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東の大陸
木々開花、良い!<4>
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「そうだ。魔導の修練で『霊核』に入ったとき、魔導師は『導迪』にばかり気をとられて、『理気界』の上空をくわしく観察しねぇだろう。まあ、もともと何も見えねぇから、探しても意味がねぇけどな。――だが、アトルカリンジャは違うぜ。お前らは『理気界』に『導迪』だけでなく、赤銅色に輝く星を持つんだ。フェルハトはそれを『導星』と呼んでいた」
「『導星』……」
「『導星』は赤銅色に輝いちゃあいるが、かなり小せぇ。だから注意して探さなきゃなんねぇ。星を見つけたら、意識をそこに飛ばすんだ。それで星に乗れる。乗ったら、意識を上へ向ける。そうすれば星は術者を乗せて昇ってくだろう。星は術者が望むままに動くから、そのまま究極の『領域』まで上昇すればいい」
「究極の『領域』とは、どんなところなんでしょう?」
「さあな、俺も詳しいことは分からねぇ。フェルハトも自分で経験した範囲のことしか語っちゃいねぇしよ。『領域』については、昔から、おおざっぱなことしか伝わっちゃいねぇんだ。――あいつが行ったのは、お前とは逆方向、『天位半球』の究極領域だ。前にも言ったが、『領域』は四層に分かれてて、初端の領域は『至域』と呼ばれてる。でだ、お前が行くべき『地位半球』の究極領域だが、もちろん四層あって、そこの初端は『玄域』とされてる。つまり目指すべきは、その『玄域』ってわけよ」
「『玄域』……」
「『玄域』に到達すりゃ、『魂露』を造るために必要なことは考えねぇでもわかるはずだ。ただし、先に言っとくぜ。星に乗って『霊核』から『領域』へ入るとき『境闤』という壁を抜けなきゃなんんねぇが、そのとき強い反動を喰らうことになる。そして『玄域』で『魂露』を成造している間は『境闤』を抜けるとき以上の反動に襲われるだろう。どちらも徹底的に術者を排除しようとしてくっからよ。それに負けちまえば、術者は自意識を失い、死ぬことになる。それを肝に銘じとけよ」
「はい」
「それからよ、『魂露』を創り終えたら、なるだけ早く星を元の位置に返すことだ」
「返さないと、どうなるんでしょうか?」
「人間どもには、フェルハトは討死したと伝わってるみてぇだが、実は違う。あいつの死因は、至高の亢躰術を長く使いすぎて疲弊し、星を元の位置に返さずに、『霊核』から意識を現実に戻しちまったことなんだ。置去りにされた『導星』は、『至域』から、いつまでも『理気力』を引出し続けた。そのおかげで、やつの『霊核』も肉体も、膨大な『理気力』に耐えられなくなり崩壊したんだよ」
「そう……、だったんですか……」
「それだけじゃねぇぞ。引出された『理気力』が外に溢れだし、周囲一帯を根こそぎ壊滅させちまった。そして、あいつの身体が崩壊するまで氾濫は続いたんだ……」
目を閉じ、眉をひそめるアティシュリ。
当時を思い出してるんでしょうね。
しかし、英雄フェルハトの最後は悲惨ですな。
首を振りながら目を開いたアティシュリは、さらに続けます。
「そして最後にもう一つ。繰返しになるが、こいつが一番重要だと思うからよ。――いいか、この一連の流れの途中、決して意識を現実に戻しちゃなんねぇ。身体を動かすにしても、術を使うにしても、意識は常に『霊核』に残しとくんだぜ」
「フェルハト様と同じになるということですね?」
「その通りだ。途中で現実に戻っちまうと、『導星』を、その場に置去りにすることになるんだよ。そうなったら二度と乗ることはできねぇし、元の位置に返せねぇわけだ。すると『導星』は無限に『理気力』を引出し続ける。術者が死んだときも同じことになるかんな」
なにそれ?!
