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東の大陸
龍とはらすかす姫<6>
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「ちょ、ちょっと! 正面突破って、ホント大丈夫なの、ヒュリア?!」
頼りになりそうなのは、ユニスの護衛官だっていうアレクシアさんですけど。
麻痺してますよね。
だとすれば結局一人で盗賊を相手にしなきゃならないわけで。
しかもタニョさんとユニスを守りながらでしょ。
マジ詰んでねぇか、これ。
「他に手段がない以上、やるしかない」
後ろを振返るヒュリア。
抜穴から生還したユニスとアレクシアさんが、顔をこわばらせてます。
「なるだけ私の後から離れないように。――アレクシア殿、あなたは護衛官だと聞いている。戦えますか?」
「まだ麻痺薬の効果が残っているので、通常の5割程度の力しか出せませんが、なんとかしてみせます」
「結構。では、ユニスさんを守ることだけに専念してください。道は私が切開きます」
そのときヒュリアの右肩の上に、ふっと小さな影が現れました。
昧昧鼬が戻ってきたようです。
ククククと鳴いてますけど、ドラゴン姉さんがいないと何を言ってるのかわかりません。
ヒュリアは昧昧鼬が鳴き止むのを待って語りかけます。
「抜穴作戦は失敗した。正面突破で脱出することになったとチェフチリク様達に伝えてくれ」
ヒュリアの言葉を聞いた昧昧鼬は、またクッキクッキと鳴くと、すぐに姿を消しました。
昧昧鼬がいなくなるのを見届けたヒュリアは、首の後ろに手をまわし、首飾りを外します。
「それと、これを渡しておきます」
首飾りをアレクシアに手渡そうとするヒュリア。
「何してんの、ヒュリア?!」
僕が声を上げるとユニスとアレクシアさんは、ぎょっとしました。
まあ、首飾りがしゃべれば、そりゃ驚きますわな。
「ツクモ、二人を守って欲しい」
「大丈夫なの、ヒュリア? 実質、戦えるの、君一人なんだよ。僕が一緒の方がいいんじゃない?」
「心配するな、ツクモ。私にはクズムスがある」
「ヒュリアの剣の腕前は知ってるけど、あの数だよ? それに、まだ増えるよ、あいつら」
「私が元勇者だという事を忘れたのか?」
冗談めかすヒュリア。
これから戦いが始まりそうなのに、この余裕な感じ……。
相当自信ありと見ました。
「――わかった、君を信じるよ」
僕を見下ろすヒュリアは、ふっと笑うと、首飾りをアレクシアさんの掌に置きました。
不安そうに僕を見てるユニスとアレクシアさんの顔が視界一杯に広がります。
ここは、とりあえず不安を解消するため、挨拶しときましょうか。
「どうも初めまして、アレクシアさん、ユニスちゃん。僕はツクモって言います。どうぞよろしく」
「は、はあ、これはご丁寧に……」
アレクシアさんが、ぎこちない感じで頭を下げました。
ユニスは、うわぁぁって言いながら人差し指でつついてきます。
引いてる二人に、ヒュリアが説明してくれました。
「ツクモは魔導を操る強い霊体で、その宝石の中に入っています。持っていれば、必ず守ってくれるでしょう」
盗賊のことなんか全く気にぜず、奴らに背を向けたまま話すヒュリア。
さすがに背後から怒声が飛んできました。
「て、てめぇ、何者だっ?!」
見ると、リーダーらしき盗賊が前に出きていました。
しかも盗賊の数が、さっきの倍以上に増えています。
だけど多勢に無勢のはずなのに、なぜか襲ってきません。
怒鳴ってきたリーダーも、どこかオドオドしています。
なんでだろって観察すると、盗賊達がヒュリアの顔を、まじまじと見てるのに気づきました。
これってたぶん、あの仮面にビビってるんでしょうね。
薄暗い洞窟の中、いきなり現れた正体不明の緑の仮面。
魔人とか化物の類かって疑って警戒するのも当然です。
奴らがビビってることに気づいたヒュリアは、両手を前に、だらりと垂らし、俯きかげんになって、下から睨みつけます。
前に教えてあげたジャパニーズユウレイスタイルです。
「酒場の老夫婦の耗霊に頼まれ、その怨みを晴らすためにやってきた者だ」
