6 / 33
1章 幼稚園の先生
6.降園時間になり
しおりを挟む
十四時になり、迎えに来た保護者を見つけると、園児たちは満面の笑顔を咲かせて走って行く。
親御さんたちも、「おかえり」とわが子を迎える、微笑ましいひととき。
「先生、さようならー」
「はい。さようなら」
きちんと足を止め、挨拶をして帰る子、だだだと走って行って保護者に注意され、くるりと振り返って挨拶をする子。
それぞれの個性が表れていて、子供はおもしろい。
エプロンの端を引っ張られ、視線を落とす。
「先生、折り紙の続きやって」
櫻井涼花ちゃんがツインテールを揺らしていた。
十四時で帰るのはクラスの半分ほど。残り半分は延長保育になる。
「折り紙楽しかった?」
涼花ちゃんはこくんと頷いた。
お昼から折り紙であじさいを作った。
涼花ちゃんは器用な子で、みんな一個折るのに四苦八苦している中で、三個も折った。
控えめで、みんなの前では遠慮して発言をしない子。
やりたいことがあると主張してくれて嬉しい。きっと得意なことがわかって、自信につながっているんだと思う。
「折り紙する子、ついておいで」
「わーい」
教室に声をかけると、五人が私のあとをついてきた。
折り紙を用意して、席につく。
「何が折りたい?」
「うさぎ!」
「ねこがいい」
「あじさいもっと作りたい」
「よし。全部作ろう」
主張ができる子には、折りたいものを。
できない子には隣で折っている子の真似をしてみようとか、おにぎりや紙コップのジュースなど身近なものをすすめると、頷いてくれる。
折ったものでお店屋さんごっこや動物園を作ったりしているうちに、お迎えが来て、数人が帰って行く。
一緒に遊んでいたお友達が帰るのを、寂しそうにしながら手を振って見送る園児たち。
そんな園児たちも、保護者の声を聞いただけで目を輝かせ、走って行って保護者に抱き着く。
微笑ましい光景に、心が温まる。
残っている生徒が少なくなると、園児は一つの教室に集められた。
別の教諭に任せて、私と麻香先生は職員室に向かった。
幼稚園教諭の仕事には、報告書や日誌などの事務仕事、備品の管理、遊びに使う小道具やイベントなどの準備があっていろいろ忙しい。
そうこうするうちに十七時になった。
「真衣先生、橋爪さんがお会いしたいそうです」
と呼ばれた。
ノートパソコンで日誌を書いていた私は、手を止めて教室に向かった。
「あ、先生。本日はご迷惑をおかけしました」
律くんとお母さんが、教室の外で待っていた。
お母さんは三十代半ばぐらいだろうか。落ち着いた雰囲気の人。
園の保護者さんの中では、年齢が少し高めのお母さん。
「いいえ。私の方こそ目が行き届かず、申し訳ございません」
頭を下げて謝ると、橋爪さんは「いいえ」と首を横に振った。
「とんでもないです。家でも大変なのに、たくさんの園児たちを見てもらって、大変ですよね。こちらは助かっています。律のケガは大したことないようですし、ほっとしました」
お母さんは隣に立っている律くんの頭に手を置く。
「これぐらい、平気」
律くんは照れているのか、ぷいと顔をそむけた。
「律、ケンカはダメよ。あなたは我慢をできるようにならないとね」
と優しく注意されて、うんと頷く。
「ケンカにはなってしまいましたが、律くんは謝罪を受け入れられる、心の広いお子様ですよ」
と良いところもきちんと報告しておいた。
「相手の子供さんのおケガは?」
「腕に少し。連絡をしたら、お母さまがすぐに迎えに来られましたけど、詳しいお話はできていなくて。何度かお電話をしたんですけど、お出にならないんです」
峯山さんは佑斗くんを迎えに来てから自宅に戻っていないのか、何度か電話をかけたが出てもらえなかった。
「もし謝罪を求めておられましたら、伺いますとお伝えいただけますか」
わかりましたと頷いて、橋爪さん親子を見送った。
職員室に戻って、今の件も報告書に書いてから、園長先生にメールを送信した。
お迎え待ちの園児の見守りを交代し、積み木で遊ぶ園児と一緒に遊んでいると、「お客さんです」と呼ばれた。
呼びに来てくれた年中さんの担任の美鈴先生は、血相を変えていた。
「真衣先生、気をつけてくださいね」
そっと耳打ちしてきた。
何を気をつけるんだろうと思いながら職員室に向かっていると、
「なんでケガなんかするんだ!」
ドスの効いた恐ろしい怒鳴り声が、びりびりと大気を震わせていた。
驚いて一瞬足が止まってしまった。
「目を離した理由は!」
「別の場所で、園児のトラブルがあって」
震える声で事情を話す、麻香先生の声が聞こえた。
峯山さんではないかとピンときて、私の足は動いた。