マジ無理ゲーに思えてくんだけど。
そもそもアティシュリだってフェルハトから聞いただけでしょ。
他にも何かあったら、どうすんのよ……。
アティシュリは立上がると、ヒュリアの心臓のあたりに人差し指をつきつけます。
「――いいか、この『施法』には、“死地”が二つある。一つ目は、『玄域』への行き帰り。二つ目は、『魂露』を成造している間だ。心しておけよ。それから、苦しかろうが辛かろうが決して意識を現実に戻さないってことも忘れちゃなんんねぇ」
「はい、御教示、ありがとうございます」
ヒュリアは、また深く頭を下げました。
「教えといてなんだけどよ、お前、本当にやるつもりなのか? 成功する確率は、かなり低いぜ」
「それでもやりたいんです。これが私の宿命だと感じるんです」
アティシュリは小さく鼻を鳴らすと、それ以上何も言いませんでした。
その後、ヒュリアは僕にまで頭を下げます。
「ツクモ、私のわがままを許して欲しい」
ヒュリアなりの誠意なんでしょう。
「僕に頭なんか下げなくていいよ。僕と耶代は、どんなときでも君の味方だっていったろ」
「ありがとう」
「だから、礼なんかいらないって。――君と僕の仲じゃないか」
キャーッ!
言っちゃった!
はずかしっ!
でもヒュリアは、太陽のように笑ってくれました。
その後、ヒュリアの強い希望で錬成室へ直行となります。
『魂露』造りを実行するためです。
今すぐやらなくても良いんじゃないって言ったんですが、善は急げみたいなノリのヒュリアは止まりません。
錬成室は、なんらかの異変があってもいいように、耐火性やら耐久性やらが高く造られてるんで、よほどのことがない限り壊れることはないらしいんですが、あの話を聞いた後だと、ちょい不安です。
ちなみに、『耶代』に最初から錬成室があったのは、ビルルルが使ってたからみたいです
アティシュリに言われて一人用の机と椅子、それと水の入った酒盃を用意します。
『倉庫』には一人用の机が無かったので、『耶代』の機能である『工作』で作りました。
ちなみに『工作』の説明はこんな感じです。
『調理、裁縫の機能以外で物をつくるときにつかうもの。記憶にある物品、製法を知る物品を具現化することができる。ただし材料が必要である』
机にちょっとだけ時間をとられましたが、十数えてるうちに全部綺麗に具現化してみせたんですよ。
でね、早くて助かる、みたいな褒め言葉を待ってたんです。
だけど、二人ともスルーして話しこんじゃってて……。
褒められて伸びるタイプなのよぉ……。
「――ヒュリア、お前は錬金術を、どの程度使えんだ?」
「実はまだ『錬丹』の技しかできません。何度か『錬成』に挑戦したのですが、いつも途中で『錬成陣』が壊れるんです」
「だが、とりあえず、錬成陣は作れんだな」
「はい。師匠からは『陣結』が弱いと、いつも叱られていましたけど」
「仕方ねぇさ。そもそも『導迪』の無ぇお前に、強い錬成陣なんか張れるわけがねぇんだ。むしろ張れる方が奇跡ってもんよ。――たぶん『玄域』に到達すりゃあ、自然と錬成陣も強くなると思うが……。覚束ねぇとこだな……」
はい、ここで★教えて、アティシュリ先生!★の第三弾です。
『錬成陣』とは、練丹や錬成をするときに必要になる立体的な魔方陣で、結界をコンパクトにしたようなものだそうです。
その中で術を行うことで、対象物に対し均等に力を加えることができ、また異変が生じたとき術者を守れるわけです。
『陣結』とは、錬成陣の耐久力のことです。
『錬丹』とは、主に薬品などつくるための技で、『理気力』を多く必要としません。
ちなみに『理気力』とは、恃気と英気をまとめた呼び方です。
『錬成』は、金属などを精製したり、結合させたりする技で、『錬丹』と違い多くの『理気力』が必要になります。
断迪刑で『冠導迪』が枯れていても、ヒュリアの『霊核』には、わずかな恃気が存在しています。
