姫様を幸せにするために恋愛フラグを回避しまくります!

夕闇蒼馬

文字の大きさ
21 / 55

誘拐されたみたいです

しおりを挟む
「…………だな」
「い…………だろ」

 質が違う、ふたり分の声が聞こえる。
 私はその声に誘われるように目が覚めた。
 ガラガラという、砂利道を走る車輪の音が聞こえる。そしてその音に合わせて私のいる場所がガタガタ揺れる。以上の情報があれば、ここは馬車の中だろうと判断するのは容易だった。
 私はゆっくりまぶたを開ける。

「……お、起きたな。おはよ、嬢ちゃん」
「キミ、よぉく寝てたねぇ。でもさぁ、そのアホ面オレっちに見せないでくれなぁい?イライラするんだよねぇ」
「おい、ノリア。嬢ちゃんがビビってんだろ」
「あ、メイドちゃんごめんねぇ。オレっちさぁ、思ったことはついつい口に出ちゃうタイプなんだよねぇ。というかさぁ、ルーノだってその見た目じゃ怖がられてるよねぇ?」
「おれは見た目の割に根が優しいから問題ねぇんだよ。お前は根っからクソだろ。だから悪いっつってんだよ」

 私を差し置いてふたりは喧嘩を始めた。

「あ、あのー……」

 おずおずと声をかければ、ルーノと呼ばれた男が「あぁ、すまねぇな嬢ちゃん」と私の方を向き、ニカッと笑った。あ、笑顔が眩しい……

「おれはルーノ。こいつはノリアだ」
「ちょっとぉ、オレっちの紹介雑じゃなぁい?もっと事細かにさぁ……あ、オレっちは彼女いないから安心してねぇ」

 ぷくっと頬を膨らませつつもニコニコするという職人技を見せるノリア。……うん、あざと可愛い系のイケメンだ。
 そしてそれをたしなめるルーノ。……あぁ、やれやれといったような表情もよく似合うオラオラ系のイケメンだ。
 ここはなんだ、天国か?馬車という狭い空間、イケメンふたりに挟まれている。天国以外のなんと形容すればいいんだ。
 ……いや待て、死ぬわ!イケメン耐性(二次元)はあれどイケメン耐性(三次元)はない私からしてみれば密室(部屋ではないにせよ密閉空間であることは確かだ)でイケメンと同じ空気を吸っている、ただそれだけで私は悶え死ぬことが可能だ。つまるところ、ここは天国というより地獄!

 …………なんて茶番はいいんだ。そんなことよりこの現状をなんとかせねば。

「……ルーノさん、ノリアさん。初めまして、アイリスです」
「「知ってるよ」」
「……さいですか」

 何故、と聞けば後悔しそうな予感がしたので私は黙っておくことにした。そもそも私を攫った時点で、私が一体何者なのかを知っていることだろう。

「ではひとつ聞かせてください。何故わたくしは馬車の中にいるのでしょうか」
「んー、それについては大変申し上げにくいけどぉ、おたくのお姫様の間違えて攫っちゃったんだよねぇ。言っちゃえばオレっちとノリアの勘違い?道が暗かったから顔まで確認できなかったしぃ、あの時キミが歩いてたのがお姫様の部屋の近くだったから多分そうかなぁって攫ったんだよねぇ」
「すまねぇな、嬢ちゃん。……他の質問はあるか?」
「質問はあるけどとりあえずひとつ言わせて。……勘違いで隣国まで攫われてたまるかあぁぁぁぁ!」

 かぁ、かぁ、かぁ……と私の声がこだまする。

「…………まぁいいです、それで質問なんですけど」
「「切り替え早いな」」
「ここはどこなんです?」
「ここは……ノリア、言っていいと思うか?」
「いいんじゃなぁい。オレっちは知ーらない」
「……ここはアステアに行く道だ」
「アス、テア……」

 思わぬ形でアステア――姫様毒殺事件の真相を解き明かすために向かおうとしていた隣国――に訪れることになったということなのか。

「今からアステアに向かうということですよね」
「そうそう。理解ある子は嫌いじゃないよぉ」
「……それはどーも」

 いや逆にアステアに行く道だと言われてアステア以外の目的地候補を口にしたなら、ソイツは本物の阿呆だ。そこら辺に捨ておくべきだろう。
 そして私はひとつ発見をした。……発見と大きく出てしまったが、実にしょうもないことだ。
 どうやらノリアは人をイラつかせることが得意なようだ。彼がひとつものを言うたび、私の心に百くらいのイライラが募る。口が減らないとはまさにこのこと。どこぞの男のようだな。
 ――姫様FC会員番号2番の、彼。

