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1章 幼稚園の先生
7.峯山さんのお父さん
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職員室に飛び込むと、白いジャージ姿の長身男性が麻香先生に詰め寄っている光景が視界に入り、背筋が冷えた。
男性の後ろに、佑斗くんとお母さんがいた。男性が怖いのか、手を握り合って体を小さくしている。
「峯山さん!」
私は大きめの声をかけ、男性に近づいた。心臓が飛び出しそうなくらい、ばくばくしている。
男性が私に顔を向ける。金髪をオールバックにし、細い眉毛を釣り上げて、私を睨みつけてくる。
「あんた誰?」
「峯山佑斗くんの担任の、高梨真衣です。佑斗くんのお父さんですね」
「おまえが担任か。うちの坊主がケガしたのは、おまえのせいか」
「その点につきましては、弁解の余地もございません。申し訳ございませんでした」
ケガさせた責任を認め、私は頭を下げた。
「理由は!?」
説明のため、私は顔を上げる。
頭ひとつ分は上にある恐ろしい顔に、胃がぎゅっと縮んだ。
「園児同士でケンカとなり、手が当たったのだと思われます」
恐怖から、少し声が震える。
「思われます? 二人もいて、見てなかったのか」
「すべり台でトラブルがあり、二人とも目を話してしまいました」
詳しくはないけれど、私は素直に状況を話した。隠し立てはあとから必ずわかる。
「相手のガキは?」
「彼もケガをしました」
「んなこと訊いてねえ。ガキは教室にいるのか? 家族が謝罪すべきじゃねえのか」
どうやら答えを間違えたらしい。峯山さんは相手がケガをしたかはどうでもいいようだ。
「いつものお時間に迎えに来られて、お帰りになりました」
「おかしいだろう! 俺らが来るまで待つのが誠意だろうが!」
峯山さんが再び声を荒らげた。
麻香先生が亀のようにの首を縮める。私も同じようになっているかもしれない。
「あの、峯山さんは、お母さんがお迎えに上がられ、今日はお戻りにはならないと思っておりました」
「おまえが帰したのか」
「ええと……はい」
峯山さんが来るとわかっていれば、橋爪さんにもお伝えした。
それなら橋爪さんは待っていたかもしれないし、その時間に園に戻ってきたかもしれない。
「人の子供にケガさせてんだぞ! 下げる頭持ってねえのかよ!」
「いえ、謝罪をなさる気持ちはお持ちです。ですので、後日、園で場を設けます」
橋爪さんの心象を下げてはいけないと、慌てて言った。
「呼び戻せ」
「え?」
耳を疑う言葉に、聞き間違えたのかと思った。
「相手のガキと親も来させろって言ってんだよ」
今すぐに、ということだろう。
「え、いえ……それは、もう遅いですし」
自分勝手な発言に驚き、しどろもどろになってしまう。
「俺たちは来てやってんだろ! 飛んで来るのが筋じゃねのか」
峯山さんは手を激しく動かし始めた。イライラしているのが伝わってくる。
その手つきが、私にはとても怖い。
「あちらにもご都合があるでしょうから、その……」
「もういい! 直接行く! 家を教えろ。あと名前!」
指を突きつけられた。
園に呼べないなら、家に行く? あり得ない。
「それはできません」
私は強く否定した。
言えるわけがない。個人情報を漏らすわけにはいかない。どれだけ脅されても、それは言えない。
「はあ。おまえ使えねえ奴だな。話にならねえ。一番上の人間連れてこい」
顎で「行け」と指示された。顎でくいっと。二十五年生きてきて、こんなことされたのは、初めてだ。
「ただいま園長は不在ですので。明日、園長に報告の上、改めてご連絡さしあげます。今日のところは」
「帰れってか!」
「申し訳ございません」
私は頭を下げた。
頭を下げ続けることしかできなかった。
怖くて顔が見れないし、ほかの手段を思いつかなかった。
「こんな無能な人間に子供預けられねえな」
