転生できずに地縛霊のままなんですけど……

朝羽ふる

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東の大陸

ヘタレの勇者に成りたがり<1>

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「がぁっ!」

 トゥガイのさけごえこえたかとおもうと、なにかが地面じめんちたようなおとがして、同時どうじ視界しかいがパッとあかるくなりました。
 んづけていたあしが、どかされたようです。
 一瞬いっしゅん、ヒュリアがころされたのかとおもいましたが、むね上下じょうげうごいているので、まだいきがあるのが確認かくにんできました。

 だとするとなにこったんでしょう?

 まわりを見回みまわすと、ヒュリアのすぐよこにトゥガイがいるのがかります。
 なぜかかれは、地面じめん座込すわりこんで、左脚ひだりあし膝辺ひざあたりを両手りょうてさえています。
 よくると、トゥガイの左膝ひだりひざからした綺麗きれいくなっているのでした。

 両手りょうてゆび隙間すきまからは、たきのようにながちています。
 ヒュリアのあたまよこには、られたトゥガイのあしちていました。

 一体いったい、これはどういうことなんでしょうか?
 まった意味いみがわかりません。
 でもとりあえずヒュリアがたすかったんでかったです。

団長だんちょうっ!」

 よろいひと?とたたかっていた赤毛あかげおんなが、トゥガイのもと駆寄かけよります。

 すでに根暗ねくらおとこよろいひと?になぐられてうごかなくなっていました。
 なのでいまはスキンヘッドのおとこ一人ひとり相手あいてをしています。
 両者りょうしゃとも大分だいぶつかれてるみたいで、ふらふらですけど、戦闘せんとうをやめるつもりはないようです。

 赤毛あかげおんなはトゥガイのそばにしゃがみこむと、あし治癒術ちゆじゅつをかけてめ、つぎ左肩ひだりかたきずなおしました。
 でも、切離きりはなされた左脚ひだりあしもともどすことは出来できないみたいですね。

副長ふくちょう皇女おうじょにとどめをさせっ!」

 治癒術ちゆじゅつ出血しゅっけつまったトゥガイは、おに形相ぎょうそうめいじました。
 赤毛あかげおんな立上たちあがり、っていたじゅうをヒュリアにけます。

 ぼくはヒュリアをまもるために恃気エスラル集中しゅうちゅうさせ、おんな炎弾えんだんとうとしました。
 ところが、おんな撃鉄げきてつこしたとき、ふいに背後はいごからあらわれた親指おやゆび人差ひとさゆび撃鉄げきてつをつまんで、うごかなくしてしまったのです。

「――もう、やめとけ」

 おんな耳元みみもとやさささやくアティシュリ。
 霊龍れいりゅうさまは、いつのまにか、すぐうしろにていたのでした。

「ひっ!」

 赤毛あかげおんなおどろきと恐怖きょうふかおをひきつらせ、そのにヘタりこみました。 
 じゅうはアティシュリのゆびあいだ取残とりのこされ、ぶらぶられています。

「こいつをころされると寝覚ねざめがわるくなりそうでよ」

 アティシュリは、こまったふうあたまきます。
 なんか言訳いいわけしてるみたいです。

 たすけないとかったんで、ずかしいんですよ、きっと。

今撤退いまてったいすんなら、無事ぶじがしてやる。だがな、まだたたかうってんなら、今度こんどおれ相手あいてをすることになるぜ」

 そういながらアティシュリは、そのにいるものすべてを圧倒あっとうする、あの猛烈もうれつ殺気さっきはなちました。

 赤毛あかげおんなは、すわりこんだままふるえだします。
 はなれたところでたたかっていたスキンヘッドのおとこよろいひと?は、身体からだをビクッとさせてうごきをめました。
 トゥガイは、おおきく見開みひらき、おどろいたような、賞賛しょうさんするような視線しせんをアティシュリにけます。 
 そして溜息ためいきいたあと苦笑にがわらいをかべ、あきらめたようにいました。
 
