18 / 55
姫様とディラスの証言
しおりを挟む
「まずはわたしから行きますわ。
「わたしは事件の日、アイリスに茶会の準備を頼みました。紅茶と茶菓子の準備をね。
「他のメイドたちに聞いたけど、その日はアイリス以外に茶会用のワゴンに触った人はいないそうよ。
「だったらアイリスが犯人なのはほぼ確定事項だ、ですって?
「……お黙りなさい。アイリスに対する侮辱は、主人であるわたしに対する侮辱と受け取りますわよ?今はわたしが話しているのです。横槍は入れないでいただきたいのですが。
「……静かになりましたわね、大変よろしい。では続きを話しますわ。
「わたしは確かにアイリスが淹れた紅茶を飲んでから倒れましたわ。
「でも、その紅茶からいつもしないような香りがしましたわ。
「飲んだ時には分からなかったけど、後味で分かりましたわ。そう、皆様のお察しの通り……トリカブトの香りですわ。
「ここでひとつ、不思議なことがあるのよ。
「アイリスがディラスに渡したのは、青色のトリカブト。でも凶器として上げられているのは、紫色のトリカブト。
「おかしいと思いませんの?
「アイリスが持っていたトリカブトと、犯人が使ったであろうトリカブトの種類が違うだなんて。
「それに、アイリスが渡したトリカブトは、確かに毒がないものでした。わたしがこの目で確認したわ。
「それにわたしはこの国の王族。人一倍鼻と舌の感覚が鋭くなるように訓練されました。だから分かるのです。
「わたしが飲んだ――飲まされたのは、確かに紫色のトリカブトの毒でしたわ。アイリスがディラスに渡したトリカブトとは違う香りだったのよ。
「それなのに何故、アイリスがこのような場所に立たされているのかしら?
「アイリスは無罪なのに、あたかも有罪であることが確定事項のように振る舞っていますけど。
「そもそもあなたたちはアイリスの主張をしっかり聞いたんですか?
「アイリスはわたしのことが大好きなのよ。それはわたしが1番よく知っているわ。
「アイリスはわたしのためなら何だってするわ。例えば、わたしが殺人を命令すれば迷わず人を殺せるでしょうね。
「それほどまでに異常……失礼、想像を遥かに超える忠誠心を持ったアイリスが、何故わたしを殺さなければならないのかしら?
「わたしは、アイリスに毒殺されかけたわけじゃありませんわ」
姫様は強い意志を瞳に込めながら、民衆に訴えかけた。
民衆は呆然としていた。
わざわざ姫様が証言に来たことに驚く声、姫様がそういうならそうなのかもしれないとうっすら私の方に傾きつつある姿。聞こえるもの、見えるものが少しずつ変わったのが感じられた。
そして私は姫様のそのひとつひとつの言葉が深く胸に刺さった。
姫様は私のことを全面的に肯定し、信頼してくれているということだ。
と感動に浸っていると、今度はディラスが声を張り上げだした。
「じゃあ次はオレが証言するよ!
「……アイリスちゃん、その目はやめようよ。オレがまともな証言をできるはずがないって思ってるんでしょ?
「……とにかく!オレが証言できるのは、ふたつ。
「まずひとつめ。
「オレは花祭りの日、青色のトリカブトをもらった。
「オレの記憶違いとか見間違いとかじゃなくて、オレがもらったのは確かに青色だったよ。
「でも今回凶器になったのは、紫色のトリカブトなんでしょ?
「ならアイリスちゃんは犯人じゃないと思うんだけどな。ま、これはさっき姫様が証言したことと重複してるんだけどね。
「で、ふたつめ。
「オレはもらったトリカブトの花を、確かにオレの部屋の花瓶に挿した。毎日嫌でも目に付くところに置いてあるから確実な情報だよ。
「じゃあもし仮にアイリスちゃんがくれたトリカブトが凶器だったとして、犯人はどうやってオレの部屋から持ち出したのかな?
「アイリスちゃんぐらいの身分なら、よっぽどのことがない限りオレたちが住んでる騎士塔には出入りできない。入るにしたって検閲門ってとこで詳しく事情聴取みたいなことされるんだよ。
「まぁアイリスちゃんなら窓から入る、なんてのは朝飯前なんだろうけど。でも、他の騎士たちや検閲門にいる検閲官は怪しい人物は見ていないって言ってたんだよね。
「そもそも、オレがアイリスちゃんから貰ったトリカブト、まだオレの部屋の花瓶に飾ってあるんだよね。
「だから思うんだ。
「犯人はアイリスちゃんじゃない、他に誰かいるってね。
「まぁ、オレの憶測を超えない話だけどね」
ディラスは言っても騎士だ。平生なら姫様の言葉の方が圧倒的な影響力を持っている。しかし、何よりディラスはトリカブトを受け取った張本人。民衆も姫様の言葉だけではなく、当事者であるディラスの言葉にも耳を傾けざるを得ないだろう。そして、多くの民衆は思った。
――もしかしてアイリスとやらは犯人ではないのかもしれない。
「わたしは事件の日、アイリスに茶会の準備を頼みました。紅茶と茶菓子の準備をね。
「他のメイドたちに聞いたけど、その日はアイリス以外に茶会用のワゴンに触った人はいないそうよ。
「だったらアイリスが犯人なのはほぼ確定事項だ、ですって?