峯山さんはぼそっと、確実に悪意ある言葉を悪意のある言い方で、私にぶつけて帰っていった。
次回⇒8.疲れ切って
男性の後ろに、佑斗くんとお母さんがいた。男性が怖いのか、手を握り合って体を小さくしている。
「峯山さん!」
私は大きめの声をかけ、男性に近づいた。心臓が飛び出しそうなくらい、ばくばくしている。
男性が私に顔を向ける。金髪をオールバックにし、細い眉毛を釣り上げて、私を睨みつけてくる。
「あんた誰?」
「峯山佑斗くんの担任の、高梨真衣です。佑斗くんのお父さんですね」
「おまえが担任か。うちの坊主がケガしたのは、おまえのせいか」
「その点につきましては、弁解の余地もございません。申し訳ございませんでした」
ケガさせた責任を認め、私は頭を下げた。
「理由は!?」
説明のため、私は顔を上げる。
頭ひとつ分は上にある恐ろしい顔に、胃がぎゅっと縮んだ。
「園児同士でケンカとなり、手が当たったのだと思われます」
恐怖から、少し声が震える。
「思われます? 二人もいて、見てなかったのか」
「すべり台でトラブルがあり、二人とも目を話してしまいました」
詳しくはないけれど、私は素直に状況を話した。隠し立てはあとから必ずわかる。
「相手のガキは?」
「彼もケガをしました」
「んなこと訊いてねえ。ガキは教室にいるのか? 家族が謝罪すべきじゃねえのか」
どうやら答えを間違えたらしい。峯山さんは相手がケガをしたかはどうでもいいようだ。
「いつものお時間に迎えに来られて、お帰りになりました」
「おかしいだろう! 俺らが来るまで待つのが誠意だろうが!」
峯山さんが再び声を荒らげた。
麻香先生が亀のようにの首を縮める。私も同じようになっているかもしれない。
「あの、峯山さんは、お母さんがお迎えに上がられ、今日はお戻りにはならないと思っておりました」
「おまえが帰したのか」
「ええと……はい」
峯山さんが来るとわかっていれば、橋爪さんにもお伝えした。
それなら橋爪さんは待っていたかもしれないし、その時間に園に戻ってきたかもしれない。
「人の子供にケガさせてんだぞ! 下げる頭持ってねえのかよ!」
「いえ、謝罪をなさる気持ちはお持ちです。ですので、後日、園で場を設けます」
橋爪さんの心象を下げてはいけないと、慌てて言った。
「呼び戻せ」
「え?」
耳を疑う言葉に、聞き間違えたのかと思った。
「相手のガキと親も来させろって言ってんだよ」
今すぐに、ということだろう。
「え、いえ……それは、もう遅いですし」
自分勝手な発言に驚き、しどろもどろになってしまう。
「俺たちは来てやってんだろ! 飛んで来るのが筋じゃねのか」
峯山さんは手を激しく動かし始めた。イライラしているのが伝わってくる。
その手つきが、私にはとても怖い。
「あちらにもご都合があるでしょうから、その……」
「もういい! 直接行く! 家を教えろ。あと名前!」
指を突きつけられた。
園に呼べないなら、家に行く? あり得ない。
「それはできません」
私は強く否定した。
言えるわけがない。個人情報を漏らすわけにはいかない。どれだけ脅されても、それは言えない。
「はあ。おまえ使えねえ奴だな。話にならねえ。一番上の人間連れてこい」
顎で「行け」と指示された。顎でくいっと。二十五年生きてきて、こんなことされたのは、初めてだ。
「ただいま園長は不在ですので。明日、園長に報告の上、改めてご連絡さしあげます。今日のところは」
「帰れってか!」
「申し訳ございません」
私は頭を下げた。
頭を下げ続けることしかできなかった。
怖くて顔が見れないし、ほかの手段を思いつかなかった。
「こんな無能な人間に子供預けられねえな」
峯山さんはぼそっと、確実に悪意ある言葉を悪意のある言い方で、私にぶつけて帰っていった。
次回⇒8.疲れ切って
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