副長ふくちょう撤退てったいする……」

 のせいかもしれませんけど、トゥガイの表情ひょうじょうは、どことなくたのしそうなんです。
 さっきまでのおに形相ぎょうそううそのようです。

「そんなっ! 団長だんちょう! ここまできてっ!」

 赤毛あかげおんな反論はんろんしますが、トゥガイはくびりました。

「これ以上いじょう無駄死むだじになる。――うえにはうえがいるということだ」

 アティシュリは愉快ゆかいそうにトゥガイとわせました。

「ふん、分別ふんべつはあるみてぇだな。それでいい。きてりゃ、またうんめぐるってもんよ」

 アティシュリが赤毛あかげおんなに、ポイっとじゅうわたしました。
 じゅう取戻とりもどしたおんなは、呆然ぼうぜんとしてアティシュリとトゥガイを交互こうごながめています。
 
 上手うま具合ぐあい休戦きゅうせんになったんで、すぐさまタヴシャンにてもらいました。    
 首飾くびかざりをヒュリアの傷口きずぐちててくれるように御願おねがいするためです。

 はらきずからは、かなりの出血しゅっけつがありましたが、なんとかめることはできました。
 タヴシャンの見立みたてでは、相当そうとう深手ふかでで、もうすこ時間じかんおそければいのちかったかもしれないとのことです。
 治癒術ちゆじゅつ危機的状況ききてきじょうきょうだっしましたが、まだ内臓ないぞうへのダメージがのこっているので、ヒュリアの様子ようすをみながら、もう三度さんど治癒術ちゆじゅつをかけることになりそうです。

 『四冠ケセド以上いじょう治癒術ちゆじゅつたしかに外傷がいしょう迅速じんそく治療ちりょうすることができます。
 しかし治癒術ちゆじゅつ自己治癒じこちゆにではなく、負傷者ふしょうしゃ治療ちりょう行使こうしする場合ばあい自分じぶん相手あいて英気マナとの兼合かねあいも考慮こうりょにいれなければなりません。

 おも外傷がいしょう一気いっきなおそうとすると身体からだへの負担ふたんおおきく、ぎゃく衰弱すいじゃくさせてしまうことも多々たたあるからだそうです。
 なので重傷者じゅうしょうしゃへの治癒術ちゆじゅつ行使こうしは、何度なんどかにけておこなうのが理想りそうだってタヴシャンがおしえてくれました。

 一方いっぽうひだり太腿ふとももはといえば、げたズボンのあなから、えぐれたようなきずあかいミミズばれの火傷やけどひろがっているのが確認かくにんできました。
 でも、クズムスでったおかげで、地面じめんいてるあなくらべると、威力いりょくちてるとおもいます。
 応急的おうきゅうてき処置しょちはできましたが、こっちもやっぱり重傷じゅうしょうなので、治癒術ちゆじゅつ一度いちどおこなわず何度なんどかにけてほどこすことになるでしょう。

 とりあえずの処置しょちわりました。
 だけど、ヒュリアの意識いしきもどりません。
 きずいたみがはげしかったせいかもしれないです。

 治療中ちりょうちゅうに、赤毛あかげおんながやってきて、ヒュリアをにらみつけながら、斬落きりおとされたトゥガイの左脚ひだりあしひろげます。
 そして、ふてくさ気味ぎみこえ張上はりあげて仲間なかまびました。

 すぐにスキンヘッドが、よろいひと?とのたたかいを放棄ほうきしてやってきました。
 よろいひと?は、てき突然とつぜん自分じぶんけてはなれていったので、呆気あっけにとられたかんじでファイティングポーズをきました。

 さらにもりなかからは、くちひげをはやした商人風しょうにんふうおとこあらわれ、合流ごうりゅうします。
 戦闘中せんとうちゅう、ずっともりかくれていたってことでしょうかね。
 くちひげは、スキンヘッドと協力きょうりょくして両側りょうがわからトゥガイにかたし、立上たちあがらせました。

