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1章 幼稚園の先生
6.降園時間になり
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十四時になり、迎えに来た保護者を見つけると、園児たちは満面の笑顔を咲かせて走って行く。
親御さんたちも、「おかえり」とわが子を迎える、微笑ましいひととき。
「先生、さようならー」
「はい。さようなら」
きちんと足を止め、挨拶をして帰る子、だだだと走って行って保護者に注意され、くるりと振り返って挨拶をする子。
それぞれの個性が表れていて、子供はおもしろい。
エプロンの端を引っ張られ、視線を落とす。
「先生、折り紙の続きやって」
櫻井涼花ちゃんがツインテールを揺らしていた。
十四時で帰るのはクラスの半分ほど。残り半分は延長保育になる。
「折り紙楽しかった?」
涼花ちゃんはこくんと頷いた。
お昼から折り紙であじさいを作った。
涼花ちゃんは器用な子で、みんな一個折るのに四苦八苦している中で、三個も折った。
控えめで、みんなの前では遠慮して発言をしない子。
やりたいことがあると主張してくれて嬉しい。きっと得意なことがわかって、自信につながっているんだと思う。
「折り紙する子、ついておいで」
「わーい」
教室に声をかけると、五人が私のあとをついてきた。
折り紙を用意して、席につく。
「何が折りたい?」
「うさぎ!」
「ねこがいい」
「あじさいもっと作りたい」
「よし。全部作ろう」
主張ができる子には、折りたいものを。
できない子には隣で折っている子の真似をしてみようとか、おにぎりや紙コップのジュースなど身近なものをすすめると、頷いてくれる。
折ったものでお店屋さんごっこや動物園を作ったりしているうちに、お迎えが来て、数人が帰って行く。
一緒に遊んでいたお友達が帰るのを、寂しそうにしながら手を振って見送る園児たち。
そんな園児たちも、保護者の声を聞いただけで目を輝かせ、走って行って保護者に抱き着く。
微笑ましい光景に、心が温まる。
残っている生徒が少なくなると、園児は一つの教室に集められた。
別の教諭に任せて、私と麻香先生は職員室に向かった。
幼稚園教諭の仕事には、報告書や日誌などの事務仕事、備品の管理、遊びに使う小道具やイベントなどの準備があっていろいろ忙しい。
そうこうするうちに十七時になった。
「真衣先生、橋爪さんがお会いしたいそうです」
と呼ばれた。
ノートパソコンで日誌を書いていた私は、手を止めて教室に向かった。
「あ、先生。本日はご迷惑をおかけしました」
律くんとお母さんが、教室の外で待っていた。
お母さんは三十代半ばぐらいだろうか。落ち着いた雰囲気の人。
園の保護者さんの中では、年齢が少し高めのお母さん。
「いいえ。私の方こそ目が行き届かず、申し訳ございません」
頭を下げて謝ると、橋爪さんは「いいえ」と首を横に振った。
「とんでもないです。家でも大変なのに、たくさんの園児たちを見てもらって、大変ですよね。こちらは助かっています。律のケガは大したことないようですし、ほっとしました」
お母さんは隣に立っている律くんの頭に手を置く。
「これぐらい、平気」
律くんは照れているのか、ぷいと顔をそむけた。
「律、ケンカはダメよ。あなたは我慢をできるようにならないとね」
と優しく注意されて、うんと頷く。
「ケンカにはなってしまいましたが、律くんは謝罪を受け入れられる、心の広いお子様ですよ」
と良いところもきちんと報告しておいた。
「相手の子供さんのおケガは?」
「腕に少し。連絡をしたら、お母さまがすぐに迎えに来られましたけど、詳しいお話はできていなくて。何度かお電話をしたんですけど、お出にならないんです」
峯山さんは佑斗くんを迎えに来てから自宅に戻っていないのか、何度か電話をかけたが出てもらえなかった。
「もし謝罪を求めておられましたら、伺いますとお伝えいただけますか」
わかりましたと頷いて、橋爪さん親子を見送った。
職員室に戻って、今の件も報告書に書いてから、園長先生にメールを送信した。
お迎え待ちの園児の見守りを交代し、積み木で遊ぶ園児と一緒に遊んでいると、「お客さんです」と呼ばれた。
呼びに来てくれた年中さんの担任の美鈴先生は、血相を変えていた。
「真衣先生、気をつけてくださいね」
そっと耳打ちしてきた。
何を気をつけるんだろうと思いながら職員室に向かっていると、
「なんでケガなんかするんだ!」
ドスの効いた恐ろしい怒鳴り声が、びりびりと大気を震わせていた。
驚いて一瞬足が止まってしまった。
「目を離した理由は!」
「別の場所で、園児のトラブルがあって」