それは自分の精神を維持するために必要不可欠な分だそうです。
アティシュリ先生の話だと、その程度では強い魔導は使えませんが、アトルカリンジャは、何らかの作用で少量の恃気でも錬成陣を張ることができるんじゃないかってことでした。
そして肝心の『魂露』ですが、先生の説明は次の通りです。
「いいか、『魂露』には特別な材料は要らねぇ。必要なのは一杯分の水だけだ。お前はこれから至高の錬金術の技を使い、ただの水を『魂露』へと変えることになる。ビルルルはこの技を『錬換』と呼んでいた」
「『錬換』……」
「もう一度念押ししとくぜ。お前は『霊核』の中に意識を置きながら、現実で『錬換』の技を施すことになる。『錬換』で生じた膨大な理気力を制御すんには、意志も力も絞りつくさなきゃなんねぇぞ。反動のせいで、お前は生死のギリギリに立つことになっからだ」
「はい」
「もしお前の気力が尽きれば、意識は一瞬で現実に引戻されるだろうよ。そうなりゃ、全部終わりだ。俺は、外に力が溢れねえように、『封縛陣』で封印すっからな」
『封縛陣』ていうのは『画陣術』という術法に属する技の一つです。
簡単に言うと、周りに悪影響を及ぼすものや敵を恃気の障壁で囲み封じ込めるのだそうです。
実は『錬成陣』と『結界』も『画陣術』に属しているのです。
「本当に大丈夫なんすか。ヒュリアは錬成陣も、ちゃんと使えてないんでしょ?」
「だからよ、マズいって判断したら俺が封印するって言ってんだろうが」
まあ『理気力』が溢れても、ドラゴン様が酒盃を封じてくれるなら、なんとかなるんでしょう。
不安は残りますが、成りゆきを見守ることにしました。
ヒュリアは椅子に座り、目を閉じました。
目の前の机には、水の入った酒盃があります。
彼女は何度か深呼吸をしたあと、急に静かになりました。
呼吸の音さえ聞こえないほどです。
「――だまってろ!」
心配になって声をかけようとした僕を、アティシュリがさえぎりました。
その後、かなり長い間、ヒュリアは身動きしませんでした。
しかし、ある時を境に、まがまがしい赤い稲妻が彼女の全身を覆うように走りはじめたのです。
稲妻が走るたび、ヒュリアの顔が苦痛に歪みます。
あたふたしてると、アティシュリに窘められました。
「ヒュリアを信じろ。今あいつは多分、『境闤』を抜けようとしてるんだ。もし、ここで中途半端に声でもかけりゃあ、あいつの意識を呼戻しちまうかもしれねぇんだぞ。それでも構わねぇってのか」
「いや、構いますけどねぇ! でも、失敗しても、意識が戻らないまま死んじゃうんでしょ?!」
「まあ、そうだ」
行くも地獄、戻るも地獄ってやつです。
「ああっ! もう、本当、なんでこんなことになったんだっ!」
もちろん振動する水のことを聞いたせいです。
元はと言えば全部僕が悪いのです。
ごめんよ、ヒュリアぁぁ……。
しばらくすると赤い稲妻は収まり、ヒュリアの表情から苦痛の色が消えました。
一安心です。
この感じで『魂露』を造っちゃえよ、って思ってたら突然、ヒュリアが目を開きました。
もしかして『玄域』にたどりつけたのでしょうか。
ただ、目を開けてくれたのは良いんですけど、なんだかボーっとしてて、心ここにあらずって感じです。
きっと意識が『霊核』の中に残っているからかもしれません。
ヒュリアは酒盃の上に、ゆっくりと両手をかざします。
かざした手が薄紫色に光ると、酒盃の周りを囲むようにピラミッド型をした薄紫色の光の壁が現れました。
たぶん、あれが錬成陣なんでしょう。
「どうやら、最初の山は越えたな」
アティシュリもホッとしてるみたいです。
「意識を失わないで済んだんですよね?」
「ああ、だが本番はこっからよ」
唐突に、ヒュリアの両掌から赤い光の粒が無数に現れ出します。
光の粒は掌を離れると、次々に錬成陣の壁を抜け、酒盃の水にとけ溶込むように消えていくのです。