掠れた低い声で脅かし、追打ちをかけます。
全員揃って、ぎょっとする盗賊達。
うむ……。
どうやらこいつら全員、顔が怖いだけの雑魚キャラみたいです。
あのくらいの脅し文句じゃ、いまどき小学生だってビビりませんて。
こりゃ逆立ちしたってヒュリアに敵わないでしょう。
まんまとヒュリアの脅かしにハマったリーダーは、あたふたしながら周囲を見回し、部下に命令します。
「ふ、ふざけやがってぇ! おい、やっちまえ!」
リーダーの側にいた下っ端の三人が、俺たちかなって顔を見合わせました。
躊躇ってる三人をリーダーが睨みつけます。
三人は溜息を吐いた後、怖ず怖ずと剣を抜きます。
そして、へっぴり腰で、ヒュリアに向かっていったのでした。
正面から垂直に斬りつけてきた一番手の盗賊の剣を、半身になったヒュリアは、ふわりと躱します。
そのまま、そいつの首元あたりをクズムスで水平に薙ぎ払い、背後へと抜けました。
何が起こったのかわからない様子の盗賊は、もう一度斬りかかるために後を振返ります。
でもその途端、首が身体からずれて、落ちていったのでした。
切口から大量の血が噴上がり、頭は地面に転がります。
続いて、血を撒き散らす身体が、崩れるように倒れていきました。
降りかかる血を避けながら、次の敵に向かって飄々と歩くヒュリア。
二番手の奴が、バットを振るように横から頭へ斬りつけてきたのを、しゃがんで躱した彼女は、立上がる勢いに任せて、そいつの喉にクズムスを突刺し、すぐに引抜きます。
血が溢れてくる喉を手で押さえる盗賊。
そして自分の死が信じられないような表情を浮かべ倒れたのでした。
三番手は絶叫しながら、ヒュリアの左肩口へ斜めに斬りかかってきました。
ヒュリアは、相手の切先を受止めずに、クズムスの鎬で滑らせて流し、上から押さえ、勢いを殺しながら身体を左回りに半回転させます。
半回転したことで、二人は一瞬、至近距離で肩を並べることになります。
ヒュリアはそこから、振下ろしきって力を失った盗賊の剣の上を滑らせるようにクズムスを走らせ、一気に身体を逆回転させます。
そしてその勢いで、盗賊の左腕ごと脇腹を切裂き、後へ抜けたのでした。
斬られた左腕が握っていた剣から、ぶら下がり、脇腹からは血が噴出します。
こうして三番手も、前の二人の後を追うように倒れていったのです。
ホント、怖いぐらいに鮮やかな剣捌き。
さすがは二席の勇者。
でも今回一番驚いたのは、闘ってる間、剣と剣がぶつかって火花を散らすなんてことが全く無かったことなんです。
もちろんクズムスがこすれたり、風を切る音は微かに聞こえたんですよ。
時代劇とかチャンバラを見てると、相手の攻撃を防ぐために自分の剣を打合せることよくありますよね。
でも、ヒュリアは一度もそれをしませんでした。
だからほとんど音がしなかったわけです。
背筋が寒くなるような剣の冴えです。
トゥガイと戦ったときの熱さが、全くありません。
ヒュリアと盗賊達の力量に雲泥の差があるってことなんでしょうかね。
息を切らすこともなく、クズムスを振って、こびりついた血を払い落とすヒュリア。
呆然としている盗賊達を尻目に、すたすたと死体に近づき、剣を二本拾い上げると、アレクシアさんとタニョさんに渡しました。
アレクシアさんとタニョさんは、驚きと恐怖が入混じった表情でヒュリアを見つめ、怖ず怖ずと剣を受取ります。
まあ、無理もないすよね。
わずかな時間で、三人も倒したのに、息切れ一つせずに平然としてるんですから。
いつのまにか地響きも止み、しんと静まりかえる洞窟。
その静けさとヒュリアが身にまとう静けさが重なって、空間全体が凍てついてしまったかのようです。
「ビ、ビ、ビビってんじゃ、ね、ねえぞ! か、数はこっちが多いんだ! い、い、一斉にかかるんだよっ!」
リーダーが静寂を破ります。
自分もビビってるくせに、周りの部下にツバを飛ばしながら命令してます。
だけどもちろん誰一人、従う者はいません。
ヒュリアは自分の方から盗賊達に向かって、一歩進みます。
すると盗賊達が全員、一歩後へさがります。
彼女が二歩進むと、盗賊達は二歩さがります……。
なんだ、こりゃ?