震える声で事情を話す、麻香先生の声が聞こえた。
峯山さんではないかとピンときて、私の足は動いた。
次回⇒7.峯山さんのお父さん
親御さんたちも、「おかえり」とわが子を迎える、微笑ましいひととき。
「先生、さようならー」
「はい。さようなら」
きちんと足を止め、挨拶をして帰る子、だだだと走って行って保護者に注意され、くるりと振り返って挨拶をする子。
それぞれの個性が表れていて、子供はおもしろい。
エプロンの端を引っ張られ、視線を落とす。
「先生、折り紙の続きやって」
櫻井涼花ちゃんがツインテールを揺らしていた。
十四時で帰るのはクラスの半分ほど。残り半分は延長保育になる。
「折り紙楽しかった?」
涼花ちゃんはこくんと頷いた。
お昼から折り紙であじさいを作った。
涼花ちゃんは器用な子で、みんな一個折るのに四苦八苦している中で、三個も折った。
控えめで、みんなの前では遠慮して発言をしない子。
やりたいことがあると主張してくれて嬉しい。きっと得意なことがわかって、自信につながっているんだと思う。
「折り紙する子、ついておいで」
「わーい」
教室に声をかけると、五人が私のあとをついてきた。
折り紙を用意して、席につく。
「何が折りたい?」
「うさぎ!」
「ねこがいい」
「あじさいもっと作りたい」
「よし。全部作ろう」
主張ができる子には、折りたいものを。
できない子には隣で折っている子の真似をしてみようとか、おにぎりや紙コップのジュースなど身近なものをすすめると、頷いてくれる。
折ったものでお店屋さんごっこや動物園を作ったりしているうちに、お迎えが来て、数人が帰って行く。
一緒に遊んでいたお友達が帰るのを、寂しそうにしながら手を振って見送る園児たち。
そんな園児たちも、保護者の声を聞いただけで目を輝かせ、走って行って保護者に抱き着く。
微笑ましい光景に、心が温まる。
残っている生徒が少なくなると、園児は一つの教室に集められた。
別の教諭に任せて、私と麻香先生は職員室に向かった。
幼稚園教諭の仕事には、報告書や日誌などの事務仕事、備品の管理、遊びに使う小道具やイベントなどの準備があっていろいろ忙しい。
そうこうするうちに十七時になった。
「真衣先生、橋爪さんがお会いしたいそうです」
と呼ばれた。
ノートパソコンで日誌を書いていた私は、手を止めて教室に向かった。
「あ、先生。本日はご迷惑をおかけしました」
律くんとお母さんが、教室の外で待っていた。
お母さんは三十代半ばぐらいだろうか。落ち着いた雰囲気の人。
園の保護者さんの中では、年齢が少し高めのお母さん。
「いいえ。私の方こそ目が行き届かず、申し訳ございません」
頭を下げて謝ると、橋爪さんは「いいえ」と首を横に振った。
「とんでもないです。家でも大変なのに、たくさんの園児たちを見てもらって、大変ですよね。こちらは助かっています。律のケガは大したことないようですし、ほっとしました」
お母さんは隣に立っている律くんの頭に手を置く。
「これぐらい、平気」
律くんは照れているのか、ぷいと顔をそむけた。
「律、ケンカはダメよ。あなたは我慢をできるようにならないとね」
と優しく注意されて、うんと頷く。
「ケンカにはなってしまいましたが、律くんは謝罪を受け入れられる、心の広いお子様ですよ」
と良いところもきちんと報告しておいた。
「相手の子供さんのおケガは?」
「腕に少し。連絡をしたら、お母さまがすぐに迎えに来られましたけど、詳しいお話はできていなくて。何度かお電話をしたんですけど、お出にならないんです」
峯山さんは佑斗くんを迎えに来てから自宅に戻っていないのか、何度か電話をかけたが出てもらえなかった。
「もし謝罪を求めておられましたら、伺いますとお伝えいただけますか」
わかりましたと頷いて、橋爪さん親子を見送った。
職員室に戻って、今の件も報告書に書いてから、園長先生にメールを送信した。
お迎え待ちの園児の見守りを交代し、積み木で遊ぶ園児と一緒に遊んでいると、「お客さんです」と呼ばれた。
呼びに来てくれた年中さんの担任の美鈴先生は、血相を変えていた。
「真衣先生、気をつけてくださいね」
そっと耳打ちしてきた。
何を気をつけるんだろうと思いながら職員室に向かっていると、
「なんでケガなんかするんだ!」
ドスの効いた恐ろしい怒鳴り声が、びりびりと大気を震わせていた。
驚いて一瞬足が止まってしまった。
「目を離した理由は!」
「別の場所で、園児のトラブルがあって」
震える声で事情を話す、麻香先生の声が聞こえた。
峯山さんではないかとピンときて、私の足は動いた。
次回⇒7.峯山さんのお父さん
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