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第5章 ぼくの運命の先輩は。

モヤモヤと、呼び出し。

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 自宅まで送ってくれた先生に、母と一緒にペコペコと頭を下げた後、二階へ上がった。
 病院で検査を受けたが、たいした事ではなくて良かった。それよりもぼくは、心の方に傷を負っている。
 連絡をしようか迷ったが、弱いぼくは結局、もしどちらかの先輩から連絡が来たら返事をしようと思った。
 きっとぼくが保健室から出ていった後、歩太先輩は聖先輩に問いつめたに違いない。ぼくと本当に付き合っているのかと。

 二人は一体どうなったのだろうか。そしてぼくはこれから、どうすればいいのか。
 どちらでもいい、どうか連絡をと願ったが、結局その日も次の日も、その次の日も連絡はなかった。

 やっぱりぼくは、二人の友情を壊しちゃったのかも……。
 浮かない表情のままぼくは登校する羽目になってしまった。

 通学路で注意深く辺りを見ながら歩いていたが、聖先輩らしき人はいなかった。
 歩太先輩は、正門の前だ。
 なんだか気まずいが、勇気を出して先輩に挨拶してみることにした。
 ここはぼくらしく、明るく、元気に。

「先輩、おはようございます!」
「……あぁ、おはよう」

 あぁ! 歩太先輩が、笑顔で返してくれた!
 良かった。いつもの爽やかな笑顔の聖先輩だ。

「あ、あの、色々とありがとうございました」
「体は、何ともなかったのか?」
「はい、軽い打撲だけで」
「そうか。気になってたから連絡しようと思ってたんだけど、少しバタバタしててな。ごめんな」

 そうか。連絡がなかったのはやむを得ずだったのか。
 ぼくらはそのやり取りだけをして、さよならをした。
 無視されるかもと覚悟していたけど、歩太先輩はびっくりするくらいいつも通りだ。一先ず安心ではあるけど……。

 あれ。やっぱりあの保健室での出来事、ぼくの白昼夢だったのかな……。
 聖先輩がぼくの告白を勘違いした場所でもあるし、不思議なことが起こってばっかりだ。

 教室では、いい笑顔の乙葉や友人たちが待っていた。

「小峰、心配したんだからな」
「あぁ、うん、ごめんね」
「災難だったな。けど、小峰が活躍してるとこ見てたぜ。乙葉との連携プレー、カッコ良かった」
「あ、そう? ど、どうもありがとね」

 ぼくはワラワラと寄ってきた人に囲まれる。話したこと無かったような人も、ぼくの怪我の心配をしてくれた。
 なんだか、クラスの友情が深まっている気がする。歩太先輩も言っていたけど、よりよい人間関係を築くためにある球技大会だ。先月はそんな大会なんて面倒だと思っていたのに。今じゃ、やって良かったと心から思えている。
 ま、いろいろとあったから全部が全部良かったわけではないが……。




「小峰、あの人が呼んでるけど」

 昼休み前、教室で乙葉と談笑している時に友人にそう言われ、教室のドアの向こうを見た。
 うわ、とついつい顔を強張らせてしまった。
 カラコン野郎(今更だけど、一応先輩)が待っていたのだ。

「あ、あの、何でしょうか」
「小峰、怪我の具合はどうだ」

 恐る恐る近づくと、カラコン先輩はぼくの手首に巻かれた包帯を見て言う。

「えっ……あの、ぼくの名前、知ってるんですか」
「あぁ、お前が倒れた時、聖先輩がいやっていうほどお前の名前呼んでたからな」

 おぉなるほど、と納得したのも束の間ぎょっとする。もしや、そのことでぼくに直接文句を言いにきたのか⁈
 この人の意図が分からずに身を硬くしていると、乙葉は様子を伺うようにぼくの後ろにこっそりとやってきてくれた。
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