姫様を幸せにするために恋愛フラグを回避しまくります!

夕闇蒼馬

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判決

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「……と、ここまで関係者である御二方に証言をしていただきましたが、皆様はどうお思いでしょうか?」

 ヴェロールはカツン、カツンと音高らかに靴を鳴らして私の近くまで来た。そして彼らの言葉を引き継いで、彼は今まで固く閉ざしていた口を重々しく開いた。

「おかしいとは思いませんか?御二方がここまで証言していることは、あなた方が知っている情報にはないものが多いのではないでしょうか。トリカブトの色が、ということ。そもそもアイリスさんがディラスにトリカブトを贈ったこと。まぁこれは風の噂では聞いていたんですけどね。しかし、今まで知らされていなかったことばかりだと思います。――私めも含めて、ですが」

 彼はニコリと笑っているはずなのに、随分それが冷たい。

「私めは神官長です。そして私めの部下は早い段階でこの事件のことを知っており、さらに捕縛された容疑者のもとにも通っていました。それなのに、何故」

 ――私めのもとに情報が届かなかったのでしょう。

 そう言うと民衆たちはどよめいた。
 それもそのはず。
 神官長――この世界では、それなりに地位が高い人物だ――ともあろうヴェロールのもとに情報が届かなかったというのだ。それは私が彼の部下、ルーナに口止めを頼んでいたというのもある。がしかし、他の者から一切情報が入ってこないのはおかしい。
 つまり。

「誰かがこうなるように仕組んだとしか思えませんよね?」

 民衆たちのざわめきは次第に大きくなっている。
「ではそれは一体誰なのでしょうねぇ。私めにはさっぱり検討もつきません。――ねぇ、裁判長様?」

 ヴェロールは裁判長の方を見て、ニッコリ笑う。
「……さぁ、わしの預かり知らぬ話でございますゆえ」
「そうですか。……ではひとつ、お聞かせ願いたい。貴方は何故、この裁判の存在を教会に告げていなかったのでしょうか?」

   そう問われて裁判長は、あからさまにたじろいだ。何か後ろ暗いことがあるのだろう。

 裁判を行う際は、まず裁判所が国王にその旨を簡単な手紙で知らせる。それに対し、国王は承認する。
 承認を得たら次は教会に知らせる。
 罪人に対して行われる『審判』というのは、神に代わって裁判所が罪人を裁くというものだ。
 つまり、神と最も近い存在である教会にも、裁判を行うという旨を伝えなければいけないのだ。
 そして、場合によっては神官長が裁判に立ち会うこともある。

 しかし、裁判の存在自体が神官長に伝えられていなかったらしいのだ。

「私めは、とある筋からこの裁判の存在を知らされました。今日裁かれるのは姫様を毒殺しようとした容疑者だってのに、神官長の貴方がここにいて良いのかと言われたのです。それも、私めのよく知る人物が容疑者なのに、とね」

 とある筋というのは誰のことだろう、ルーナか、ディラスか。あるいは姫様か。

「……それで、裁判長。何故教会に……いえ、神官長ともあろう私めに通達がなかったのでしょうか。私めが分かるように、簡潔に、かつ説得力のある明瞭な理由をお願いしますね」

 彼の周りにはブリザードでも吹いているのではないかと思うくらいに凍えた空気が漂っている。冷えた、というより凍ったと形容した方が正しいくらいの麗しい笑みブリザードスマイルを一身に受けている裁判長は、顔を真っ白にしている。

「……っ、判決を下す。神は彼女を審判し、その結果、容疑者は無実であると証明された。よって彼女は無罪放免とする!これでこの裁判を終わりとする!」

 矢継ぎ早にそう言い裁判長は席を立ち、民衆の非難の目や声、そういったものから逃れるようにそそくさとこの場を去っていった。
 これで裁判長……いや、この国の裁判制度に疑問を抱く民衆が増えた。今までのように、罪人に石が投げられるというようなことは減っていくだろう。

「あら、いいのですか?あれを見送ってしまって」
「いいのです。ここに来る前に、門番の騎士に裁判長を捕らえておくよう頼んでおきましたから。それに、彼には色々後ろ暗いことがありそうですし、聞かなければいけない話がありますからね。というかそもそも教会に話を通していないのに神から審判が下ったと言うとは……」
「あー、こわ。1番敵に回しちゃいけないのってもしかしてヴェロールなんじゃね?」
「ふふっ……ありえますわね」

 なんて楽しそうに会話しているのを邪魔するのは気が引けたが、私はどうしても彼らに伝えなければいけないことがあるのだ。

「……っあの!」

 すると、3人はこちらをくるりと振り向いた。

「わたくし如きを、助けてくださってありがとうございました」

 たかだか一介のメイドである私のために、ヴェロールやディラスはおろか、姫様まで証言に来てくれた。私の無実を訴えに来てくれた。
 私の心はぬくぬくのぽっかぽかだ。その……言葉では形容しがたい、温かさ。
 深々と彼らに向かって礼をすると、彼らは笑った。

「いいっていいって。姫様の大切なメイドちゃんを死刑にでもされちゃったら大変だしね」
「アイリスがいない間、寂しかったのよ?今まで一緒にいた貴女がいないんですもの」

「……ディラス様、姫様……っ」

 彼らの言葉に嬉しさがこみ上げ、涙が私の頬を濡らす。――ディラスに様付けするのは些か不本意だが、この際仕方が無い。諦めよう。

「それに、私めは貴女に約束したでしょう。必ず助けると。私めはその約束を果たしたにすぎません。そう感謝されるべきではありません」
「とか言っちゃってー、1番焦ってたのはヴェロールでしょー?」
「えぇ、本当に。わたしよりも焦っていたかもしれませんものね」
「ちょっと、お二方とも……!」

 僅かに赤くなった彼の頬がチラリと見え、私は勘違いしそうになる。

 違う、彼は私のことをそんな目では見ていない。

「……無事で良かったです、アイリスさん」

 ……でも、ほんのひと時だけでも勘違いさせて欲しい。私を幸せの時に浸らせて。たとえこれがひと時の夢だとしても、その夢に溺れさせて。

 ◆◆◆

 無事地下牢を真っ白な身で出て――というのは些か語弊があるというものか。私は元々潔白な身の上だ――久々の自室で私はこれまでの事を考える。
 私は審判で無実になったということはつまり、姫様毒殺未遂事件はこれで終結したということで、これで無事に私のディラスのバッドエンド(もとい姫様のディラスルートのハッピーエンド)である『アイリスの国外追放エンド』を回避できたということだ。

「……ん?じゃあ私はどうなるんだ?」

 久々の暖かな自室に響いた純粋な疑問に答える者は誰もいなかった。
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