姫様を幸せにするために恋愛フラグを回避しまくります!

夕闇蒼馬

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もしかしてこれはマカロン様

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 と意気込んだは良いが、特に何も考えていない私は、とりあえず姫様のもとに向かった。
 姫様はそろそろ昼食の時間だ。姫様専属の料理人たちが、姫様のために作った料理を私があらかじめ試食しておく必要があるのだ。言ってしまえば私は毒味役だ。
 だが、ここの料理はこの世のものとは思えないくらいに美味しい。例えそれに毒が混ぜ込まれていようとも、私は構わない。これほどに美味しい料理を味見させてもらえるのだからプラマイゼロだ。――いや、死んだら元も子もないか。マイナスにもほどがあるわ。
 ともあれ。

「こーんにっちは!みんなのアイドル、アイリスちゃんが味見に来たよー!」

 厳かな雰囲気をかもし出すこの王宮、そして王族が口にする料理を作るこの料理場。そんな荘厳な場所に突如として現れた私を、料理人たちは誰ひとり一瞥いちべつすることなく、「よぉ、アイリスさん」「今日も元気だねぇ」「ほら、さっさと食え」と言い放った。酷い。

 ちなみにこの茶番はお約束だ。無表情ながら私は声とテンション高めに入室する。とんだ迷惑だな。――お恥ずかしいことに、この謎テンションは前世の私そのものだ。
 ……おっと、そんなことを言っている暇はない。これは姫様に届けられる料理なのだ。早く食べねば。

 ちなみに余談だが、王族の料理は大抵、毒味役を介して出されている。それ故、出来たてであろうと王族たちに届く頃には冷めているのだ。もったいない話だが、致し方がないことだろう。

 私は料理人たちに言われるまま味見を始めた。
 なんかよく分からないスープ(美味しそう)やら肉料理(柔らかそう)やらが所狭しと置かれた机。そこに置かれているもので私が正式な名前を知っているのはパンだけだ。パン。何パンかは分からない。ただのパン。パンパパン。

 だが、料理の種類だとか名前だとかは関係ない。
 彼らが作る料理に「美味しい」以外の言葉は必要ないのだ。

「いただきます」

 パンをちぎっては食べ、肉をナイフで切り分け、スープで口の中をリセットする。
 なんの食材が使われているのかはさっぱり分からない。しかし、これは美味しい。めちゃくちゃ美味しい。……やっぱりこれに毒入ってても美味しいからいいんじゃない?……なぁんて。
 もぐもぐ咀嚼そしゃくしていると、料理人のひとりが私に話しかけてきた。彼の名前はカルラ……だったはずだ。
 彼は攻略対象ではない。だが、何故彼が攻略対象でないのか不思議なくらいに顔が整っている。アレか、続編とかで攻略できるようになっちゃうのか。そうなったら私は最推しとクロールの次に攻略しちゃう。
「どうだい、味は」
「美味しいですよ」
「だろうな、なんせ俺たちが作ったんだから。美味しくないはずがないよな」
「そうですね。わたくしも、強くそう思います」

 彼らは本当に優秀な料理人だと思う。
 私は前世オタ活と仕事で忙しかったために、料理はからっきしだったのだ。この世界に来てから、姫様のために必死に勉強した。彼らにも手伝ってもらい、その甲斐あって私は、クッキーなど茶菓子は楽々作れるようになった。私でもここまで成長出来たのは、ひとえに優秀な料理人たちのおかげだ。
 その時にお世話になったので、私はこの料理場は気心が知れている。自然な私でいられるのだ。

「アイリスちゃん、こっちも毒味つまみ食いするかい?」

 姫様に出す用ではなく、新作の毒味――もとい、つまみ食いを勧められるくらいには仲が良い。
「食べます」
 間髪入れず返事をすると、彼らは声を上げて笑った。
「いいねぇ、そうやって美味しく食べてくれるからこっちも作りがいがあるってもんよ」
 そう言いながらカルラは、冷蔵庫から皿をひとつ取り出して私に差し出した。

 それは、紅色べにいろをした円形のお菓子だった。二枚の紅色が、少し固まったクリームを挟んでいる。

「……これはいわゆる、マカロン様!?」
「様って……、そうそう、マカロンだよ」

 私はマカロンが大好物なのだ。前世でもスイーツ部門で一、二位を争うレベルで好きだった。
 それ故、私はマカロンのことを呼び捨てになどできず、『マカロン様』と呼ぶに至ったのだ。

「いただきます」と言ってから私はマカロン様を口に含む。
 そうそう、この味だ。
 ほろほろ、いやサクサク……どちらとも言い難いこの、マカロン様らしい食感がたまらない。
「……アイリスちゃんって何か、リスみたいだよな」
「むぐ……っと、わたくしがリス、ですか?」
 良くてもゴリラだろう。
「……こーれだから天然は。お前に何人落とされたと思ってんだよ」
「ふふ……っ、それを言うなら姫様のことでしょう?姫様がリスのように可愛らしいですものね。落ちてしまうのも分かります」
「……そういうとこだよ」

 それから私たちはしょうもない会話をし続け――たかったが、私には姫様に料理を、なるべく温かい状態で届けるという使命があった。
「これで失礼します!料理もマカロン様も美味しかったですよー!」
 私はタッタカタッタカ走り出す。

 そのほんの数秒後。
「……ほんっと、可愛いよなぁ」
 うんうん、と同調の声が上がるそれに、私は気付けるはずがなかった。
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