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姫様の幸せのためなら
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花祭りが終わり、私は姫様の部屋に向かった。
部屋の主は何故かカウチに座ってずっと俯いている。……結果が振るわなかったのだろうか。
「姫様……どうでしたか?」
恐る恐る尋ねると、姫様は今まで伏せていた顔をゆっくりと上げ――
「……返礼を、もらったわ」
しかも、マーガレットを。
「……っ、良かったですね、姫様……!」
「えぇ……!」
マーガレットの花言葉は、『秘められた愛』だ。となるとつまり、ディラスはまだマーガレットやバラのような激しい恋情でなくとも、姫様に恋をしているということが……そして、その想いを秘めたままにしようとしていることが分かる。
ふたりで手を取り合ってワイワイガヤガヤしていると、ふと姫様は私の方を向いた。
「そういえば、アイリスも誰かに渡したのよね。本命はあったの?」
……やっぱりそこ聞かれちゃうよね。
できれば思い出したくない、苦い思い出。
私が一生懸命想いを閉じ込めようとしている時に、ブーゲンビリアなんて渡されてみろ。内心めちゃくちゃ複雑だぞ。
いや、それは好きという意味ではなくただひとりの友人として魅力に満ちている、と言いたいのかもしれないと疑うことは容易だ。
だが、今の私には無理だった。自分が彼を好きだと気付いてしまったら、もしかしてと微かな期待をしてしまうのだ。
だが、私はそれを必死に隠す。
「わたくしは、特にありませんよ」
「嘘おっしゃい。あなた、他のは同じ種類の花が大量にあったのに、1輪だけ別の種類の花もあったでしょう」
姫様の観察眼が素晴らしい。すっかり見透かされている。
「……わたくしは、あの方を忘れるために、想いを込めてきました。わたくしだけがあなたを覚えている。そう、花で伝えました」
そう、花祭りのメインはここなのだ。
直接言えない思いを、想いを、花に託して伝えることができるのだ。
ちなみにこのイベントは、ヴェロール様(というか教会)が考えついたものだ。
乙女心をバッチリ掴んだ素晴らしいイベントだ。
「そう……あなたは、それでいいの?」
「えぇ。だってこれは、叶ってはいけない恋ですから」
私が幸せになれば、姫様が不幸になる。
だから私は、幸せになってはいけない。
そう自分に言い聞かせていると、突然姫様はカウチから勢いよく立ち上がった。
「わたしの幸せのためって何?わたしは、あなたが幸せになっていけないとは言っていないわよ」
「えぇ姫様、ですがこれはわたくしのしなければいけないことなのです。姫様を幸せにすることです。わたくし、姫様を幸せにするためには、犠牲を厭わないタイプなので」
自分で言っていることが支離滅裂だと思った。だが、『ここは乙女ゲームの世界で、姫様はわたくしが幸せになると(略)』なんて話したところで信じることは難しいし、そもそも話す気もない。
「……アイリスはおばかさんですわ!」
「……っえぇ!?」
「わたしの幸せのためなら自分の恋ですら簡単に諦めれるって……?それならわたしは幸せにならなくてもいいわ!今まで恋とは無縁だったあなたが恋をしようとしているのよ!止める道理がないじゃない、むしろわたしは応援するわよ!」
一息に言い切って、姫様は息を荒らげながら再びカウチに座った。
私が恋をしてもいいと、そのためなら姫様は幸せになれなくてもいい、と。
今姫様は、そう言ったのか。
「……ありがとうございます、姫様」
少しずつ、凍っていた頭が、心が、溶けていく。
『姫様のため』と全てを諦めていた私の忠誠心が、ほんの少しだけほぐれた。
「……それでもわたくしは、姫様第一です。それは変わりません」
「あのねアイリス「でも」」
私は姫様の言葉を遮って、言った。――自分自身に、言い聞かせるように。
「姫様の幸せを願うわたくしの心のうち……1%だけ、ほんの少しだけ、わたくしのために使ってもいいでしょうか」
私の心の全てをわたくしのために使うことは出来ない。だが、ほんの少しだけ私の幸せを願うことが許されるなら。
「……えぇ、もちろんよ」
――私は、ほんの少しだけ勇気を出して。
