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東の大陸
龍とはらすかす姫<5>
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「世界秩序という言葉は、あまり聞き馴染みがないだろう。それは人の概念で言うところの神に近い存在を示している」
おお、神様?!
一方的に何度もお世話になってますな。
「そして『龍の座』だが、それはもちろん、シュリが継いだ『炎摩の座』や、自分の『壌土の座』などを包括する呼称であり……」
チェフチリクは自分の胸に手を当てます。
「――この身体のことを示している」
へっ、身体?
予想と違いますね。
てっきり称号か何かだとばっかり思ってたのに。
「この身体は生物の肉体とも死者の霊体とも異なり、『霓体』と呼ばれる。『龍の座』は、八元素の精霊の最高位である精霊王の中から更に選ばれる、王の中の王にのみ与えられる名誉であり特権であり、そして“力”なのだ」
「じゃあ霊龍様方って元々は精霊王だったってことですか?」
「その通りだ、ツクモ。自分らは凡そ6000年で代替わりし、古い精霊王は『龍の座』を新しい精霊王に譲ることになる。この代替わりは『ヴェラセト』と呼ばれる。――精霊王達は、そうやって何百万年も、この身体、つまり『龍の座』を受継いできたのだ」
なるほどだから、ドラゴン姉さんは偉そうにしてるんだ。
王の中の王ですもんね。
自慢したくなるのも当然か。
「ヴェラセトにより『龍の座』を譲った古い精霊王はバシャルから旅立ち、別の存在への遷化が許される。しかし世界秩序により罰せられ、『龍の座』を取上げられた精霊王は遷化を許されず、蓄えてきた力を奪われ再び微精霊からやり直さねばならなくなる。微精霊が精霊王となるまでには何十万年の歳月が必要となり、それは自分らにとっても充分に長いと思える時間だ」
何十万年の時間をかけて、やっと精霊王になったのに、また微精霊からやり直し……。
確かにキッツい話や。
「それだけではない。罰せられて『龍の座』を失った場合、次の精霊王は継承の準備が足りず、すぐに『龍の座』を受継ぐことができない。そのためその元素を司る霊龍は、しばらく不在となってしまう。準備には少なくとも数百年を要するので、この間、その霊龍が司る元素は不安定となる。この状況は精霊や魔導師の活動に多大な悪影響を及ぼし、時に天変地異を招くこともある。つまり、『龍の座』を奪われるということは、バシャルにも甚大な災害をもたらしかねないということなのだ」
ドラゴン姉さんは意地になってたんじゃなく、こういうことを避けようとしてたのね。
ちょっとリスペクト、高まりましたね。
「だから俺達は人間の扱いに関して慎重にならざるを得ねぇんだよ。世界秩序は、とりわけ人間に対して手厚い庇護を与えてるからな」
アティシュリは不満げに鼻を鳴らします。
「ただし、バシャルの存亡に関わるようなことなら、たとえ人間同士の争いでも、思いっきり介入してやっからよ。ずっと抑えてきたもんを一気に吐き出すぜぇ。俺の咆哮で何もかんも消炭に変えてやんのよ! 覚えとけっ! ウカカカカカカっ……!」
高笑いするドラゴン姉さん。
目が据わってますよ。
あんたの方がよっぽど魔王ですって。
ドラゴン様も色々溜めこんでらっしゃるんでしょうな……。
「――わかってもらえただろうか?」
アティシュリの様子に、どん引きしているチェフチリクは苦笑いしてます。
「いいかぁ、お前ら! このことは他言無用だかんな!。こいつは霊龍の根幹に関わる秘事だ! しゃべったら気持ちよく焼殺してやっからよ! ウカカカカカっ……!」
完全にハジけちゃったドラゴン姉さん。
キャラメルを増量して、なんとかドラゴン姉さんを落着かせた後、僕達は昧昧鼬が見つけた抜穴の前にやってきました。
枯草に隠れていたその穴は、人が這って進む程度の広さしかありません。
中は真暗で、閉所恐怖症の人には耐えられない感じです。
昧昧鼬によると、抜穴は『深山蛇』の頭から尾までの長さくらいあるそうです。
分からんわっ、て突っこむと、イタチ君は同じ長さを実際に走って、教えてくれました。
『深山蛇』の体長は、20メートルぐらいあるみたいです。
でも妖獣じゃないらしく、ドラゴン姉さんは、ただでかいだけの蛇だから、どうってことはねぇ、と笑います。
いやいや、充分おっかないですって。
「おおよその距離はわかった」
昧昧鼬が示してくれた抜穴の長さに納得したヒュリアは、入口の前で四つん這いになります。