水に入った粒子は、消える寸前、赤い光を放射して、激しく輝きました。
それが何度も繰返されると、次第に酒盃が振動し始めたのです。
同時にヒュリアの身体から強烈な圧力が生じ、室内中に広がった気がしました。
まるで鉛を巻きつけられたように身体が重くなってきてます。
そしてその圧力を媒質として、酒盃を揺らしている振動が錬成室全体に広がっていくのが分かりました。
振動はどんどん大きくなり、錬成室全体を揺らし始めます。
棚にあるいくつもの器具が倒れ、床に落ちました。
『錬換』を続けるヒュリアの顔は、キツネのお面みたいにひきつり、目から真赤な血の涙が流れ出しています。
「『導星』……」
「『導星』は赤銅色に輝いちゃあいるが、かなり小せぇ。だから注意して探さなきゃなんねぇ。星を見つけたら、意識をそこに飛ばすんだ。それで星に乗れる。乗ったら、意識を上へ向ける。そうすれば星は術者を乗せて昇ってくだろう。星は術者が望むままに動くから、そのまま究極の『領域』まで上昇すればいい」
「究極の『領域』とは、どんなところなんでしょう?」
「さあな、俺も詳しいことは分からねぇ。フェルハトも自分で経験した範囲のことしか語っちゃいねぇしよ。『領域』については、昔から、おおざっぱなことしか伝わっちゃいねぇんだ。――あいつが行ったのは、お前とは逆方向、『天位半球』の究極領域だ。前にも言ったが、『領域』は四層に分かれてて、初端の領域は『至域』と呼ばれてる。でだ、お前が行くべき『地位半球』の究極領域だが、もちろん四層あって、そこの初端は『玄域』とされてる。つまり目指すべきは、その『玄域』ってわけよ」
「『玄域』……」
「『玄域』に到達すりゃ、『魂露』を造るために必要なことは考えねぇでもわかるはずだ。ただし、先に言っとくぜ。星に乗って『霊核』から『領域』へ入るとき『境闤』という壁を抜けなきゃなんんねぇが、そのとき強い反動を喰らうことになる。そして『玄域』で『魂露』を成造している間は『境闤』を抜けるとき以上の反動に襲われるだろう。どちらも徹底的に術者を排除しようとしてくっからよ。それに負けちまえば、術者は自意識を失い、死ぬことになる。それを肝に銘じとけよ」
「はい」
「それからよ、『魂露』を創り終えたら、なるだけ早く星を元の位置に返すことだ」
「返さないと、どうなるんでしょうか?」
「人間どもには、フェルハトは討死したと伝わってるみてぇだが、実は違う。あいつの死因は、至高の亢躰術を長く使いすぎて疲弊し、星を元の位置に返さずに、『霊核』から意識を現実に戻しちまったことなんだ。置去りにされた『導星』は、『至域』から、いつまでも『理気力』を引出し続けた。そのおかげで、やつの『霊核』も肉体も、膨大な『理気力』に耐えられなくなり崩壊したんだよ」
「そう……、だったんですか……」
「それだけじゃねぇぞ。引出された『理気力』が外に溢れだし、周囲一帯を根こそぎ壊滅させちまった。そして、あいつの身体が崩壊するまで氾濫は続いたんだ……」
目を閉じ、眉をひそめるアティシュリ。
当時を思い出してるんでしょうね。
しかし、英雄フェルハトの最後は悲惨ですな。
首を振りながら目を開いたアティシュリは、さらに続けます。
「そして最後にもう一つ。繰返しになるが、こいつが一番重要だと思うからよ。――いいか、この一連の流れの途中、決して意識を現実に戻しちゃなんねぇ。身体を動かすにしても、術を使うにしても、意識は常に『霊核』に残しとくんだぜ」
「フェルハト様と同じになるということですね?」
「その通りだ。途中で現実に戻っちまうと、『導星』を、その場に置去りにすることになるんだよ。そうなったら二度と乗ることはできねぇし、元の位置に返せねぇわけだ。すると『導星』は無限に『理気力』を引出し続ける。術者が死んだときも同じことになるかんな」
なにそれ?!