コントか?
「――お前らじゃ勝てっこねぇって」
盗賊達の後ろから野太い声がしました。
ガタイの良い大男が十人ほど前に進み出てきます。
見た感じ、みんな2メーター以上の背丈がありそうです。
それと、額や頬には緑色の刺青がほどこされてます。
こいつらが例のキュペクバルって奴等でしょう。
「す、すいません、フセインさん。あいつ妙な技を使いやがって……」
盗賊のリーダーは、キュペクバルの先頭に立つ、さらに一回り大きな男にぺこぺこしてます。
このフセインってやつが真のヘッドってことなんでしょう。
フセインの右目には革の眼帯がかかってますが、開いている左目は蛙みたいにギョロギョロしています。
そのギョロ目が軽蔑するようにヒュリアを見下ろしました。
背丈がヒュリアの1.5倍ぐらいあるんですよ。
「お前の剣術、俺達は嫌というほど見てきたもんだな。敵の動きを先読みして剣筋を躱し、剣の勢いを殺した後に反撃する。小汚ねぇやり口だよなぁ。戦士としての誇りを持たねぇ帝国の玉無し騎士様がお使いになるもんだ」
フセインが毒づくと、他のキュペクバル達が一斉に大笑いしました。
「脳みその替わりにクソが詰まったキュペ猿が使う、腕力だけの無様な剣術よりはましだ」
ヒュリアが、吐捨てるように言います。
それを聞いたキュペクバル達の笑い声がピタリと止みました。
彼らの激しい憎悪のこもった視線がヒュリアに注がれます。
血走ったギョロ目を細めたフセインが口元を歪ませました。
「言ってくれるじゃねぇか、女騎士さんよぉ。てめぇみたいな奴をさんざんいたぶった後で、尻に肉棒をつっこんで内臓をかき回しながら殺すのが楽しいんだよ。その汗くせぇ股開いて待っててくれや」
キュペクバル達がまた一斉に笑いました。
うわぁ、下品な下ネタぶっこんできたよ。
クズムスを握るヒュリアの手に力がこもるのを感じました。
「ならばその貧弱でドブ臭い肉棒とやら、全て斬落として串焼きにし、餌として豚にくれてやろうか。――いや、そんな小汚い肉棒、豚にも迷惑だな」
もう、ヒュリア。
年頃の女の子が、はしたないこと言っちゃだめですって。
思わず噴出しちゃったじゃん。
忌々しそうに舌打したフセインは、後に首を回して怒鳴りました。
「おいっ! “竜”を一頭、連れて来い!」
ケルテンケレ?
何それ?
聞いたことない単語だね。
ウガリタ語か?
でも、それを聞いたとき、ヒュリアの身体がピクっと反応したんです。
まさか動揺してるんでしょうか?
