんの親戚の人を手伝いに呼んでくれることなった。
前日にお店の扉の鍵を店長から受け取って、翌朝七時前に鍵を開けて出勤した。
「おはようございます」
焼きあがったパンをオーブンから出していた店長は、早朝でも変わらずの優しい笑顔。
「おはようございます。朝早いですけど、大丈夫ですか」
「はい。よろしくお願いします」
開店までは製造補助をすることになっている。
エプロンをつけて、「よし」と気合を入れる。製造補助は、先月の地域のイベントでグルメバーガーを作って以来。
少し緊張している。
店長に教えてもらいながら、ドーナツのコーティングをした。
ドーナツの半分をチョコにつけてから、スプレーチョコをつける。
カラフルで粒粒しているチョコのことをスプレーチョコ、という名称だと初めて知った。
他に粉砂糖を振りかけたり、湯煎で溶かしたチョコやホワイトチョコをスプーンですくい、ドーナツの上に細くかけたり、砕いたピーナッツを乗せたりして、ドーナツを彩った。
コロネにカスタードやチョコを注入して、透明の袋に包み、冷蔵庫に並べる。
店長が作ってラッピングまでしているサンドイッチとカスクートもコロネの隣に。
出来上がったパンを並べていくのは日常業務。
フランスパンやバゲットを籠に入れ、クロワッサン・ソフトフランス・ベーコンエピ・ソーセージエピ・塩バター・あんぱん・クリームパン・アップルパイ・パンオショコラ・マフィン・ショコラツイスト・食パンなどなどを、棚に並べる。
揚げ上がったばかりの熱々のカレーパンを並べていると、父のことを思い出した。
父は祖父母宅にすでにいるらしい。母は昼まで仕事をしてから向かうことになっている。
私が到着するのは夕方ころ。夜ご飯を食べる頃合いになるかもしれない。
店長のパンを取り置きさせてもらおうか悩んで、仕事を上がるタイミングで買って帰ることに決めた。
朝早くからパンを楽しみにして買いに来てくれるお客さんを優先しないといけないと思ったから。
八時になり、開店のため、看板を置き換え、暖簾を掛けた。
「いらっしゃいませ」
開店直後からお客さんが入ってきて、トレーとトングを手にして、パンを取り分けていく。
土曜の朝だから学生さんは少ないけれど、社会人らしきお客さんがパンを求めている。
レジのひとつはセルフで、ひとつは私が打つ。
「嬢ちゃん、今日は朝の出勤かい?」
庭師の雷蔵さんが、朝からパンを買いに来た。
「おはようございます。そうなんです。今日は帰省するので、朝の人と交代してもらったんです」
操作しながら、雷蔵さんと話をする。見知ったお客さんがいてくれて、気持ちが解れた。
「帰省かい? 家族楽しみしてるだろうなあ。気を付けて帰れよ」
「はい。ありがとうございます」
レジをしつつ、パンの補充をし、ドリンクを求めているお客さんに手渡す。
そうこうするうちに沙耶さんが出勤してきた。
「どのパン作ったの?」
「ドーナツとコロネです」
「楽しかった?」
「はい。ドキドキしましたけど、自分が作った物をお客さんが取ってくれて、嬉しくなりました」
「気持ちわかるよ。美味しく食べてくれるといいね」
「はい!」
店長が作ったドーナツだし、コーティングはいつもと同じ物。だから味はいつもと変わらないはず。
だけど自分が作った物、という特別な気持ちが湧いて、沙耶さんの言葉に頷いた。
しばらくしてから有本さんも出勤してきて、挨拶を交わす。
「今日は時間を交代してもらって、すみませんでした。ありがとうございます」
いつもは顔を合わせるだけだけど、今日は三時間ほど一緒に働ける。楽しみにしていた。
「いいえ。お互い様ですから。ゆっくりしてきてくださいね」
ショートヘアの上に茶色いベレー帽をかぶり、エプロンをしめた有本さんは、沙耶さんからカフェ業務を教えてもらい始めた。
沙耶さんより有本さんの方が五歳ほど年齢は若いらしいけど、沙耶さんが美魔女すぎて驚く。
カフェのオープン時間になると、外で待ちわびていたお客さんが、次々に入店してくる。
「いらっしゃいませ。お好きなお席にどうぞ」
庭に向いたソファー席に座ったお客さんに、お水を提供する。
「いらっしゃいませ。ワンちゃんとご一緒でしたら、庭席へどうぞ。後ほどテーブルに伺います」
犬連れなんです、というお客さんを外から庭席へどうぞ、とお伝えし。忙しい時間帯に向かっていった。
十三時になり、私が上がらせてもらう時間になった。
エプロンを外して、帰る挨拶をしてからパンをいくつか買い、着替えを入れたリュックを背負って駅に向かった。
次回⇒5 帰省
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