「ありがとうございます、姫様」
意中の彼に、少しだけ歩み寄ってみよう。
部屋の主は何故かカウチに座ってずっと俯いている。……結果が振るわなかったのだろうか。
「姫様……どうでしたか?」
恐る恐る尋ねると、姫様は今まで伏せていた顔をゆっくりと上げ――
「……返礼を、もらったわ」
しかも、マーガレットを。
「……っ、良かったですね、姫様……!」
「えぇ……!」
マーガレットの花言葉は、『秘められた愛』だ。となるとつまり、ディラスはまだマーガレットやバラのような激しい恋情でなくとも、姫様に恋をしているということが……そして、その想いを秘めたままにしようとしていることが分かる。
ふたりで手を取り合ってワイワイガヤガヤしていると、ふと姫様は私の方を向いた。
「そういえば、アイリスも誰かに渡したのよね。本命はあったの?」
……やっぱりそこ聞かれちゃうよね。
できれば思い出したくない、苦い思い出。
私が一生懸命想いを閉じ込めようとしている時に、ブーゲンビリアなんて渡されてみろ。内心めちゃくちゃ複雑だぞ。
いや、それは好きという意味ではなくただひとりの友人として魅力に満ちている、と言いたいのかもしれないと疑うことは容易だ。
だが、今の私には無理だった。自分が彼を好きだと気付いてしまったら、もしかしてと微かな期待をしてしまうのだ。
だが、私はそれを必死に隠す。
「わたくしは、特にありませんよ」
「嘘おっしゃい。あなた、他のは同じ種類の花が大量にあったのに、1輪だけ別の種類の花もあったでしょう」
姫様の観察眼が素晴らしい。すっかり見透かされている。
「……わたくしは、あの方を忘れるために、想いを込めてきました。わたくしだけがあなたを覚えている。そう、花で伝えました」
そう、花祭りのメインはここなのだ。
直接言えない思いを、想いを、花に託して伝えることができるのだ。
ちなみにこのイベントは、ヴェロール様(というか教会)が考えついたものだ。
乙女心をバッチリ掴んだ素晴らしいイベントだ。
「そう……あなたは、それでいいの?」
「えぇ。だってこれは、叶ってはいけない恋ですから」
私が幸せになれば、姫様が不幸になる。
だから私は、幸せになってはいけない。
そう自分に言い聞かせていると、突然姫様はカウチから勢いよく立ち上がった。
「わたしの幸せのためって何?わたしは、あなたが幸せになっていけないとは言っていないわよ」
「えぇ姫様、ですがこれはわたくしのしなければいけないことなのです。姫様を幸せにすることです。わたくし、姫様を幸せにするためには、犠牲を厭わないタイプなので」
自分で言っていることが支離滅裂だと思った。だが、『ここは乙女ゲームの世界で、姫様はわたくしが幸せになると(略)』なんて話したところで信じることは難しいし、そもそも話す気もない。
「……アイリスはおばかさんですわ!」
「……っえぇ!?」
「わたしの幸せのためなら自分の恋ですら簡単に諦めれるって……?それならわたしは幸せにならなくてもいいわ!今まで恋とは無縁だったあなたが恋をしようとしているのよ!止める道理がないじゃない、むしろわたしは応援するわよ!」
一息に言い切って、姫様は息を荒らげながら再びカウチに座った。
私が恋をしてもいいと、そのためなら姫様は幸せになれなくてもいい、と。
今姫様は、そう言ったのか。
「……ありがとうございます、姫様」
少しずつ、凍っていた頭が、心が、溶けていく。
『姫様のため』と全てを諦めていた私の忠誠心が、ほんの少しだけほぐれた。
「……それでもわたくしは、姫様第一です。それは変わりません」
「あのねアイリス「でも」」
私は姫様の言葉を遮って、言った。――自分自身に、言い聞かせるように。
「姫様の幸せを願うわたくしの心のうち……1%だけ、ほんの少しだけ、わたくしのために使ってもいいでしょうか」
私の心の全てをわたくしのために使うことは出来ない。だが、ほんの少しだけ私の幸せを願うことが許されるなら。
「……えぇ、もちろんよ」
――私は、ほんの少しだけ勇気を出して。
「ありがとうございます、姫様」
意中の彼に、少しだけ歩み寄ってみよう。
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