【完結】タヌキとキツネの飴屋さん 第8回ほっこりじんわり大賞奨励賞

衿乃 光希

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6.ハナと飴作り

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 ハナと約束した日、ソラは前日に買っておいた果物を持って、レンタルキッチンに向かった。ハナとはレンタルキッチンの前で待ちあわせている。

 美味しい飴ができるといいなあ。

 ハナと一緒に美味しいものが作れることが嬉しくて、ソラの足は自然と速くなる。
「ソラちゃん。おはよう」
 ハナの声がした。扉の前で、スマホを持ったハナが待っていた。
 ソラは駆け寄る。

「おはよう。もう来てたん? 早くない?」
「今着いたところ。すごい楽しみにしてた」
「私も」
 お互い弾んだ声であいさつを交わし、レンタルキッチンの中に入った。

 手を洗ってから、果物を取り出し並べていく。さくらんぼ・ブルーベリー・ぶどう・オレンジ・りんご。

「いろんなフルーツ買ってきたんや」
「うん。夏が旬以外のも売ってたから、皮ごと食べられるもの選んできた」

「なんで皮ごと食べられるもの選んだん?」
「水分が多いと、飴が固まらへんねんて」

「そうなんや。なんでもできるんとちゃうねんね」
「そうらしい」

 りんご、ブルーベリー、さくらんぼをそれぞれよく洗い、房についているぶどうを一粒ずつはずし、ボウルに入れてしっかりと洗う。
 オレンジは皮を剥き、薄皮をつけたまま、ひと房ずつに分ける。

 ハナがぶどうを一粒つまんでいるのを見て、ソラも食べてみる。甘味の中に少し酸味があって、美味しい。
 ハナと視線を交わし、微笑み合う。ハナの顔は美味しい飴ができそう、と期待していて、ソラもワクワクしてきた。

 キッチンペーパーで水分をしっかりとふき取る。
「一個ずつ串に刺していくね」
 ソラがつまようじと竹串を準備した。

「ぶどう一個ずつ刺すん?」
「うん。こうやって」
 ハナに見せながら、ぶどうにつまようじを刺す。

「かわいい」
 つまようじが刺さった小さなぶどうが気に入ったハナが、ソラの真似をして刺していく。
 ソラも続けてぶどうに刺していく。一粒だったり、竹串をつかって、四粒にしたり。

 ぶどうが終わると、ブルーベリー、オレンジと順番に仕込んでいった。さくらんぼは茎が残っているから、そのまま利用する。
 最後に残ったりんごには、割りばしをゆっくりと刺していく。

「硬そう」
 突き抜けないように、慎重に刺していくソラの手を見ているハナが手を握っていた。

「できた」
「屋台みたいやなあ」
 嬉しそうに、ハナの目がきらきらと輝いた。

「仕込みは終わったよ」
「いよいよ飴作り?」
「そうやで」

 上白糖と水を計って鍋に水を入れ、馴染ませてから、火にかける。
「かき混ぜへんの?」
 ソラが何もせず、鍋をじっと見ているだけなのが気になったのか、ハナがお玉を渡そうとしてくれた。

「混ぜたらあかんねん。触らずこのまま煮詰めていくから」
「そうなんや。何分ぐらい?」

「10分ぐらいかな」
「けっこうかかるんやな」

「あとで声掛けるから、遊んでていいよ」
「うん」
 頷いたハナは、イスに座ってスマホを触り始めた。

 ソラは鍋の中でぐつぐつと大きな泡を立てている飴の元を注視する。
 淡い茶色になってきたところで、つまようじで飴をすくい、水につけてみる。
 触れるとねちゃっとなり、まだだなと判断する。
 それを何度か繰り返していると、ようやく固まった。

「ハナちゃん、できたよ」
 急いで戻ってくるハナ。
 弱火にした飴に、つまようじに刺したぶどうをくぐらせた。くるりと串を回し、全体に飴を絡ませていく。

「すごーい。フルーツ飴やあ」
 ハナが歓喜の声を上げた。

「ハナちゃんもやってみる?」
「うん!」

 ソラはお鍋を火から大きく離さないように気をつけながら、ハナがやりやすいように、横に移動する。
 ハナもぶどうのつまようじを取り、飴に近づけていく。

「飴熱いから、触れへんように気をつけてな」
 ハナがやけどをしないようにソラが注意する。

 そっとぶどうにだけ飴を潜らせたハナ。くるりと回転させてから、飴から引き離した。
 コーティングされたぶどうは、つやつやの光沢を放っている。
 つまようじを立ててクッキングシートに置いたぶどう飴を、ハナは愛おしそうに見つめていた。

 ふふっと微笑んだソラは、続きをしていった。
 ぶどう、さくらんぼ、オレンジ、ブルーベリー。
 足りなくなったらまた飴を作り、果物をくぐらせて、クッキングシートに並べていく。

 大きなりんごをくぐらせると、ハナの目がよりいっそう楽しそうに輝き、キツネ耳がぴょんと飛び出した。
 今は二人だけだから、耳ぐらいいいか、とソラは見て見ぬふりをしておいた。

「出来上がり!」
「わーい。食べよう食べよう」
「片付けてからな」

 ソラは先に片付けようとした。ところがハナがしゅんと悲しそうな顔をし、耳が垂れ下がる。
 感情がわかりやすいハナがかわいくて、ソラは苦笑しながら折れた。

「わかった。一個だけな」
「やった!」
 二人とも最初に作ったぶどうの串を取り上げる。

「「いただきます」」
 一粒を口に入れ、噛む。

 パリパリザクザクと良い音がして飴が砕け、果汁が溢れる。果物の甘さと違う甘味と果汁が混ざり、
「美味しい!」
 味も音も楽しい食べ物になった。

 やめ時がわからなくなったのか、ハナがさくらんぼにも手を出した。
「さくらんぼは、美味しいしかわいいけど、種が邪魔やなあ」
 と感想を呟いている。
 その隙に、ソラは使った鍋などを手早く片付けた。
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