「そうだツクモ、私の仮面を出してくれないか」
「顔を隠す必要ある?」
「私には賞金がかけられている。それを知る輩は、欲につられて余計な力を発揮するかもしれない。金の力は恐ろしいからな。自分にとって不利な条件は、できるだけ事前に排除しておきたいんだ」
金で開かぬ扉無しってわけですか。
地球でもバシャルでも、金がオラオラしてますねぇ。
『倉庫』から、例の緑色の仮面を取出し、ヒュリアの手の上にに実体化させます。
仮面をつけたヒュリアは、先に入っていった昧昧鼬に続き、一切の躊躇無しで頭から抜穴に突っ込んでいきました。
「気をつけろ」
後ろからチェフチリクの声が聞こえました。
前にいる昧昧鼬は、先に行ったとかと思えば戻って来て、ヒュリアの顔を覗きこみます。
たぶん心配して、様子を見にきてるんだしょうね。
赤い目をした白いネズミ殺しのせいで、イタチって動物にあんまり好い印象なかったけど。
こいつ、なかなか可愛いヤツです。
腹ばいになって左右の肘を前後に動かしながら真暗な穴の中を進むヒュリア。
匍匐前進ってやつですけど、これ男でもキツい作業っすよね。
でもヒュリアは息を切らすこともなく、黙々と進んでいきます。
こういうときの彼女の精神力の強さって、普通じゃないです。
目的を成遂げるための固い意志というか、執念というか。
絶対生残って皇帝になる、っていう想いが後押ししてるのかもしれません。
で、僕はと言いますと……。
ヒュリアは忘れてるみたいですけど、首飾りが垂れ下がっているので地面を引きずらております。
ズルズルズルズル、地面で顔をこすられてる感じ……。
もちろん痛いとかはないんすけど、すごぉく屈辱的な気持ちになるのは如何ともしがたいですな。
しばらくするとヒュリアの動きが止ました。
真暗だった世界にオレンジ色の光が、わずかに射しこんでくるのが分かります。
「ついたぞ、ツクモ」
ささやくようなヒュリアの声。
「――チェフチリク様に到着したと伝えてくれ」
ヒュリアの顔の前いる昧昧鼬は、ククククッと返事をします。
そして彼女の肩口から背中を通って今来た道を戻っていきました。
その数秒後……。
本当の地震が起きたかのように洞窟全体が揺れ始めます。
もちろんチェフチリクの地響です
「ツクモ、仕上げだ」
僕は、あらかじめ決めておいたセリフを叫びました。
「大変だぁっ! 崩れるぞぉっ! 逃げろぉっ!」
すると洞窟内のあちこちで野太い悲鳴が聞こえてきました。
そして、たくさんの足音が遠ざかっていく気配がします。
それをきっかけにヒュリアは抜穴から素早く外に出ました。
オレンジ色のランプの灯がともる洞窟内は意外と明るくて広いです。
目の前には粗雑な鋼材で造られた檻が四つ並んでいます。
四つのうちの三つに人影があり、全員がヒュリアを驚きと怯えの混じった表情で見つめていました。
まあ、不気味な緑色の仮面をかぶった人間が突然現れたら、誰だってそうなりますわな。
一番近い檻には、中年の男性が胡坐をかいていました。
口ひげをはやしてますが、肌の色が青白く、どこかなよなよとしてます。
ただ表情は偉そうで、いつも他人を見下してるんだろうなって感じが伝わってきます。
その隣の檻には、アスリートみたいな鋭い目つきの女性がいました。
歳は二十代前半くらいで、左右の耳の上にシニヨンが作ってあります。
顔面強めですけど、目鼻立ちくっきりの美人です。
一番奥の檻には、かなりぽっちゃりした体形の少女が膝を抱えています。
顔も身体も、まん丸って感じです。
顔立ちは整っていて、やせたらかなりの美人になるでしょうね。
まあ、そのままでも需要ありそうですけど……。
多分この子がユニスでしょうね。
だけど、イメージと違いました。
お姫様ってことで可憐で清楚な美少女を想像してたんですが……。
激ぽちゃ女子ってやつですな。
「君がユニスか?」
ヒュリアが話しかけると、まん丸の顔が、こくっと頷きました。
「私はチェフチリク様から頼まれて、君らを助けに来た者だ」
「チェフ様がっ!」
となりにいた顔強の女性が声を上げました。
「そして、あなたがアレクシアさんですね?」
「はい……」
ヒュリアはクズムスを抜くと、ユニスの檻の扉の前に立ち、クズムスを構えます。
ふっと身体から力が抜けると、クズムスが、ほんのりと薄赤く輝き始めます。
トゥガイのときと同じです。
そしてヒュリアは赤く光るクズムスで檻についてるゴツい錠前を一刀のもとに斬落としたのでした。
いや、あんなゴツい金属の鍵、真二つかぁい!
