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東の大陸
オラつくあの娘は炎の龍なのです<3>
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「えーと、浸ってる中、お邪魔して申し訳ないんすけど。そもそも八大霊龍っていうのは?」
信じられないという顔でヒュリアとアティシュリが見てきます。
「八大霊龍は、バシャルを守る八柱の守護龍様のことだ! ニホンノトウキョウで教わらなかったのか!」
ヒュリアがキレ気味に詰めてきました。
「ぜんぜん」
キッパリ否定です。
まあ、球を七つ集めると出てきて願いを叶えてくれる龍は知ってますけどね。
「ふん、よちよちのガキでも、知ってることだぜぇ」
アティシュリは呆れた風に鼻を鳴らします。
「じゃあ、耗霊っていうのは?」
呆れられても、ここはメンタル強にして質問を続けなきゃです。
数日前に日本から、こんな森の奥に飛ばされて。
情報といえば、オペ兄さんとヒュリアから聞いた話しだけ。
スマホがあれば、今頃検索しまくってますわ。
つまり、これは貴重な情報収集のチャンスといえるのです。
しかも相手はドラゴン。
きっと人間が知り得ない情報まで持ってるに違いありません。
それに知らぬは一生の恥って言うじゃないですか。
まあ一生は、もう終わってるんですけどねっ。
肩をすくめたアティシュリは、溜息を吐きました。
「ったく、しょうがねぇなぁ、キャラメルの礼に少し講義してやんよ。心して拝聴しやがれ。――いいか、耗霊ってのは、てめぇみたいに死んだ後でも、この世に残っちまった霊体のことを言うんだ……」
はい、ここからは★教えて、アティシュリ先生!★の始まりです。
人の死に方には二通りあります。
一つが通常死、もう一つが異常死です。
通常死は寿命や病気で死ぬ場合で、異常死は事故死や殺されたりしたときの場合のことを言います。
通常死で死んだ人は、七日間この世にとどまった後で、あの世へ旅立ちます。
一方、異常死で死んだ人も、ほとんどは通常死と同じようにあの世にいきますが、生きているとき、この世に強く執着した人は、あの世に行けなくなってしまうこともあるそうです。
そういう存在のことを耗霊と呼ぶそうです。
耗霊は、自意識や記憶を失い、周囲の生命に様々な悪影響を与えながら、どんどん成長し、より大きな悪影響を拡散していくわけです。
そんな耗霊を浄化する役割を負っているのが八大霊龍なんだそうです。
ちなみにウガリタ語は古代バシャルの共通語です。
現在の共通語はフリギオ語です。
「――まあ、耗霊の浄化だけでなく、バシャルに強い悪影響を与える“全て”を排除するのが本当のところだがよ」
「そ、それじゃあ、まさか……、僕も浄化される……、とか……?」
もしかして燃やされちゃうってこと……?
心臓バクバクです。
動いてねぇだろ、というツッコミ、ごもっともです。
「いいや。てめぇは耗霊たが、耶宰なんだろ。耶代の儀方により召喚され、耶宰になった耗霊は、自意識や記憶を取戻し、悪さをしなくなる。だから浄化する必要はねぇ」
ふぃー、助かったぁ。
ヒュリアも心配だったみたいで、大丈夫って感じで僕の肩に手を置きました。
「――ふん、だがな、元々の性癖が悪いときは、容赦なく消してやっからよ。そのへんは本人次第ってことだ」
「いやだなぁ、僕は悪い人間じゃありませんでしたよ」
アティシュリは疑いのまなざしです。
「そ、それじゃあ、エフラトンって方はどういう人なんすか?」
「ああ、エフラトンか。サフの男でな、いつも仮面をして顔を隠してたんで『仮面の医聖』なんて呼ぶ人間もいる。まあ、つまり医者だ。あいつに助けられた者は数え切れねぇだろうな。目立つのが嫌いで本名は、あまり知られてねぇが、仮面の医聖としての伝説が、あちこちに残ってるはずだ」
仮面の医聖ね。
ヒュリアみたいに、お尋ね者だったんでしょうか。
そういえば昔、似たような忍者、映画で見たような。
「すみません、アティシュリ様、私もお尋ねしたいことが……」
思いつめた表情のヒュリア。
「なんでぇ。このアホのついでに答えてやるぜ」
アホぉ?