「フセインさん、狭い洞窟の中で、竜を使うのはマズイんじゃねぇですか……」
盗賊のリーダーが、反論します。
その途端、フセインはリーダーの横面をひっぱたきました。
リーダーは吹っ飛んで、部下達にキャッチされます。
「俺に口ごたえすんのか? ああん?」
リーダーは、ぶるぶると首を振ります。
「――ツクモ、注意してくれ。キュペクバルは竜を操つる技術を持っている」
ヒュリアの声が硬いです。
「竜って何なの?」
「竜は基本的には巨大な蜥蜴のような生物だが、生息場所や交配によって幾つかの種に分かれている。それぞれに異なる生態があるが、共通する性質として、攻撃力、防御力に優れ、魔導に対して高い抵抗力を備えている点があげられるだろう。キュペクバルは、竜を人工的に交配させ、さらに強力な新種をつくりだし、実戦に配備していた。帝国が長くキュペクバルを攻め落とせなかった原因の一に、竜の存在があるといえる」
「て、帝国は、“戦竜”を全て処分したと聞いておるぞ!」
声を上げるタニョさん。
いや、僕らに文句言われてもねぇ。
「ツクモ、とにかくユニスさん達を頼んだぞ」
「竜に勝てるの?」
フセイン達は勝ち誇った感じで、にやけてます。
「竜が出てきたなら、私がその注意を引きつける。その間になんとか脱出して欲しい」
「えっ?! 何それ?! それって勝てないってことなの?!」
「タニョ殿!」
ヒュリアは僕に答えず、タニョさんに呼びかけました。
「何だ?」
「マリフェトの方々は博愛の精神に富み、気高い志をもたれていると聞きますが、それは事実でしょうか?」
「もちろんだ」
口ひげをひねりながら胸を張るタニョさん。
「それは重畳。ならば、そこにいる女性達を守っていただけますね?」
「い、いや、そうは言ったが……」
「――いただけますよ、ねっ?!」
有無を言わせない強い口調でお願いするヒュリア。
もう、お願いというより、命令ですね、これ。
「し、承知した……」
完全に言わされた感のあるタニョさん。
「よろしく、お願いします」
タニョさんに向かって軽く頭を下げるヒュリア。
「ヒュリア、本当に大丈夫なんだよね?! 勝てるよね?!」
「タニョ殿の援護も頼んだぞ、ツクモ」
「ちゃんと答えようよ!」
「――できる限りのことは、してみるつもりだ」
振返ったヒュリアは、アレクシアさんの手にある僕を見つめます。
仮面の下の表情はわかりません。
でも、相当ヤバい感じが、タニョさんとの会話から伝わっていました。
やっぱり僕は君と一緒にいるべきじゃないのかい?
そう言おうとしたとき、盗賊達の後が騒然となります。
そしてすぐに、人垣を分けながら、大きな影が現れたのでした。
ずんずんと二足歩行でやってきたそれは、動画なんかで見てた恐竜にそっくりです。
ただ、ティラノサウルスみたいな如何にもって感じのやつじゃなく、茶色の羽毛を生やした鶏に似たリアルなヤツでした。
鶏っていっても、口はワニみたいで鋭い歯が、ずらっと並んでるし、足先には恐ろしいカギ爪が見えます。
そして何より大きさが違います。
竜の頭は、フセインの背丈の二倍近い高さにあり、洞窟の天井に届きそうなのでした。
竜は頭を下げ、近づいてきたフセインに顔を寄せます。
フセインは、その首や頭を、まるで犬でもあやすかのように撫でまわしました。
竜は気持ち良さそうに目を閉じてます。
そしてフセインが首筋をポンポンと叩くと竜は目を開け、頭を上げました。
フセインは、ヒュリアを指差し、ギッ、ギッ、ギッと妙な声を立てます。
声を聞いた竜は、目玉をむき、口を大きく広げ、カラスのラスボスみたいな鳴声を上げました。
そして唐突に走り出すと、ヒュリアへ突進していったのです。
頼りになりそうなのは、ユニスの護衛官だっていうアレクシアさんですけど。
麻痺してますよね。
だとすれば結局一人で盗賊を相手にしなきゃならないわけで。
