リプレイ!

こすもす

文字の大きさ
上 下
438 / 454

第438話 side景

しおりを挟む
 僕は膝の上で拳を作り、一度深呼吸をした。
 修介には申し訳無いが、ここは僕の直感で動く事にしよう。

「知っています。お父様はご存知なんですね」

 今度はお父様が目を見開く番だった。
 きっと、疑惑が確信に変わったのだ。
 僕はただの友達ではなくて、修介の恋人だと。
 しかしお父様はその事には触れずに話し始めた。

「一度、見た事があるんだ。修介が高校生の頃、同じ制服を着た子と、手を繋いで歩いているところを」

 僕はパチパチと瞬きを繰り返す。
 高校の、同じ制服着た子と、手を、繋ぐ……?

 (重村くんか……)

 写真で見た、いかにもお調子者そうなあの男か。
 僕が外で手を繋ごうとすると絶対に嫌がるくせに、重村くんとは堂々と手を繋いでいるだなんて。
 ……あぁ、違う。今はこんな風に嫉妬をしている場合では無い。

 とにかく、お父様はそのシーンを見て、修介をこちら側なのだと判断したのだろう。
 しかしその事を、修介は知っているのだろうか。
 お父様は続ける。

「見た瞬間、正直信じられない思いだったよ。でも、悲観するとかそういった感情は無かった。修介は修介の人生を歩んでいってくれればそれでいい。そうは思うのだが……実際は……」
「修介の事、大切に思っているんですね」

 お父様は喉を潤すように酒を流し込み、もう一度僕に向かって言った。

「君に家で挨拶をされた時からそうじゃないかと思っていたが、君はやっぱり、修介の恋人なんだね?」
「はい、そうです。黙っていてすみませんでした」

 僕は静かに頭を下げる。
 そして、黙っている事にした経緯を正直に話した。
 お父様は時折頷いて、そうか、と呟いた。

「確かに、母さんは要注意だな。ネットにうっかり書き込んでしまうとか、やりかねない」
「はい。僕はちゃんと、修介を大事にしていきたいんです。嘘を吐くのは嫌なのですが、二人で一緒にいたいので。すみません、ワガママで」

 お父様は少しにこりとして、また分厚いメガネを指で押し上げた。

「俺は、自分の事ばかりしか頭になくて。修介のやりたいようにやらせてあげたいのに、辛い思いや、悲しい思いはして欲しく無くて。何か気の利いた事を言おうとしても、いつも突っぱねる事しか出来なくて。いつまでも子供なのは、親の方だな」
「どこの親もそうだと思います。ちなみに、お父様の不安に思っている事はなんですか?」

 僕の親は、何があってもあなたの責任よ、と言って僕を突き放した。
 芸能界で辛い事があっても、逃げて帰ってきても家に居場所は無いからねと、笑いながら言われた事もあるけれどきっと本気なのだろう。
 修介はよく、「景の家族は何でも話せてええなぁ」と言うけれど、修介の家もとても暖かい。
 言葉は少なくても、こんなにも修介の幸せを願っている父親がいる。

「俺の、不安……」
「はい。僕と修介が一緒に住むのは、何が不安ですか?」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

BL短編集

BL / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:4

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21,233pt お気に入り:1,323

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:605

婚約破棄されましたが、幼馴染の彼は諦めませんでした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:426pt お気に入り:280

処理中です...