マジ無理ゲーに思えてくんだけど。
そもそもアティシュリだってフェルハトから聞いただけでしょ。
他にも何かあったら、どうすんのよ……。
アティシュリは立上がると、ヒュリアの心臓のあたりに人差し指をつきつけます。
「――いいか、この『施法』には、“死地”が二つある。一つ目は、『玄域』への行き帰り。二つ目は、『魂露』を成造している間だ。心しておけよ。それから、苦しかろうが辛かろうが決して意識を現実に戻さないってことも忘れちゃなんんねぇ」
「はい、御教示、ありがとうございます」
ヒュリアは、また深く頭を下げました。
「教えといてなんだけどよ、お前、本当にやるつもりなのか? 成功する確率は、かなり低いぜ」
「それでもやりたいんです。これが私の宿命だと感じるんです」
アティシュリは小さく鼻を鳴らすと、それ以上何も言いませんでした。
その後、ヒュリアは僕にまで頭を下げます。
「ツクモ、私のわがままを許して欲しい」
ヒュリアなりの誠意なんでしょう。
「僕に頭なんか下げなくていいよ。僕と耶代は、どんなときでも君の味方だっていったろ」
「ありがとう」
「だから、礼なんかいらないって。――君と僕の仲じゃないか」
キャーッ!
言っちゃった!
はずかしっ!
でもヒュリアは、太陽のように笑ってくれました。
その後、ヒュリアの強い希望で錬成室へ直行となります。
『魂露』造りを実行するためです。
今すぐやらなくても良いんじゃないって言ったんですが、善は急げみたいなノリのヒュリアは止まりません。
錬成室は、なんらかの異変があってもいいように、耐火性やら耐久性やらが高く造られてるんで、よほどのことがない限り壊れることはないらしいんですが、あの話を聞いた後だと、ちょい不安です。
ちなみに、『耶代』に最初から錬成室があったのは、ビルルルが使ってたからみたいです
アティシュリに言われて一人用の机と椅子、それと水の入った酒盃を用意します。
『倉庫』には一人用の机が無かったので、『耶代』の機能である『工作』で作りました。
ちなみに『工作』の説明はこんな感じです。
『調理、裁縫の機能以外で物をつくるときにつかうもの。記憶にある物品、製法を知る物品を具現化することができる。ただし材料が必要である』
机にちょっとだけ時間をとられましたが、十数えてるうちに全部綺麗に具現化してみせたんですよ。
でね、早くて助かる、みたいな褒め言葉を待ってたんです。
だけど、二人ともスルーして話しこんじゃってて……。
褒められて伸びるタイプなのよぉ……。
「――ヒュリア、お前は錬金術を、どの程度使えんだ?」
「実はまだ『錬丹』の技しかできません。何度か『錬成』に挑戦したのですが、いつも途中で『錬成陣』が壊れるんです」
「だが、とりあえず、錬成陣は作れんだな」
「はい。師匠からは『陣結』が弱いと、いつも叱られていましたけど」
「仕方ねぇさ。そもそも『導迪』の無ぇお前に、強い錬成陣なんか張れるわけがねぇんだ。むしろ張れる方が奇跡ってもんよ。――たぶん『玄域』に到達すりゃあ、自然と錬成陣も強くなると思うが……。覚束ねぇとこだな……」
はい、ここで★教えて、アティシュリ先生!★の第三弾です。
『錬成陣』とは、練丹や錬成をするときに必要になる立体的な魔方陣で、結界をコンパクトにしたようなものだそうです。
その中で術を行うことで、対象物に対し均等に力を加えることができ、また異変が生じたとき術者を守れるわけです。
『陣結』とは、錬成陣の耐久力のことです。
『錬丹』とは、主に薬品などつくるための技で、『理気力』を多く必要としません。
ちなみに『理気力』とは、恃気と英気をまとめた呼び方です。
『錬成』は、金属などを精製したり、結合させたりする技で、『錬丹』と違い多くの『理気力』が必要になります。
断迪刑で『冠導迪』が枯れていても、ヒュリアの『霊核』には、わずかな恃気が存在しています。
それは自分の精神を維持するために必要不可欠な分だそうです。
アティシュリ先生の話だと、その程度では強い魔導は使えませんが、アトルカリンジャは、何らかの作用で少量の恃気でも錬成陣を張ることができるんじゃないかってことでした。
そして肝心の『魂露』ですが、先生の説明は次の通りです。