 赤毛あかげおんな斬落きりおとされた左脚ひだりあし大事だいじそうにかかええトゥガイのまえちます。
 そしてだまったままくやしそうにかれ見上みあげました。

「すまんな、不甲斐ふがいない団長だんちょうで……」

 自嘲じちょう気味ぎみわらうトゥガイ。
 赤毛あかげおんなひとみから大粒おおつぶなみだこぼれます。

不甲斐ふがいなくなんてありませんっ!」

 そうさけんだ赤毛あかげおんなは、トゥガイのむね飛込とびこみ、かおうずめます。
 トゥガイは自分じぶんむねおんなあたまをのせ、なだめていました。

 その四人よにん身体からだをひきずるようにもりかってあるします。

 ヒュリアのそばとおるとき、わずかなあいだでしたが、トゥガイはあしめ、よこたわる彼女かのじょつめていました。

 そのときかれ口元くちもとには何故なぜか、かすかな微笑ほほえみがかんでいました。
 まるで、なつかしい友人ゆうじん再会さいかいしたときのようなやさしげな笑顔えがおでした。

 トゥガイたちもりえてしばらくすると、ヒュリアがっすらとひらきました。
 
たたかいは……、どうなりましたか……? トゥガイたちは……?」

やつらは撤退てったいしたぜ」

 アティシュリがこたえます。

撤退てったい……? アティシュリさまの……、御加勢ごかせいが……、あったのでしょうか……?」

「いいや、おれやつらにおどしをかけただけだ。あいつのあしって追払おっぱらったのは、ツクモだ」

「ツクモが……?」

「いやいや、ぼくじゃないですって……」

 そのときふいに、なにかがたおれるおとがしました。
 てみるとよろいひと?が、仰向あおむけで地面じめんよこたわっています。
 限界げんかいたんでしょうかね。

「おいっ、しっかりしろ!」

 アティシュリが駆寄かけより、こえをかけました。
 タブシャンもついていったので、自動的じどうてきぼくれてかれるわけです。

 そばにいくと、るうちにあおよろい消失しょうしつし、なかひと姿すがたあらわれました。 

 じて気絶きぜつしてますけど、とても綺麗きれいかおつきをしているのがわかります。
 おとこおんなかの判断はんだんがつきにくいですが、人間にんげんなのはたしかなようです。

 それと、右胸みぎむねあたりにきずがあり、そこから大量たいりょう出血しゅっけつしていました。
 こんな状態じょうたいで、ずっとたたかってたんですね。
 
「こいつにはきてぇことがある。治癒ちゆじゅつをかけて、『耶代やしろ』で養生ようじょうさせてやってくれ、ツクモ」

随分ずいぶん、こいつに肩入かたいれしますよね」

 ヒュリアのことは見捨みすてようとしたくせに。

「ちっ、小煩こうるせぇことをほざくんじゃねぇ! さっさとやれっ!」

「へぇへぇ」

 今一いまひと納得なっとくできてませんが、とりあえずよろいひとむね治癒ちゆさせます。
 出血しゅっけつまりましたが、こちらのきず大分深だいぶふかそうです。
 Dr.ドクタータヴシャンの見立みたてでは、きずはいまでたっしているらしく、完治かんちするまでに時間じかんがかかるということでした。

 手当てあててがむと、アティシュリは気絶きぜつしたままのよろいひとかたかつぎ、ヒュリアはタヴシャンにささえられ、ぼくはまたヒュリアの胸元むなもとおさまります。

 こうしてドラゴンとダークエルフ、それに人間二人にんげんふたり地縛霊じばくれいたちは、どうにかこうにか安息あんそくである『耶代やしろ』への帰還きかんたしたのでした。