マジ、ハンパねぇな、ヒュリア。
その後、アレクシアさんの檻の鍵も斬り、二人を解放します。
ただ二人とも、ふらふらしていて足元が覚束ないようです。
「大丈夫ですか? 何かされたのですか?」
ヒュリアが尋ねるとアレクシアさんが情けなさそうに説明しました。
「実は麻痺薬を飲まされたんです」
麻痺ねぇ。
状態異常の典型ですか。
治癒術で治せるのは外傷だけで、麻痺なんかの状態異常を治すことはできないそうなんで。
自力で回復してもらうしかありません。
ヒュリアは檻の裏にある岩陰をクズムスで指示します。
「あそこに抜穴があります。あれを通れば外に出られます。暗く狭いですが、我慢してください。ただ、外ではチェフチリク様が待っておられますから、安心してください」
洞窟の地響きは、まだ続いています。
ユニスが不安そうに天井を見上げました。
「御心配なく。この地響は、チェフチリク様の御業ですので洞窟が崩れることはありません。――さあ、揺れが続いている間に、急いで脱出してください」
アレクシアさんとユニスは頷くと、よろけながら抜穴に向かいました。
ヒュリアは、すぐに後を追わず、口ひげの男性の檻の錠前も斬落とします。
「おお、殊勝な心がけよ」
男性は満足そうに言うと、檻から出てきました。
だいぶ汚れてはいますが、金糸銀糸で織られた高級そうな服を着ています。
「我輩はマリフェト13枢奥卿家の一つである……」
口ひげを指でよじりながら、偉そうで長そうな肩書きを宣おうとしましたが、ヒュリアに遮られます。
「お名前だけ承ろう。あなたの身分に興味はない」
ヒュリアにぶっきらぼうに言われ、男性は口をぽかんと開けてフリーズします。
「そ、そうか……、我輩の名はブニャミン・タニョである」
なんだか崖の上にいそうな名前ですね。
「では、タニョ殿、あの二人の後に続いて抜穴から脱出されよ」
「おお、これぞ地母様のご加護の賜物よ。ありがたい。――仮面の御仁よ、そなたの名は? いかようにも褒美をとらせるぞ」
「名乗るほどの者ではありませんし、褒美も不要です。とにかく抜穴へ」
「し、承知した」
タニョさんが岩陰に向かおうとしたとき、悲鳴が聞こえてきました。
「そんなに押さないでよ! こんなとこ入れっこない!」
「なんとか、お腹をひっこめるの! ユニス、ほら、頑張って!」
ヒュリアが急いで駈寄ると、抜穴の入口で、足をジタバタさせてるユニスの姿がありました。
どうやらお腹がつっかえて、穴に入れないみたいです。
「もう嫌だぁっ! 無理、絶対無理ぃっ! 早くこっから出してよ! 怖いってぇ!」
泣きべそをかき始めるユニス。
溜息を吐いたアレクシアさんはユニスの両足を抱えて、引張り出そうとします。
「痛いってぇ! もうちょっと優しく引張ってよ! もう、最悪ぅ!」
つっかえたお腹が、戻ることを拒否ってるみたいです。
ヒュリアは眉をひそめて、ジタバタするユニスを見下ろし、呟きます。
「想定外だ……、こんな伏兵があるとは……」
伏兵というか、“腹”兵だよね……。
「おいっ、てめぇら!」
檻の様子を確かめに戻ってきたらしい盗賊の一人が、僕達を見つけちまいました。
「人質が逃げたぞぉっ!」
盗賊が仲間を呼びました。
おお、RPGの戦闘中みたいなセリフ。
「仮面の御仁、い、如何がするのだっ?!」
タニョさんが震えながら、ヒュリアに尋ねてきました。