「いいか、『魂露』には特別な材料は要らねぇ。必要なのは一杯分の水だけだ。お前はこれから至高の錬金術の技を使い、ただの水を『魂露』へと変えることになる。ビルルルはこの技を『錬換』と呼んでいた」
「『錬換』……」
「もう一度念押ししとくぜ。お前は『霊核』の中に意識を置きながら、現実で『錬換』の技を施すことになる。『錬換』で生じた膨大な理気力を制御すんには、意志も力も絞りつくさなきゃなんねぇぞ。反動のせいで、お前は生死のギリギリに立つことになっからだ」
「はい」
「もしお前の気力が尽きれば、意識は一瞬で現実に引戻されるだろうよ。そうなりゃ、全部終わりだ。俺は、外に力が溢れねえように、『封縛陣』で封印すっからな」
『封縛陣』ていうのは『画陣術』という術法に属する技の一つです。
簡単に言うと、周りに悪影響を及ぼすものや敵を恃気の障壁で囲み封じ込めるのだそうです。
実は『錬成陣』と『結界』も『画陣術』に属しているのです。
「本当に大丈夫なんすか。ヒュリアは錬成陣も、ちゃんと使えてないんでしょ?」
「だからよ、マズいって判断したら俺が封印するって言ってんだろうが」
まあ『理気力』が溢れても、ドラゴン様が酒盃を封じてくれるなら、なんとかなるんでしょう。
不安は残りますが、成りゆきを見守ることにしました。
ヒュリアは椅子に座り、目を閉じました。
目の前の机には、水の入った酒盃があります。
彼女は何度か深呼吸をしたあと、急に静かになりました。
呼吸の音さえ聞こえないほどです。
「――だまってろ!」
心配になって声をかけようとした僕を、アティシュリがさえぎりました。
その後、かなり長い間、ヒュリアは身動きしませんでした。
しかし、ある時を境に、まがまがしい赤い稲妻が彼女の全身を覆うように走りはじめたのです。
稲妻が走るたび、ヒュリアの顔が苦痛に歪みます。
あたふたしてると、アティシュリに窘められました。
「ヒュリアを信じろ。今あいつは多分、『境闤』を抜けようとしてるんだ。もし、ここで中途半端に声でもかけりゃあ、あいつの意識を呼戻しちまうかもしれねぇんだぞ。それでも構わねぇってのか」
「いや、構いますけどねぇ! でも、失敗しても、意識が戻らないまま死んじゃうんでしょ?!」
「まあ、そうだ」
行くも地獄、戻るも地獄ってやつです。
「ああっ! もう、本当、なんでこんなことになったんだっ!」
もちろん振動する水のことを聞いたせいです。
元はと言えば全部僕が悪いのです。
ごめんよ、ヒュリアぁぁ……。
しばらくすると赤い稲妻は収まり、ヒュリアの表情から苦痛の色が消えました。
一安心です。
この感じで『魂露』を造っちゃえよ、って思ってたら突然、ヒュリアが目を開きました。
もしかして『玄域』にたどりつけたのでしょうか。
ただ、目を開けてくれたのは良いんですけど、なんだかボーっとしてて、心ここにあらずって感じです。
きっと意識が『霊核』の中に残っているからかもしれません。
ヒュリアは酒盃の上に、ゆっくりと両手をかざします。
かざした手が薄紫色に光ると、酒盃の周りを囲むようにピラミッド型をした薄紫色の光の壁が現れました。
たぶん、あれが錬成陣なんでしょう。
「どうやら、最初の山は越えたな」
アティシュリもホッとしてるみたいです。
「意識を失わないで済んだんですよね?」
「ああ、だが本番はこっからよ」
唐突に、ヒュリアの両掌から赤い光の粒が無数に現れ出します。
光の粒は掌を離れると、次々に錬成陣の壁を抜け、酒盃の水にとけ溶込むように消えていくのです。
水に入った粒子は、消える寸前、赤い光を放射して、激しく輝きました。
それが何度も繰返されると、次第に酒盃が振動し始めたのです。
同時にヒュリアの身体から強烈な圧力が生じ、室内中に広がった気がしました。
まるで鉛を巻きつけられたように身体が重くなってきてます。
そしてその圧力を媒質として、酒盃を揺らしている振動が錬成室全体に広がっていくのが分かりました。
振動はどんどん大きくなり、錬成室全体を揺らし始めます。
棚にあるいくつもの器具が倒れ、床に落ちました。
『錬換』を続けるヒュリアの顔は、キツネのお面みたいにひきつり、目から真赤な血の涙が流れ出しています。
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