アホちゃいまんねん、地縛霊でんねんっ!
まずい、この先ずっとアホ呼ばわりされそうな気がする……。
「あの……、私……」
言いよどむヒュリアに向かってニヤリとするアティシュリ。
「――お前、アトルカリンジャのことが知りてぇんだろ?」
ヒュリアは、こくりと頷きます。
「私は……、ずっと自分の瞳を恐れ、嫌って生きてきました。でもフェルハト様と同じならば、この瞳を好きになれるかもしれないと思ったのです」
「ふん、そうか……。結論から言やあ、アトルカリンジャってのは、病気だぜ」
「病気!?」
「ああ、そうだ。先天的なもんで、赤銅色の瞳を持って生まれる赤ん坊に発現する。発症するまで罹患者は、類稀な魔導の才能を発揮するが、発症すると導迪が枯れて、一切の魔導が使えなくなるそうだ。エフラトンの奴が、フェルハトを詳しく調べていたが、結局、原因も治療法もわからなかった」
アティシュリは、そこでキャラメルを一つ口に放りこみます。
「さっきも言ったが、アトルカリンジャって名前は、エフラトンがつけたんだ。『迂遠を往きて、寧ろ直し』っていう妖精族の故事成語から引用したわけだ。そうだなぁ、アトルカリンジャをフリギオ語にすんなら『迂直症』ってのが適当かもしんねぇ」
「迂直症……、ですか……」
「ああ。迂直症は、症例が極端に少なくてよ。妖精族の歴史書に、僅かな記載があるだけで、病気なのか呪いなのか判断できないものとされていたらしい」
「――私は以前、三冠の魔導師でしたが、断迪刑を受けて、冠導迪を切断され魔導が使えなくなりました。しかしお話しを聞いた限りでは、刑を受けなくても、使えなくなっていたということですね」
「かかっ、そういうこった。断迪刑は余計ってもんだ」
はい、ここで★教えて、アティシュリ先生!★の第二弾です。
断迪刑とは、魔導のエネルギーがある世界と魔導師の霊魂がある場所をつないでいるパスを切断する刑罰のことです。
これを受けると、エネルギーの供給が止まり、人は魔導が使えなくなります。
ちなみに、魔導のエネルギーがある世界を『理気界』と言い、魔導の使うためのエネルギーのことを『恃気』と言います。
また、人の霊魂がある場所を『霊核』と言い、理気界と霊核をつないでいるパスを『導迪』と言います。
霊核は人間の内的精神世界に存在する銀色の球体で、魂の器です。
そして、その中に理気界が広がってるわけです。
霊核を直径で半分にした面には、理気地平という透明な平面があり、そこが霊核の中心になります。
理気界は理気地平を挟んで、上下二つの半球に分かれています。
理気地平の上にある半球を『天位半球』と言い、下にあるものを『地位半球』と言います。
天位半球の中心には、真白な樹木のような導迪、つまり『冠導迪』があります。
また天位半球の上空は、九つの壁によって10階層に区分されています。
魔導師が魔導を修練してレベルアップすると、冠導迪が成長し、壁を突破って上の層へと伸びていくわけです。
まるで樹木が幹と枝を伸ばしていくような感じです。
冠導迪の最頂部が到達している階層や場所に応じて、魔導の力の強さ、総量、持続時間、種類などが決まります。
もちろん冠導迪が上の階層に伸びるほど、魔導師の力は強くなっていくわけです。
最上位の階層は『一冠』と呼ばれ、位置的にも霊核のてっぺんとなります。
また理気地平にもっとも近い最下位の階層は『十冠』と呼ばれます。
さっきヒュリアが言った『三冠』の魔導師というのは、上から三番目の階層にまで冠導迪が到達している魔導師のことを指しているわけです。
一方、地位半球ですけど、形状は天位半球とそっくりですが、向きが逆で、下に向かって階層が重なっています。
つまり下に行くほど高位の階層となるのです。