「見つかってしまっては、もう抜穴は使えません。外で待伏せされますので」
「では、ど、どうすると……?」
「正面突破しかありますまい」
「し、正面、突破……」
タニョさん、口をあんぐりして絶句しとります。
「タニョ殿、剣は使えますか?」
「一応、師範より習いはしたが……」
「ならば剣があれば、ご自分の身は守れますな」
「いや、待ってくれ、習いはしたが、及第をもらうことはなく……」
「できる限り援護はしましょう。しかし間に合わぬときは、ご自身で切抜けられよ」
「そ、そんな……」
顔が青ざめるタニョさん。
泣きそうです。
いいオッサンなのに。
「――な、ならば、檻へ戻るぞ! 我輩の命と引換えに、身代金をとる段取りのはずだからな! 金を手にするまでは命はとるまいよ!」
「どうぞ、ご自由に。ただし金を受取った盗賊が、あなたを生かして帰すかどうかは、甚だ疑問ではありますな」
冷たく突放すヒュリア。
「うっぐっ!」
タニョさん、再び絶句。
きっと今までやりたい放題で生きてきたんだろうな。
自己紹介、止められたけど、マリフェトの貴族みたいだし。
命令を聞かない使用人なんかを、こうムチでビシバシしばいたりして。
ああ、やだやだ……。
地響きは、まだ続いていましたが、ぞろぞろと盗賊達が戻ってきます。
その数、ざっと20人ぐらい。
まだまだ増えそうです。
1匹出たら100匹出てくると思え、だなこりゃ。
おお、神様?!
一方的に何度もお世話になってますな。
「そして『龍の座』だが、それはもちろん、シュリが継いだ『炎摩の座』や、自分の『壌土の座』などを包括する呼称であり……」
チェフチリクは自分の胸に手を当てます。
「――この身体のことを示している」
へっ、身体?
予想と違いますね。
てっきり称号か何かだとばっかり思ってたのに。
「この身体は生物の肉体とも死者の霊体とも異なり、『霓体』と呼ばれる。『龍の座』は、八元素の精霊の最高位である精霊王の中から更に選ばれる、王の中の王にのみ与えられる名誉であり特権であり、そして“力”なのだ」
「じゃあ霊龍様方って元々は精霊王だったってことですか?」
「その通りだ、ツクモ。自分らは凡そ6000年で代替わりし、古い精霊王は『龍の座』を新しい精霊王に譲ることになる。この代替わりは『ヴェラセト』と呼ばれる。――精霊王達は、そうやって何百万年も、この身体、つまり『龍の座』を受継いできたのだ」
なるほどだから、ドラゴン姉さんは偉そうにしてるんだ。
王の中の王ですもんね。
自慢したくなるのも当然か。
「ヴェラセトにより『龍の座』を譲った古い精霊王はバシャルから旅立ち、別の存在への遷化が許される。しかし世界秩序により罰せられ、『龍の座』を取上げられた精霊王は遷化を許されず、蓄えてきた力を奪われ再び微精霊からやり直さねばならなくなる。微精霊が精霊王となるまでには何十万年の歳月が必要となり、それは自分らにとっても充分に長いと思える時間だ」
何十万年の時間をかけて、やっと精霊王になったのに、また微精霊からやり直し……。
確かにキッツい話や。
「それだけではない。罰せられて『龍の座』を失った場合、次の精霊王は継承の準備が足りず、すぐに『龍の座』を受継ぐことができない。そのためその元素を司る霊龍は、しばらく不在となってしまう。準備には少なくとも数百年を要するので、この間、その霊龍が司る元素は不安定となる。この状況は精霊や魔導師の活動に多大な悪影響を及ぼし、時に天変地異を招くこともある。つまり、『龍の座』を奪われるということは、バシャルにも甚大な災害をもたらしかねないということなのだ」
