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第五話 櫻木陽美 ~出逢い~
新婚生活~妊娠~出産
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帰国し、あちこちにお土産を渡しに回って、結婚にまつわる一連の行事は終了。
新居での一馬さんとの生活が始まった。
八時に家を出、外回りが多いためお弁当はなし。
午後六時から七時の間に帰宅するか、お酒を飲みに行くこともある。
わたしは専業主婦になったので、時間はたっぷりとある。
掃除をして、一馬さんのシャツにアイロンをかけ、昼食後実家から運んだピアノを弾いたり書道をしたりして過ごし、午後五時頃から夕食の支度をする。一馬さんの帰宅が楽しみで楽しみで。
昼間、一人でいる生活は初めてなので、なかなか慣れなくて、寂しくなったら実家に帰ったり、母に電話をしたり、一緒に出掛けたり。結婚前よりも母と仲良くなった気がした。
土日は基本お休みなので、一馬さんと朝から一日一緒にいられることが嬉しい。
リビングの奥の和室で並んで書道をし、お買い物に出かけ、わたしのピアノを聴きながら一馬さんがお酒を飲んで、仲良く暮らした。
二十三歳の誕生日の直前、わたしは身体の異変に気がつき病院に行った。
どきどきしながら結果を待ち、病院でもらったエコー写真を大事に持って帰宅し、一馬さんが帰宅するのを待った。この日はそわそわして、何も手につかなかった。ぼんやりしていたので、ステーキに火を入れ過ぎてしまった。
待ちわびていた一馬さんが帰り、彼が着替える前にわたしは写真を見せた。
「妊娠しました」
わたしの報告に一馬さんは目を見開いて一瞬だけ固まった後、「やった!」と子供のようにはしゃいでわたしを抱き上げて、慌てて下ろした。
「予定日は」
「来年四月です」
「四月か。楽しみだよ。くれぐれも無理はしないで」
わたしは毎日エコー写真を見つめ、検診日を楽しみにして過ごし、安定期に入ると両方の両親に報告した。
初孫の妊娠に、わたしの母は涙し、父は踊り狂っていた。和彦はぽかんとしてあまり興味がなさそうだった。明美は「十八で叔母ちゃんか」と腕を組み、眉間に皺を寄せつつも、口調は嬉しそうだった。
臨月に入り、重たいお腹を抱えて頑張って散歩をしながら来るべきその日に備え、四月十七日、待望の第一子である長女が生まれた。一馬さんが璃子と名付けた。
長女であるわたしは弟妹の面倒を見てきた。
だから、子育てに慣れていると思って、実家には戻らなかった。
でもすぐに母に泣きついた。赤ちゃんが何を求めて泣いているのかわからない。
寝不足がたたり自分の身体を思うように動かすことがきつい。
わたしが弟妹の面倒を見ていたのは所詮手伝いであり、母のような責任感と緊張感を持っていなかったと気がついた。それにあの家には祖父母もお手伝いさんもいた。常に大人の目があったから、安心していた。一人で赤ちゃんのお世話は、わたしには無理だった。実家より我が家の方が広いため、母に来てもらった。
翌年の春二度目の妊娠がわかり、十二月一日長男真琴を出産した。
乳飲み子の世話と、動き回る活発な長女に挟まれ、てんてこ舞いの日々。
父が体調を崩していたので今度は母に来てもらうわけにはいかず、櫻木家ご用達の会社から家政婦さんに来てもらった。一人目のときは他人を家に入れることに抵抗があったのだけど、今回はそうは言っていられなかった。
家政婦の只野さんはとても気の良い方で、わたしはすぐに気に入った。
二回り以上年上の只野さんは、まめでかゆいところに手が届く。けれど出過ぎないところに好感を持った。
お料理もお掃除も上手なので、安心して任せられた。
洗濯だけはわたしの希望で遠慮してもらっている。
その間二人の子供の面倒を見てくれて、元気過ぎる璃子についていけないわたしよりも、付き合い方が上手だった。只野さんも二人の年子を育てた経験があり、男の子はもっと活発ですよ、と話してくれた。
真琴もそうなるのかなと思っていたけれど、逆だった。外で遊ぶよりも絵本を好んだ。
璃子が生まれてから、四年ほどピアノに触れる時間はなかった。あるとき、一馬さんの勧めで久しぶりに鍵盤に触れた。