しかもタニョさんとユニスを守りながらでしょ。
マジ詰んでねぇか、これ。
「他に手段がない以上、やるしかない」
後ろを振返るヒュリア。
抜穴から生還したユニスとアレクシアさんが、顔をこわばらせてます。
「なるだけ私の後から離れないように。――アレクシア殿、あなたは護衛官だと聞いている。戦えますか?」
「まだ麻痺薬の効果が残っているので、通常の5割程度の力しか出せませんが、なんとかしてみせます」
「結構。では、ユニスさんを守ることだけに専念してください。道は私が切開きます」
そのときヒュリアの右肩の上に、ふっと小さな影が現れました。
昧昧鼬が戻ってきたようです。
ククククと鳴いてますけど、ドラゴン姉さんがいないと何を言ってるのかわかりません。
ヒュリアは昧昧鼬が鳴き止むのを待って語りかけます。
「抜穴作戦は失敗した。正面突破で脱出することになったとチェフチリク様達に伝えてくれ」
ヒュリアの言葉を聞いた昧昧鼬は、またクッキクッキと鳴くと、すぐに姿を消しました。
昧昧鼬がいなくなるのを見届けたヒュリアは、首の後ろに手をまわし、首飾りを外します。
「それと、これを渡しておきます」
首飾りをアレクシアに手渡そうとするヒュリア。
「何してんの、ヒュリア?!」
僕が声を上げるとユニスとアレクシアさんは、ぎょっとしました。
まあ、首飾りがしゃべれば、そりゃ驚きますわな。
「ツクモ、二人を守って欲しい」
「大丈夫なの、ヒュリア? 実質、戦えるの、君一人なんだよ。僕が一緒の方がいいんじゃない?」
「心配するな、ツクモ。私にはクズムスがある」
「ヒュリアの剣の腕前は知ってるけど、あの数だよ? それに、まだ増えるよ、あいつら」
「私が元勇者だという事を忘れたのか?」
冗談めかすヒュリア。
これから戦いが始まりそうなのに、この余裕な感じ……。
相当自信ありと見ました。
「――わかった、君を信じるよ」
僕を見下ろすヒュリアは、ふっと笑うと、首飾りをアレクシアさんの掌に置きました。
不安そうに僕を見てるユニスとアレクシアさんの顔が視界一杯に広がります。
ここは、とりあえず不安を解消するため、挨拶しときましょうか。
「どうも初めまして、アレクシアさん、ユニスちゃん。僕はツクモって言います。どうぞよろしく」
「は、はあ、これはご丁寧に……」
アレクシアさんが、ぎこちない感じで頭を下げました。
ユニスは、うわぁぁって言いながら人差し指でつついてきます。
引いてる二人に、ヒュリアが説明してくれました。
「ツクモは魔導を操る強い霊体で、その宝石の中に入っています。持っていれば、必ず守ってくれるでしょう」
盗賊のことなんか全く気にぜず、奴らに背を向けたまま話すヒュリア。
さすがに背後から怒声が飛んできました。
「て、てめぇ、何者だっ?!」
見ると、リーダーらしき盗賊が前に出きていました。
しかも盗賊の数が、さっきの倍以上に増えています。
だけど多勢に無勢のはずなのに、なぜか襲ってきません。
怒鳴ってきたリーダーも、どこかオドオドしています。
なんでだろって観察すると、盗賊達がヒュリアの顔を、まじまじと見てるのに気づきました。
これってたぶん、あの仮面にビビってるんでしょうね。
薄暗い洞窟の中、いきなり現れた正体不明の緑の仮面。
魔人とか化物の類かって疑って警戒するのも当然です。
奴らがビビってることに気づいたヒュリアは、両手を前に、だらりと垂らし、俯きかげんになって、下から睨みつけます。
前に教えてあげたジャパニーズユウレイスタイルです。
「酒場の老夫婦の耗霊に頼まれ、その怨みを晴らすためにやってきた者だ」
掠れた低い声で脅かし、追打ちをかけます。
全員揃って、ぎょっとする盗賊達。
うむ……。
どうやらこいつら全員、顔が怖いだけの雑魚キャラみたいです。
あのくらいの脅し文句じゃ、いまどき小学生だってビビりませんて。
