【完結】タヌキとキツネの飴屋さん 第8回ほっこりじんわり大賞奨励賞

衿乃 光希

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 キッチンカーが公園内の指定場所に駐車した。

「ナギさん、ありがとうございました」
「本番はこれからですよ。楽しんでいきましょう」

 兄妹で同じこと言うんだな、とソラがくすりと笑う。

「それ、あたしが先に言ったから」
 ソラの膝の上に乗っていたハナが、ナギさんに言う。
 キツネ姿のハナの頭を、ナギが「はいはい」と言いながら撫でた。

 キッチンカーは二人乗り。ソラが電車で移動するつもりをしていたけれど、電車が動かなかったら作れる人がいないと困る、という話になり、ハナが本来の姿に戻ることで折り合いがついた。
 膝に乗せたハナはふわふわもふもふで、温かくて、ソラの緊張をほぐしてくれた。

 ハナを膝から降ろして、ソラが先に車から降りる。
「気持ち良い」
 最近は肌寒い日が続き、公園の周囲の樹々は紅葉が進んでいる。
 けれど今日は太陽が顔を出していて、暖かい。
 心地良い風がふわりと頬を撫で、髪を揺らした。

「ほんまや、気持ち良いね」
 いつもの人の姿に変化したハナが車から降りてきて、うーんと伸びをした。

「準備しよっか」
「うん」

 キッチンカーの外装は、上がピンク、下がイエローの二層に分かれている。かわいくて元気になれる色の組み合わせにした。

 二人で車の後部に回ると、ナギが荷台の扉を開けてくれていた。
 メニュー表を貼りつけた看板を取り出すと、ハナが受け取ってくれたので、設置を任せて乗り込んだ。

 通路の左右に作業台と冷蔵庫とコンロ、水道、換気扇がある。
 荷台の中はすごく暑くなるらしいので、エアコンも付けてもらっている。

 接客用のガラス窓を開けて、外側についている板を押さえる二か所のピンを抜く。
 看板を置いてくれたハナが留め具を取りにきて、外から板を固定してくれた。

 ガラス窓の下には幅十五センチ長さ一メートルの板を取り付けてもらった。
 看板のメニュー表を縮小したメニュー表を置く。

 レンタルキッチンで作っておいたラッピング済みの飴を、外から見えるように作業台に並べてみる。
 お客さんの位置にいるハナを見ると、目を輝かせて、嬉しそうな笑顔で見ていた。
 目が合うと、ソラは両手の指でハートを作った。

 品出しやお金の準備などを終えると、ソラは外に出た。
 キッチンカーを見つめる。

 親きょうだいに黙って、ハナと一緒にこっそり準備を進めた宝物。
 胸がじんわりと熱くなってくる。

 ナギやナギの知り合いのお陰で、スムーズに運んだ。ソラは心から感謝していた。
 ソラひとりでは、絶対にできなかった。ハナと一緒でも、開業までに時間がかかっただろう。

「お客さん、来てくれはるかな」
 ハナがSNSのアカウントを作って、宣伝してくれた。
 いいねをもらえたし、数人がリプライをくれた。だけど、実際に来てくれるかはわからない。

「大丈夫。きっと来てくれはるよ」
 ハナが手を握ってくれる。不安な気持ちが吹き飛びはしなかったけれど、心強かった。

 十一時になった。イベント開始と同時に、『ソラとハナのフルーツ飴屋』もオープンした。
 公園にやってくる人の数が、時間の経過とともに増えていく。
 家族連れ、カップル、友人同士の集まり。
 思い思いの場所にシートを敷いて、くつろいだり、遊具を出して遊んだり。

 食事系のキッチンカーに列ができはじめるのを、中からソラは目にした。
 フルーツ飴はおやつだ。だから昼食の時間に買いに来る人は少ないだろう。
 わかってはいても、少し切ない。

 興味を持ってくれた親子連れがハナに話しかけている。しかし買ってもらえなかった。
 ハナが親子連れに手を振っている。もしかしたら、後で寄ってくれるのかもしれない。

 焦っても仕方がない。
 ソラは待っているより手を動かそうと、フルーツ飴を作ることにした。

 キッチンカーの中でも手順は同じ。飴を作り、冷蔵庫に入れていた果物に串を刺し、水分をふき取って、飴をコーティングして固める。
 すっかり慣れた作業をしていると、キッチンカーの中にいることさえも忘れそうだった。

 コツコツとガラス窓から音がして、顔を上げた。窓を開ける。

「ソラちゃん! りんご飴一個、切って」
 はっとしてハナの後ろに目をやると、高校生ぐらいの女の子が二人、待ってくれていた。

「はい! すぐにお作りします」
 りんごは丸ごとだと食べにくい。そこで希望者には、注文後に目の前で切って、透明カップに入れるサービスをしている。

 割り箸をさした状態のりんご飴にナイフを入れると、ざくりと音を立てる。
 切っている最中に、飴の部分が割れたり剥がれたりしないように、何度も何度もりんご飴を切って、練習を重ねた。

「お待たせしました」
 一口サイズに切ったりんご飴を、透明カップに入れて、ハナに渡した。

「ありがとうございます!」
 ハナからカップを受け取ったお客さんの背中に向けて、頭を下げた。

 売れた。買ってもらえた。初めてのお客さん。
 嬉しさがどんどん込み上げてきて、胸が高鳴った。

 振り返ったハナが、親指と人差し指をクロスさせた。
 ソラも同じポーズで、ハートを返した。

 昼食時が過ぎると、覗いてくれるお客さんが増え、いちご飴やぶどう飴の串を買っていってくれた。
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