前略、お祖母ちゃん ~ええ?! 文通相手はもふもふたち? 私を癒す25通の絵ハガキ~

衿乃 光希

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1章 幼稚園の先生

7.峯山さんのお父さん

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 職員室に飛び込むと、白いジャージ姿の長身男性が麻香先生に詰め寄っている光景が視界に入り、背筋が冷えた。
 男性の後ろに、佑斗くんとお母さんがいた。男性が怖いのか、手を握り合って体を小さくしている。

「峯山さん!」
 私は大きめの声をかけ、男性に近づいた。心臓が飛び出しそうなくらい、ばくばくしている。
 男性が私に顔を向ける。金髪をオールバックにし、細い眉毛を釣り上げて、私を睨みつけてくる。

「あんた誰?」
「峯山佑斗くんの担任の、高梨真衣です。佑斗くんのお父さんですね」

「おまえが担任か。うちの坊主がケガしたのは、おまえのせいか」
「その点につきましては、弁解の余地もございません。申し訳ございませんでした」
 ケガさせた責任を認め、私は頭を下げた。

「理由は!?」
 説明のため、私は顔を上げる。
 頭ひとつ分は上にある恐ろしい顔に、胃がぎゅっと縮んだ。

「園児同士でケンカとなり、手が当たったのだと思われます」
 恐怖から、少し声が震える。

「思われます? 二人もいて、見てなかったのか」
「すべり台でトラブルがあり、二人とも目を話してしまいました」
 詳しくはないけれど、私は素直に状況を話した。隠し立てはあとから必ずわかる。

「相手のガキは?」
「彼もケガをしました」
「んなこと訊いてねえ。ガキは教室にいるのか? 家族が謝罪すべきじゃねえのか」

 どうやら答えを間違えたらしい。峯山さんは相手がケガをしたかはどうでもいいようだ。

「いつものお時間に迎えに来られて、お帰りになりました」
「おかしいだろう! 俺らが来るまで待つのが誠意だろうが!」
 峯山さんが再び声を荒らげた。

 麻香先生が亀のようにの首を縮める。私も同じようになっているかもしれない。

「あの、峯山さんは、お母さんがお迎えに上がられ、今日はお戻りにはならないと思っておりました」
「おまえが帰したのか」
「ええと……はい」

 峯山さんが来るとわかっていれば、橋爪さんにもお伝えした。
 それなら橋爪さんは待っていたかもしれないし、その時間に園に戻ってきたかもしれない。

「人の子供にケガさせてんだぞ! 下げる頭持ってねえのかよ!」
「いえ、謝罪をなさる気持ちはお持ちです。ですので、後日、園で場を設けます」
 橋爪さんの心象を下げてはいけないと、慌てて言った。

「呼び戻せ」
「え?」
 耳を疑う言葉に、聞き間違えたのかと思った。

「相手のガキと親も来させろって言ってんだよ」
 今すぐに、ということだろう。

「え、いえ……それは、もう遅いですし」
 自分勝手な発言に驚き、しどろもどろになってしまう。

「俺たちは来てやってんだろ! 飛んで来るのが筋じゃねのか」

 峯山さんは手を激しく動かし始めた。イライラしているのが伝わってくる。
 その手つきが、私にはとても怖い。

「あちらにもご都合があるでしょうから、その……」
「もういい! 直接行く! 家を教えろ。あと名前!」

 指を突きつけられた。
 園に呼べないなら、家に行く? あり得ない。

「それはできません」
 私は強く否定した。
 言えるわけがない。個人情報を漏らすわけにはいかない。どれだけ脅されても、それは言えない。

「はあ。おまえ使えねえ奴だな。話にならねえ。一番上の人間連れてこい」

 顎で「行け」と指示された。顎でくいっと。二十五年生きてきて、こんなことされたのは、初めてだ。

「ただいま園長は不在ですので。明日、園長に報告の上、改めてご連絡さしあげます。今日のところは」
「帰れってか!」

「申し訳ございません」
 私は頭を下げた。
 頭を下げ続けることしかできなかった。
 怖くて顔が見れないし、ほかの手段を思いつかなかった。

「こんな無能な人間に子供預けられねえな」

 峯山さんはぼそっと、確実に悪意ある言葉を悪意のある言い方で、私にぶつけて帰っていった。


 次回⇒8.疲れ切って
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