6 / 55
もしかしてこれはマカロン様
しおりを挟む
と意気込んだは良いが、特に何も考えていない私は、とりあえず姫様のもとに向かった。
姫様はそろそろ昼食の時間だ。姫様専属の料理人たちが、姫様のために作った料理を私が予め試食しておく必要があるのだ。言ってしまえば私は毒味役だ。
だが、ここの料理はこの世のものとは思えないくらいに美味しい。例えそれに毒が混ぜ込まれていようとも、私は構わない。これほどに美味しい料理を味見させてもらえるのだからプラマイゼロだ。――いや、死んだら元も子もないか。マイナスにもほどがあるわ。
ともあれ。
「こーんにっちは!みんなのアイドル、アイリスちゃんが味見に来たよー!」
厳かな雰囲気を醸し出すこの王宮、そして王族が口にする料理を作るこの料理場。そんな荘厳な場所に突如として現れた私を、料理人たちは誰ひとり一瞥することなく、「よぉ、アイリスさん」「今日も元気だねぇ」「ほら、さっさと食え」と言い放った。酷い。
ちなみにこの茶番はお約束だ。無表情ながら私は声とテンション高めに入室する。とんだ迷惑だな。――お恥ずかしいことに、この謎テンションは前世の私そのものだ。
……おっと、そんなことを言っている暇はない。これは姫様に届けられる料理なのだ。早く食べねば。
ちなみに余談だが、王族の料理は大抵、毒味役を介して出されている。それ故、出来たてであろうと王族たちに届く頃には冷めているのだ。もったいない話だが、致し方がないことだろう。
私は料理人たちに言われるまま味見を始めた。
なんかよく分からないスープ(美味しそう)やら肉料理(柔らかそう)やらが所狭しと置かれた机。そこに置かれているもので私が正式な名前を知っているのはパンだけだ。パン。何パンかは分からない。ただのパン。パンパパン。
だが、料理の種類だとか名前だとかは関係ない。
彼らが作る料理に「美味しい」以外の言葉は必要ないのだ。
「いただきます」
パンをちぎっては食べ、肉をナイフで切り分け、スープで口の中をリセットする。
なんの食材が使われているのかはさっぱり分からない。しかし、これは美味しい。めちゃくちゃ美味しい。……やっぱりこれに毒入ってても美味しいからいいんじゃない?……なぁんて。
もぐもぐ咀嚼していると、料理人のひとりが私に話しかけてきた。彼の名前はカルラ……だったはずだ。
彼は攻略対象ではない。だが、何故彼が攻略対象でないのか不思議なくらいに顔が整っている。アレか、続編とかで攻略できるようになっちゃうのか。そうなったら私は最推しとクロールの次に攻略しちゃう。
「どうだい、味は」
「美味しいですよ」
「だろうな、なんせ俺たちが作ったんだから。美味しくないはずがないよな」
「そうですね。わたくしも、強くそう思います」
彼らは本当に優秀な料理人だと思う。
私は前世オタ活と仕事で忙しかったために、料理はからっきしだったのだ。この世界に来てから、姫様のために必死に勉強した。彼らにも手伝ってもらい、その甲斐あって私は、クッキーなど茶菓子は楽々作れるようになった。私でもここまで成長出来たのは、ひとえに優秀な料理人たちのおかげだ。
その時にお世話になったので、私はこの料理場は気心が知れている。自然な私でいられるのだ。
「アイリスちゃん、こっちも毒味するかい?」
姫様に出す用ではなく、新作の毒味――もとい、つまみ食いを勧められるくらいには仲が良い。
「食べます」
間髪入れず返事をすると、彼らは声を上げて笑った。
「いいねぇ、そうやって美味しく食べてくれるからこっちも作りがいがあるってもんよ」
そう言いながらカルラは、冷蔵庫から皿をひとつ取り出して私に差し出した。
それは、紅色をした円形のお菓子だった。二枚の紅色が、少し固まったクリームを挟んでいる。
「……これはいわゆる、マカロン様!?」
「様って……、そうそう、マカロンだよ」
私はマカロンが大好物なのだ。前世でもスイーツ部門で一、二位を争うレベルで好きだった。
それ故、私はマカロンのことを呼び捨てになどできず、『マカロン様』と呼ぶに至ったのだ。
「いただきます」と言ってから私はマカロン様を口に含む。
そうそう、この味だ。
ほろほろ、いやサクサク……どちらとも言い難いこの、マカロン様らしい食感がたまらない。
「……アイリスちゃんって何か、リスみたいだよな」
「むぐ……っと、わたくしがリス、ですか?」
良くてもゴリラだろう。
「……こーれだから天然は。お前に何人落とされたと思ってんだよ」
「ふふ……っ、それを言うなら姫様のことでしょう?姫様がリスのように可愛らしいですものね。落ちてしまうのも分かります」
「……そういうとこだよ」
それから私たちはしょうもない会話をし続け――たかったが、私には姫様に料理を、なるべく温かい状態で届けるという使命があった。
「これで失礼します!料理もマカロン様も美味しかったですよー!」
私はタッタカタッタカ走り出す。
そのほんの数秒後。
「……ほんっと、可愛いよなぁ」
うんうん、と同調の声が上がるそれに、私は気付けるはずがなかった。
姫様はそろそろ昼食の時間だ。姫様専属の料理人たちが、姫様のために作った料理を私が予め試食しておく必要があるのだ。言ってしまえば私は毒味役だ。
だが、ここの料理はこの世のものとは思えないくらいに美味しい。例えそれに毒が混ぜ込まれていようとも、私は構わない。これほどに美味しい料理を味見させてもらえるのだからプラマイゼロだ。――いや、死んだら元も子もないか。マイナスにもほどがあるわ。
ともあれ。
「こーんにっちは!みんなのアイドル、アイリスちゃんが味見に来たよー!」