 そしてながきびしい一日いちにちは、わりをげ、あたらしい一日いちにちがやってくるわけです。

「――おはようございます。昨日さくじつはご迷惑めいわくをおかけし、申訳もうしわけありません」
 
 自室じしつからてきたヒュリアは、さきにテーブルについていたアティシュリとタヴシャンにあたまげました。
 
「よかったぁ、ヒュリアちゃん、きられたのね」

「まあ、その程度ていどんでなによりだ」

「ご心配しんぱいをおかけしました」

 二人ふたりへの挨拶あいさつえたヒュリアは、ぼく向直むきなおります。

「ツクモ……、今日きょうこうしてきていられるのはすべきみのおかげだ……。本当ほんとうに、本当ほんとうに、感謝かんしゃしている……」

 ヒュリアはぼくをとって、そうってくれたんです。

 れちゃうけど、うれしかったな……。

「いや、大袈裟おおげさだって。ぼくは『耶宰やさい』なんだよ。『耶卿やきょう』をたすけるのは当然とうぜんのことじゃないか」

「そう謙遜けんそんするな、ツクモ。わたしいまこころからこうおもってるんだ。あのとき『耶卿やきょう』になって、本当ほんとうかったと……」

 微笑ほほえむヒュリア。
 うつしく、とおと笑顔えがお

 ホント、きててかった……。
 いやいや、んでてかった……。
 で、いのか……?
 まあ、結果けっかオーライってやつで。
 
「――朝食ちょしょくべられそう?」

「ああ、いただくよ」

 『休養きゅうよう』で体力たいりょく回復かいふくしたヒュリアは、まだ左脚ひだりあしきずってますけど、あるくには支障ししょうはないようです。
 ただ、おなかきずほうは、ちょい心配しんぱいです。
 まあ食欲しょくよくは、あるみたいだから大丈夫だいじょうぶだとはおもいますけど。

 とりあえず『羅針眼らしんがん』で『耶卿やきょう』の状態じょうたい確認かくにんしてみることにしました。
 するとパラメーターのあたいが68/100になってます。
 通常つうじょうよりはひくいですけど、あれだけきずけてこのあたいなら、しとすべきでしょうかね。

 朝食ちょしょくえ、おちゃしながら、昨日きのうからになってたことヒュリアにいてみることにしました。 

「ヒュリア、昨日きのう、トゥガイのことを『三席さんせき勇者ゆうしゃ』ってってたでしょ。あれってどういうことなの?」

「ああ、そのことか……」

 ヒュリアは帝国ていこく認定にんていされてる『勇者ゆうしゃ』について説明せつめいしてくれました。

 バシャルの勇者ゆうしゃは、ゲームやラノベとかの物凄ものすげつえぇあの勇者ゆうしゃじゃなくて、一年いちねん一度いちどひらかれる『勇者号ゆうしゃごう闘儀とうぎ』っていう大会たいかい騎士達きしたちきそい、優勝者ゆうしょうしゃから第六位だいろくいまでにあたえられる帝国独自ていこくどくじ称号しょうごうのことをうんだそうです。

 そこで優勝ゆうしょうした騎士きしが『首席しゅせき勇者ゆうしゃ』になり、二位にい二席にせき三位さんい三席せんせきってな具合ぐあい表彰ひょうしょうされて、最終的さいしゅうてき六位ろくいまでが勇者ゆうしゃ名乗なのることをゆるされるのだとか。
 ちなみに帝国ていこくにいたときヒュリアは『二席勇者にせきゆうしゃ』で、あのトゥガイは『三席勇者さんせきゆうしゃ』だったというわけです。

「ヒュリアって勇者ゆうしゃだったんだぁ。すげぇなぁ……」

むかしはなしだ、ツクモ。それ以上いじょうわないでくれ」

 みみふさいであかくなってるヒュリア。
 かぁいい。

「じゃあ、首席しゅせきってだれだったの?」

「イドリス・ジェサレットというおとこだ。わたしよりみっ年上としうえで、平民上へいみんあがりの騎士きしだった。16さいのときはじめて『勇者号ゆうしゃごう闘儀とうぎ』に出場しゅつじょうし、その破格はかくつよさで当時とうじ首席しゅせきだったトゥガイをやぶり、一躍いちやく首席勇者しゅせきゆうしゃとなった。わたしやつ三度さんどたたかったが、一度いちどつことはできていない……」

 ヒュリアでも、あのトゥガイでもてなかったおとこ
 うえにはうえがいるもんです。
 いやぁ、なんかちょっとってみたいもしますねぇ。

うわさでは、まえ英雄えいゆう、シャファク・アクシュとたたかって勝利しょうりし、英雄えいゆうになったということだ」

 勇者ゆうしゃになった騎士きしには英雄えいゆうたたか資格しかくあたえられるんだそうです。

 ちなみにバシャルでは勇者ゆうしゃよりも英雄えいゆうほう格上かくうえみたいです。
 まあ辞書じしょなんかで調しらべると英雄えいゆうほうえらいようにかれてますから、当然とうぜんといえば当然とうぜんですかね。

