ただ、そばにいさせて。

こすもす

文字の大きさ
44 / 65

42 よこしまな気持ち

しおりを挟む
 やはり旅の雰囲気に流されたのだ。
 今更どんなに後悔しようと、後の祭りなのだけど。

「店長、もうそろそろお店戻らないと」

 八代くんに言われ、僕は腕時計を見る。
 もうそんな時間か。
 僕らは立ち上がり、休憩室を出て歩いている最中にふと喫煙室を覗くと……今一番会いたくない人が煙草を吸っているのが見えたので、すぐさま通り過ぎようと思ったのだが。

「あ、森下さーん」

 八代くんが窓からわざわざ手を振ってしまった。
 せっかく気付いていなかったのに!
 森下くんは花が咲いたような笑顔を見せて、中から出てきてしまった。

「お疲れ様ー! 久しぶりだね、店長も八代くんも!」

 八代くんは久しぶりなのかもしれないが、僕はつい三日前に別れたばっかりだろ。
 会ったら明るく挨拶くらいはしようと思っていたのに、いざ本人を目の前にすると口をぱくぱくさせることしかできない。
 顔も徐々に熱を帯びてきてしまう。

「久しぶりっすねー。店長との旅行、楽しかったですか?」

 何にも知らない八代くんは嬉々として森下くんに尋ねている。
 森下くんがこっちを見ている気がするけど、僕は気まずくて明後日の方を向いていた。
 変なこと、言わないよな……。

「……うん。すっごく楽しかった! いい思い出が沢山できたよね!」

 そう言って顔を覗き込まれる。
 思い出って……あぁ、僕に振ってこないで!
 
「え、えぇ、まぁ……そうかも、しれないし、そうじゃないかも、しれませんね」

 適当なことを言って、僕は急ぎ足でその場を去った。
 角を曲がったところではぁっと息を吐き、顔を覆って熱を覚ます。

 格好いい。眩しくて見れない。
 好きだ。やっぱり好きだ。嫌いになれる理由が一つも見つからない。
 またしたい。あんな風に。
 いや、もっともっとしたい。
 彼とあれ以上のことを。

 僕がこんな淫らな妄想を抱いているだなんて、彼はつゆほどにも思っていないだろう。

「あ、店長。森下さんが近々飲みに行こうよって言ってましたよ。今日LINEするって」

 僕に追いついた八代くんが、態度のおかしい僕を不思議に思いながらもそんなことを言ってくる。

 飲みに? それって行っていいのかな……いいんだよな、だって誘われてるんだから。
 ──飲んだ後って、どうするの?

 やっぱりそのことで頭がいっぱいになる僕は、欲求不満なのかな。
 
 店についてからも、森下くんとのあの甘い朝が頭から離れなかった。
 顔をペシペシと叩く。
 しっかりしなくては。また何かミスをして、トラブルを起こすのはごめんだ。


 その日の夜、僕は森下くんからのLINEを打ち返しながら考えていた。

 (文字でのやり取りは心拍数は上がらないけど、本人を目の前にするとダメなんだよなぁ……)

 場所はどこでも、と送ると、森下くんからは『じゃあ、前行けなかったお店に行かない?』との返事が来た。
 前行けなかった店というのは、僕らが仲良くなるきっかけとなった店長会の日、混雑で入れなかった焼き鳥屋のことだ。
 僕は早速ネットでその店を予約し、その旨を伝えた。

『もう予約してくれたの? サンキュー!』

 すぐにスタンプがついて、その後のやり取りはなくなった。
 てっきり、『その後は家に泊まりなよ』と誘ってもらえるものだと思ったんだけど……

 また行きすぎた妄想に恥ずかしくなって、自室のベッドをゴロゴロと転がった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

転化オメガの優等生はアルファの頂点に組み敷かれる

さち喜
BL
優等生・聖利(ひじり)と校則破りの常習犯・來(らい)は、ともに優秀なアルファ。 ライバルとして競い合ってきたふたりは、高等部寮でルームメイトに。 來を意識してしまう聖利は、あるとき自分の身体に妙な変化を感じる。 すると、來が獣のように押し倒してきて……。 「その顔、煽ってんだろ? 俺を」 アルファからオメガに転化してしまった聖利と、過保護に執着する來の焦れ恋物語。 ※性描写がありますので、苦手な方はご注意ください。 ※2021年に他サイトで連載した作品です。ラストに番外編を加筆予定です。 ☆登場人物☆ 楠見野聖利(くすみのひじり) 高校一年、175センチ、黒髪の美少年アルファ。 中等部から学年トップの秀才。 來に好意があるが、叶わぬ気持ちだと諦めている。 ある日、バース性が転化しアルファからオメガになってしまう。 海瀬來(かいせらい) 高校一年、185センチ、端正な顔立ちのアルファ。 聖利のライバルで、身体能力は聖利より上。 海瀬グループの御曹司。さらに成績優秀なため、多少素行が悪くても教師も生徒も手出しできない。 聖利のオメガ転化を前にして自身を抑えきれず……。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...