次回⇒7.峯山さんのお父さん
親御さんたちも、「おかえり」とわが子を迎える、微笑ましいひととき。
「先生、さようならー」
「はい。さようなら」
きちんと足を止め、挨拶をして帰る子、だだだと走って行って保護者に注意され、くるりと振り返って挨拶をする子。
それぞれの個性が表れていて、子供はおもしろい。
エプロンの端を引っ張られ、視線を落とす。
「先生、折り紙の続きやって」
櫻井涼花ちゃんがツインテールを揺らしていた。
十四時で帰るのはクラスの半分ほど。残り半分は延長保育になる。
「折り紙楽しかった?」
涼花ちゃんはこくんと頷いた。
お昼から折り紙であじさいを作った。
涼花ちゃんは器用な子で、みんな一個折るのに四苦八苦している中で、三個も折った。
控えめで、みんなの前では遠慮して発言をしない子。
やりたいことがあると主張してくれて嬉しい。きっと得意なことがわかって、自信につながっているんだと思う。
「折り紙する子、ついておいで」
「わーい」
教室に声をかけると、五人が私のあとをついてきた。
折り紙を用意して、席につく。
「何が折りたい?」
「うさぎ!」
「ねこがいい」
「あじさいもっと作りたい」
「よし。全部作ろう」
主張ができる子には、折りたいものを。
できない子には隣で折っている子の真似をしてみようとか、おにぎりや紙コップのジュースなど身近なものをすすめると、頷いてくれる。
折ったものでお店屋さんごっこや動物園を作ったりしているうちに、お迎えが来て、数人が帰って行く。
一緒に遊んでいたお友達が帰るのを、寂しそうにしながら手を振って見送る園児たち。
そんな園児たちも、保護者の声を聞いただけで目を輝かせ、走って行って保護者に抱き着く。
微笑ましい光景に、心が温まる。
残っている生徒が少なくなると、園児は一つの教室に集められた。
別の教諭に任せて、私と麻香先生は職員室に向かった。
幼稚園教諭の仕事には、報告書や日誌などの事務仕事、備品の管理、遊びに使う小道具やイベントなどの準備があっていろいろ忙しい。
そうこうするうちに十七時になった。
「真衣先生、橋爪さんがお会いしたいそうです」
と呼ばれた。
ノートパソコンで日誌を書いていた私は、手を止めて教室に向かった。
「あ、先生。本日はご迷惑をおかけしました」
律くんとお母さんが、教室の外で待っていた。
お母さんは三十代半ばぐらいだろうか。落ち着いた雰囲気の人。
園の保護者さんの中では、年齢が少し高めのお母さん。
「いいえ。私の方こそ目が行き届かず、申し訳ございません」
頭を下げて謝ると、橋爪さんは「いいえ」と首を横に振った。
「とんでもないです。家でも大変なのに、たくさんの園児たちを見てもらって、大変ですよね。こちらは助かっています。律のケガは大したことないようですし、ほっとしました」
お母さんは隣に立っている律くんの頭に手を置く。
「これぐらい、平気」
律くんは照れているのか、ぷいと顔をそむけた。
「律、ケンカはダメよ。あなたは我慢をできるようにならないとね」
と優しく注意されて、うんと頷く。
「ケンカにはなってしまいましたが、律くんは謝罪を受け入れられる、心の広いお子様ですよ」
と良いところもきちんと報告しておいた。
「相手の子供さんのおケガは?」
「腕に少し。連絡をしたら、お母さまがすぐに迎えに来られましたけど、詳しいお話はできていなくて。何度かお電話をしたんですけど、お出にならないんです」
峯山さんは佑斗くんを迎えに来てから自宅に戻っていないのか、何度か電話をかけたが出てもらえなかった。
「もし謝罪を求めておられましたら、伺いますとお伝えいただけますか」
わかりましたと頷いて、橋爪さん親子を見送った。
職員室に戻って、今の件も報告書に書いてから、園長先生にメールを送信した。
お迎え待ちの園児の見守りを交代し、積み木で遊ぶ園児と一緒に遊んでいると、「お客さんです」と呼ばれた。
呼びに来てくれた年中さんの担任の美鈴先生は、血相を変えていた。
「真衣先生、気をつけてくださいね」
そっと耳打ちしてきた。
何を気をつけるんだろうと思いながら職員室に向かっていると、
「なんでケガなんかするんだ!」
ドスの効いた恐ろしい怒鳴り声が、びりびりと大気を震わせていた。
驚いて一瞬足が止まってしまった。
「目を離した理由は!」
「別の場所で、園児のトラブルがあって」
震える声で事情を話す、麻香先生の声が聞こえた。
峯山さんではないかとピンときて、私の足は動いた。
次回⇒7.峯山さんのお父さん
53
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる