ただ、そばにいさせて。

こすもす

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60 待ちきれない

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「店長」

 肩を揺らされ、目を開けると森下くんが僕を心配そうに覗き込んでいた。
 僕は一瞬で顔に熱がいったのを感じ、体を素早く起き上がらせた。

「大丈夫? どうして何も掛けないで寝てるの。寒いでしょう」
「あぁ、すみません」

 森下くんは子供を叱る父親のような声音で、僕の体に毛布を巻きつけていく。
 包まれた状態で森下くんを見つめると「ちょっと待って」と顔を背けられた。

「可愛すぎるでしょ。俺を殺す気?」
「えっ、何がですか」

 詳しい理由は教えてくれずに、森下くんは体温計を持ってきてくれたので熱を測ってみる。
 もう平熱まで下がっていたので、ホッと胸を撫で下ろした。

「杏、来たでしょ?」
「えぇ。すごく助かりました。美味しいお粥を作ってくれて……というか僕らのこと、言ったんですね」

 杏さんに心からの祝福をされたのを思い出し、照れてしまった。

「だってあいつ、店長のこといいかもって前に言ってたからさ。勝手に変なことされたら困るから、そう言っといたんだ」
「ビックリですよ。まさか早速、杏さんに話していただなんて」
「店長から素直な気持ちが聞けて、舞い上がって話しちゃった」

 へへ、と子供みたいに笑う森下くんを、心底好きだと感じた。
 森下くんは冷蔵庫の中を見ながら「何か食う?」と尋ねてきたけど、お腹は満たされていたので遠慮しておいた。

 ベッドからおり、膝を抱える体勢になる。
 昆布茶を入れてもらい、両手でマグカップを持ちながら少しずつ飲んだ。

「さっき、母親と電話したんです」

 そう切り出すと、斜め向かいに腰を下ろす森下くんは大袈裟なくらいに目を見開いた。

「え? 電話をかけたの?」
「はい。僕らの関係性をはっきりとは伝えなかったですけど、ニュアンスは伝わったと思います。僕は僕なりに、幸せになるからと」
「それで、相手はなんて?」

 身を乗り出す森下くんに、どんなやりとりをしたのか伝えると「そっか」と顔の表情を和らげた。

「良かった。お母さんも、ずっと自責の念に駆られていたんだろうね。きっと店長が電話してきてくれて、飛び上がるほどに嬉しかったと思うよ。よく頑張ったね店長」

 躊躇なく頭を撫でられて、心臓をバクバクと言わせてしまった。
 僕の方が年上なのに。だけど頼りがいのある、僕の年下の彼氏。

 このドキドキを悟られないように、あえて話題を変えてみた。

「今日は店は混んでましたか?」
「うん。もう冬休みだからカップルとか家族連れでいっぱい。クタクタだから癒してほしいな」
「えっ」

 腰に手を回され、ぎゅうっと抱きしめられてしまった。
 森下くんは僕の胸に顔をうずめてから、すぐに顔を上げた。

「店長の心臓、すごくドキドキしてる」
「……あんまり、そういうこと言わないでください」
「やっぱりずっと、俺のことが好きだったんでしょ?」
「……」

 ぎゅっと唇を噛んで視線を逸らす。
 そうやって僕に恥ずかしいことを言わせようとしてくるのはまだ慣れない。

 そんな澄んだ瞳で見つめられたら、まだキスさえしていないのに身体は敏感に反応してしまう。
 欲しがるみたいに唇の力を緩めて息を吐き出すと、森下くんの顔がゆっくり上がってきて、唇を塞がれた。

 口の中に舌を差し入れられると、もう抑えがきかなくなった。
 僕も背中に手を回して、服をぎゅっと掴む。

 もう、こういうことをしても罪悪感を感じなくてもいいんだ。
 僕はちゃんとこの人と、両想いになっていいんだ。
 そう考えたら夢のようで、僕は夢中で舌を絡め取った。
 
 いつの間にか下半身に手が伸ばされて、すでに兆しているソレを服の上から撫でられた。

「……っ」
「具合、まだ悪い?」

 優しく問われて、首をゆっくり横に振った。
 頭の中を覗かれた気がして、火がついたみたいに顔が熱くなる。
 きっと僕の気持ちに気づいているだろう。
 君に蕩かされたいのだと、もうバレている。

「今日ずっと、店長のこと考えてた。早く帰って店長のことを抱きしめたいって思って、全然集中できなかったんだ」

 森下くんが、僕のメガネを外す。
 もう何度もされていることだけど、こんなにも嬉しくてたまらないと思ったことはなかった。

「痛かったら、ちゃんと言ってね」
「……君は、ほんとに……」

 どこまで格好いいんですか、という言葉は恥ずかしくて喉の奥に仕舞って、熱すぎる顔を両手で覆った。
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