また、地位半球の導迪は、やはり理気地平の中心にありますが、色は真黒で樹木の根のように下に向って成長していきます。
この黒い導迪は『壇導迪』と呼ばれています。
冠導迪と壇導迪は理気地平を挟んで、線対称の位置にあり、完全に正反対の方向に成長していくことになるのです。
なので、地位半球での最上位は『一壇』よ呼ばれてはいますが、位置的には霊核の底にあるわけです。
また最下位の階層は『十壇』と呼ばれますが、位置的には霊核の中心に一番近いということになります。
ところで、なぜ霊核が上下の半球に分かれているのかというと、それぞれ取得できるエネルギーが違うからなのです。
天位半球からは魔導の元である『恃気』が取得できますが、地位半球からは、『英気』という別のエネルギーが取得されます。
ちなみに恃気の色は青色で、英気は赤色です。
ただ、魔導師は英気に関しては、あまり修練しません。
それは英気が恃気の補助的なエネルギーだからです。
そのため、ほとんどの魔導師が平均して『八壇』まで壇導迪を成長させた時点で、地位半球での修練をやめてしまいます。
これは魔導の修練が、主に恃気の成長を目標としているからです。
魔導師が自分の能力を相手に伝えるとき、天位半球の階層の名称である『冠位』だけを言い、地位半球の『壇位』のことを言わないのは、これが理由だそうです。
いやいや、話を聞いてはみたものの、複雑すぎて頭が痛くなりました。
ただまあ、魔導師が恃気と英気という二つのエネルギーで魔導を行ってるってことはわかりました。
「では、フェルハト様も魔導が使えなかったということですか?」
「そうだと言いてぇところだが、実際は違っててよ。――歴史書には、アトルカリンジャで導迪を失った者は一切の魔導を使うことができないって書かれてたんだが、フェルハトは違ったのよ」
ヒュリアの喉が、ゴクリと音を立てました。
「エフラトンの診断じゃ、アトルカリンジャになった者の中にも、例外的に何かのきっかけで、一種類だけだが、魔導が使える者が出現するのかもしれねぇってことでよ。それがフェルハトだったってわけだ。ただし、どの術を使えるかは、そいつの運命次第らしい」
「――じ、実は私も錬金術が使えるんです!」
食い気味に訴えるヒュリア。
「そうか。お前もフェルハトと同じ例外ってわけか。――『因果律』ってのは、相変わらず面白えことをするもんだな」
アティシュリは悪戯小僧みたいな顔でヒュリアを眺めます。
「フェルハトは亢躰術が使えてたんだぜ……」
そう言って、記憶を探るように目を閉じるアティシュリ。
『亢躰術』っていうのは、自分の身体能力を向上させる魔導のようです。
つまりバフですな。
「このアトルカリンジャっていう病気には、さらに面白ぇ症状があってな。罹患者は、例外的に自分が使える唯一の術法を、一時的ではあるが、『一冠』のさらに上位である『領域』にまで昇華させることができちまうんだよ」
「一冠』のさらに上……。理気界には、そんな処があるんですか?」
「ああ、人間には到達するのは不可能とされてっから、階層と区別して『領域』と呼ばれてんのよ」
「領域……、初めて聞きました……」
「まあ、人間で知ってる奴は、バシャル全体でも片手で数えられるぐれぇしかいねぇだろうぜ」
「その『領域』に到達すると、どんなことになるのでしょうか?」
「そうだな。――亢躰術が、魔導の初歩だってことは知ってんだろ?」
「はい」
「フェルハトは『領域』に到達することで、初歩の術を、至高の術に変えちまったんだよ。あいつの亢躰術の凄まじさといったら……。悔しいが、俺たち霊龍でさえ敵わなかった……」
このオラついたドラゴンが負けを認めるなんて、ちょっとびっくりです。
フェルハトって、どんだけ強かったのさ……。