この日からピアノはわたしたち家族にとって、なくてはならないものになった。
新居での一馬さんとの生活が始まった。
八時に家を出、外回りが多いためお弁当はなし。
午後六時から七時の間に帰宅するか、お酒を飲みに行くこともある。
わたしは専業主婦になったので、時間はたっぷりとある。
掃除をして、一馬さんのシャツにアイロンをかけ、昼食後実家から運んだピアノを弾いたり書道をしたりして過ごし、午後五時頃から夕食の支度をする。一馬さんの帰宅が楽しみで楽しみで。
昼間、一人でいる生活は初めてなので、なかなか慣れなくて、寂しくなったら実家に帰ったり、母に電話をしたり、一緒に出掛けたり。結婚前よりも母と仲良くなった気がした。
土日は基本お休みなので、一馬さんと朝から一日一緒にいられることが嬉しい。
リビングの奥の和室で並んで書道をし、お買い物に出かけ、わたしのピアノを聴きながら一馬さんがお酒を飲んで、仲良く暮らした。
二十三歳の誕生日の直前、わたしは身体の異変に気がつき病院に行った。
どきどきしながら結果を待ち、病院でもらったエコー写真を大事に持って帰宅し、一馬さんが帰宅するのを待った。この日はそわそわして、何も手につかなかった。ぼんやりしていたので、ステーキに火を入れ過ぎてしまった。
待ちわびていた一馬さんが帰り、彼が着替える前にわたしは写真を見せた。
「妊娠しました」
わたしの報告に一馬さんは目を見開いて一瞬だけ固まった後、「やった!」と子供のようにはしゃいでわたしを抱き上げて、慌てて下ろした。
「予定日は」
「来年四月です」
「四月か。楽しみだよ。くれぐれも無理はしないで」
わたしは毎日エコー写真を見つめ、検診日を楽しみにして過ごし、安定期に入ると両方の両親に報告した。
初孫の妊娠に、わたしの母は涙し、父は踊り狂っていた。和彦はぽかんとしてあまり興味がなさそうだった。明美は「十八で叔母ちゃんか」と腕を組み、眉間に皺を寄せつつも、口調は嬉しそうだった。
臨月に入り、重たいお腹を抱えて頑張って散歩をしながら来るべきその日に備え、四月十七日、待望の第一子である長女が生まれた。一馬さんが璃子と名付けた。
長女であるわたしは弟妹の面倒を見てきた。
だから、子育てに慣れていると思って、実家には戻らなかった。
でもすぐに母に泣きついた。赤ちゃんが何を求めて泣いているのかわからない。
寝不足がたたり自分の身体を思うように動かすことがきつい。
わたしが弟妹の面倒を見ていたのは所詮手伝いであり、母のような責任感と緊張感を持っていなかったと気がついた。それにあの家には祖父母もお手伝いさんもいた。常に大人の目があったから、安心していた。一人で赤ちゃんのお世話は、わたしには無理だった。実家より我が家の方が広いため、母に来てもらった。
翌年の春二度目の妊娠がわかり、十二月一日長男真琴を出産した。
乳飲み子の世話と、動き回る活発な長女に挟まれ、てんてこ舞いの日々。
父が体調を崩していたので今度は母に来てもらうわけにはいかず、櫻木家ご用達の会社から家政婦さんに来てもらった。一人目のときは他人を家に入れることに抵抗があったのだけど、今回はそうは言っていられなかった。
家政婦の只野さんはとても気の良い方で、わたしはすぐに気に入った。
二回り以上年上の只野さんは、まめでかゆいところに手が届く。けれど出過ぎないところに好感を持った。
お料理もお掃除も上手なので、安心して任せられた。
洗濯だけはわたしの希望で遠慮してもらっている。
その間二人の子供の面倒を見てくれて、元気過ぎる璃子についていけないわたしよりも、付き合い方が上手だった。只野さんも二人の年子を育てた経験があり、男の子はもっと活発ですよ、と話してくれた。
真琴もそうなるのかなと思っていたけれど、逆だった。外で遊ぶよりも絵本を好んだ。
璃子が生まれてから、四年ほどピアノに触れる時間はなかった。あるとき、一馬さんの勧めで久しぶりに鍵盤に触れた。
この日からピアノはわたしたち家族にとって、なくてはならないものになった。
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