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姫様のためならイノシシにだってなってやります
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次の日、私は姫様を連れて王宮の庭園を散歩していた。
ここの庭は、かなりお年を召したお爺さまが管理している。初めはそんな歳なのに庭師なんて仕事をしていて大丈夫なのかと心配に思っていたが、それは杞憂だった。――彼の背丈の倍くらいはあるであろう大きな岩を軽々と持ち上げたのを見た時の驚きと言ったら……猫が二本足で立って踊りだした時と同じくらいだろう。嘘や誇張なんかではない、かなり真面目な話だ。私はこの目で見たのだ。……本当だって!信じてよ!胡乱げな目で見ないで!
……なんて言っている暇はない。
私は今、姫様の隣を歩いているのだ。しかもふたりきりで!
「はぁ……」
幸せな溜息を零すと、それを聞いた姫様が私の方を見て「どうしたの?」と問うた。そんな、私のようなたかがいちメイドに心配してくださるとは!
「……いえ、幸せすぎて多幸死してしまうのではないのか、と心配になってしまっているだけです。お気になさらず」
姫様は眉をひそめて「はぁ」と曖昧に零し、まぁいいわ、と目の前の景色に集中した。
色とりどりの花がフワリと吹く優しい風に揺れる。しかし色とりどりと言っても激しい色のものはなく、すべて目に優しい淡い色で統一されている。さすが王宮務めの庭師さん。センスが違う。
そして風がとても甘く、そして時折酸っぱい香りを私たちの嗅覚まで届かせる。――――酸っぱい香り。
「ん?酸っぱい?」
「……あぁ!ベルベット王女とアイリスちゃんではないか!元気にしてたか?」
……厄介な奴と出会ってしまった。酸っぱい匂いの根源はお前だったのか、ドドリー……!
彼はドドリー。ふたりめの攻略対象サマだ。この王宮で料理長をしている。
短く雑に切られた赤髪に、橙色の目を持っている。それらは彼の性格をよく表していた。……よく言えば熱血的、悪く言えば暑苦しい男なのだ。だがしかし見た目は良い。黙っていれば相当なイケメンだろうに、と思わざるを得ない。
「心配してたんだぞ、しばらくここに来なかったから」
彼は真っ直ぐで、純粋で、まるでお兄ちゃんのような包容力があって――――
「いいか?体調を崩したらすぐに俺を呼べ!元気を分けてやるから!ほら、今すぐにでもいいんだぞ!」
――失礼、前言撤回だ。ただただ暑苦しいだけの熱血料理長だ。こんなヤツが兄だなんて、こちらから願い下げだ。手を広げ、ジリジリと近寄ってくる男に私は嫌悪感を抱かざるを得なかった。
ちなみに彼は姫様と幼い頃から一緒にいる、いわゆる幼馴染というやつだ。はぁ、羨ましい……、ではなく。
「何故貴方のような野蛮……失礼、熱血的な方がこのような場所にいらっしゃるのですか?」
――お前みたいな奴にはこんな綺麗なお庭園は似合わねぇんだよ。
暗にそう告げれば、「む?何故俺がここにいるかって?」と質問返ししやがった。すっとぼけも甚だしいし見苦しいぞ。
「ここには花だけじゃなくてハーブもたくさん生えてるんだ。まぁ、俺がヴィンセントさんに頼んだんだけどな」
……筋が通っていてなんだか悔しい。何故だろう。
ちなみに、ヴィンセントさんというのは、庭師のことだ。
「……そうでしたか」
というかコイツ、私の嫌味に気付いている様子がない。
ゲーム内プロフィールや公式サイトに書いてあった通りだ。コイツはかなり純粋無垢だ。
姫様を幸せにするためには、私が攻略対象サマから嫌われる……つまり、恋愛フラグを回避しなければいけない。
だが私はコイツ――純粋無垢で人を嫌うことを知らないドドリーから、どうやって嫌われるか。それが当面の問題だと気付いてしまった。
あちらにも、当然こちらにも恋愛感情はなくとも、何かのはずみで恋愛フラグが発生してしまうかもしれない。
もしそうなってしまえば――姫様を幸せにするという目的が達成出来なくなってしまう。むしろ姫様を不幸に、バッドエンドに落としてしまうことになる。
「……よし、頑張って嫌われよう!」
おおよそ前世ではなかったであろう当面の目標に少なからず首をかしげたくなるが、どれもこれも全て姫様のため。
猪突猛進、姫様のためならイノシシにだってなってやりましょう!