信じられないという顔でヒュリアとアティシュリが見てきます。
「八大霊龍は、バシャルを守る八柱の守護龍様のことだ! ニホンノトウキョウで教わらなかったのか!」
ヒュリアがキレ気味に詰めてきました。
「ぜんぜん」
キッパリ否定です。
まあ、球を七つ集めると出てきて願いを叶えてくれる龍は知ってますけどね。
「ふん、よちよちのガキでも、知ってることだぜぇ」
アティシュリは呆れた風に鼻を鳴らします。
「じゃあ、耗霊っていうのは?」
呆れられても、ここはメンタル強にして質問を続けなきゃです。
数日前に日本から、こんな森の奥に飛ばされて。
情報といえば、オペ兄さんとヒュリアから聞いた話しだけ。
スマホがあれば、今頃検索しまくってますわ。
つまり、これは貴重な情報収集のチャンスといえるのです。
しかも相手はドラゴン。
きっと人間が知り得ない情報まで持ってるに違いありません。
それに知らぬは一生の恥って言うじゃないですか。
まあ一生は、もう終わってるんですけどねっ。
肩をすくめたアティシュリは、溜息を吐きました。
「ったく、しょうがねぇなぁ、キャラメルの礼に少し講義してやんよ。心して拝聴しやがれ。――いいか、耗霊ってのは、てめぇみたいに死んだ後でも、この世に残っちまった霊体のことを言うんだ……」
はい、ここからは★教えて、アティシュリ先生!★の始まりです。
人の死に方には二通りあります。
一つが通常死、もう一つが異常死です。
通常死は寿命や病気で死ぬ場合で、異常死は事故死や殺されたりしたときの場合のことを言います。
通常死で死んだ人は、七日間この世にとどまった後で、あの世へ旅立ちます。
一方、異常死で死んだ人も、ほとんどは通常死と同じようにあの世にいきますが、生きているとき、この世に強く執着した人は、あの世に行けなくなってしまうこともあるそうです。
そういう存在のことを耗霊と呼ぶそうです。
耗霊は、自意識や記憶を失い、周囲の生命に様々な悪影響を与えながら、どんどん成長し、より大きな悪影響を拡散していくわけです。
そんな耗霊を浄化する役割を負っているのが八大霊龍なんだそうです。
ちなみにウガリタ語は古代バシャルの共通語です。
現在の共通語はフリギオ語です。
「――まあ、耗霊の浄化だけでなく、バシャルに強い悪影響を与える“全て”を排除するのが本当のところだがよ」
「そ、それじゃあ、まさか……、僕も浄化される……、とか……?」
もしかして燃やされちゃうってこと……?
心臓バクバクです。
動いてねぇだろ、というツッコミ、ごもっともです。
「いいや。てめぇは耗霊たが、耶宰なんだろ。耶代の儀方により召喚され、耶宰になった耗霊は、自意識や記憶を取戻し、悪さをしなくなる。だから浄化する必要はねぇ」
ふぃー、助かったぁ。
ヒュリアも心配だったみたいで、大丈夫って感じで僕の肩に手を置きました。
「――ふん、だがな、元々の性癖が悪いときは、容赦なく消してやっからよ。そのへんは本人次第ってことだ」
「いやだなぁ、僕は悪い人間じゃありませんでしたよ」
アティシュリは疑いのまなざしです。
「そ、それじゃあ、エフラトンって方はどういう人なんすか?」
「ああ、エフラトンか。サフの男でな、いつも仮面をして顔を隠してたんで『仮面の医聖』なんて呼ぶ人間もいる。まあ、つまり医者だ。あいつに助けられた者は数え切れねぇだろうな。目立つのが嫌いで本名は、あまり知られてねぇが、仮面の医聖としての伝説が、あちこちに残ってるはずだ」
仮面の医聖ね。
ヒュリアみたいに、お尋ね者だったんでしょうか。
そういえば昔、似たような忍者、映画で見たような。
「すみません、アティシュリ様、私もお尋ねしたいことが……」
思いつめた表情のヒュリア。
「なんでぇ。このアホのついでに答えてやるぜ」
アホぉ?