ドラゴン姉さんは意地になってたんじゃなく、こういうことを避けようとしてたのね。
ちょっとリスペクト、高まりましたね。
「だから俺達は人間の扱いに関して慎重にならざるを得ねぇんだよ。世界秩序は、とりわけ人間に対して手厚い庇護を与えてるからな」
アティシュリは不満げに鼻を鳴らします。
「ただし、バシャルの存亡に関わるようなことなら、たとえ人間同士の争いでも、思いっきり介入してやっからよ。ずっと抑えてきたもんを一気に吐き出すぜぇ。俺の咆哮で何もかんも消炭に変えてやんのよ! 覚えとけっ! ウカカカカカカっ……!」
高笑いするドラゴン姉さん。
目が据わってますよ。
あんたの方がよっぽど魔王ですって。
ドラゴン様も色々溜めこんでらっしゃるんでしょうな……。
「――わかってもらえただろうか?」
アティシュリの様子に、どん引きしているチェフチリクは苦笑いしてます。
「いいかぁ、お前ら! このことは他言無用だかんな!。こいつは霊龍の根幹に関わる秘事だ! しゃべったら気持ちよく焼殺してやっからよ! ウカカカカカっ……!」
完全にハジけちゃったドラゴン姉さん。
キャラメルを増量して、なんとかドラゴン姉さんを落着かせた後、僕達は昧昧鼬が見つけた抜穴の前にやってきました。
枯草に隠れていたその穴は、人が這って進む程度の広さしかありません。
中は真暗で、閉所恐怖症の人には耐えられない感じです。
昧昧鼬によると、抜穴は『深山蛇』の頭から尾までの長さくらいあるそうです。
分からんわっ、て突っこむと、イタチ君は同じ長さを実際に走って、教えてくれました。
『深山蛇』の体長は、20メートルぐらいあるみたいです。
でも妖獣じゃないらしく、ドラゴン姉さんは、ただでかいだけの蛇だから、どうってことはねぇ、と笑います。
いやいや、充分おっかないですって。
「おおよその距離はわかった」
昧昧鼬が示してくれた抜穴の長さに納得したヒュリアは、入口の前で四つん這いになります。
「そうだツクモ、私の仮面を出してくれないか」
「顔を隠す必要ある?」
「私には賞金がかけられている。それを知る輩は、欲につられて余計な力を発揮するかもしれない。金の力は恐ろしいからな。自分にとって不利な条件は、できるだけ事前に排除しておきたいんだ」
金で開かぬ扉無しってわけですか。
地球でもバシャルでも、金がオラオラしてますねぇ。
『倉庫』から、例の緑色の仮面を取出し、ヒュリアの手の上にに実体化させます。
仮面をつけたヒュリアは、先に入っていった昧昧鼬に続き、一切の躊躇無しで頭から抜穴に突っ込んでいきました。
「気をつけろ」
後ろからチェフチリクの声が聞こえました。
前にいる昧昧鼬は、先に行ったとかと思えば戻って来て、ヒュリアの顔を覗きこみます。
たぶん心配して、様子を見にきてるんだしょうね。
赤い目をした白いネズミ殺しのせいで、イタチって動物にあんまり好い印象なかったけど。
こいつ、なかなか可愛いヤツです。
腹ばいになって左右の肘を前後に動かしながら真暗な穴の中を進むヒュリア。
匍匐前進ってやつですけど、これ男でもキツい作業っすよね。
