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私は、ひとりじゃない
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遂に今日は裁判の日だ。
私は見張りの騎士に連れられ、地下牢から街に向かう。
裁判は街の中心にある大広場で、街の人々も見ている中で行われる。
大広場の中心に、罪人用の場所がある。木造で、ほかより数メートル高い台のような場所だ。おそらくここが処刑台にもなるのだろう。木の床にはうっすらと赤黒い何かが付着している。
夕日が沈む。
夕方とも夜とも言えない不気味な雰囲気が街を包む。確か黄昏時は妖の類がうろつきやすい時間なんだっけか。……なんてことはどうでもいいか。
カンカン、と乾いた音が街に響いた。
「開廷します」
裁判長らしき人のその一言で、先程までの不気味な雰囲気は霧散した。――――否、これから始まるものはあまりにも不気味で恐ろしいものなのだが。
街の人々は一気に怒気やら憎悪やら色々な感情を言葉の真ん中、あるいは端に乗せ、畳み掛けるように怒鳴ってきた。
「そんなもん極刑でいいだろ!」「死刑だ、死刑でいいじゃねぇか!」「コイツは姫様を毒殺しようとしたんだぞ、罰されて何が悪い!」「そうだそうだ!」
恐らくこれは恒例のイベントなのだろうと私は思う。まだ容疑者の訴えは聞いていないし、そもそも一体容疑者がなんの容疑で捕まってこの場にいるのか知っているものはいないのかもしれない。
罪人を裁く前に街の人々が罪人に向かって言葉を投げつける、きっとそんなイベントだろう。それが王宮に勤める人間ともなれば、鬱憤晴らしにはちょうどいいだろう。
その言葉が私の胸を確実にすり減らす。おそらくこれが目的だ。容疑者の心がすり減り、もう嫌だと思った時、心の弱い容疑者は自白をしてこの最悪の状況から逃れようとするのだろう。
だが。
「わたくしは無実です!わたくしは、姫様に手をかけるなどするわけがありません!」
私は声を張り上げる。
ヴェロールは私の無実を証明すると言っていたでは無いか。ならば、せめてそれまで時間を稼げれば、もしかしたら。
そんな淡い期待を胸に、私は無実を訴え続ける。
「そんなの嘘だ!」「もし本当に無実ならこの場にいるはずがねぇだろ!」「そうだそうだ!」
「えぇ、確かにそうですね!でもわたくしは無実であるのにここにいます。わたくしは……っ」
遂に民衆が石を投げ始めた。
さすがに大きい石はないが、小さめの石が大量に投げつけられれば少なからず痛みは来る。
それでも、私は抗う。
「こんな、ことをして楽しいですか……?無実の人間に石を投げつけて、あなたたちは楽しいのですか!?」
「あぁ俺らはそれでいいさ!」「なんせ、これ以上に鬱憤を晴らせるものなんてないんだからな!」「そうだそうだ!」
……さっきから「そうだそうだ!」としか言っていない人がいるような気がするのだが……気のせいだろうか。
「裁判長様よぉ!早くコイツを極刑にしちゃってくださいよ!」「コイツは確実に有罪だろ!?」「そうだそうだ!」
……やっぱり気のせいではなかった。
「……皆の者、静まれ」
裁判長がそう言った途端、街は冷水をかけられたように静かになった。
「まぁまずは罪人の言い分から聞こうではないか。もしかしたら無実なのかもしれんからな」
それを聞いて民衆は笑う――嗤う。
「……ではわたくしの言い分をしかと聞いていただきましょう」
民衆が嗤う中、私はハッキリとした意識を持って、叫ぶ。
「私が罪人だって?馬鹿じゃないの!?えぇえぇ、確かにトリカブトは持ってましたよ、でも!私は毒素のないものを店で買って、花祭りでディラスという騎士に嫌がらせの意味を込めて渡しました!花言葉は騎士、それから復讐!最っ高な嫌がらせでしょう!?」
そこで一旦息をつく。深呼吸をひとつする。
大広場の隅から「いいぞー!」という見知った声が聞こえる。――これはきっとあの人だ、料理人のカルラ、それからその他の料理人たちだ。きっと数少ない私の味方をするために駆けつけてくれたのだ。
私は、ひとりじゃない。
「私はディラス様にトリカブトを渡しました。それは本人に確認していただければ分かるでしょう!それはもう、たっぷり愛情を込めて渡しました!それなのに何故私の部屋からトリカブトが見つかったのですか?おかしいと思いませんか!?」
