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12.スタート
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キッチンカーが公園内の指定場所に駐車した。
「ナギさん、ありがとうございました」
「本番はこれからですよ。楽しんでいきましょう」
兄妹で同じこと言うんだな、とソラがくすりと笑う。
「それ、あたしが先に言ったから」
ソラの膝の上に乗っていたハナが、ナギさんに言う。
キツネ姿のハナの頭を、ナギが「はいはい」と言いながら撫でた。
キッチンカーは二人乗り。ソラが電車で移動するつもりをしていたけれど、電車が動かなかったら作れる人がいないと困る、という話になり、ハナが本来の姿に戻ることで折り合いがついた。
膝に乗せたハナはふわふわもふもふで、温かくて、ソラの緊張をほぐしてくれた。
ハナを膝から降ろして、ソラが先に車から降りる。
「気持ち良い」
最近は肌寒い日が続き、公園の周囲の樹々は紅葉が進んでいる。
けれど今日は太陽が顔を出していて、暖かい。
心地良い風がふわりと頬を撫で、髪を揺らした。
「ほんまや、気持ち良いね」
いつもの人の姿に変化したハナが車から降りてきて、うーんと伸びをした。
「準備しよっか」
「うん」
キッチンカーの外装は、上がピンク、下がイエローの二層に分かれている。かわいくて元気になれる色の組み合わせにした。
二人で車の後部に回ると、ナギが荷台の扉を開けてくれていた。
メニュー表を貼りつけた看板を取り出すと、ハナが受け取ってくれたので、設置を任せて乗り込んだ。
通路の左右に作業台と冷蔵庫とコンロ、水道、換気扇がある。
荷台の中はすごく暑くなるらしいので、エアコンも付けてもらっている。
接客用のガラス窓を開けて、外側についている板を押さえる二か所のピンを抜く。
看板を置いてくれたハナが留め具を取りにきて、外から板を固定してくれた。
ガラス窓の下には幅十五センチ長さ一メートルの板を取り付けてもらった。
看板のメニュー表を縮小したメニュー表を置く。
レンタルキッチンで作っておいたラッピング済みの飴を、外から見えるように作業台に並べてみる。
お客さんの位置にいるハナを見ると、目を輝かせて、嬉しそうな笑顔で見ていた。
目が合うと、ソラは両手の指でハートを作った。
品出しやお金の準備などを終えると、ソラは外に出た。
キッチンカーを見つめる。
親きょうだいに黙って、ハナと一緒にこっそり準備を進めた宝物。
胸がじんわりと熱くなってくる。
ナギやナギの知り合いのお陰で、スムーズに運んだ。ソラは心から感謝していた。
ソラひとりでは、絶対にできなかった。ハナと一緒でも、開業までに時間がかかっただろう。
「お客さん、来てくれはるかな」
ハナがSNSのアカウントを作って、宣伝してくれた。
いいねをもらえたし、数人がリプライをくれた。だけど、実際に来てくれるかはわからない。
「大丈夫。きっと来てくれはるよ」
ハナが手を握ってくれる。不安な気持ちが吹き飛びはしなかったけれど、心強かった。
十一時になった。イベント開始と同時に、『ソラとハナのフルーツ飴屋』もオープンした。
公園にやってくる人の数が、時間の経過とともに増えていく。
家族連れ、カップル、友人同士の集まり。
思い思いの場所にシートを敷いて、くつろいだり、遊具を出して遊んだり。
食事系のキッチンカーに列ができはじめるのを、中からソラは目にした。
フルーツ飴はおやつだ。だから昼食の時間に買いに来る人は少ないだろう。
わかってはいても、少し切ない。
興味を持ってくれた親子連れがハナに話しかけている。しかし買ってもらえなかった。
ハナが親子連れに手を振っている。もしかしたら、後で寄ってくれるのかもしれない。
焦っても仕方がない。
ソラは待っているより手を動かそうと、フルーツ飴を作ることにした。
キッチンカーの中でも手順は同じ。飴を作り、冷蔵庫に入れていた果物に串を刺し、水分をふき取って、飴をコーティングして固める。
すっかり慣れた作業をしていると、キッチンカーの中にいることさえも忘れそうだった。
コツコツとガラス窓から音がして、顔を上げた。窓を開ける。
「ソラちゃん! りんご飴一個、切って」
はっとしてハナの後ろに目をやると、高校生ぐらいの女の子が二人、待ってくれていた。
「はい! すぐにお作りします」
りんごは丸ごとだと食べにくい。そこで希望者には、注文後に目の前で切って、透明カップに入れるサービスをしている。
割り箸をさした状態のりんご飴にナイフを入れると、ざくりと音を立てる。
切っている最中に、飴の部分が割れたり剥がれたりしないように、何度も何度もりんご飴を切って、練習を重ねた。
「お待たせしました」
一口サイズに切ったりんご飴を、透明カップに入れて、ハナに渡した。
「ありがとうございます!」
ハナからカップを受け取ったお客さんの背中に向けて、頭を下げた。
売れた。買ってもらえた。初めてのお客さん。
嬉しさがどんどん込み上げてきて、胸が高鳴った。
振り返ったハナが、親指と人差し指をクロスさせた。
ソラも同じポーズで、ハートを返した。