でもヒュリアは息を切らすこともなく、黙々と進んでいきます。
こういうときの彼女の精神力の強さって、普通じゃないです。
目的を成遂げるための固い意志というか、執念というか。
絶対生残って皇帝になる、っていう想いが後押ししてるのかもしれません。
で、僕はと言いますと……。
ヒュリアは忘れてるみたいですけど、首飾りが垂れ下がっているので地面を引きずらております。
ズルズルズルズル、地面で顔をこすられてる感じ……。
もちろん痛いとかはないんすけど、すごぉく屈辱的な気持ちになるのは如何ともしがたいですな。
しばらくするとヒュリアの動きが止ました。
真暗だった世界にオレンジ色の光が、わずかに射しこんでくるのが分かります。
「ついたぞ、ツクモ」
ささやくようなヒュリアの声。
「――チェフチリク様に到着したと伝えてくれ」
ヒュリアの顔の前いる昧昧鼬は、ククククッと返事をします。
そして彼女の肩口から背中を通って今来た道を戻っていきました。
その数秒後……。
本当の地震が起きたかのように洞窟全体が揺れ始めます。
もちろんチェフチリクの地響です
「ツクモ、仕上げだ」
僕は、あらかじめ決めておいたセリフを叫びました。
「大変だぁっ! 崩れるぞぉっ! 逃げろぉっ!」
すると洞窟内のあちこちで野太い悲鳴が聞こえてきました。
そして、たくさんの足音が遠ざかっていく気配がします。
それをきっかけにヒュリアは抜穴から素早く外に出ました。
オレンジ色のランプの灯がともる洞窟内は意外と明るくて広いです。
目の前には粗雑な鋼材で造られた檻が四つ並んでいます。
四つのうちの三つに人影があり、全員がヒュリアを驚きと怯えの混じった表情で見つめていました。
まあ、不気味な緑色の仮面をかぶった人間が突然現れたら、誰だってそうなりますわな。
一番近い檻には、中年の男性が胡坐をかいていました。
口ひげをはやしてますが、肌の色が青白く、どこかなよなよとしてます。
ただ表情は偉そうで、いつも他人を見下してるんだろうなって感じが伝わってきます。
その隣の檻には、アスリートみたいな鋭い目つきの女性がいました。
歳は二十代前半くらいで、左右の耳の上にシニヨンが作ってあります。
顔面強めですけど、目鼻立ちくっきりの美人です。
一番奥の檻には、かなりぽっちゃりした体形の少女が膝を抱えています。
顔も身体も、まん丸って感じです。
顔立ちは整っていて、やせたらかなりの美人になるでしょうね。
まあ、そのままでも需要ありそうですけど……。
多分この子がユニスでしょうね。
だけど、イメージと違いました。
お姫様ってことで可憐で清楚な美少女を想像してたんですが……。
激ぽちゃ女子ってやつですな。
「君がユニスか?」
ヒュリアが話しかけると、まん丸の顔が、こくっと頷きました。
「私はチェフチリク様から頼まれて、君らを助けに来た者だ」
「チェフ様がっ!」
となりにいた顔強の女性が声を上げました。
「そして、あなたがアレクシアさんですね?」
「はい……」
ヒュリアはクズムスを抜くと、ユニスの檻の扉の前に立ち、クズムスを構えます。
ふっと身体から力が抜けると、クズムスが、ほんのりと薄赤く輝き始めます。
トゥガイのときと同じです。
そしてヒュリアは赤く光るクズムスで檻についてるゴツい錠前を一刀のもとに斬落としたのでした。
いや、あんなゴツい金属の鍵、真二つかぁい!
マジ、ハンパねぇな、ヒュリア。
その後、アレクシアさんの檻の鍵も斬り、二人を解放します。
ただ二人とも、ふらふらしていて足元が覚束ないようです。
「大丈夫ですか? 何かされたのですか?」
ヒュリアが尋ねるとアレクシアさんが情けなさそうに説明しました。
「実は麻痺薬を飲まされたんです」
麻痺ねぇ。
状態異常の典型ですか。
治癒術で治せるのは外傷だけで、麻痺なんかの状態異常を治すことはできないそうなんで。
自力で回復してもらうしかありません。
ヒュリアは檻の裏にある岩陰をクズムスで指示します。
「あそこに抜穴があります。あれを通れば外に出られます。暗く狭いですが、我慢してください。ただ、外ではチェフチリク様が待っておられますから、安心してください」
洞窟の地響きは、まだ続いています。
ユニスが不安そうに天井を見上げました。
「御心配なく。この地響は、チェフチリク様の御業ですので洞窟が崩れることはありません。――さあ、揺れが続いている間に、急いで脱出してください」
アレクシアさんとユニスは頷くと、よろけながら抜穴に向かいました。
ヒュリアは、すぐに後を追わず、口ひげの男性の檻の錠前も斬落とします。
「おお、殊勝な心がけよ」
男性は満足そうに言うと、檻から出てきました。
だいぶ汚れてはいますが、金糸銀糸で織られた高級そうな服を着ています。
「我輩はマリフェト13枢奥卿家の一つである……」
口ひげを指でよじりながら、偉そうで長そうな肩書きを宣おうとしましたが、ヒュリアに遮られます。
「お名前だけ承ろう。あなたの身分に興味はない」
ヒュリアにぶっきらぼうに言われ、男性は口をぽかんと開けてフリーズします。
「そ、そうか……、我輩の名はブニャミン・タニョである」
なんだか崖の上にいそうな名前ですね。
「では、タニョ殿、あの二人の後に続いて抜穴から脱出されよ」
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「名乗るほどの者ではありませんし、褒美も不要です。とにかく抜穴へ」
「し、承知した」
タニョさんが岩陰に向かおうとしたとき、悲鳴が聞こえてきました。
「そんなに押さないでよ! こんなとこ入れっこない!」
「なんとか、お腹をひっこめるの! ユニス、ほら、頑張って!」
ヒュリアが急いで駈寄ると、抜穴の入口で、足をジタバタさせてるユニスの姿がありました。
どうやらお腹がつっかえて、穴に入れないみたいです。
「もう嫌だぁっ! 無理、絶対無理ぃっ! 早くこっから出してよ! 怖いってぇ!」
泣きべそをかき始めるユニス。
溜息を吐いたアレクシアさんはユニスの両足を抱えて、引張り出そうとします。
「痛いってぇ! もうちょっと優しく引張ってよ! もう、最悪ぅ!」
つっかえたお腹が、戻ることを拒否ってるみたいです。
ヒュリアは眉をひそめて、ジタバタするユニスを見下ろし、呟きます。
「想定外だ……、こんな伏兵があるとは……」
伏兵というか、“腹”兵だよね……。
「おいっ、てめぇら!」
檻の様子を確かめに戻ってきたらしい盗賊の一人が、僕達を見つけちまいました。
「人質が逃げたぞぉっ!」
盗賊が仲間を呼びました。
おお、RPGの戦闘中みたいなセリフ。
「仮面の御仁、い、如何がするのだっ?!」
タニョさんが震えながら、ヒュリアに尋ねてきました。
「見つかってしまっては、もう抜穴は使えません。外で待伏せされますので」
「では、ど、どうすると……?」
「正面突破しかありますまい」
「し、正面、突破……」
タニョさん、口をあんぐりして絶句しとります。
「タニョ殿、剣は使えますか?」
「一応、師範より習いはしたが……」
「ならば剣があれば、ご自分の身は守れますな」
「いや、待ってくれ、習いはしたが、及第をもらうことはなく……」
「できる限り援護はしましょう。しかし間に合わぬときは、ご自身で切抜けられよ」
「そ、そんな……」
顔が青ざめるタニョさん。
泣きそうです。
いいオッサンなのに。
「――な、ならば、檻へ戻るぞ! 我輩の命と引換えに、身代金をとる段取りのはずだからな! 金を手にするまでは命はとるまいよ!」
「どうぞ、ご自由に。ただし金を受取った盗賊が、あなたを生かして帰すかどうかは、甚だ疑問ではありますな」
冷たく突放すヒュリア。
「うっぐっ!」
タニョさん、再び絶句。
きっと今までやりたい放題で生きてきたんだろうな。
自己紹介、止められたけど、マリフェトの貴族みたいだし。
命令を聞かない使用人なんかを、こうムチでビシバシしばいたりして。
ああ、やだやだ……。
地響きは、まだ続いていましたが、ぞろぞろと盗賊達が戻ってきます。
その数、ざっと20人ぐらい。
まだまだ増えそうです。
1匹出たら100匹出てくると思え、だなこりゃ。
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異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。
山椒
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そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。
異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。
その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。
攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。
そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。
前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。
そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。
偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。
チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
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加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
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2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
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転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
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