アホちゃいまんねん、地縛霊でんねんっ!
まずい、この先ずっとアホ呼ばわりされそうな気がする……。
「あの……、私……」
言いよどむヒュリアに向かってニヤリとするアティシュリ。
「――お前、アトルカリンジャのことが知りてぇんだろ?」
ヒュリアは、こくりと頷きます。
「私は……、ずっと自分の瞳を恐れ、嫌って生きてきました。でもフェルハト様と同じならば、この瞳を好きになれるかもしれないと思ったのです」
「ふん、そうか……。結論から言やあ、アトルカリンジャってのは、病気だぜ」
「病気!?」
「ああ、そうだ。先天的なもんで、赤銅色の瞳を持って生まれる赤ん坊に発現する。発症するまで罹患者は、類稀な魔導の才能を発揮するが、発症すると導迪が枯れて、一切の魔導が使えなくなるそうだ。エフラトンの奴が、フェルハトを詳しく調べていたが、結局、原因も治療法もわからなかった」
アティシュリは、そこでキャラメルを一つ口に放りこみます。
「さっきも言ったが、アトルカリンジャって名前は、エフラトンがつけたんだ。『迂遠を往きて、寧ろ直し』っていう妖精族の故事成語から引用したわけだ。そうだなぁ、アトルカリンジャをフリギオ語にすんなら『迂直症』ってのが適当かもしんねぇ」
「迂直症……、ですか……」
「ああ。迂直症は、症例が極端に少なくてよ。妖精族の歴史書に、僅かな記載があるだけで、病気なのか呪いなのか判断できないものとされていたらしい」
「――私は以前、三冠の魔導師でしたが、断迪刑を受けて、冠導迪を切断され魔導が使えなくなりました。しかしお話しを聞いた限りでは、刑を受けなくても、使えなくなっていたということですね」
「かかっ、そういうこった。断迪刑は余計ってもんだ」
はい、ここで★教えて、アティシュリ先生!★の第二弾です。
断迪刑とは、魔導のエネルギーがある世界と魔導師の霊魂がある場所をつないでいるパスを切断する刑罰のことです。
これを受けると、エネルギーの供給が止まり、人は魔導が使えなくなります。
ちなみに、魔導のエネルギーがある世界を『理気界』と言い、魔導の使うためのエネルギーのことを『恃気』と言います。
また、人の霊魂がある場所を『霊核』と言い、理気界と霊核をつないでいるパスを『導迪』と言います。
霊核は人間の内的精神世界に存在する銀色の球体で、魂の器です。
そして、その中に理気界が広がってるわけです。
霊核を直径で半分にした面には、理気地平という透明な平面があり、そこが霊核の中心になります。
理気界は理気地平を挟んで、上下二つの半球に分かれています。
理気地平の上にある半球を『天位半球』と言い、下にあるものを『地位半球』と言います。
天位半球の中心には、真白な樹木のような導迪、つまり『冠導迪』があります。
また天位半球の上空は、九つの壁によって10階層に区分されています。
魔導師が魔導を修練してレベルアップすると、冠導迪が成長し、壁を突破って上の層へと伸びていくわけです。
まるで樹木が幹と枝を伸ばしていくような感じです。
冠導迪の最頂部が到達している階層や場所に応じて、魔導の力の強さ、総量、持続時間、種類などが決まります。
もちろん冠導迪が上の階層に伸びるほど、魔導師の力は強くなっていくわけです。
最上位の階層は『一冠』と呼ばれ、位置的にも霊核のてっぺんとなります。
また理気地平にもっとも近い最下位の階層は『十冠』と呼ばれます。
さっきヒュリアが言った『三冠』の魔導師というのは、上から三番目の階層にまで冠導迪が到達している魔導師のことを指しているわけです。
一方、地位半球ですけど、形状は天位半球とそっくりですが、向きが逆で、下に向かって階層が重なっています。
つまり下に行くほど高位の階層となるのです。
また、地位半球の導迪は、やはり理気地平の中心にありますが、色は真黒で樹木の根のように下に向って成長していきます。
この黒い導迪は『壇導迪』と呼ばれています。
