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第59話 新たな影
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あの甘い声でのお願いに、弱い自分が憎い。
許してしまった自分が憎い。
気怠い体は思うように動かない。
「あと2時間で家を出る自信ないんだけど」
「大丈夫。全部俺がするから」
すべてをレイに委ねる。
そして委ねることにも慣れてしまった自分がいる。
レイに髪を乾かされ、選ばれたスーツに袖を通し、ネクタイを整えた。
そして最後に、またそっと唇を重ねられる。
車に乗り込むと、自然にレイの肩へ頭を預けていた。
「……着いたよ」
耳元で囁かれたその声が心地よくて、思わずもう一度だけ目を閉じた。
けれどその時だった。
ゆっくりと並走してきた黒い車。
曇りガラス越しに、スーツ姿の男がこちらを見ている。
一瞬、視線が重なったような気がして、呼吸が止まった。
「……レイ?」
「大丈夫。何でもないよ」
レイは淡々とそう言いながら、僕の頭を撫でた。
その瞳の奥に、凍りつくような冷たい光が宿っていたことを――
僕はまだ、知らなかった。
---
「イナンナ・ギ・アグ」の一般向け商品説明会が開場すると、すでに受付周辺には人の列ができていた。
アキトさんは慣れた手つきで会場スタッフへ指示を出していた。
「アオくん。これ、今日の資料。レイのことよろしく」
「はい!」
商品のディスプレイのところで、リョクが最終チェックをしていた。
こちらに気づいて手を振っている。その隣にはカナメの姿もあった。
タクミとダイチも、会場に飾られている花々のチェックをしている。
今日は「イナンナ・ギ・アグ」の一般発売を記念したレセプションパーティだ。
「レイ、僕はアキトさんのところに行ってセキュリティシステムの最終チェックしてくるから、先に控え室に行ってて」
「わかった」
「アキトさん!」僕の声に気づいたアキトさんが眉を寄せている。
「……さっきから、あの人。アオくんを見てない?」
視線の先にいたのは、グレーのスーツを着た男。
手には資料を持っているが、視線はまっすぐアオの方へ向いている。
「え?」
目が合った瞬間、男はゆっくりと口角を上げ、小さく頭を下げた。
「アオ君。知ってる人?」
「い、いえ」
「そう。じゃあ、後ろの警備に伝えとく。何かあったらすぐ僕かキョウカに知らせて」
アキトさんはそれだけ言うと、背後の警備担当に無言で合図を送った。
僕たちの動きに気づいたのか、男はすっと視線を逸らし、列の後方へと下がっていった。
(気のせい……だよね)
なんとなく胸に引っかかるものを抱えたまま、アオは再び仕事に集中した。
許してしまった自分が憎い。
気怠い体は思うように動かない。
「あと2時間で家を出る自信ないんだけど」
「大丈夫。全部俺がするから」
すべてをレイに委ねる。
そして委ねることにも慣れてしまった自分がいる。
レイに髪を乾かされ、選ばれたスーツに袖を通し、ネクタイを整えた。
そして最後に、またそっと唇を重ねられる。
車に乗り込むと、自然にレイの肩へ頭を預けていた。
「……着いたよ」
耳元で囁かれたその声が心地よくて、思わずもう一度だけ目を閉じた。
けれどその時だった。
ゆっくりと並走してきた黒い車。
曇りガラス越しに、スーツ姿の男がこちらを見ている。
一瞬、視線が重なったような気がして、呼吸が止まった。
「……レイ?」
「大丈夫。何でもないよ」
レイは淡々とそう言いながら、僕の頭を撫でた。
その瞳の奥に、凍りつくような冷たい光が宿っていたことを――
僕はまだ、知らなかった。
---
「イナンナ・ギ・アグ」の一般向け商品説明会が開場すると、すでに受付周辺には人の列ができていた。
アキトさんは慣れた手つきで会場スタッフへ指示を出していた。
「アオくん。これ、今日の資料。レイのことよろしく」
「はい!」
商品のディスプレイのところで、リョクが最終チェックをしていた。
こちらに気づいて手を振っている。その隣にはカナメの姿もあった。
タクミとダイチも、会場に飾られている花々のチェックをしている。
今日は「イナンナ・ギ・アグ」の一般発売を記念したレセプションパーティだ。
「レイ、僕はアキトさんのところに行ってセキュリティシステムの最終チェックしてくるから、先に控え室に行ってて」
「わかった」
「アキトさん!」僕の声に気づいたアキトさんが眉を寄せている。
「……さっきから、あの人。アオくんを見てない?」
視線の先にいたのは、グレーのスーツを着た男。
手には資料を持っているが、視線はまっすぐアオの方へ向いている。
「え?」
目が合った瞬間、男はゆっくりと口角を上げ、小さく頭を下げた。
「アオ君。知ってる人?」
「い、いえ」
「そう。じゃあ、後ろの警備に伝えとく。何かあったらすぐ僕かキョウカに知らせて」
アキトさんはそれだけ言うと、背後の警備担当に無言で合図を送った。
僕たちの動きに気づいたのか、男はすっと視線を逸らし、列の後方へと下がっていった。
(気のせい……だよね)
なんとなく胸に引っかかるものを抱えたまま、アオは再び仕事に集中した。
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