さっきと同じ方向から「もっと言えー!」という声が聞こえる。
「私は、姫様のことが好きです、大好きです、心の底から愛しています!そんな私が何故姫様を殺さなければならないんですか!?私はヤンデレですか、違います!私は姫様ファンクラブ会員番号1番!名誉ある姫様ファンクラブ会長を務める!姫様に一生仕える予定の!忠実なメイド、アイリスです!」
大きく深呼吸をして、荒い息を何とか落ち着かせる。
「私は……っ」
「……そろそろいいですかね?」
……やっと来た、私の待ち焦がれた人が。
「こちらの準備はもう終わっているというのに……貴女は一体いつまで叫び続けるんですか?既に声が枯れかけてるじゃないですか」
民衆の合間を縫って、彼がこちらに向かって歩いてきている。
「アイリスちゃん……さすがにあそこまで言う必要ある?」
何故コイツまでついてきた。私が望んでいるのはヴェロールだけなんだぞ。
「アイリス……わたし、感動しましたわ……!」
姫様まで……!前言撤回しよう、私が望んでいるのはヴェロールと姫様だ。ディラスは帰れ。
神官長と姫様、そして噂の騎士までが1列に、優雅に歩いてきた。
私がいる台の麓まで来ると、彼らは頂上に向かう階段を登り始めた。裁判長が先程までの雰囲気とは打って変わって「あ、あの……」と弱々しく制止しようとするが、彼らは何も聞こえていないかのようにただひたすら、私めがけて歩いてくる。
「全く、貴女という人は……無茶ばかりして。待たされているこちらの身にもなってくださいよ」
「まぁいいじゃない、アイリスがここまで粘ってくれなかったら間に合わなかったかもしれないわよ」
「そう考えればアイリスちゃんに感謝だよなー。……でも、オレにあそこまで言ったのは恨む」
静寂の街に、彼らが階段を登る音だけが響き渡る。
「裁判長。アイリスには証言をしてくれる人がいないようなので、代わりにわたし……いえ、わたしたちが証言してもよろしいですか?」
ニッコリ笑った姫様の笑顔は、否と言わせない雰囲気があった。
それに怖気付いてか、裁判長は「も、もちろんです」と言った。
「ありがとうございます」
ヤバい神々しい。姫様がイケメンだ。
「では、皆様」
――後世にまで残る奇跡の逆転劇の、幕開けよ。
私は見張りの騎士に連れられ、地下牢から街に向かう。
裁判は街の中心にある大広場で、街の人々も見ている中で行われる。
大広場の中心に、罪人用の場所がある。木造で、ほかより数メートル高い台のような場所だ。おそらくここが処刑台にもなるのだろう。木の床にはうっすらと赤黒い何かが付着している。
夕日が沈む。
夕方とも夜とも言えない不気味な雰囲気が街を包む。確か黄昏時は妖の類がうろつきやすい時間なんだっけか。……なんてことはどうでもいいか。
カンカン、と乾いた音が街に響いた。
「開廷します」
裁判長らしき人のその一言で、先程までの不気味な雰囲気は霧散した。――――否、これから始まるものはあまりにも不気味で恐ろしいものなのだが。
街の人々は一気に怒気やら憎悪やら色々な感情を言葉の真ん中、あるいは端に乗せ、畳み掛けるように怒鳴ってきた。
「そんなもん極刑でいいだろ!」「死刑だ、死刑でいいじゃねぇか!」「コイツは姫様を毒殺しようとしたんだぞ、罰されて何が悪い!」「そうだそうだ!」
恐らくこれは恒例のイベントなのだろうと私は思う。まだ容疑者の訴えは聞いていないし、そもそも一体容疑者がなんの容疑で捕まってこの場にいるのか知っているものはいないのかもしれない。
罪人を裁く前に街の人々が罪人に向かって言葉を投げつける、きっとそんなイベントだろう。それが王宮に勤める人間ともなれば、鬱憤晴らしにはちょうどいいだろう。
その言葉が私の胸を確実にすり減らす。おそらくこれが目的だ。容疑者の心がすり減り、もう嫌だと思った時、心の弱い容疑者は自白をしてこの最悪の状況から逃れようとするのだろう。
だが。
「わたくしは無実です!わたくしは、姫様に手をかけるなどするわけがありません!」
私は声を張り上げる。
ヴェロールは私の無実を証明すると言っていたでは無いか。ならば、せめてそれまで時間を稼げれば、もしかしたら。
そんな淡い期待を胸に、私は無実を訴え続ける。