昼食時が過ぎると、覗いてくれるお客さんが増え、いちご飴やぶどう飴の串を買っていってくれた。
「ナギさん、ありがとうございました」
「本番はこれからですよ。楽しんでいきましょう」
兄妹で同じこと言うんだな、とソラがくすりと笑う。
「それ、あたしが先に言ったから」
ソラの膝の上に乗っていたハナが、ナギさんに言う。
キツネ姿のハナの頭を、ナギが「はいはい」と言いながら撫でた。
キッチンカーは二人乗り。ソラが電車で移動するつもりをしていたけれど、電車が動かなかったら作れる人がいないと困る、という話になり、ハナが本来の姿に戻ることで折り合いがついた。
膝に乗せたハナはふわふわもふもふで、温かくて、ソラの緊張をほぐしてくれた。
ハナを膝から降ろして、ソラが先に車から降りる。
「気持ち良い」
最近は肌寒い日が続き、公園の周囲の樹々は紅葉が進んでいる。
けれど今日は太陽が顔を出していて、暖かい。
心地良い風がふわりと頬を撫で、髪を揺らした。
「ほんまや、気持ち良いね」
いつもの人の姿に変化したハナが車から降りてきて、うーんと伸びをした。
「準備しよっか」
「うん」
キッチンカーの外装は、上がピンク、下がイエローの二層に分かれている。かわいくて元気になれる色の組み合わせにした。
二人で車の後部に回ると、ナギが荷台の扉を開けてくれていた。
メニュー表を貼りつけた看板を取り出すと、ハナが受け取ってくれたので、設置を任せて乗り込んだ。
通路の左右に作業台と冷蔵庫とコンロ、水道、換気扇がある。
荷台の中はすごく暑くなるらしいので、エアコンも付けてもらっている。
接客用のガラス窓を開けて、外側についている板を押さえる二か所のピンを抜く。
看板を置いてくれたハナが留め具を取りにきて、外から板を固定してくれた。
ガラス窓の下には幅十五センチ長さ一メートルの板を取り付けてもらった。
看板のメニュー表を縮小したメニュー表を置く。
レンタルキッチンで作っておいたラッピング済みの飴を、外から見えるように作業台に並べてみる。
お客さんの位置にいるハナを見ると、目を輝かせて、嬉しそうな笑顔で見ていた。
目が合うと、ソラは両手の指でハートを作った。
品出しやお金の準備などを終えると、ソラは外に出た。
キッチンカーを見つめる。
親きょうだいに黙って、ハナと一緒にこっそり準備を進めた宝物。
胸がじんわりと熱くなってくる。
ナギやナギの知り合いのお陰で、スムーズに運んだ。ソラは心から感謝していた。
ソラひとりでは、絶対にできなかった。ハナと一緒でも、開業までに時間がかかっただろう。
「お客さん、来てくれはるかな」
ハナがSNSのアカウントを作って、宣伝してくれた。
いいねをもらえたし、数人がリプライをくれた。だけど、実際に来てくれるかはわからない。
「大丈夫。きっと来てくれはるよ」
ハナが手を握ってくれる。不安な気持ちが吹き飛びはしなかったけれど、心強かった。
十一時になった。イベント開始と同時に、『ソラとハナのフルーツ飴屋』もオープンした。
公園にやってくる人の数が、時間の経過とともに増えていく。
家族連れ、カップル、友人同士の集まり。
思い思いの場所にシートを敷いて、くつろいだり、遊具を出して遊んだり。
食事系のキッチンカーに列ができはじめるのを、中からソラは目にした。
フルーツ飴はおやつだ。だから昼食の時間に買いに来る人は少ないだろう。
わかってはいても、少し切ない。
興味を持ってくれた親子連れがハナに話しかけている。しかし買ってもらえなかった。
ハナが親子連れに手を振っている。もしかしたら、後で寄ってくれるのかもしれない。
焦っても仕方がない。
ソラは待っているより手を動かそうと、フルーツ飴を作ることにした。
キッチンカーの中でも手順は同じ。飴を作り、冷蔵庫に入れていた果物に串を刺し、水分をふき取って、飴をコーティングして固める。
すっかり慣れた作業をしていると、キッチンカーの中にいることさえも忘れそうだった。
コツコツとガラス窓から音がして、顔を上げた。窓を開ける。
「ソラちゃん! りんご飴一個、切って」
はっとしてハナの後ろに目をやると、高校生ぐらいの女の子が二人、待ってくれていた。
「はい! すぐにお作りします」
りんごは丸ごとだと食べにくい。そこで希望者には、注文後に目の前で切って、透明カップに入れるサービスをしている。
割り箸をさした状態のりんご飴にナイフを入れると、ざくりと音を立てる。
切っている最中に、飴の部分が割れたり剥がれたりしないように、何度も何度もりんご飴を切って、練習を重ねた。
「お待たせしました」
一口サイズに切ったりんご飴を、透明カップに入れて、ハナに渡した。
「ありがとうございます!」
ハナからカップを受け取ったお客さんの背中に向けて、頭を下げた。
売れた。買ってもらえた。初めてのお客さん。
嬉しさがどんどん込み上げてきて、胸が高鳴った。
振り返ったハナが、親指と人差し指をクロスさせた。
ソラも同じポーズで、ハートを返した。
昼食時が過ぎると、覗いてくれるお客さんが増え、いちご飴やぶどう飴の串を買っていってくれた。
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