たとえそれが、結ばれない恋の糸だとしても

夕闇蒼馬

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最終話 結婚

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「……さて。ディラス、お父様のところに行くわよ」
「……あー、オレ国王陛下に殺されたりしないですかね。本当怖いです」
「大丈夫よ。お父様は無理に政略結婚しなくてもいいって言ってくれたもの」
「そ、それなら……」
「なによ、お父様に反対されたらわたしとの結婚を諦めるつもり?」
「いえ、そんなこと絶対にしません!なんとしてでも認めてもらいます!」
「そう、それなら良かったわ。……ディラスには苦労をかけるわね」

 護衛騎士が護衛対象に恋をし、また護衛対象も護衛騎士に恋をした。
 いわゆる、禁断の恋。
 まるで、『結ばれない恋の糸』のよう。
 攫われこそしないが、状況は酷似していた。

「いえいえ!姫様と結ばれるためならオレ、なんだってします!」
「……ベル」
「はい?」
「わたしの愛称。ベル、よ」
「……そう呼んでもいいんですか?」
「えぇ。じゃなきゃこんなこと言わないわよ」

 そっぽ向きながらわたしはそう言った。――我ながら可愛くない。
 それなのにディラスは、ニコニコ笑って、呼んだ。

「…………ベル」

 大切な名前を呼ぶように、そっと。

「……ベル」

 繰り返し、何度もわたしを呼んだ。

「……愛しています、ベル」

 顔が真っ赤になっているのを感じ、わたしは更にそっぽ向いた。

「…………こんな誰が見ておるか分からんようなとこで何しておる。ベル、ディラス」

 さっきまでは誰もいなかったはずの廊下に、第三者の声が響いた。
 向こうからゆっくりとその人――お父様は歩いてきた。

「……っ、こ、国王陛下!」

 ディラスはお父様に気づくなり廊下の端に寄り、伏せて床に額をつけた。
 王族が通る時はこのように、王族の顔を見ないようにするのが、王宮における最大のルールだ。
 ディラスはわたしの護衛だから、わたしに対してはその限りではない。

「よいよい。面をあげい」

 お父様は朗らかに笑ってそう言った。
 その言葉を聞き、ディラスは恐る恐る顔を上げた。

「で、ときにディラスよ」
「はっ」
「ベルのことはどう思っておるのじゃ?」

 お父様はディラスに、ド直球にそう聞いた。もっとオブラートに包むかと思っていたのに。

「オレ……いえ、私は、ベルのことを愛しております。心の底から」
「ベルのメイドに告白したという噂もあるのう」
「そんなこともありました。しかし今の私の心にはベルしかいません」
「相手は護衛対象じゃ。そのことに何も思わなかったのかや?」
「最初は己のことを不誠実だと思い、この気持ちは隠そうと決めていました。しかしベルがノーラットの王子と結婚すると聞き、そんなこと言っていられませんでした」
「……そうか」

 お父様は小さく息を吐いて、「最後にもうひとつ」と。

「ディラス。お前は、ベルを幸せにできるのかや?」

 これに対しディラスは、少し考えて答えた。

「できる、できないという話ではないと思っています」
「というと?」
「幸せにします。ベルのこと」

 お父様の目を真っ直ぐに見て、ディラスは力強くそう言った。

「ディラス……」
「……よかろう。娘との結婚、認めてやろうぞ」
「国王陛下……!ありがとうございます!」
「ただし!ベルが儂のもとに泣いて帰ってきたら……その時は分かっておるじゃろ?」

 そう言ったお父様の目は、国の頂点に立つにふさわしい、鋭く冷たかった。
 わたしでも少し怖かった。
 それでもディラスは、首を縦に振って言い切った。

「その時は打首にでも何でもしてください。ベルに悲しみの涙を流させるようなオレには、存在価値がないので」

 すると、お父様はしばらく沈黙した。
 その肩は、震えていた。
 そして、堪えきれなかった笑いが漏れ出た。

「……くく……っ、ベル、面白いのを捕まえたのう……ふふっ……」
「お父様!」
「でも良かったのう、素敵な相手に会えて」
「……えぇ」
「あぁ、ノーラットには儂から手紙を出しておく。あと城の各所にも知らせておくぞい。ベルの婚約者が決まったということと、相手がディラスジャということを」
「えぇ、お願いするわ」

 そんなこんなで、わたしたちはお父様――ひいてはリエール公認の婚約者となった。

 ◇◆◇

 それから数ヶ月後。
 わたしは白いドレスを着て、教会の十字架の前に立っていた。
 隣には、同じく白い衣装を着たディラスがいる。

 ――今日は、わたしたちの結婚式だ。

 神官長が「病める時も健やかなる時も云々」と述べ、私に向かって「誓いますか?」と問う。
 それに、わたしは迷いなく「誓います」と答える。
 ディラスも「誓いますか?」と問われ、迷いなく「誓います」と答えた。

「それでは、誓いのキスを」

 神官長にそう言われ、わたしたちは向き合った。

「……本当に綺麗ですよ、ベル」
「そういう貴方こそ」

 そんなことを言い合いながら、わたしたちはキスをした。
 ――結ばれない恋の糸が結ばれた瞬間だった。そして。

 今日は、わたしの恋が成就した日。
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