ここの庭は、かなりお年を召したお爺さまが管理している。初めはそんな歳なのに庭師なんて仕事をしていて大丈夫なのかと心配に思っていたが、それは杞憂だった。――彼の背丈の倍くらいはあるであろう大きな岩を軽々と持ち上げたのを見た時の驚きと言ったら……猫が二本足で立って踊りだした時と同じくらいだろう。嘘や誇張なんかではない、かなり真面目な話だ。私はこの目で見たのだ。……本当だって!信じてよ!胡乱げな目で見ないで!
……なんて言っている暇はない。
私は今、姫様の隣を歩いているのだ。しかもふたりきりで!
「はぁ……」
幸せな溜息を零すと、それを聞いた姫様が私の方を見て「どうしたの?」と問うた。そんな、私のようなたかがいちメイドに心配してくださるとは!
「……いえ、幸せすぎて多幸死してしまうのではないのか、と心配になってしまっているだけです。お気になさらず」
姫様は眉をひそめて「はぁ」と曖昧に零し、まぁいいわ、と目の前の景色に集中した。
色とりどりの花がフワリと吹く優しい風に揺れる。しかし色とりどりと言っても激しい色のものはなく、すべて目に優しい淡い色で統一されている。さすが王宮務めの庭師さん。センスが違う。
そして風がとても甘く、そして時折酸っぱい香りを私たちの嗅覚まで届かせる。――――酸っぱい香り。
「ん?酸っぱい?」
「……あぁ!ベルベット王女とアイリスちゃんではないか!元気にしてたか?」
……厄介な奴と出会ってしまった。酸っぱい匂いの根源はお前だったのか、ドドリー……!
彼はドドリー。ふたりめの攻略対象サマだ。この王宮で料理長をしている。
短く雑に切られた赤髪に、橙色の目を持っている。それらは彼の性格をよく表していた。……よく言えば熱血的、悪く言えば暑苦しい男なのだ。だがしかし見た目は良い。黙っていれば相当なイケメンだろうに、と思わざるを得ない。
「心配してたんだぞ、しばらくここに来なかったから」
彼は真っ直ぐで、純粋で、まるでお兄ちゃんのような包容力があって――――
「いいか?体調を崩したらすぐに俺を呼べ!元気を分けてやるから!ほら、今すぐにでもいいんだぞ!」
――失礼、前言撤回だ。ただただ暑苦しいだけの熱血料理長だ。こんなヤツが兄だなんて、こちらから願い下げだ。手を広げ、ジリジリと近寄ってくる男に私は嫌悪感を抱かざるを得なかった。
ちなみに彼は姫様と幼い頃から一緒にいる、いわゆる幼馴染というやつだ。はぁ、羨ましい……、ではなく。
「何故貴方のような野蛮……失礼、熱血的な方がこのような場所にいらっしゃるのですか?」
――お前みたいな奴にはこんな綺麗なお庭園は似合わねぇんだよ。
暗にそう告げれば、「む?何故俺がここにいるかって?」と質問返ししやがった。すっとぼけも甚だしいし見苦しいぞ。
「ここには花だけじゃなくてハーブもたくさん生えてるんだ。まぁ、俺がヴィンセントさんに頼んだんだけどな」
……筋が通っていてなんだか悔しい。何故だろう。
ちなみに、ヴィンセントさんというのは、庭師のことだ。
「……そうでしたか」
というかコイツ、私の嫌味に気付いている様子がない。
ゲーム内プロフィールや公式サイトに書いてあった通りだ。コイツはかなり純粋無垢だ。
姫様を幸せにするためには、私が攻略対象サマから嫌われる……つまり、恋愛フラグを回避しなければいけない。
だが私はコイツ――純粋無垢で人を嫌うことを知らないドドリーから、どうやって嫌われるか。それが当面の問題だと気付いてしまった。
あちらにも、当然こちらにも恋愛感情はなくとも、何かのはずみで恋愛フラグが発生してしまうかもしれない。
もしそうなってしまえば――姫様を幸せにするという目的が達成出来なくなってしまう。むしろ姫様を不幸に、バッドエンドに落としてしまうことになる。
「……よし、頑張って嫌われよう!」
おおよそ前世ではなかったであろう当面の目標に少なからず首をかしげたくなるが、どれもこれも全て姫様のため。
猪突猛進、姫様のためならイノシシにだってなってやりましょう!
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