こりゃ逆立ちしたってヒュリアに敵わないでしょう。
まんまとヒュリアの脅かしにハマったリーダーは、あたふたしながら周囲を見回し、部下に命令します。
「ふ、ふざけやがってぇ! おい、やっちまえ!」
リーダーの側にいた下っ端の三人が、俺たちかなって顔を見合わせました。
躊躇ってる三人をリーダーが睨みつけます。
三人は溜息を吐いた後、怖ず怖ずと剣を抜きます。
そして、へっぴり腰で、ヒュリアに向かっていったのでした。
正面から垂直に斬りつけてきた一番手の盗賊の剣を、半身になったヒュリアは、ふわりと躱します。
そのまま、そいつの首元あたりをクズムスで水平に薙ぎ払い、背後へと抜けました。
何が起こったのかわからない様子の盗賊は、もう一度斬りかかるために後を振返ります。
でもその途端、首が身体からずれて、落ちていったのでした。
切口から大量の血が噴上がり、頭は地面に転がります。
続いて、血を撒き散らす身体が、崩れるように倒れていきました。
降りかかる血を避けながら、次の敵に向かって飄々と歩くヒュリア。
二番手の奴が、バットを振るように横から頭へ斬りつけてきたのを、しゃがんで躱した彼女は、立上がる勢いに任せて、そいつの喉にクズムスを突刺し、すぐに引抜きます。
血が溢れてくる喉を手で押さえる盗賊。
そして自分の死が信じられないような表情を浮かべ倒れたのでした。
三番手は絶叫しながら、ヒュリアの左肩口へ斜めに斬りかかってきました。
ヒュリアは、相手の切先を受止めずに、クズムスの鎬で滑らせて流し、上から押さえ、勢いを殺しながら身体を左回りに半回転させます。
半回転したことで、二人は一瞬、至近距離で肩を並べることになります。
ヒュリアはそこから、振下ろしきって力を失った盗賊の剣の上を滑らせるようにクズムスを走らせ、一気に身体を逆回転させます。
そしてその勢いで、盗賊の左腕ごと脇腹を切裂き、後へ抜けたのでした。
斬られた左腕が握っていた剣から、ぶら下がり、脇腹からは血が噴出します。
こうして三番手も、前の二人の後を追うように倒れていったのです。
ホント、怖いぐらいに鮮やかな剣捌き。
さすがは二席の勇者。
でも今回一番驚いたのは、闘ってる間、剣と剣がぶつかって火花を散らすなんてことが全く無かったことなんです。
もちろんクズムスがこすれたり、風を切る音は微かに聞こえたんですよ。
時代劇とかチャンバラを見てると、相手の攻撃を防ぐために自分の剣を打合せることよくありますよね。
でも、ヒュリアは一度もそれをしませんでした。
だからほとんど音がしなかったわけです。
背筋が寒くなるような剣の冴えです。
トゥガイと戦ったときの熱さが、全くありません。
ヒュリアと盗賊達の力量に雲泥の差があるってことなんでしょうかね。
息を切らすこともなく、クズムスを振って、こびりついた血を払い落とすヒュリア。
呆然としている盗賊達を尻目に、すたすたと死体に近づき、剣を二本拾い上げると、アレクシアさんとタニョさんに渡しました。
アレクシアさんとタニョさんは、驚きと恐怖が入混じった表情でヒュリアを見つめ、怖ず怖ずと剣を受取ります。
まあ、無理もないすよね。
わずかな時間で、三人も倒したのに、息切れ一つせずに平然としてるんですから。
いつのまにか地響きも止み、しんと静まりかえる洞窟。
その静けさとヒュリアが身にまとう静けさが重なって、空間全体が凍てついてしまったかのようです。
「ビ、ビ、ビビってんじゃ、ね、ねえぞ! か、数はこっちが多いんだ! い、い、一斉にかかるんだよっ!」
リーダーが静寂を破ります。
自分もビビってるくせに、周りの部下にツバを飛ばしながら命令してます。
だけどもちろん誰一人、従う者はいません。
ヒュリアは自分の方から盗賊達に向かって、一歩進みます。
すると盗賊達が全員、一歩後へさがります。
彼女が二歩進むと、盗賊達は二歩さがります……。
なんだ、こりゃ?
