魔法が止まる、空白の日にて。

三井八木

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魔法が止まる、空白の日にて。

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月が落ちて、太陽が上がってきた。

その月は満月で、とても綺麗な色を私たちに見せ、太陽はいつも通りに明るい光を世界に落とす。

今日は2月29日。閏年による追加日。今のご世代にはとても厄介な日。

何故厄介なのか……それは何故かこの日だけ”魔法が使えなくなるんだ”。

この日、と言っても閏年自体少ないからそこまで被害は出てこないが、まぁ不便である事には変わりがない。

そんな厄介な日が始まるのだ、すこしくらいため息をついても良いじゃないか。

1つため息を零す。

魔法が使えないっていっても、完全に世界が動けなくなるって訳では無い。

過去の工業法でなんとか回る所は回るし、逆に魔法が使えないから犯罪が起きにくくなる。

マナスポーツなどは魔法が使えなくて出来ないが、今までのサッカーとかのスポーツが逆に盛り上がる。

閏年だからって悪いだけじゃなく、いい方が多いのだ。

でも、僕は違う。

僕の職業は《マナ・チューナー》。

この世界の魔力の乱れを観測し、調整する者。

基本魔法を使って仕事をするので、魔法は使えないので今日は仕事はなく。

魔力の観測は呼吸の様に出来るため、今日はかなり魔力が乱れているのが感じれるので、感じてて腹立たしいのである。

そして、もう一個懸念すべき事がある。

それは──

ピーンポーン……

チャイムがなる。

インターフォンから少女の声が聞こえる。

『おはよー涼太。遊びに行こ?』

彼女は彩音。

中学からの仲で、高校を辞めて働くことにした僕の決断を後押ししてくれた1人だけの特別。

僕に取ってはだが。

インターフォンのマイクをオンにして応答する。

すこし待ってろ。そう言って、着替え始める。

さすがに彼女とは似合わないような服は来てけないからな。

そうして、着替え終え。家を出る。

そして彼女と合流。そしてそこから街へと至る道を歩きながらお話へと取り込む。

今日はどうやって手に入れたのか分からないけど、野球の試合の観戦チケットを手に入れていて、そこに行こうとの事だ。

そんなこんなで街に着き、そして電車に乗る。

ガタガタと揺られながらスタジアムに。

2人揃って席に向かう。

「あ、そうだ。先にジュースとか買う?」

そう呟くと彼女は、じゃ、手分けして買いに行こう! そう言って、駆け足でどっかに行った。

大丈夫かな……?

そう思いながらジュースにチキン。それにアイスを購入し、席に向かう。

席に向かえばもう彩音は席に着いていたが、その周りにいる男が話しかけている。見た目はそこまでチャラくは無いけれども……

まぁ、よくあるナンパか……

普段なら、ここでは穏便に事を済ませようとするだろう。

けど、今日という日は、特別だ。

「あの、邪魔です。僕の連れに話しかけないでください」

いつもなら、こんな感じには話を始めない。もうすこし遠回りに話を始める。

「あ? なんだお前? 邪魔なのはお前だぞ?」

そう男は言うが、本当に邪魔なのはお前だ。

こんな時に魔法が使えたら楽なのに。今日は生憎使えないので、口論でなんとかするしかない。

なので、嘘をつく。

「人の彼女に何手を出してるんですか」

そう虚勢を張った。

「涼太……?」

彩音が僕の名を呼ぶがそれは今は無視だ。

「いつもなら魔法でぶっぱなして終わりなんですけどね……今日は無理なんでさっさと帰ってくれませんか?」

「魔法って……お前魔法特攻職なのか!?」

「そうですけど? 手を出したらどうなるか位は分かりますよね?」

そう言ったら男は舌打ちをしてどこかへ消えた。

一段落ついたか……そう思って席に座る。

そして彩音に先程の嘘のことを謝り、そして試合を見る。

その最中に、彩音に手を握られた。

何故かはわからないが、今日はなんでも出来る。

だから、軽く握り返して、試合を見続けた。






試合が終わり、帰路に着く。

もう既にかなりの時間が経っており、今は月が上り始めた頃。

「ねぇ……すこし公園行かない……?」

そう彼女に言われたので、了承。

まぁ、すこし展開は読めたが……
 



そして今、公園のブランコの椅子の上に彩音が座り。その前に僕が歩いていく。

自販機の飲み物を要求されたので言われた通りに購入し、彼女に渡す。

そして1口飲み、彼女が語り出す。

「あのね、とりあえず今日はありがとう」

「どういたしまして」

そう言って、また無言が走る。

それを壊すためにか、彼女は飲み物を飲んで、また話を始める。

「はっきり言います」

「はい」

まぁ、もう読めてるけど……

「私は、私は涼太の事が、好き。いつまで経っても好き。中学の時から好き」

「うん」

もう、これには

「だから……さ? その……」

「もういい」

そう遮り、いつもならしない大胆な行動をする。

彼女の……彼女の唇を奪った。

その最中1つの思考が巡る。

どうして、どうしてこんなことがいつもだと出来ないのだろうか。と。

非常に、非常に残念だ。

唇を離し、今になってやってしまった、といつもの思考がやってくる。

「じゃ、じゃ……これで」

もういいんだ。こんな日はもう消えてくれ。

彩音が僕の名を呼ぶがそれは無視でいい。

どうせから。

公園から駆けて、駆けて家に帰る。

その道中、車の前に出たりとか危ないことがあったけど、彼女は追いかけて来なかった。

そして走り抜けて家に着き、そのままベットに飛び込む。

そして、1回思考が冷静に判断し始めて、それを辞めなくさせる。

何故、何故この日が厄介なのか。

それは大気と、体内の魔力の乱れによって人格の乱れが出来ること。

それと思考も乱れるためだ。

ある程度魔力が固まってる魔法特攻職は乱れることなく覚えれてるけど、けど、だからこそ──

「くそっ!!」

枕を部屋の何処かに強く投げる。

そして何処かに当たって落ちた枕の音を聞き、また思考を始める。

またなのだ。また同じことなのだ。

中2のときの閏年の時も同じことをされ、そして逃げた。

彼女の気持ちに答えることなく、逃げ続けたのだ。

だから僕は──

「罪人かな……」
 
そう部屋で呟く。

今回はこっちから動いてみたけど、忘れられるってことがあるからなんとか動けた。けど、普通の日常ではどうせそんなことが出来ないのだろう。

だから、いつまでも待ちのままで、なにも出来ないグズのままだ。

この与えられる気持ちに日常で答えることなく、このままを続けていく。

だから、こうやって思い出させてくる今日は嫌いなんだ……

そうやってベットに身を預ける。

明日になれば、みんな今日のことを忘れるだろう。

でも、僕は、僕達は忘れない。

何があったのかは僕達しか知れない。

そんな最悪な”非日常”を、僕らは過ごす。

もう、来ないで欲しいと。願いながら。

さよなら、閏年という因果。

そしておかえり、いつもの弱い自分。
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