「そんなの嘘だ!」「もし本当に無実ならこの場にいるはずがねぇだろ!」「そうだそうだ!」
「えぇ、確かにそうですね!でもわたくしは無実であるのにここにいます。わたくしは……っ」
遂に民衆が石を投げ始めた。
さすがに大きい石はないが、小さめの石が大量に投げつけられれば少なからず痛みは来る。
それでも、私は抗う。
「こんな、ことをして楽しいですか……?無実の人間に石を投げつけて、あなたたちは楽しいのですか!?」
「あぁ俺らはそれでいいさ!」「なんせ、これ以上に鬱憤を晴らせるものなんてないんだからな!」「そうだそうだ!」
……さっきから「そうだそうだ!」としか言っていない人がいるような気がするのだが……気のせいだろうか。
「裁判長様よぉ!早くコイツを極刑にしちゃってくださいよ!」「コイツは確実に有罪だろ!?」「そうだそうだ!」
……やっぱり気のせいではなかった。
「……皆の者、静まれ」
裁判長がそう言った途端、街は冷水をかけられたように静かになった。
「まぁまずは罪人の言い分から聞こうではないか。もしかしたら無実なのかもしれんからな」
それを聞いて民衆は笑う――嗤う。
「……ではわたくしの言い分をしかと聞いていただきましょう」
民衆が嗤う中、私はハッキリとした意識を持って、叫ぶ。
「私が罪人だって?馬鹿じゃないの!?えぇえぇ、確かにトリカブトは持ってましたよ、でも!私は毒素のないものを店で買って、花祭りでディラスという騎士に嫌がらせの意味を込めて渡しました!花言葉は騎士、それから復讐!最っ高な嫌がらせでしょう!?」
そこで一旦息をつく。深呼吸をひとつする。
大広場の隅から「いいぞー!」という見知った声が聞こえる。――これはきっとあの人だ、料理人のカルラ、それからその他の料理人たちだ。きっと数少ない私の味方をするために駆けつけてくれたのだ。
私は、ひとりじゃない。
「私はディラス様にトリカブトを渡しました。それは本人に確認していただければ分かるでしょう!それはもう、たっぷり愛情を込めて渡しました!それなのに何故私の部屋からトリカブトが見つかったのですか?おかしいと思いませんか!?」
さっきと同じ方向から「もっと言えー!」という声が聞こえる。
「私は、姫様のことが好きです、大好きです、心の底から愛しています!そんな私が何故姫様を殺さなければならないんですか!?私はヤンデレですか、違います!私は姫様ファンクラブ会員番号1番!名誉ある姫様ファンクラブ会長を務める!姫様に一生仕える予定の!忠実なメイド、アイリスです!」
大きく深呼吸をして、荒い息を何とか落ち着かせる。
「私は……っ」
「……そろそろいいですかね?」
……やっと来た、私の待ち焦がれた人が。
「こちらの準備はもう終わっているというのに……貴女は一体いつまで叫び続けるんですか?既に声が枯れかけてるじゃないですか」
民衆の合間を縫って、彼がこちらに向かって歩いてきている。
「アイリスちゃん……さすがにあそこまで言う必要ある?」
何故コイツまでついてきた。私が望んでいるのはヴェロールだけなんだぞ。
「アイリス……わたし、感動しましたわ……!」
姫様まで……!前言撤回しよう、私が望んでいるのはヴェロールと姫様だ。ディラスは帰れ。
神官長と姫様、そして噂の騎士までが1列に、優雅に歩いてきた。
私がいる台の麓まで来ると、彼らは頂上に向かう階段を登り始めた。裁判長が先程までの雰囲気とは打って変わって「あ、あの……」と弱々しく制止しようとするが、彼らは何も聞こえていないかのようにただひたすら、私めがけて歩いてくる。
「全く、貴女という人は……無茶ばかりして。待たされているこちらの身にもなってくださいよ」
「まぁいいじゃない、アイリスがここまで粘ってくれなかったら間に合わなかったかもしれないわよ」
「そう考えればアイリスちゃんに感謝だよなー。……でも、オレにあそこまで言ったのは恨む」
静寂の街に、彼らが階段を登る音だけが響き渡る。
「裁判長。アイリスには証言をしてくれる人がいないようなので、代わりにわたし……いえ、わたしたちが証言してもよろしいですか?」
ニッコリ笑った姫様の笑顔は、否と言わせない雰囲気があった。
それに怖気付いてか、裁判長は「も、もちろんです」と言った。
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