10 / 55
この記憶を閉じこめて
しおりを挟む
花祭り当日。
「姫様、ちゃんと花は確保できましたか?」
「えぇ、完璧よ……!わたし、おかしくないかしら……っ!?」
「大丈夫です姫様、いつも通り……いえ、いつも以上に麗しいですよ。自信を持ってください」
「えぇ……!」
慌てる姫様と、落ち着かせる私。
今日の姫様の部屋はてんやわんやだった。
「報告を楽しみに待ってますね。頑張ってくださいまし……!」
「えぇ……!」
私は先から「えぇ」としか言わない姫様のことが少なからず心配ではあるが、しかし姫様とディラスなら大丈夫だろうと、笑顔で見送った。
「……さて」
私は姫様の部屋を出て、私の部屋に向かう。
部屋を開ければそこには、4種類の花が。
トリカブトとヒマワリ、ゼラニウム。それから――
「……シオン」
少しだけ私の前世の話をしよう。
私は前世、18歳のただのJKだった。ちょっと乙女ゲームが好きなだけの、至って普通のJKだ。
……乙女ゲームが好きな時点で普通ではないという反論はしないで欲しい。
私の名前は、井上 紫苑。
雨の日に車に轢かれて――というのは既にした話だったか。
決して悪くない頭を持っていた私であったが、家が少々貧乏だったが故に大学進学を諦めて就活をしていた時に轢かれた。タイミングが悪すぎる。
……とまぁ誰の得にもならない話をしたが、とにかく今は花祭りの話だ。
私の名前と一緒であるこの花に心を奪われたのもあるが、私がこの花を選んだ理由は。
『あなたを忘れない』
私しか知らない彼の一面。
それは前世という意味でもあり、前世が関わっていることもあり、しかし。
「……私の初恋なんだよなぁ」
彼は、私の乙女心を確実に奪っていった。
私しか知らない彼が。
ゲームをやっていたからこそ知っている彼の情報を駆使して、私は彼と対等に話している。それこそ、姫様ファンクラブの話なんてそうだ。公式ファンブックにこの情報が載っていたのを思い出したのが幸いした。
しかし、その情報がなければ私は彼と話す理由もなければ、それどころか対等に話すことすらできなかったのだ。
「やーいやーい、姫様ファンクラブ会員番号2番のヴェロール様ー!」
「や、やめなさい!大声を出しては近所迷惑ですよ!」
……とまぁとても知性のかけらも感じない会話ではあるが、このような会話もできないわけだ。
なかなかさらけ出せない、素の私。
それはもちろんカルラに、料理人たちには前世の私のテンションをぶつけることはよくある。
「やっほー、みんな元気ぃー?アイリスちゃんのお出ましだぞいっ!」
ばちこーん、とウインクも飛ばす。
こんな芸当、料理場でくらいしかできないことだ。
だが、この世界で私の素――人をおちょくったり、煽ったりが趣味なのが素の私だ――をさらけ出しても、彼はそれを受け入れて、乗ってくれる。
届いてはいけないこの思い。気付かれてはいけない、この想い。
『あなたを忘れない』
――私はこの想いを隠して、この記憶を閉じ込めて。
「……いざ出陣!」
「姫様、ちゃんと花は確保できましたか?」
「えぇ、完璧よ……!わたし、おかしくないかしら……っ!?」
「大丈夫です姫様、いつも通り……いえ、いつも以上に麗しいですよ。自信を持ってください」
「えぇ……!」
慌てる姫様と、落ち着かせる私。
今日の姫様の部屋はてんやわんやだった。
「報告を楽しみに待ってますね。頑張ってくださいまし……!」
「えぇ……!」
私は先から「えぇ」としか言わない姫様のことが少なからず心配ではあるが、しかし姫様とディラスなら大丈夫だろうと、笑顔で見送った。
「……さて」
私は姫様の部屋を出て、私の部屋に向かう。
部屋を開ければそこには、4種類の花が。
トリカブトとヒマワリ、ゼラニウム。それから――
「……シオン」
少しだけ私の前世の話をしよう。
私は前世、18歳のただのJKだった。ちょっと乙女ゲームが好きなだけの、至って普通のJKだ。
……乙女ゲームが好きな時点で普通ではないという反論はしないで欲しい。
私の名前は、井上 紫苑。
雨の日に車に轢かれて――というのは既にした話だったか。
決して悪くない頭を持っていた私であったが、家が少々貧乏だったが故に大学進学を諦めて就活をしていた時に轢かれた。タイミングが悪すぎる。
……とまぁ誰の得にもならない話をしたが、とにかく今は花祭りの話だ。
私の名前と一緒であるこの花に心を奪われたのもあるが、私がこの花を選んだ理由は。
『あなたを忘れない』
私しか知らない彼の一面。
それは前世という意味でもあり、前世が関わっていることもあり、しかし。
「……私の初恋なんだよなぁ」
彼は、私の乙女心を確実に奪っていった。
私しか知らない彼が。
ゲームをやっていたからこそ知っている彼の情報を駆使して、私は彼と対等に話している。それこそ、姫様ファンクラブの話なんてそうだ。公式ファンブックにこの情報が載っていたのを思い出したのが幸いした。
しかし、その情報がなければ私は彼と話す理由もなければ、それどころか対等に話すことすらできなかったのだ。
「やーいやーい、姫様ファンクラブ会員番号2番のヴェロール様ー!」
「や、やめなさい!大声を出しては近所迷惑ですよ!」
……とまぁとても知性のかけらも感じない会話ではあるが、このような会話もできないわけだ。
なかなかさらけ出せない、素の私。
それはもちろんカルラに、料理人たちには前世の私のテンションをぶつけることはよくある。
「やっほー、みんな元気ぃー?アイリスちゃんのお出ましだぞいっ!」
ばちこーん、とウインクも飛ばす。
こんな芸当、料理場でくらいしかできないことだ。
だが、この世界で私の素――人をおちょくったり、煽ったりが趣味なのが素の私だ――をさらけ出しても、彼はそれを受け入れて、乗ってくれる。
届いてはいけないこの思い。気付かれてはいけない、この想い。
『あなたを忘れない』
――私はこの想いを隠して、この記憶を閉じ込めて。
「……いざ出陣!」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった
木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。
今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。
せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。
床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。
その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。
他サイトでもアップしています。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!
ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。
学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。
「好都合だわ。これでお役御免だわ」
――…はずもなかった。
婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。
大切なのは兄と伯爵家だった。
何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる