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第10話 過去の記憶と抗えない距離
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仕事に集中しないと。
そう言い聞かせるように、僕はデスクでアタッカーとしての最終確認作業を進めていた。
午前中、アキトさんから依頼されたプログラムの穴の確認をしなければいけない。
レベルは高いけれど、構造は複雑すぎず、むしろ僕にとっては楽しいゲームのようだった。
けれど、ある一点に触れた瞬間、体の奥がひやりと冷えた。
――この痕跡。
そっと、前室のガラス越しにアキトさんのほうを見た。
彼はいつものようにディスプレイに向かっていた。
バレているのかもしれない。指先が冷たくなるのがわかった。
このルート……僕が中学時代にシステムに侵入したときと、まったく同じ。
両親から僕が「ムル」候補だとは聞いていた。
ムル候補として登録されると中学校を卒業と同時にムル候補が集まる学校で過ごすことになる。
そしてこの能力がバレた時に誰かに利用される可能性があることも。
両親が亡くなった時、リョクは8歳だった。
リョクをひとりにしないために僕は、自分で自分の情報を書き換えた。
絶対にバレないよう、細工は完璧だったはずなのに。
当時はやり遂げたと思っていたけれど――
アキトさんはここまで追ってきた。彼の能力の高さを改めて感じる。
ちらりと社長を見る。
このまま問題の答えを導き出すべきか、それとも、今から全ての痕跡を覆い隠すべきか。
どうしたら――。
「アオ? 大丈夫?」
不意にかけられた声に、ハッと顔を上げる。
すぐ目の前には社長の顔があった。あまりの近さに、反射的に身を引いてしまう。
「わっ……。だ、大丈夫です」
社長の視線には、珍しく心配の色が滲んでいた。
僕の手が止まっていたことに、きっと気づいたんだ。
僕は社長にアオと呼ばれることにまだ慣れていない。
「午後からの打ち合わせ、ランチしながらに変更になった。あと10分で出るから、準備して」
「……はい」
社長が席を離れ、僕は作業内容をアキトさんに報告してから社長の後を追った。
車に乗り込んでからしばらく、社長はスマホで何かやり取りをしていた。
僕はひとことも発せず、ただ流れる車窓の景色を眺める。
小さく息を吐く音が聞こえた。
そっと社長を見た瞬間――
社長の手が僕の髪に触れた。
「……あの、社長?」
「ん?」
驚くほど柔らかな声。
いつもの冷静さとの落差に、喉がひくつく。
「髪に……何か、ついてますか?」
「いや?」
レイの指が、するりと耳の後ろに滑った。
柔らかな指先が、首筋をなぞる。
反射的に体がビクリと跳ねてしまう。
「もうそろそろ、慣れてもいい頃だと思うけど?」
ささやくような声が、耳の奥をくすぐる。そしてゆっくりと唇が塞がれた。
「ちょ……っ」
抵抗しようとする意志はあるのに、甘い感覚に力が抜けていく。
逃げられない。むしろ――応えたいとさえ思ってしまう。
このキスの中にいると、全てがどうでもよくなってしまう。
ふいに唇が離れる。
「んっ。」
名残惜しそうな自分の声が響く。
レイの指が、僕の唇の端をなぞった。
「気持ちよかった?」
「ち、違っ……」
声が裏返り、否定の言葉すら熱に濡れていた。
「ふうん」
満足気な社長の顔が、またそっと距離を詰めてくる――。
そう言い聞かせるように、僕はデスクでアタッカーとしての最終確認作業を進めていた。
午前中、アキトさんから依頼されたプログラムの穴の確認をしなければいけない。
レベルは高いけれど、構造は複雑すぎず、むしろ僕にとっては楽しいゲームのようだった。
けれど、ある一点に触れた瞬間、体の奥がひやりと冷えた。
――この痕跡。
そっと、前室のガラス越しにアキトさんのほうを見た。
彼はいつものようにディスプレイに向かっていた。
バレているのかもしれない。指先が冷たくなるのがわかった。
このルート……僕が中学時代にシステムに侵入したときと、まったく同じ。
両親から僕が「ムル」候補だとは聞いていた。
ムル候補として登録されると中学校を卒業と同時にムル候補が集まる学校で過ごすことになる。
そしてこの能力がバレた時に誰かに利用される可能性があることも。
両親が亡くなった時、リョクは8歳だった。
リョクをひとりにしないために僕は、自分で自分の情報を書き換えた。
絶対にバレないよう、細工は完璧だったはずなのに。
当時はやり遂げたと思っていたけれど――
アキトさんはここまで追ってきた。彼の能力の高さを改めて感じる。
ちらりと社長を見る。
このまま問題の答えを導き出すべきか、それとも、今から全ての痕跡を覆い隠すべきか。
どうしたら――。
「アオ? 大丈夫?」
不意にかけられた声に、ハッと顔を上げる。
すぐ目の前には社長の顔があった。あまりの近さに、反射的に身を引いてしまう。
「わっ……。だ、大丈夫です」
社長の視線には、珍しく心配の色が滲んでいた。
僕の手が止まっていたことに、きっと気づいたんだ。
僕は社長にアオと呼ばれることにまだ慣れていない。
「午後からの打ち合わせ、ランチしながらに変更になった。あと10分で出るから、準備して」
「……はい」
社長が席を離れ、僕は作業内容をアキトさんに報告してから社長の後を追った。
車に乗り込んでからしばらく、社長はスマホで何かやり取りをしていた。
僕はひとことも発せず、ただ流れる車窓の景色を眺める。
小さく息を吐く音が聞こえた。
そっと社長を見た瞬間――
社長の手が僕の髪に触れた。
「……あの、社長?」
「ん?」
驚くほど柔らかな声。
いつもの冷静さとの落差に、喉がひくつく。
「髪に……何か、ついてますか?」
「いや?」
レイの指が、するりと耳の後ろに滑った。
柔らかな指先が、首筋をなぞる。
反射的に体がビクリと跳ねてしまう。
「もうそろそろ、慣れてもいい頃だと思うけど?」
ささやくような声が、耳の奥をくすぐる。そしてゆっくりと唇が塞がれた。
「ちょ……っ」
抵抗しようとする意志はあるのに、甘い感覚に力が抜けていく。
逃げられない。むしろ――応えたいとさえ思ってしまう。
このキスの中にいると、全てがどうでもよくなってしまう。
ふいに唇が離れる。
「んっ。」
名残惜しそうな自分の声が響く。
レイの指が、僕の唇の端をなぞった。
「気持ちよかった?」
「ち、違っ……」
声が裏返り、否定の言葉すら熱に濡れていた。
「ふうん」
満足気な社長の顔が、またそっと距離を詰めてくる――。
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