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42.実母の存在
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午前中に千里のお見舞いに行った一穂は、その足で電車に乗った。
源三郎がついて行くと言うのを断って、一人で待ち合わせの病院に向かった。
受付で来意を告げると、事務員と思われる50代頃の女性が対応してくれた。
事務室奥のパーティションで仕切られたスペースのソファーに案内された。
「まずは、あなたの身分を確認させてください」
一穂は学生証を見せた。
「須田一穂さんですね。上月千里さんとの現在のご関係は?」
「養母です。あたしが3歳の時に両親が事故で他界して、引き取られました」
「それはお気の毒でしたね。それで、今回ご自身のルーツを辿っているということでしたが」
「はい。私は須田麻衣子が実母だとずっと思っていましたが、それに疑問を感じて、真実を知りたいんです」
「上月千里さんは教えてくれないのですか」
「千里さんは、何か証拠がないと話してくれないと思うんです。これまでも何度か引き取った理由を尋ねましたが、世話になったからとだけしか話してくれなかったので」
「上月千里さんに、事情があるのでしょうね」
「そうかもしれません。でも千里さんが事故に遭って、あたしと同じ血液型だと判明して。何も知らないでは手遅れになるような事があったら嫌だなと思ったんです」
「そうでしたか。これからお見せするカルテは、持ち出しコピー撮影禁止とさせて頂きます。今この場でお検めください」
「教えて頂けるなら、守ります」
「お願いします。こちらになります」
一穂は差し出された用紙を受け取った。
通常カルテは診療完結から五年間の保管義務がある。しかしこの病院ではすべてのカルテをデータ保管していた。
検索したところ、須田麻衣子のカルテはなかったが、上月千里はヒットした。
十六年前の5月に初診、その後定期的に再診、そして1月14日、上月千里は女児を出産していた。
「ありがとうございました」
一穂は震える手で用紙を返した。
「お力になれましたでしょうか?」
「はい。実母が……養母が実母で間違いないと、思います」
事務員に答える途中で、堪えきれなかった涙が溢れだし、一穂は声を押し殺して泣いた。
* * *
自分でもどうして泣いたのかわからなかった。実母が判明して嬉しいのか、実母だと思っていた人が実母でなかったことが悲しいのか。
気持ちの整理はつかなかったが、はっきりとわかったことに、すっきりした気分にはなっていた。
あとは、千里が話してくれるのかどうかが気にかかった。
カルテを見せて証明することは出来なかった。一穂が真実を知っただけで千里が話す気になってくれるのかは一種の賭けではあったけど、一穂は何がなんでも経緯を話してもらう、と意気込んで千葉に戻った。
源三郎がついて行くと言うのを断って、一人で待ち合わせの病院に向かった。
受付で来意を告げると、事務員と思われる50代頃の女性が対応してくれた。
事務室奥のパーティションで仕切られたスペースのソファーに案内された。
「まずは、あなたの身分を確認させてください」
一穂は学生証を見せた。
「須田一穂さんですね。上月千里さんとの現在のご関係は?」
「養母です。あたしが3歳の時に両親が事故で他界して、引き取られました」
「それはお気の毒でしたね。それで、今回ご自身のルーツを辿っているということでしたが」
「はい。私は須田麻衣子が実母だとずっと思っていましたが、それに疑問を感じて、真実を知りたいんです」
「上月千里さんは教えてくれないのですか」
「千里さんは、何か証拠がないと話してくれないと思うんです。これまでも何度か引き取った理由を尋ねましたが、世話になったからとだけしか話してくれなかったので」
「上月千里さんに、事情があるのでしょうね」
「そうかもしれません。でも千里さんが事故に遭って、あたしと同じ血液型だと判明して。何も知らないでは手遅れになるような事があったら嫌だなと思ったんです」
「そうでしたか。これからお見せするカルテは、持ち出しコピー撮影禁止とさせて頂きます。今この場でお検めください」
「教えて頂けるなら、守ります」
「お願いします。こちらになります」
一穂は差し出された用紙を受け取った。
通常カルテは診療完結から五年間の保管義務がある。しかしこの病院ではすべてのカルテをデータ保管していた。
検索したところ、須田麻衣子のカルテはなかったが、上月千里はヒットした。
十六年前の5月に初診、その後定期的に再診、そして1月14日、上月千里は女児を出産していた。
「ありがとうございました」
一穂は震える手で用紙を返した。
「お力になれましたでしょうか?」
「はい。実母が……養母が実母で間違いないと、思います」
事務員に答える途中で、堪えきれなかった涙が溢れだし、一穂は声を押し殺して泣いた。
* * *
自分でもどうして泣いたのかわからなかった。実母が判明して嬉しいのか、実母だと思っていた人が実母でなかったことが悲しいのか。
気持ちの整理はつかなかったが、はっきりとわかったことに、すっきりした気分にはなっていた。
あとは、千里が話してくれるのかどうかが気にかかった。
カルテを見せて証明することは出来なかった。一穂が真実を知っただけで千里が話す気になってくれるのかは一種の賭けではあったけど、一穂は何がなんでも経緯を話してもらう、と意気込んで千葉に戻った。
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