「そんなことよりもだ、あのトゥガイってやつあしったのは、てめぇなんだよな、ツクモ?」

 アティシュリが、朝食分ちょうしょくぶんのキャラメルをべながらいてきました。

「いや、だからちがいますって。ぼくは、あのときトゥガイにんづけられてたんですから」

「じゃあ、ヒュリアがやったっのか?」

「それも無理むりでしょう。ヒュリアはいたみで朦朧もうろうとしてたんだし……」

「じゃあ、だれがやったってんだ?! ああん?!」

 ドラゴンねぇさんは自分じぶん理解りかいできないことがあると、すぐ不機嫌ふきげんになります。

ぼくは、てっきりアティシュリさんがやったとおもってましたけど」

介入かいにゅうしねぇってっただろが。おれづいたときには、あいつはもうられちまってたんだよ」

「じゃあ、タヴシャンさん?」

「かよわわたしに、そんなことできるわけないでしょう。わたしあいにまとった華麗かれいなる錬金術師れんきんじゅつしなんだからぁ」

 キスでをナメまわす加齢かれいなる錬金術師れんきんじゅつしでしょうに……。

 とにかく、あのにはぼくらとトゥガイ達以外たちいがいにはだれもいなかったはずです。
 だったらトゥガイをったのは一体いったいだれなんでしょう?
 なんか背筋せすじが、ゾワっとなりますな。

「あいつがられる寸前すんぜん一瞬いっしゅんだけだが異様いようちから周囲しゅういちていたんだが……。ありゃ、いままでにかんじたことのないもんだった……」

 アティシュリは、くびをひねります。

「そうです、そうです。わたしかんじました。身体中からだじゅう総毛立そうげだつっていうのかなぁ。かなり不気味ぶきみなやつでしたよね」

 タヴシャンは、まゆをひそめます。

「『耶代やしろ』がやったという可能性かのうせいは、ありませんか?」

 さすがするどいね、ヒュリア。

「――なるほど、ありえねぇはなしじゃねぇ」

 こまかく何度なんどうなずくアティシュリ。

「この『耶代やしろ』はなにをしでかすかわからねぇからなぁ。おれでさえおそろしくなるときがある」

 アティシュリはうたがわしげにダイニングを見回みまわします。

「まあ、そうはっても、全部ぜんぶヒュリアのためにやってることですし」

「そうよ、ヒュリアのためならおれからちからぬすむなんてことも平気へいきでやらかす。いつかなにもかもうばわれるなんてことにならなきゃいいがな……」

「ハハハ、まさかぁ」

 でも……、ありえるかも……。

 ふいにアティシュリの部屋へやとびらひらきました。
 全員ぜんいん視線しせん一斉いっせいとびらへとかいます。
 あらわれたのはもちろんよろいひとで、おびえた表情ひょうじょうで、こっちを見返みかえしています。

 少女しょうじょのように綺麗きれいかおをしてますけど、男性だんせいだそうです。
 でも身体からだせんほそくて全体的ぜんたいてき華奢きゃしゃなんもんで、いわゆる“おとこ”ってっても過言かごんではないのです。
 とし十代後半じゅうだいこうはんから二十代前半にじゅうだいぜんはんてとこでしょうか。

「あ、あんのぉ……?」

「やあ、きた? きず具合ぐあいはどうかな?」

「――ば、化物ばけものぉぉぉっ!」

 ぼくづいたおとこは、おどろいてヘタりこみました。

 おっ、なつかしいな、このリアクション。
 ヒュリアと最初さいしょ出会であったときも、こうだったよねぇ。

「カカカカっ、ツクモ、せっかくいのちすくってやったのに化物ばけものだとよ」

 アティシュリの意地いじわる笑顔えがお
 マジむかつく。

「いいですよ、べつに。化物ばけもの自覚じかくありますんで」

 むねって、ひらなおっときます。

何威張なにいばってんのよぉ」

 タヴシャンがあきれてます。 

大丈夫だいじょぶかい?」

 おとこそばき、そうとしました。

「おめ、なにもんだぁ、なして真黒まっくろよぉ?!」

「まあまあ、とにかくすわって。おはなしは、それからね」

 恐怖きょうふ嫌悪けんお入混いりまじったような表情ひょうじょうかべるおとこ
 もちろん差出さしだしたることなく立上たちあがり、いていたアティシュリのとなりすわりました。

