12 / 86
第12話 距離と視線
しおりを挟む
車内に沈黙が落ちていた。
社長は何も言わない。
僕も、言葉を飲み込んだままだった。
キョウカさんを裏切ってるかもしれないって思うと、胸が痛む。
こんな関係、もう辞めなきゃ。……そう思った。
だから僕は、眠ったふりをした。
社長の指が近づく気配に、そっと身を引いた。
もう、キスなんてされたくなかった。
会社が近づくにつれて、重い気持ちもだんだんと強くなっていった。
このバングルのことアキトさんに、聞かなきゃ。そう思った。
車が会社に到着し、重い気持ちを引きずったまま、僕は社長の後ろを歩いていた。
そのとき。
「アオ!!」
明るい声が、背後から響いた。
振り返った瞬間、勢いよく抱き締められた。
「リョク……!」
僕より10センチ以上背が高い弟が、変わらない甘えた笑顔で腕を回してくる。
僕は反射的に、彼の頭を撫でていた。
「……急にどうしたの? 何かあった?」
「え?明日……」
「あ……そっか。明日か」
言葉の奥に、ふと影が差す。
明日は、両親の命日。
「もうすぐ仕事終わるから、向かいのカフェで待っててくれる?」
「うん。待ってる。今日のごはん、なに?」
「何が食べたい?」
「オムライス!」
「じゃあ、材料も一緒に買いに行こうか」
「やったー!じゃ、早く来てね?お腹ペコペコだから!」
「わかった。急ぐよ」
笑って見送って、ふっと我に返る。
リョクを見送ったあと、我に返るように社長へ向き直った。
社長は、僕をじっと見ていた。その表情は、読めなかった。
「誰?」
「あっ……お……」
(しまった。データベース、リョクの年齢、書き換えてた)
「……友達です」
「……仲いいんだね」
「はい。……あ、エレベーター来ました!」
社長の視線から逃げるように、僕は一歩早くエレベーターに乗り込んだ。
社長室に戻ると、社長の空気が少しピリついていることにすぐにアキトさんは気づいた。
そっと僕に声をかける。
「アオくん、なにかあった?」
「えっと……よくわかりません。ぼ…僕、友達待たせてるので、今日は定時で帰ってもいいですか?」
「わかった。気をつけて帰ってね」
「ありがとうございます!」
ぺこりと一礼して、社長室のドアを開けた。
社長は静かにPCの画面を見つめていた。その横顔から、機嫌が悪いのは伝わってきた。
でも――
今日は、リョクが待ってる。それに、明日は、両親の眠っている場所を訪れる日。
「すみません。今日はこれで失礼します」
彼の顔を見るのが少しだけ怖くて、目を合わせずに頭を下げた。
社長室を出て、アキトさんに軽く会釈して、会社を飛び出す。
「お待たせ!」
「アオっ、行こ!」
リョクは、いつもと同じ笑顔で僕の腕に絡んできた。
「ほんと、甘えんぼだな」
そう言いながら、僕は彼の歩調に合わせて歩き出す。
そのとき。上階の窓――
社長室の一角から、誰かの視線がこちらを追っていたことを、僕は知らなかった。
そして、リョクがその窓に気づいて、何かを読み取っていたことも。
彼は、ただ無言のまま、冷たい目で、僕たちの距離を見つめていた。
社長は何も言わない。
僕も、言葉を飲み込んだままだった。
キョウカさんを裏切ってるかもしれないって思うと、胸が痛む。
こんな関係、もう辞めなきゃ。……そう思った。
だから僕は、眠ったふりをした。
社長の指が近づく気配に、そっと身を引いた。
もう、キスなんてされたくなかった。
会社が近づくにつれて、重い気持ちもだんだんと強くなっていった。
このバングルのことアキトさんに、聞かなきゃ。そう思った。
車が会社に到着し、重い気持ちを引きずったまま、僕は社長の後ろを歩いていた。
そのとき。
「アオ!!」
明るい声が、背後から響いた。
振り返った瞬間、勢いよく抱き締められた。
「リョク……!」
僕より10センチ以上背が高い弟が、変わらない甘えた笑顔で腕を回してくる。
僕は反射的に、彼の頭を撫でていた。
「……急にどうしたの? 何かあった?」
「え?明日……」
「あ……そっか。明日か」
言葉の奥に、ふと影が差す。
明日は、両親の命日。
「もうすぐ仕事終わるから、向かいのカフェで待っててくれる?」
「うん。待ってる。今日のごはん、なに?」
「何が食べたい?」
「オムライス!」
「じゃあ、材料も一緒に買いに行こうか」
「やったー!じゃ、早く来てね?お腹ペコペコだから!」
「わかった。急ぐよ」
笑って見送って、ふっと我に返る。
リョクを見送ったあと、我に返るように社長へ向き直った。
社長は、僕をじっと見ていた。その表情は、読めなかった。
「誰?」
「あっ……お……」
(しまった。データベース、リョクの年齢、書き換えてた)
「……友達です」
「……仲いいんだね」
「はい。……あ、エレベーター来ました!」
社長の視線から逃げるように、僕は一歩早くエレベーターに乗り込んだ。
社長室に戻ると、社長の空気が少しピリついていることにすぐにアキトさんは気づいた。
そっと僕に声をかける。
「アオくん、なにかあった?」
「えっと……よくわかりません。ぼ…僕、友達待たせてるので、今日は定時で帰ってもいいですか?」
「わかった。気をつけて帰ってね」
「ありがとうございます!」
ぺこりと一礼して、社長室のドアを開けた。
社長は静かにPCの画面を見つめていた。その横顔から、機嫌が悪いのは伝わってきた。
でも――
今日は、リョクが待ってる。それに、明日は、両親の眠っている場所を訪れる日。
「すみません。今日はこれで失礼します」
彼の顔を見るのが少しだけ怖くて、目を合わせずに頭を下げた。
社長室を出て、アキトさんに軽く会釈して、会社を飛び出す。
「お待たせ!」
「アオっ、行こ!」
リョクは、いつもと同じ笑顔で僕の腕に絡んできた。
「ほんと、甘えんぼだな」
そう言いながら、僕は彼の歩調に合わせて歩き出す。
そのとき。上階の窓――
社長室の一角から、誰かの視線がこちらを追っていたことを、僕は知らなかった。
そして、リョクがその窓に気づいて、何かを読み取っていたことも。
彼は、ただ無言のまま、冷たい目で、僕たちの距離を見つめていた。
15
あなたにおすすめの小説
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる