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7.ハナからの提案
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フルーツ飴作りは一時間ほどで終えたので、残りの時間はポリポリと食べながら、おしゃべりに花を咲かせることになった。
「ソラちゃんは、なんでフルーツ飴作ってみようって思ったん?」
「かわいいし、これなら料理せえへん私でも作れるかなって思ってん」
お祭りの屋台で売っているのが初見だけど、そのときは作れるものだと思っていなかった。
ところがたまたま作っている人の動画が出てきて、作れそうだな、作ってみたいな。そんな気持ちが湧き上がった。
野生は雑食でなんでも食べるけれど、ソラたち神様に仕えるタヌキは人と同じものを食べる。街に降りてお店やコンビニを利用し、金銭を払う。
ただ自分たちで料理をする、とい概念はない。だから巣穴に台所はない。
そのため、ソラはレンタルキッチンを探した。
「前にくれたべっこう飴、初めて作ったって言ってたよね。すごく上手くできてたよ」
「あーあれはね、実は初めて上手く作れたっていう意味やってん。少し盛ってしもた」
てへへと、ソラは頬をかきながら、照れ笑いをする。
ソラが初めてレンタルキッチンでべっこう飴を作ったときは、大失敗をした。
固まらないのは何度もあったし、火が強くて焦げてしまった。
予約時間が迫っていて最後に作ったのが成功し、美味しくできたから、ハナにあげた。
「何度も失敗してたんや。今日、すごく手慣れてるなって思ったよ」
「実はドキドキしてた。たくさん動画見て、頭の中でシミュレーションしてきてん」
「ソラちゃん、すごいわあ。買えばすぐ手に入るもんやのに、自分で作ってみようって思うなんて」
ハナがオレンジ串を取り、ぱくりと頬張る。パリパリと小気味良い音が鳴る。
柔らかい表情で、「美味しい」と、とても美味しそうに食べてくれる。
ソラもブルーベリー飴を食べる。濃厚な果汁と飴が混ざる。とても美味しい。
「ソラちゃん、フルーツ飴のお店を出したらええのに」
「ええ!?」
ハナの言葉にびっくりして、果汁が飛び出しそうになった。慌てて口を抑えて、飲み下す。
「私がお店? 無理やわ」
「なんでなんで?」
「え、だって、お店で売ってはるの美味しいし、見た目もきれいやん」
ハナと二人で作ったフルーツ飴を見る。
ソラにとっては特別なフルーツ飴だけど、やっぱりお店で売っているものの方がきれいだと思った。
「ソラちゃんだって負けてへんよ」
「それは友達のひいき目やからよ。そう言ってもらえて、私は嬉しいけど」
「ソラちゃんが自分でまだまだって思ってるんやったら、練習したらええだけやん。あたしも一緒にやりたい」
ハナがぐいと身を乗り出す。
反対にソラは、体を引いた。
お店をやるなんて思いもしなかった。だから挑戦の気持ちより、戸惑いの方が強い。
「いっぱい練習しても、お店みたいに上手できる自信ないかな。それに、きっと家族に反対される。私は出来損ないやから」
家族の顔を思い浮かべ、賛成してもらえるとは思えないと口に出す。
するとハナの顔が曇った。
「ソラちゃん、家族から出来損ないとか言われてるん?」
「出来損ないとは言われてへんけど、未熟とはよく言われる。実際、失敗も多いし」
「失敗なんて、誰でもするやん」
「うん。そうなんやけど……」
ソラは口の中で、もごもごと言葉を濁し、顔をうつむけた。
反対される理由は、それだけじゃない。でも言葉にすると、ハナは悲しむだろう。
ソラが口をつぐんでいると、
「キツネとタヌキの因縁のせい?」
ハナが気づいた。
ソラが頷けないでいると、ハナが大きな溜め息をついた。
「年寄りはそれ言うよね。大昔のこと持ち出して」
ハナの口調が、少し怒っている?
「タヌキは腹黒い。仲良くするフリして、平気でだますって」
タヌキがキツネのことを悪く言い伝えているように、キツネもタヌキを悪く言い伝えている。
現実を知って、ソラは肩を落とした。
タヌキとキツネが仲良くするのは、お互いにだめなことなんだと。
「でもあたしはぜっんぜん気にしてないなあ」
ハナの明るい言葉に、ソラは水を浴びせられたかのように、はっとした。
「ソラちゃんはソラちゃんやん。みんな同じ性格してるわけちゃうやん。ちょっぴり自分に自信がないけど、でも優しくて、美味しいもの大好きで。美味しいもの作ってみようっていう実行力がある。腹黒さなんてぜんぜんない、素直でかわいいタヌキや。あたしは、あたしの目に狂いはないって自信持ってるよ」
「ハナちゃん……」
ソラはゆっくりと顔を上げた。少し滲んで見えるハナの顔が強張っている気がした。
「もしかして、ソラちゃん、あたしと会うの禁止されてるん? まさか今日で最後にしようとか思ってないやんな」
「思ってないよ。ハナちゃんは、たしかにキツネやけど、ハナちゃんはハナちゃんやし」
ソラはふるふると首を横に振る。
「きょうだいにはバレたけど、親にはまだ言われてないし、お父さんから、休みをどう使おうと構わへんって言われたし」
慌てて言葉を続けると、ハナは表情を緩ませた。
「良かった。あたしはソラちゃんとずっと親友でいたいって、思ってるんよ」
「私も、私もハナちゃん、親友やと思ってるし、ずっと仲良くしたい」
その気持ちに嘘はない。反対されても、ハナと会わない選択肢は、ソラの中にない。
「なあ、ソラちゃん。あたしらが初めて会ったときのこと、覚えてる?」