コントか?
「――お前らじゃ勝てっこねぇって」
盗賊達の後ろから野太い声がしました。
ガタイの良い大男が十人ほど前に進み出てきます。
見た感じ、みんな2メーター以上の背丈がありそうです。
それと、額や頬には緑色の刺青がほどこされてます。
こいつらが例のキュペクバルって奴等でしょう。
「す、すいません、フセインさん。あいつ妙な技を使いやがって……」
盗賊のリーダーは、キュペクバルの先頭に立つ、さらに一回り大きな男にぺこぺこしてます。
このフセインってやつが真のヘッドってことなんでしょう。
フセインの右目には革の眼帯がかかってますが、開いている左目は蛙みたいにギョロギョロしています。
そのギョロ目が軽蔑するようにヒュリアを見下ろしました。
背丈がヒュリアの1.5倍ぐらいあるんですよ。
「お前の剣術、俺達は嫌というほど見てきたもんだな。敵の動きを先読みして剣筋を躱し、剣の勢いを殺した後に反撃する。小汚ねぇやり口だよなぁ。戦士としての誇りを持たねぇ帝国の玉無し騎士様がお使いになるもんだ」
フセインが毒づくと、他のキュペクバル達が一斉に大笑いしました。
「脳みその替わりにクソが詰まったキュペ猿が使う、腕力だけの無様な剣術よりはましだ」
ヒュリアが、吐捨てるように言います。
それを聞いたキュペクバル達の笑い声がピタリと止みました。
彼らの激しい憎悪のこもった視線がヒュリアに注がれます。
血走ったギョロ目を細めたフセインが口元を歪ませました。
「言ってくれるじゃねぇか、女騎士さんよぉ。てめぇみたいな奴をさんざんいたぶった後で、尻に肉棒をつっこんで内臓をかき回しながら殺すのが楽しいんだよ。その汗くせぇ股開いて待っててくれや」
キュペクバル達がまた一斉に笑いました。
うわぁ、下品な下ネタぶっこんできたよ。
クズムスを握るヒュリアの手に力がこもるのを感じました。
「ならばその貧弱でドブ臭い肉棒とやら、全て斬落として串焼きにし、餌として豚にくれてやろうか。――いや、そんな小汚い肉棒、豚にも迷惑だな」
もう、ヒュリア。
年頃の女の子が、はしたないこと言っちゃだめですって。
思わず噴出しちゃったじゃん。
忌々しそうに舌打したフセインは、後に首を回して怒鳴りました。
「おいっ! “竜”を一頭、連れて来い!」
ケルテンケレ?
何それ?
聞いたことない単語だね。
ウガリタ語か?
でも、それを聞いたとき、ヒュリアの身体がピクっと反応したんです。
まさか動揺してるんでしょうか?