厳かな雰囲気を醸し出すこの王宮、そして王族が口にする料理を作るこの料理場。そんな荘厳な場所に突如として現れた私を、料理人たちは誰ひとり一瞥することなく、「よぉ、アイリスさん」「今日も元気だねぇ」「ほら、さっさと食え」と言い放った。酷い。
ちなみにこの茶番はお約束だ。無表情ながら私は声とテンション高めに入室する。とんだ迷惑だな。――お恥ずかしいことに、この謎テンションは前世の私そのものだ。
……おっと、そんなことを言っている暇はない。これは姫様に届けられる料理なのだ。早く食べねば。
ちなみに余談だが、王族の料理は大抵、毒味役を介して出されている。それ故、出来たてであろうと王族たちに届く頃には冷めているのだ。もったいない話だが、致し方がないことだろう。
私は料理人たちに言われるまま味見を始めた。
なんかよく分からないスープ(美味しそう)やら肉料理(柔らかそう)やらが所狭しと置かれた机。そこに置かれているもので私が正式な名前を知っているのはパンだけだ。パン。何パンかは分からない。ただのパン。パンパパン。
だが、料理の種類だとか名前だとかは関係ない。
彼らが作る料理に「美味しい」以外の言葉は必要ないのだ。
「いただきます」
パンをちぎっては食べ、肉をナイフで切り分け、スープで口の中をリセットする。
なんの食材が使われているのかはさっぱり分からない。しかし、これは美味しい。めちゃくちゃ美味しい。……やっぱりこれに毒入ってても美味しいからいいんじゃない?……なぁんて。
もぐもぐ咀嚼していると、料理人のひとりが私に話しかけてきた。彼の名前はカルラ……だったはずだ。
彼は攻略対象ではない。だが、何故彼が攻略対象でないのか不思議なくらいに顔が整っている。アレか、続編とかで攻略できるようになっちゃうのか。そうなったら私は最推しとクロールの次に攻略しちゃう。
「どうだい、味は」
「美味しいですよ」
「だろうな、なんせ俺たちが作ったんだから。美味しくないはずがないよな」
「そうですね。わたくしも、強くそう思います」
彼らは本当に優秀な料理人だと思う。
私は前世オタ活と仕事で忙しかったために、料理はからっきしだったのだ。この世界に来てから、姫様のために必死に勉強した。彼らにも手伝ってもらい、その甲斐あって私は、クッキーなど茶菓子は楽々作れるようになった。私でもここまで成長出来たのは、ひとえに優秀な料理人たちのおかげだ。
その時にお世話になったので、私はこの料理場は気心が知れている。自然な私でいられるのだ。
「アイリスちゃん、こっちも毒味するかい?」
姫様に出す用ではなく、新作の毒味――もとい、つまみ食いを勧められるくらいには仲が良い。
「食べます」
間髪入れず返事をすると、彼らは声を上げて笑った。
「いいねぇ、そうやって美味しく食べてくれるからこっちも作りがいがあるってもんよ」
そう言いながらカルラは、冷蔵庫から皿をひとつ取り出して私に差し出した。
それは、紅色をした円形のお菓子だった。二枚の紅色が、少し固まったクリームを挟んでいる。
「……これはいわゆる、マカロン様!?」
「様って……、そうそう、マカロンだよ」
私はマカロンが大好物なのだ。前世でもスイーツ部門で一、二位を争うレベルで好きだった。
それ故、私はマカロンのことを呼び捨てになどできず、『マカロン様』と呼ぶに至ったのだ。
「いただきます」と言ってから私はマカロン様を口に含む。
そうそう、この味だ。
ほろほろ、いやサクサク……どちらとも言い難いこの、マカロン様らしい食感がたまらない。
「……アイリスちゃんって何か、リスみたいだよな」
「むぐ……っと、わたくしがリス、ですか?」
良くてもゴリラだろう。
「……こーれだから天然は。お前に何人落とされたと思ってんだよ」
「ふふ……っ、それを言うなら姫様のことでしょう?姫様がリスのように可愛らしいですものね。落ちてしまうのも分かります」
「……そういうとこだよ」
それから私たちはしょうもない会話をし続け――たかったが、私には姫様に料理を、なるべく温かい状態で届けるという使命があった。
「これで失礼します!料理もマカロン様も美味しかったですよー!」
私はタッタカタッタカ走り出す。
そのほんの数秒後。
「……ほんっと、可愛いよなぁ」
うんうん、と同調の声が上がるそれに、私は気付けるはずがなかった。
0
あなたにおすすめの小説
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!
木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。
胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。
けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。
勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに……
『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。
子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。
逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。
時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。
これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる