聖女代行役

画鋲

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聖女ユリア・シマザキは聖女代行役ナズナ・ヤマモトと話したことによって落ち着きを取り戻し、次の日には王子と会話もできるようになった。



初めの方はユリアも今までの自分の行いを恥じて、なかなか軽口を叩けるわけもなく、業務的な会話しかできてはいなかったが、1週間も経つ頃には第二王子や王、王妃を完全に信頼するほど仲良くなった。



特に、第二王子アルベルトはユリアの1番の理解者となり、ずっと行動を共にしていた。お互いを、“アル”“ユリア”と呼ぶほど仲良くなっていた。



もともと、アルベルトは第一王子である兄のギルベルトに劣等感を抱いており、兄弟仲はあまり良くなかった。しかし、今回の件で自分は聖女に寄り添い、聖書の1番の理解者になり得たという優越感を手に入れた。

 

そして、これは自分だからなし得たこと。ギルベルトにはなし得なかったことだといい、いままでギルベルトに口答えなどできるはずもしなかったアルベルトが、ギルベルトに聖女のことに関して口答えをするようになった。



『なぜ、兄上はユリアに寄り添わないのですか?!兄上の行いは第一王子として、王太子としていかがなものかと思われます。』



これに関して、ギルベルトはなにも言えなかった。確かに、ギルベルトは何もしなかったのだ。ユリアに何もしなかった。

 

ギルベルトは何も答えない自分に追い討ちをかけるように話す弟の話を聞き流し、得意げになって帰っていく背中を見送った。



ギルベルトも、何もしたくないからしなかったわけではない。いや、たしかにしたくないという気持ちは心のどこかにあったのかもしれない。



だが、なによりもギルベルトはユリアよりも瞳に何も映さない聖女代行役のナズナ・ヤマモトのことが気になって仕方なかった。



ギルベルトは王太子としてこれまでたくさんのことを学んできた。その根底にあるのは『王は民の幸せを1番に考えなければならない。民の幸せを損わせる王は王ではない』というとのだった。



しかし、どうであろう。聖女代行役であるナズナもこの国の民であるはずだ。いくら異世界という別次元からやってきたとしてもこの国で暮らすのであれば、それはこの国の民。すなわち、私たち王族が幸せにしなければならない存在なのだ。



なのに彼女は聖女のために、この国の幸せ平穏を保つために術を1ヶ月もかけてかけられ、人間としての尊厳を失わされる。そして、彼女の気持ちは無視され全て聖女のために人生を捧げるという。



ナズナがギルベルトたちの元へ現れた後、彼女のことが気になって、彼女の存在、その意義、そのために何をされたかを全て調べ知ってしまったギルベルトはユリアのことよりも、ナズナのことの方が重大に思えてしかたなかった。



だから、彼はユリアに何もしてあげられなかったのだ。
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