 まえには加齢かれいなるキャバクラじょうがいて、ウインクで御出迎おでむかえします。
 おとこは、ぎょっとしたあとかおあからめてうつむいてしまいました。

「はい、どうぞぉ」

 おとこまえにハーブティーをしました。
 ティーカップとぼく交互こうごにらみつけるおとこ

どくなんかはいってないから、安心あんしんしてんで」

 でも、おとこかた表情ひょうじょうのまま、うつくしいはな模様もよう絵付えつけされたしろいカップをにらつづけるのでした。

 信用しんようされてませんな。

「おい、おまえ

 おとこななまえすわるヒュリアが、おもむろくちひらきました。

「――えっ? あの、オ、オラんことだべか?」

 おとこおびえと敵意てきいじった視線しせんをヒュリアにけます。
 ヒュリアはそんな視線しせんなんて、どこかぜで、自分じぶんのカップから悠然ゆうぜんとおちゃをすすりました。

名前なまえは?」

「オラはジョルジ・エシャルメンってもんです」

「ジョルジか……。おい、ジョルジっ!」

「は、はいっ」

 きゅうにヒュリアに怒鳴どなられてジョルジの背筋せすじがピンとなります。

「おまえむねきずなおし、いのちたすけたのは、おまえ化物ばけものののしったこのツクモだ。たしかに真黒まっくろおそろしく、かなり不気味ぶきみで、すこ焦臭こげくさいいが、やさしい、ひょうきんものだ……」

 ズーン……。
 真黒まっくろで……、おそろしい……。

「もし、ちゃどくでもいれてころすつもりなら、きずなおしたうえ、清潔せいけつ寝台しんだいかせたりするか?!」

「そ、それは……」

相手あいて姿すがたがどうであれ、たすけてくれたものたいして感謝かんしゃべるのは、ひととしての道理どうりだとはおもわんのか?」

「――お、おっしゃるどおりです……。もうわけねぇこって……」

 ズーン……。
 不気味ぶきみで……、焦臭こげくさい……。

わたしあやままえに、まずツクモに謝意しゃいしめすのがさきだろう」

「そ、そうでがんすな」

 ズーン……。
 不気味ぶきみで……、真黒まっくろで……。
 
「あ、あのっ、ツ、ツクモさん……」

 ズーン……。
 焦臭こげくさい……。

「さきほどは、いのち恩人おんじんに、ご無礼ぶれいなこどっちまって、ごめんすてけさい。そいとぉ、オラんいのちば、おすくいくださり、ありがどがんした」

 起立きりつしたジョルジが深々ふかぶかあたまげてます。
 ガックシの彼方かなたばされていたぼくは、それにづいて、なんとか現実世界げんじつせかい生還せいかんすることができたのでした。

「へっ?! は、はあ、こりゃ、どういたしまして」

 ぼくとジョルジは、しばらくお見合みあいしてしまい、まずいバイブスがただよいます。

あいたしかめってるとこわるいんだがよ。ジョルジ、おめぇのあのちからについて、くわしくはなしちゃくれねぇか」

 いつも一言余計ひとことよけいなのよね、このドラゴン。
 ここにあいは、あるんかっ!?
 
「あ、あのちから……。やっぱりオラ、また、やずもねえごどすてしまったべか」

 やずもねえごどって……。
 ビールだいジョッキぐらい、なまってますねぇ。
 ジョルジはつかったかんじでこしをおろし、うなだれます。

「オ、オラ、そんごとで、隠者いんじゃさまたすけてしぐてぇ……」

隠者様いんじゃさまだとぉ?!」

「んでがす……。こだどごまでたんは、そんためでがんす。ここらに人喰ひとくもりっちゅう、おっかねぇもりさあっで、そごには屋敷やけやしきっちゅう、らずもねぇちからった隠者様いんじゃさまのおすまいさるっちゅうはなしでぇ……」

 僕達ぼくたちかお見合みあわせました。
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