冠導迪と壇導迪は理気地平を挟んで、線対称の位置にあり、完全に正反対の方向に成長していくことになるのです。
なので、地位半球での最上位は『一壇』よ呼ばれてはいますが、位置的には霊核の底にあるわけです。
また最下位の階層は『十壇』と呼ばれますが、位置的には霊核の中心に一番近いということになります。
ところで、なぜ霊核が上下の半球に分かれているのかというと、それぞれ取得できるエネルギーが違うからなのです。
天位半球からは魔導の元である『恃気』が取得できますが、地位半球からは、『英気』という別のエネルギーが取得されます。
ちなみに恃気の色は青色で、英気は赤色です。
ただ、魔導師は英気に関しては、あまり修練しません。
それは英気が恃気の補助的なエネルギーだからです。
そのため、ほとんどの魔導師が平均して『八壇』まで壇導迪を成長させた時点で、地位半球での修練をやめてしまいます。
これは魔導の修練が、主に恃気の成長を目標としているからです。
魔導師が自分の能力を相手に伝えるとき、天位半球の階層の名称である『冠位』だけを言い、地位半球の『壇位』のことを言わないのは、これが理由だそうです。
いやいや、話を聞いてはみたものの、複雑すぎて頭が痛くなりました。
ただまあ、魔導師が恃気と英気という二つのエネルギーで魔導を行ってるってことはわかりました。
「では、フェルハト様も魔導が使えなかったということですか?」
「そうだと言いてぇところだが、実際は違っててよ。――歴史書には、アトルカリンジャで導迪を失った者は一切の魔導を使うことができないって書かれてたんだが、フェルハトは違ったのよ」
ヒュリアの喉が、ゴクリと音を立てました。
「エフラトンの診断じゃ、アトルカリンジャになった者の中にも、例外的に何かのきっかけで、一種類だけだが、魔導が使える者が出現するのかもしれねぇってことでよ。それがフェルハトだったってわけだ。ただし、どの術を使えるかは、そいつの運命次第らしい」
「――じ、実は私も錬金術が使えるんです!」
食い気味に訴えるヒュリア。
「そうか。お前もフェルハトと同じ例外ってわけか。――『因果律』ってのは、相変わらず面白えことをするもんだな」
アティシュリは悪戯小僧みたいな顔でヒュリアを眺めます。
「フェルハトは亢躰術が使えてたんだぜ……」
そう言って、記憶を探るように目を閉じるアティシュリ。
『亢躰術』っていうのは、自分の身体能力を向上させる魔導のようです。
つまりバフですな。
「このアトルカリンジャっていう病気には、さらに面白ぇ症状があってな。罹患者は、例外的に自分が使える唯一の術法を、一時的ではあるが、『一冠』のさらに上位である『領域』にまで昇華させることができちまうんだよ」
「一冠』のさらに上……。理気界には、そんな処があるんですか?」
「ああ、人間には到達するのは不可能とされてっから、階層と区別して『領域』と呼ばれてんのよ」
「領域……、初めて聞きました……」
「まあ、人間で知ってる奴は、バシャル全体でも片手で数えられるぐれぇしかいねぇだろうぜ」
「その『領域』に到達すると、どんなことになるのでしょうか?」
「そうだな。――亢躰術が、魔導の初歩だってことは知ってんだろ?」
「はい」
「フェルハトは『領域』に到達することで、初歩の術を、至高の術に変えちまったんだよ。あいつの亢躰術の凄まじさといったら……。悔しいが、俺たち霊龍でさえ敵わなかった……」
このオラついたドラゴンが負けを認めるなんて、ちょっとびっくりです。
フェルハトって、どんだけ強かったのさ……。
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一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
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