「……っ、」

 今更ながら自分の境遇に恨みを覚える。
 そろそろ彼に歩み寄ろうと決めたのは何日前か。そしてそれは何度目か。
 以前は監獄にぶち込まれ、ようやく頑張ろうと思ったら今度は隣国に誘拐されました?
 自分の運命を呪うしか方法はないようだ。何の解決にもならないが。馬鹿か。

「……嬢ちゃん」
「……」
 急にふたりは静かになった。
「なんですか」
 そう聞けば、ふたりは顔を見合わせた。

「だって……ねぇ」
「今更可哀想だったかな、なんて思い始めたというかなんというか……」
「えっ、そっち?オレっちぃ、てっきりアイリスちゃんの悲しそうな顔にキュンキュン……違う、ゾクゾクしたのかと思ってたよぉ」
「……相変わらず悪趣味だな」

 ノリアとルーノは性格が違いすぎる。
 パッと見た限りでは性格がよさそうなノリアが性格ブス(どうも加虐趣味がありそうなイケメン)で、パッと見はヤンキーで怖そうなルーノが性格イケメン(顔に負けず劣らずのイケメン)だなんて聞いてないぞ私は。
 というかそもそも誰だよコイツら。こんなヤツら知らないよ私は。
 『ドキ夢』の攻略対象サマにはこんな人はいないはずだ。そうなるともしかしてアレか、モブ。

「……アイリスちゃん、失礼なこと考えてなぁい?」
「なぜバレた!」

 ノリアは危険だ、非常に。気をつけなければ。考えていることを読まれる。怖い。

「……なんて冗談はともかくぅ。アイリスちゃんはこれからアステアに行くわけなんだけどぉ」
「それも冗談だと言って!」
「残念ながらこれは冗談じゃねぇんだ、すまない」
「ちっ」
「アイリスちゃんってばこわぁい。……ま、それはいいんだけど。その前にアイリスちゃん、そろそろお腹減らない?」

 そう言われた途端、私の腹の虫が突然いななき出した。

「あははっ、お腹減ったみたいだねぇ。じゃあ途中で街によるから、そこでお昼ご飯でも食べようかぁ。何か食べたいものあるぅ?」
「マカロン様」
「え?」
「……ごほん、わたくしが食べたいのは肉ですわ。おほほほほ……」
「嬢ちゃん、わりぃがおれはバッチリ聞いちまった。マカロン様が食いたいんだってな?」
「ルーノも危険なタイプだった!」

 地獄耳め。……でも何故だろう、ルーノが言うより随分良い印象を覚える。性格もイケメンだからか?
 ともあれ、ここにいる限りは私に安息の時が訪れることはないようだということを私は気づいてしまった。

「……んで、マカロンだっけぇ?」
「断じて違います、わたくしが食べたいのは肉です、断面が少し赤いままで、噛めば肉汁がジュワリと溢れ出るくらいの火の通し加減がちょうどいいですよね」

 私は虚勢を張る。いや、嘘を突き通していると言った方が良いか。

「嬢ちゃんは何味のマカロンが好きなんだ?おれは最近ピスタチオが気になっててよ」
「ピスタチオですか……嫌いではないんですけど、わたくしはやはりフランボワーズ派ですかね……じゃなくて!何サラッとわたくしのマカロン様語りを膨らませようとするのです!?」

 虚勢を張りきれなかった。ルーノは手強いようだ。

「まぁそこまで言うなら途中の街でマカロン買いに行ってあげるよぉ」
「だからわたくしは……っいえ、なんでもありません。わたくしはマカロン様を愛しています。マカロン様が食べとうございます」

 ノリアがすっと目をすがめたので私は虚勢を張るのをやめた。だって怖いんだもん。

「……あれ、もしかしてそれって。わたくし、外に出てはいけないってやつですか?」
「うん、よく気付いたねぇ」
「すまねぇな、こっちも事情が事情なもんでよ。嬢ちゃんにはここで大人しくしていてもらわなきゃいけねぇんだ」

 ノリアはともかく、ルーノは本当に申し訳なさそうに眉を下げて私に謝った。


 私はどうやらこの馬車に、軟禁されるみたいです。


 そして――――私は誘拐されたみたいです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

処理中です...