「フセインさん、狭い洞窟の中で、竜を使うのはマズイんじゃねぇですか……」
盗賊のリーダーが、反論します。
その途端、フセインはリーダーの横面をひっぱたきました。
リーダーは吹っ飛んで、部下達にキャッチされます。
「俺に口ごたえすんのか? ああん?」
リーダーは、ぶるぶると首を振ります。
「――ツクモ、注意してくれ。キュペクバルは竜を操つる技術を持っている」
ヒュリアの声が硬いです。
「竜って何なの?」
「竜は基本的には巨大な蜥蜴のような生物だが、生息場所や交配によって幾つかの種に分かれている。それぞれに異なる生態があるが、共通する性質として、攻撃力、防御力に優れ、魔導に対して高い抵抗力を備えている点があげられるだろう。キュペクバルは、竜を人工的に交配させ、さらに強力な新種をつくりだし、実戦に配備していた。帝国が長くキュペクバルを攻め落とせなかった原因の一に、竜の存在があるといえる」
「て、帝国は、“戦竜”を全て処分したと聞いておるぞ!」
声を上げるタニョさん。
いや、僕らに文句言われてもねぇ。
「ツクモ、とにかくユニスさん達を頼んだぞ」
「竜に勝てるの?」
フセイン達は勝ち誇った感じで、にやけてます。
「竜が出てきたなら、私がその注意を引きつける。その間になんとか脱出して欲しい」
「えっ?! 何それ?! それって勝てないってことなの?!」
「タニョ殿!」
ヒュリアは僕に答えず、タニョさんに呼びかけました。
「何だ?」
「マリフェトの方々は博愛の精神に富み、気高い志をもたれていると聞きますが、それは事実でしょうか?」
「もちろんだ」
口ひげをひねりながら胸を張るタニョさん。
「それは重畳。ならば、そこにいる女性達を守っていただけますね?」
「い、いや、そうは言ったが……」
「――いただけますよ、ねっ?!」
有無を言わせない強い口調でお願いするヒュリア。
もう、お願いというより、命令ですね、これ。
「し、承知した……」
完全に言わされた感のあるタニョさん。
「よろしく、お願いします」
タニョさんに向かって軽く頭を下げるヒュリア。
「ヒュリア、本当に大丈夫なんだよね?! 勝てるよね?!」
「タニョ殿の援護も頼んだぞ、ツクモ」
「ちゃんと答えようよ!」
「――できる限りのことは、してみるつもりだ」
振返ったヒュリアは、アレクシアさんの手にある僕を見つめます。
仮面の下の表情はわかりません。
でも、相当ヤバい感じが、タニョさんとの会話から伝わっていました。
やっぱり僕は君と一緒にいるべきじゃないのかい?
そう言おうとしたとき、盗賊達の後が騒然となります。
そしてすぐに、人垣を分けながら、大きな影が現れたのでした。
ずんずんと二足歩行でやってきたそれは、動画なんかで見てた恐竜にそっくりです。
ただ、ティラノサウルスみたいな如何にもって感じのやつじゃなく、茶色の羽毛を生やした鶏に似たリアルなヤツでした。
鶏っていっても、口はワニみたいで鋭い歯が、ずらっと並んでるし、足先には恐ろしいカギ爪が見えます。
そして何より大きさが違います。
竜の頭は、フセインの背丈の二倍近い高さにあり、洞窟の天井に届きそうなのでした。
竜は頭を下げ、近づいてきたフセインに顔を寄せます。
フセインは、その首や頭を、まるで犬でもあやすかのように撫でまわしました。
竜は気持ち良さそうに目を閉じてます。
そしてフセインが首筋をポンポンと叩くと竜は目を開け、頭を上げました。
フセインは、ヒュリアを指差し、ギッ、ギッ、ギッと妙な声を立てます。
声を聞いた竜は、目玉をむき、口を大きく広げ、カラスのラスボスみたいな鳴声を上げました。
そして唐突に走り出すと、ヒュリアへ突進していったのです。
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家臣や領民を守るため、新九郎は異世界での生き残りを目指すが周囲は問題だらけ。
領地は魔物溢れる荒れ地のど真ん中に転移。
唯一頼れた貴族はお家騒動で没落寸前。
敵対勢力は圧倒的な戦力。
果たして苦境を脱する術はあるのか?
かつて、日本から様々なものが異世界転移した。
侍 = 刀一本で無双した。
自衛隊 = 現代兵器で無双した。
日本国 = 国力をあげて無双した。
では、戦国大名が家臣を引き連れ、領地丸ごと、剣と魔法の異世界へ転移したら――――?
【新九郎の解答】
国を盗って生き残るしかない!(必死)
【ちなみに異世界の人々の感想】
何なのこの狂戦士!? もう帰れよ!
戦国日本の侍達が生き残りを掛けて本気で戦った時、剣と魔法の異世界は勝てるのか?
これは、その疑問に答える物語。
異世界よ、戦国武士の本気を思い知れ――――。
※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも投稿しています。
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そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。
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そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。
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チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。
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皆さん勘違いしてません?
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本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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