ハナに質問されて、ソラと出会った日と、一緒に調査をした三年ほど前のことを思い出した。
「もちろん。覚えてるよ」
「ソラちゃんは、なんでフルーツ飴作ってみようって思ったん?」
「かわいいし、これなら料理せえへん私でも作れるかなって思ってん」
お祭りの屋台で売っているのが初見だけど、そのときは作れるものだと思っていなかった。
ところがたまたま作っている人の動画が出てきて、作れそうだな、作ってみたいな。そんな気持ちが湧き上がった。
野生は雑食でなんでも食べるけれど、ソラたち神様に仕えるタヌキは人と同じものを食べる。街に降りてお店やコンビニを利用し、金銭を払う。
ただ自分たちで料理をする、とい概念はない。だから巣穴に台所はない。
そのため、ソラはレンタルキッチンを探した。
「前にくれたべっこう飴、初めて作ったって言ってたよね。すごく上手くできてたよ」
「あーあれはね、実は初めて上手く作れたっていう意味やってん。少し盛ってしもた」
てへへと、ソラは頬をかきながら、照れ笑いをする。
ソラが初めてレンタルキッチンでべっこう飴を作ったときは、大失敗をした。
固まらないのは何度もあったし、火が強くて焦げてしまった。
予約時間が迫っていて最後に作ったのが成功し、美味しくできたから、ハナにあげた。
「何度も失敗してたんや。今日、すごく手慣れてるなって思ったよ」
「実はドキドキしてた。たくさん動画見て、頭の中でシミュレーションしてきてん」
「ソラちゃん、すごいわあ。買えばすぐ手に入るもんやのに、自分で作ってみようって思うなんて」
ハナがオレンジ串を取り、ぱくりと頬張る。パリパリと小気味良い音が鳴る。
柔らかい表情で、「美味しい」と、とても美味しそうに食べてくれる。
ソラもブルーベリー飴を食べる。濃厚な果汁と飴が混ざる。とても美味しい。
「ソラちゃん、フルーツ飴のお店を出したらええのに」
「ええ!?」
ハナの言葉にびっくりして、果汁が飛び出しそうになった。慌てて口を抑えて、飲み下す。
「私がお店? 無理やわ」
「なんでなんで?」
「え、だって、お店で売ってはるの美味しいし、見た目もきれいやん」
ハナと二人で作ったフルーツ飴を見る。
ソラにとっては特別なフルーツ飴だけど、やっぱりお店で売っているものの方がきれいだと思った。
「ソラちゃんだって負けてへんよ」
「それは友達のひいき目やからよ。そう言ってもらえて、私は嬉しいけど」
「ソラちゃんが自分でまだまだって思ってるんやったら、練習したらええだけやん。あたしも一緒にやりたい」
ハナがぐいと身を乗り出す。
反対にソラは、体を引いた。
お店をやるなんて思いもしなかった。だから挑戦の気持ちより、戸惑いの方が強い。
「いっぱい練習しても、お店みたいに上手できる自信ないかな。それに、きっと家族に反対される。私は出来損ないやから」
家族の顔を思い浮かべ、賛成してもらえるとは思えないと口に出す。
するとハナの顔が曇った。
「ソラちゃん、家族から出来損ないとか言われてるん?」
「出来損ないとは言われてへんけど、未熟とはよく言われる。実際、失敗も多いし」
「失敗なんて、誰でもするやん」
「うん。そうなんやけど……」
ソラは口の中で、もごもごと言葉を濁し、顔をうつむけた。
反対される理由は、それだけじゃない。でも言葉にすると、ハナは悲しむだろう。
ソラが口をつぐんでいると、
「キツネとタヌキの因縁のせい?」
ハナが気づいた。
ソラが頷けないでいると、ハナが大きな溜め息をついた。
「年寄りはそれ言うよね。大昔のこと持ち出して」
ハナの口調が、少し怒っている?
「タヌキは腹黒い。仲良くするフリして、平気でだますって」
タヌキがキツネのことを悪く言い伝えているように、キツネもタヌキを悪く言い伝えている。
現実を知って、ソラは肩を落とした。
タヌキとキツネが仲良くするのは、お互いにだめなことなんだと。
「でもあたしはぜっんぜん気にしてないなあ」
ハナの明るい言葉に、ソラは水を浴びせられたかのように、はっとした。
「ソラちゃんはソラちゃんやん。みんな同じ性格してるわけちゃうやん。ちょっぴり自分に自信がないけど、でも優しくて、美味しいもの大好きで。美味しいもの作ってみようっていう実行力がある。腹黒さなんてぜんぜんない、素直でかわいいタヌキや。あたしは、あたしの目に狂いはないって自信持ってるよ」
「ハナちゃん……」
ソラはゆっくりと顔を上げた。少し滲んで見えるハナの顔が強張っている気がした。
「もしかして、ソラちゃん、あたしと会うの禁止されてるん? まさか今日で最後にしようとか思ってないやんな」
「思ってないよ。ハナちゃんは、たしかにキツネやけど、ハナちゃんはハナちゃんやし」
ソラはふるふると首を横に振る。
「きょうだいにはバレたけど、親にはまだ言われてないし、お父さんから、休みをどう使おうと構わへんって言われたし」
慌てて言葉を続けると、ハナは表情を緩ませた。
「良かった。あたしはソラちゃんとずっと親友でいたいって、思ってるんよ」
「私も、私もハナちゃん、親友やと思ってるし、ずっと仲良くしたい」
その気持ちに嘘はない。反対されても、ハナと会わない選択肢は、ソラの中にない。
「なあ、ソラちゃん。あたしらが初めて会ったときのこと、覚えてる?」
ハナに質問されて、ソラと出会った日と、一緒に調査をした三年ほど前のことを思い出した。
「もちろん。覚えてるよ」
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