「……お黙りなさい。アイリスに対する侮辱は、主人であるわたしに対する侮辱と受け取りますわよ?今はわたしが話しているのです。横槍は入れないでいただきたいのですが。
「……静かになりましたわね、大変よろしい。では続きを話しますわ。
「わたしは確かにアイリスが淹れた紅茶を飲んでから倒れましたわ。
「でも、その紅茶からいつもしないような香りがしましたわ。
「飲んだ時には分からなかったけど、後味で分かりましたわ。そう、皆様のお察しの通り……トリカブトの香りですわ。
「ここでひとつ、不思議なことがあるのよ。
「アイリスがディラスに渡したのは、青色のトリカブト。でも凶器として上げられているのは、紫色のトリカブト。
「おかしいと思いませんの?
「アイリスが持っていたトリカブトと、犯人が使ったであろうトリカブトの種類が違うだなんて。
「それに、アイリスが渡したトリカブトは、確かに毒がないものでした。わたしがこの目で確認したわ。
「それにわたしはこの国の王族。人一倍鼻と舌の感覚が鋭くなるように訓練されました。だから分かるのです。
「わたしが飲んだ――飲まされたのは、確かに紫色のトリカブトの毒でしたわ。アイリスがディラスに渡したトリカブトとは違う香りだったのよ。
「それなのに何故、アイリスがこのような場所に立たされているのかしら?
「アイリスは無罪なのに、あたかも有罪であることが確定事項のように振る舞っていますけど。
「そもそもあなたたちはアイリスの主張をしっかり聞いたんですか?
「アイリスはわたしのことが大好きなのよ。それはわたしが1番よく知っているわ。
「アイリスはわたしのためなら何だってするわ。例えば、わたしが殺人を命令すれば迷わず人を殺せるでしょうね。
「それほどまでに異常……失礼、想像を遥かに超える忠誠心を持ったアイリスが、何故わたしを殺さなければならないのかしら?
「わたしは、アイリスに毒殺されかけたわけじゃありませんわ」
姫様は強い意志を瞳に込めながら、民衆に訴えかけた。
民衆は呆然としていた。
わざわざ姫様が証言に来たことに驚く声、姫様がそういうならそうなのかもしれないとうっすら私の方に傾きつつある姿。聞こえるもの、見えるものが少しずつ変わったのが感じられた。
そして私は姫様のそのひとつひとつの言葉が深く胸に刺さった。
姫様は私のことを全面的に肯定し、信頼してくれているということだ。
と感動に浸っていると、今度はディラスが声を張り上げだした。
「じゃあ次はオレが証言するよ!
「……アイリスちゃん、その目はやめようよ。オレがまともな証言をできるはずがないって思ってるんでしょ?
「……とにかく!オレが証言できるのは、ふたつ。
「まずひとつめ。
「オレは花祭りの日、青色のトリカブトをもらった。
「オレの記憶違いとか見間違いとかじゃなくて、オレがもらったのは確かに青色だったよ。
「でも今回凶器になったのは、紫色のトリカブトなんでしょ?
「ならアイリスちゃんは犯人じゃないと思うんだけどな。ま、これはさっき姫様が証言したことと重複してるんだけどね。
「で、ふたつめ。
「オレはもらったトリカブトの花を、確かにオレの部屋の花瓶に挿した。毎日嫌でも目に付くところに置いてあるから確実な情報だよ。
「じゃあもし仮にアイリスちゃんがくれたトリカブトが凶器だったとして、犯人はどうやってオレの部屋から持ち出したのかな?
「アイリスちゃんぐらいの身分なら、よっぽどのことがない限りオレたちが住んでる騎士塔には出入りできない。入るにしたって検閲門ってとこで詳しく事情聴取みたいなことされるんだよ。
「まぁアイリスちゃんなら窓から入る、なんてのは朝飯前なんだろうけど。でも、他の騎士たちや検閲門にいる検閲官は怪しい人物は見ていないって言ってたんだよね。
「そもそも、オレがアイリスちゃんから貰ったトリカブト、まだオレの部屋の花瓶に飾ってあるんだよね。
「だから思うんだ。
「犯人はアイリスちゃんじゃない、他に誰かいるってね。
「まぁ、オレの憶測を超えない話だけどね」
ディラスは言っても騎士だ。平生なら姫様の言葉の方が圧倒的な影響力を持っている。しかし、何よりディラスはトリカブトを受け取った張本人。民衆も姫様の言葉だけではなく、当事者であるディラスの言葉にも耳を傾けざるを得ないだろう。そして、多くの民衆は思った。
――もしかしてアイリスとやらは犯人ではないのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった
木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。
今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。
せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。
床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。
その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。
他サイトでもアップしています。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!
ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。
学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。
「好都合だわ。これでお役御免だわ」
――…はずもなかった。
婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。
大切なのは兄と伯爵家だった。
何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる